ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第五十一話 最後の決戦

 

 

「それはどうかな。ルドルフ。お前の好きにさせるものか! なるほどルビンスキーの言っていた通り、それが魔法の根源らしい。ではお前になど指一本触れさせるわけにはいくまい」

 

 その声にルドルフは驚く。

 この最後の階層で自分以外に動ける者がいるはずがない。そう確信していた。

 しかし、振り向くと一人の人影を認める。

 

 並の者ではあり得ない。

 この濃密な空気という魔法障壁の中、それこそルドルフと同等の覇気がなければ追って来るのは無理だ。

 

 

 

「やはり貴様か。ラインハルトとか言ったな。その覇気は認めよう。この場で動けるからには凡百の者とはわけが違うようだ。だが、思い上がるな。貴様ごときに俺の邪魔ができるものか!」

「ふん、ならばルドルフ、実力で勝負だ!」

 

 これが最後の戦い、どちらも承知している。そして己の覇気に絶対の自信を持ち、勝つつもりだ。

 互いに覇気と魔法力を高め、空気を白熱させていく。

 最初に銀河帝国を打ち立てた皇帝、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムか、それを倒して新銀河帝国に作り替えたラインハルト・フォン・ローエングラムか、ここに勝負が始まる。

 今こそ手に杖を掲げて魔法を放つ。真っ向からの力勝負だ。

 

 ルドルフから紫色の渦が来る。

 ラインハルトの黄金の帯がそれを弾き飛ばす。

 逆にその黄金の帯が一直線に伸びるが、渦にすりつぶされて消滅する。

 勝負は簡単には着かない。

 

 

 

 

「トム・リドルよ! 儂が分かるか!」

 

 そこにまた声がかかる。

 この階層の入り口にうずくまっている魔法使いがいた。あのアルバス・ダンブルドア、それが座り込んでいるではないか。

 ルドルフとラインハルトを追ってきたのだが、さすがに現役最強の魔法使い、余人の及ばない絶大な魔法力でこの階層に入ることだけはできた。しかしダンブルドアでさえそれだけで精一杯だった。

 おまけに今の状態は万全ではないのだ。地上での戦いで、生徒たちを魔物の攻撃から護るのに全力を使ってしまった。結果、ここで魔法を放ってラインハルトに加勢するどころではない。立つこともできず、意識を保つだけでやっとだ。せいぜい声をかけることしかできない。

 

「その名は? ああ、トム・リドルとはこの体の持ち主か。それが何だ」

 

 ルドルフには何の感傷もない。あるはずもない。

 ただし、ダンブルドアはそれを確認したかっただけである。何事かを考え、それきり口を閉ざす。

 

 ルドルフも興味を失くし、再び覇気と魔法力でラインハルトとの勝負を始める。

 この大広間が鳴動し、爆発的な力の明滅で彩られる。ルドルフとラインハルト、一歩も引かない覇王の対決だ。

 

 

 

 だが、またしても勝負が中断されてしまう。もう二人ばかり最下層まで来た者がいたのだ。その者らはどちらも通常ならば文句なく実力者であるが、やはりこの場では力を出すことができない。

 

「く、俺としたことが、こんな障壁に力を奪われるとは……」

 

 一人はロイエンタールだった。

 オスカー・フォン・ロイエンタール、帝国の双璧、唯一ラインハルトに叛旗を翻したことさえある堯将、それなのに今は立っているのがやっとだ。せっかくブラウンシュバイクとの勝負を着け、ここまで追ってきたのだが。

 ダンブルドアと似たり寄ったりの状態で、魔法障壁に力を奪われ、とても魔法攻撃などできるものではない。

 

 もう一人はパウル・フォン・オーベルシュタイン、絶対零度の剃刀と言われ、ローエングラム王朝の基礎を築いたと呼ばれるほどの傑物だ。

 しかしロイエンタール同様魔法障壁のために、やはりラインハルトに助太刀できない。

 だが自分は何もできなくとも、ルドルフにダメージとなる方法を考えついていたのはさすがオーベルシュタインだった。

 

