ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第五話 速攻

 

 

 季節は移り変わり、やがて秋から冬になり、そして春がやってくる。

 

 ホグワーツ魔法学校の授業は順調に進んだが、このあたりの季節から急に勉強が手に付かなくなるものが出てくる。

 

 それは、クィディッチというスポーツの季節だからだ。

 魔法使いなら誰しもやってみたい。

 飛行術は最も魔法使いが魔法使いらしいことで、いわば魔法使いの誇り、アイデンティティでもある。それを最大限駆使しながら戦うクィディッチは魔法使いが行うスポーツの花形だ。

 ここホグワーツでは各寮ごとに編成されたチームで総当たりのリーグ戦を展開する。

 それに勝ち、順位が良ければもらえる得点は高い。一年の終わりの寮杯で優勝するためには是非とも勝たねばならない。

 

 各寮とも練習に励む。むろん勝つためにチーム選手は学年に関係なく、実力で選抜されるのが常だ。

 もちろんラインハルトはそのずば抜けた飛行術を買われてチームに加わる。

 しかもクィディッチの最も重要なポジションであるシーカーを任された。それはスニッチという小さな羽付き球を捕まえる役割、速さも敏捷さも求められ、チームで一番の飛行術が必要とされる。

 もしもラインハルトが活躍すれば万年最下位のハッフルパフも勝てるかもしれない! 

 ハッフルパフ寮全員が密かに期待していた。悔しいことに毎年、一位はグリフィンドールかスリザリンなのだ。

 

「頑張ってくれ、ポッター。俺たちも全力でサポートする」

 

 ハッフルパフチームのキャプテン、セドリック・ディゴリーが優しく声をかける。

 実力はそこそこだが、人望があるのは伊達ではなく、みんなをまとめるのが上手な人物だった。まめに声をかけて気遣いながら体調などをきちんと把握しているのだ。特に一年生には優しい。ラインハルトは学校の生徒を幼いと見て、あまり友人を作らなかったが、セドリックは嫌いではなかった。

 正直クィディッチなどラインハルトは実戦ではないただの遊び、どうでもいいと思っているのだが、選手に選ばれた責務はある。寮のためというよりはラインハルトの矜持である。試合に出られず悔しい思いをしている者もいる以上、一応の責任は果たさねばならない。

 

 リーグ戦が始まると誰もが予想しなかった番狂わせがあった!

 

 下馬評では決して強くなかったレイブンクローが試合になると立て続けに優勝候補のグリフィンドールとスリザリンを破ったのだ。それも尋常ではない大差で。

 いったいどうしたことだ。

 そのレイブンクローの快進撃の理由を最後に対戦したハッフルパフチームは思い知る。

 

 何しろチーム全体の動きが迅い。

 その迅さは飛行が速いだけのことではない。最適コースを最初から読んで一直線にくるのだ。目標を定め、他のことは無視して飛びすさる。

 

 それを見たラインハルトも思わず呟いてしまう。

 

「たかがスポーツ、艦隊戦シミュレーションにも劣ると思っていたが、なかなかどうして実戦に近いものがあるな。しかもこのレイブンクローのチームは速攻戦術において非凡なものがある。先のことを正確に読み、各人に明確な目標を与え、適正な戦力を送っているとは」

 

 試合は最初のホイッスルから動く。

 ハッフルパフのディフェンスはあっさり切り裂かれ、立て続けにゴールを決められてしまう。その後もなすすべなく乱れるばかりだ。セドリックの指揮も後手に回って機能していない。もはや流れは完全にレイブンクローの側にあり、ワンサイドゲームになりつつある。実力も戦術も劣る以上、これでは他の寮以上に惨敗は必至だ。

 相手の戦術を読んでいたラインハルトは尚も感嘆する。

 

「見事だ。この強さは指揮が優れているからだ。これを行なえるものはおそらく一個艦隊も率いて不安がないだろうな」

 

 実戦の艦隊指揮を想像した。

 

 しかし、はたと気付いた。

 それは逆ではないだろうか?

 

 クイディッチの指揮ができるから艦隊が率いられる、ではない。そうではなく艦隊を率いていたからできるのではないだろうか。

 

 これは試さねばならない!

 常勝の英雄、覇王ラインハルトの指揮が本気を出す。

 

「敵の速攻に対し、追い回そうと思うから乱れるのだ。陣形を固定せよ」

 

 試合会場に声が一閃する!

 

 思わぬことに、聞こえている範囲の観衆に加えてハッフルパフチームでさえ戸惑う。

 さも当たり前のような顔をしていたのはこの試合を観客席から見ていた二人しかいない。

 グリフィンドールのロナルド・ウィーズリーことキルヒアイス、スリザリンのドラコ・マルフォイことオーベルシュタインである。

 二人は似て非なることを呟く。

 

「やはりラインハルト様です。スポーツの試合でも勝ち負けがある限り、指揮をとるおつもりですね。勝負なら勝たねばならないと」

「陛下にも困ったものだ。目立たぬよう潜伏するのが一番であろうに、感情を優先なさるとは」

 

 共通して思っているのはそれがあまりにラインハルトらしいことである。逆に沈黙を守り通し負けていれば驚いたかもしれない。

 そしてもう一つ、ラインハルトが指揮をとるならば、結果は二人にとって分かり切ったことになるだろう。

 黄金の獅子、ゴールデンルーヴェに誰が立ち向かえるというのか!

