顔かたちは違っても、しゃべり方と雰囲気で即座にミッターマイヤーは悟る。誰を間違えたとしても、この友を間違えるはずはない。
「ロイエンタールが別人に見える…… いや普通なら別人がロイエンタールのようだと言うべきなのだが。どのみち、とうとう俺の気が触れたということか」
「そう思うのは当然だろうな、ミッターマイヤー。しかし事実は違う。それについて今から説明しよう。最高に面白い話だということは俺が保証する」
そしてざっくばらんにロイエンタールが説明した。
「…… なるほど。俺は陛下がかつての部下を率いて天を翔けるのを想像したことがあったものだが、本当にその通りになったのだな。やはり陛下はどこの世界でも戦い続けるのがふさわしい。しかし魔法を使って戦うとは恐れ入った」
「戦う相手がルドルフ、そして仲間がヤン・ウェンリーとは俺も驚いた」
「全くだ。しかし俺が一番安心したのは、陛下が卿を再び部下にしてくれていたことだ」
そして二人は酒を飲みながら存分に旧交を温める。
ただし、三時間後にロイエンタールの姿は薄れ始める。
「ミッターマイヤー、そろそろまた魔法の世界に行く時間が来たらしい。名残惜しいが、俺は生きているのだからこれからは安心していい。それから陛下のことは任せておけ」
「分かった。あ、そうだロイエンタール。フェリックスに会っていかないのか。本当にいい子に育っているぞ。誰かと違って皮肉屋じゃないのは、たぶん、育ての親の方が影響したのだろう。そうに違いない」
「遠慮する。親は卿でいい。共に育てている奥方によろしく言っておいてくれ。しかしミッターマイヤー、親バカになったな」
ミッターマイヤーの心は晴れた。
濡れ衣を着せられ、ラインハルトに背き、敗死したロイエンタールは過去のことになった。今、ラインハルトとロイエンタールは同じ世界で生きて、共に敵に当たっているのだ。
「そうだミッターマイヤー、一つ頼みがある。俺はこれで消えるが、おそらくこちらにはかの人物が来るだろう。そのための地ならしをしておいてもらいたい」
その晩、屋敷に戻ったエヴァンゼリンは、夫の顔があまりにも満ち足りているのに驚いた。
おそらく暗い表情をしているだろう夫をどう慰めるか、一日中考えていたのに。
「あなた、どうしたんです? そんなに晴れやかなお顔で。何かいいことがあったんですの? 今日は、その、命日なのに」
「エヴァンゼリン。そうとも、良いことがあった! そんな一言でまとめられないほど」
そして包み隠さずミッターマイヤーはその日の出来事を妻エヴァンゼリンに語って聞かせる。この夫婦仲にあっては語らないという選択肢はないのだ。
だがとんでもないお伽話を聞かせられたエヴァンゼリンは信じるはずもない。
ロイエンタールが生きていることも、別世界のことも、魔法のことも、荒唐無稽ではないか。
だが賢明なエヴァンゼリンは夫が喜んでいるのだからと口を差し挟むこともなく聞くフリをした。
夫はどうしてしまったのだろう。
良い変化ではあるが、このままでいいのだろうか。しかしそのエヴァンゼリンの心配は数日しか続かない。監視カメラに夫の言う通りの風貌の者が映り、そして消えていくのを見て愕然としてしまうまでのことだ。
魔法省の大広間にてラインハルトは最後の最後、キルヒアイスを見つめた。
「キルヒアイス、俺の言いたいことが分かるか」
「!」
「お前は一人で向こうに戻れ」
「ラインハルト様、しかし……」
「キルヒアイス、姉上のことを頼む。絶対に幸せにしてやってくれ。任せられるのはお前しかいないのだ」
キルヒアイスは自分が戻らされるのは半ば予期していた。しかし、自分一人だけとは思いもよらなかった。
「そんな、ラインハルト様! お一人で残られるとは!」
「キルヒアイス、俺はおそらく向こうの世界では不要になっている。知っている通り、かつて俺は火のごとく全ての敵を燃やし尽くし、新たな秩序を打ち立てた。俺だからそれができた。しかも当時はそれが必要だったと信じる」
「それはそうです」
「しかしもう火は不要の物になった。代わりに、地道でたゆまぬ努力を要する建築がこれから求められる。カイザーリンやカールブラッケ、エルスハイマーらがいれば新帝国はそれでいいのだ」
ラインハルトは正しく自分のことを見ていた。新帝国で自分は益にならないことも。
「し、しかし、それならばわたくしはこの世界でいつまでもお供します!」
「二度も言わせるなキルヒアイス。向こうの世界で俺は不要だが、お前は別だ。姉上がいる」
「ラインハルト様……」
「頼んだぞ。それに約束がある。俺は姉上にお前を返したい。長いこと借りていたのだから」
とうとうキルヒアイスは了承した。ラインハルトとはこれでお別れになる。
しかし、二人は別の世界にいるだけで、生きているのだ。死に別れたと思っていた以前とはまるで意味が違う。口に出さずとも二人は分かっている。
「……以上だ。校長、元の世界に戻したいのはあと一人だけだ。賢者の石にわずか残った力は、校長の判断で好きに使うがいい」
「本当に良いのか…… これは助かるのう。できれば、ネビル・ロングボトムに両親と会わせてやりたいと思うておったのじゃ。他にも似たような境遇の者は多い。そのために賢者の石に残る力、ありがたく使わせてもらおうぞ」
ラインハルトの言葉を受け、ダンブルドアがキルヒアイスを戻しにかかる。
その時だった。
この大広間に外からホグワーツの生徒たちが雪崩れ込んできたのだ!