「ロイエンタール元帥、あれを撒くのだ」

「なるほど、あれか。それはいい」

 

 ロイエンタールもすぐに理解した。

 全力を腕に込め、振り払った。

 何かを空間に撒いたではないか。それは薄い煙に変わる。

 すると、何とルドルフの周りで糸に変わり、まとわりついていく。

 これはロイエンタールが先のボルテックとの戦いで使った魔法薬の残りだ。このタイミングで全てぶちまけた。セブルス・スネイプが作成した特製の魔法薬、それが空中で強靭な糸に変わり、動きを封じる。

 

「何だこれは。下らぬ児戯を」

 

 しかしルドルフにしてみればそんなもので縛られるなどあり得ない。

 どんな魔法薬でもルドルフの前には無力だ。動きを止める糸など一瞬で焼き尽くそうとした。ルドルフの持つ覇気と魔法力はそれを可能とする。

 

 

 

 

 ただし一瞬でも充分なことがあるのだ。

 

「ルドルフ、最期じゃーーー!!」

 

 広間の入り口近辺から強力な攻撃魔法が飛んできた。

 真紅の帯が一直線にルドルフへ向かっていく。

 

 もちろんルドルフは糸のためとっさに躱す動きはできず、代わりに防護魔法によって防ごうとする。

 ルドルフの体の寸前で二つの魔法が激突する。

 この事態に驚いたのはルドルフだけではなくその場の全員だ。

 もう一人来ていたのか。

 ルドルフへ攻撃を仕掛けた人間を見るが目に入ったのはここにいるはずのない者だ。

 

 それはあのシュザンナ・フォン・ベーネミュンデだった!

 

 フレーゲルを失い、行方をくらましていたが、新大陸からここまで単身移動していたのだ。そしてこの魔法省地下まで追ってきていた。

 今、髪を振り乱し、強烈な感情を持つ目をルドルフへ向けて攻撃を放っている。

 ルドルフとラインハルトの他にこの魔法障壁に逆らって動き、あまつさえ攻撃魔法を使えるとはどういうことか。

 

「む、貴様はシュザンナ、儂を裏切るのか、いい度胸だ」

「うるさいっ!! 裏切る? お前なんぞ、妾が忠誠を誓うに値せんっ!」

「ゴールデンバウム王朝の始祖たる儂に仕えられないとでも申すか。全ての人民は儂に従って当然だ。たわけが!」

「妾がお仕えするのはフリードリッヒ四世陛下のみ! 例え王朝の始祖であってもお前ではないわ。妾を捨て駒に使い、しかも今、地上で必死に戦うあまたの部下を見捨てここで何をしておる。大帝としての器などないわッ」

「言わせておけば、この狂女風情が!」

 

「もう一度言う、妾が恋い慕うのはフリードリッヒ四世陛下だけじゃ!!」

 

 シュザンナの真紅の攻撃は強い。

 だが、見る者はシュザンナの様子がおかしいのに気付く。腕は震え、爪から血を流している。

 体が壊れかけているのだ。

 ベラトリックス・レストレンジは素晴らしい家系の血筋であり、生まれながらにして絶大な魔法力をその身に宿していた。しかしそれでもダンブルドアより上ということはあり得ない。

 それがここで強力な魔法を放てるということは、精神力がリミッターを外しているのだ。シュザンナの精神力がベラトリックスの体を保護するリミッターを外し、自壊しながら魔法を使っている。

 

 愛に狂った女の精神はもはや痛みも感じず、本当の意味での全力を絞り出す。

 

 

 

 

 ついにルドルフの防御を弾いた。シュザンナの文字通り命に代えた攻撃がルドルフに届いたのだ。

 

 しかしここまでだ。精神と肉体の限界が来た。シュザンナの真紅の帯は弱まり、途切れていく。

 するとルドルフが無慈悲な反撃に転じた。若干のダメージを受けてしまったものの、だからといって攻撃を仕掛けるのに不都合はない。

 