 

 他に一人、観客席では鋭い眼をした者がいた。

 ホグワーツ校長、アルバス・ダンブルドアその人だった。

 

 

 ラインハルト、すなわちハリー・ポッターからの指示にハッフルパフチームキャプテンのセドリックも唖然とした顔になる。だが、意地になってそれを無視するような性格ではなく柔軟性があった。

 

「ハリー? 思うところがあるのか? 確かにこのままでは確実に負けてしまう。何か考えがあるなら頼む、教えてくれ」

「感謝する。指揮を引き継ごう。先ずは守備を上下左右に展開し、相手の動きを見極めよ。直ぐに動かず、その突撃に対し横撃を加えるポイントを予め設定しておくのだ」

 

 やがてまた相手が突入してきた。球を持ちながら高速でハッフルパフへ突っ込んでくる。

 もちろんハッフルパフも妨害にかかるが、何と相手は前後にぴったり二人重なっていた。素早く球を受け渡し、先頭が妨害を引き受けている間に球を持った後ろの二人目が抜け出してくる。もはやゴール目前だ。

 

 それは見事な作戦といえる。速攻と欺瞞を精緻に組み合わせていた。

 

 しかし、ラインハルトは正確に見抜いていた。一瞬前、待機させていたビーターと呼ばれる妨害が上下から同時に躍りかかった。その挟撃にたまらず相手は球を取り落とす。

 ハッフルパフ側が球を奪い取ると反撃にかかる。

 巧みに前衛を陽動に使い、レイブンクローの陣を目指し着実に進む、かと思われた。

 しかしここでハッフルパフは驚きの行動に出た。

 レイブンクローのゴールには向かわず、スニッチを探して高速で飛び回っていたレイブンクローのシーカーを球のパスで妨害にかかったのだ。

 敵シーカーはレイブンクローの一年生マイケル・コナーという者らしいが、並外れて優れた飛行術を持っている。普通の飛行ではとても追い付けないくらいだ。しかし挟み込んでのパス交換で執拗に進路を妨害し、スピードを落とさせる。

 せっかくスニッチを見つけていたのだが逃げられてしまった。

 

 一方、ラインハルトは自分がハッフルパフのシーカーであるにも関わらず、全く動かないで指揮に専念していた。

 レイブンクローのシーカーが再びスニッチを見つけて動き出した瞬間、また指示を出した。ハッフルパフのチームは球を放り投げ、複数で直接相手を囲みだす。その隙にラインハルトは飛び立ち、たちまち最大速度を出す。

 そのまま見事スニッチを掴みとった。

 

「試合終了! ハッフルパフ150点、レイブンクロー130点、ハッフルパフの勝利!」

 

 ゴール数の大きなビハインドをスニッチによって逆転し、勝利を掴んだ。

 審判の声が響いた瞬間、スタンドから大歓声が上がる。

 これも番狂わせだ。しかも内容ときたら、圧巻の迅さを見せるレイブンクローをハッフルパフが戦術で抑え込んでの勝利だった。それは長所を発揮させない見事なものだ。四つの寮の内で、頭が良いことを何よりも誇りとするレイブンクローには思わぬことだっただろう。

 レイブンクローのシーカーは空中でしばらく茫然としていたが、ようやくそれを認めて地上に降りた。

 この者がチームの司令塔を果たしていたと見て取り、ラインハルトがゆっくり近付く。

 

「落ち着いて相手の長所を潰すのも勝利への早道だ。それを実践したに過ぎない」

 

 

 ラインハルトはここで賭けに出た!

 

「あの回廊の戦いで余もそうしていればヤン・ウェンリーに苦杯をなめることはなかったであろうに。奸計を弄するだろうと分かっていながら…… 卿には先鋒を命じてしまった」

 

 それを帝国語で言う。

 そしてレイブンクローシーカーは一瞬硬直したが、きっちり姿勢を正してきた。

 

「やはり小官など敵うはずはありません」

「いや、卿の迅さは見事だった。相変わらずだな」

 

 今、帝国式の敬礼を取っている。

 その顔はもちろん魔法学校の生徒の一人に過ぎない、ただの少年だ。しかし、細面にアイス・ブルーの瞳を持ち、その奥に闘志が隠されている。

 

 この将はかつて攻勢の苛烈さならあのミッターマイヤーさえ凌ぐと言われた速攻の達人だ。

 回廊での戦いでヤン・ウェンリーの前に斃れ、ラインハルトを大いに嘆かせた。

 

「カイザー、またお会いできる日が来るとは思っていませんでした。よもや、こんな形で」

「それは余も同じことだ。ファーレンハイト」

 

 

 

 

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