「儂に歯向かった罪、命で贖え、女よ!」

 

 ルドルフの薄紫の攻撃がシュザンナに放たれ、あっさりとその身を捉える。

 

「後は頼んだぞ。妾が頼むのじゃから、たんとこなせよ。あの女の弟」

 

 シュザンナはラインハルトをちらりと見た。

 その表情は穏やかで澄み切っている。悪女と呼ばれた面影はどこにもない。

 だがそれで最後だ。

 ルドルフの攻撃は魔法力を全て使い切り、何の防御もできないシュザンナをあっさりと潰してしまう。

 ハンマーで打ち付けるように叩きのめし、一瞬で事が終わった。

 

 

 

 

 しかし、このチャンスをラインハルトが逃しはしない。

 

「姉上の敵、見事だ。よし、ルドルフ、覚悟!!」

「むっ、孺子が!」

 

 再び対峙するが、同時にルドルフは考える。

 シュザンナから受けたダメージを考えると戦いは不利だ。もはや矜持のための勝負など続けることはない。

 目的を達成すれば、どのみち圧倒的強者になれるのだ。

 勝負を避け、先に魔法の根源を手に入れればそれで終いではないか。そして魔法の根源にラインハルトよりも近い場所にいる以上、先に奪い取れるだろう。

 ルドルフは大樹の幹にある魔法の根源へ動いた。

 

「くっ、ルドルフっ」

 

 ラインハルトもその意図が分かった。自分からは遠いが、ルドルフの方はもう5歩も歩けば大樹に手が届く位置にいる。ここにきて逃げるか、と言いたかったが戦術的に言えば正しいことだ。

 このままでは敗北する。今この瞬間に打ち倒さなければ。

 

 ラインハルトの覇気がいっそう輝きを増す。それは体の周りに舞い踊る黄金の微粒子として具現化していく。

 その光の中で力を込め、最後の一撃を放った。

 

 またしてもルドルフの薄紫の防御と当たる。

 だが今度は拮抗しなかった。少しずつ黄金の帯が押していく。

 

 

 

「な、なにッ!! なぜ押される! 儂の覇気が…… 孺子の力が上だとでもいうのか!」

 

「終わりだルドルフ! その野望と共に消え去れ!」

 

 ラインハルトの攻撃がルドルフに届いた。そのまま貫き、存分にその威力を発揮する。

 ついに決着の時が来た。

 

 ルドルフは自分が思ったよりもシュザンナによってダメージを負っていた。

 そして、勝負を避けて大樹へ行こうとした弱気が決定的だった。そのまま剛毅さを保っていれば結果はまた別だったろう。だが真っ向勝負を最後まで貫かなかった覇王らしからぬ心が、ラインハルトに負けたのだ。

 

 ルドルフの体が一瞬ラインハルトの覇気である黄金に満たされ、そこから黒い煙が拡散していく。

 

「があああっ! 儂の意識が、拡散して、薄れて…… そんな、ここままできて儂は死ぬのか。断じて認めんぞ。もう一度帝国を作る儂が孺子などに敗れて死ぬなど……」

 

 

 

 

 もがいても煙の拡散は止まらない。既に決着はついている。

 やがて全ての煙は放出され、動きが止まる。そこには普通の人影が残された。しかし意識はないらしく、ばたりと倒れる。

 

 そんな人影はあっても、ラインハルトは戦いに勝ったのを感じた。

 ルドルフの覇気も意志もこの世から全て消えてなくなり、もう死んだのだ。

 

「ルドルフよ、可哀想だとは思わん。野望に捉われた時点で貴様の末路は決まっていた。それによって犠牲にしてきた幾多の人間について、せいぜい大神オーディンの前で申し開きをするのだ」

 

 

 ラインハルトはそう言って全てを締めくくった。

 向こうの世界から続く因縁、言い表せぬほどの重みがその宣言には含まれている。 

 

 

 

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