戦勝に浮かれた生徒たちがマクゴナガルの制止を振り切って飛び込んできたではないか。ハンナもラベンダーもディーンも、その他全員だ。
「勝った勝った! 俺たちの勝利だ」
「これでホグワーツは元通りになるわ!」
生徒たちはこの戦いの中心人物、ハリー・ポッターを目指して進んでくる。
ハリー・ポッターの揺るぎない自信と覇気が全ての勝因だ。生徒を含めた全員を鼓舞し、この大戦争に勝利をもたらしたからだ。
一番早くハリー・ポッターへ辿り着いたのはハーマイオニー・グレンジャーだった。普段の彼女にあるまじき押しの強さでジニーやチョウを薙ぎ払い、ハリーにタックルをかます。
そして素早くハリーの左手に自分の手を絡めた。
一方、ハリーことラインハルトの方ではそんな喧騒を見てもいない。姿が薄くなっていくキルヒアイスを見つめるのに忙しい。親友の目に映る最後の姿になるのだから。
キルヒアイスの方も何も言わず見つめ返している。ただし、キルヒアイスは上気した顔でラインハルトの手を取るハーマイオニーを見て、わずか不吉なものを感じた。
そしてキルヒアイスは元の世界に戻った。
ついにアンネローゼと会うことに成功する。
もちろんアンネローゼは新帝国の要人中の要人であり、簡素な山荘に住んでいても何重もの警備が敷かれ、通常ならとても侵入不可能だ。例えキルヒアイスの才覚を用いても。
だが事前にミッターマイヤーがそのために労をとっていた。ロイエンタールの言っていた風貌の人物ならば通せと警備隊へ厳命している。新帝国建設の元勲がそう言うのだから、どんなにおかしな命令でもその通りにせざるを得ない。
「…… ジーク」
「アンネローゼ様」
アンネローゼは以前のキルヒアイスと別人の顔を持つ若者に語りかける。ただし、長身で赤毛という特徴だけは何も変わらない。
二人は、ロイエンタールとミッターマイヤー、それと同じかもっと強い絆で分かり合っていく。疑いようもなく魂でお互いを判別できるのだから。
「戻ってまいりました。アンネローゼ様。かの日の約束を果たすために」
「ラインハルトとジークが宇宙を手に入れたら、また三人で……」
「そうです。また三人で。ここにはおりませんが、ラインハルト様は決して死んではおりません! 別の世界でそれはもうとてもラインハルト様らしくしております」
少しばかりアンネローゼが首をかしげた。それをキルヒアイスはとても暖かな微笑みで見守る。
「そうです。ラインハルト様はどこにいてもラインハルト様です。先ずはその話をいたしましょう」
二人の知る豪奢な金髪を持つ若者、その長い長い冒険の話をする。不思議な魔法世界での冒険を。
その後、キルヒアイスとアンネローゼはラインハルトが願った通りになる。
銀河の歴史書はその事実を伝えていないが、確かに二人の幸せな生活がそこにあった。
これで全ての物語は大団円の内に終了する。
そのはずだった。
ルドルフが一応の才を認め、側近にしていた死喰い人の一人が、捕縛を破ってこっそり抜け出すことさえなければ。
そこから二十年もの月日が流れた。
「おかしい…… 最近特に魔法麻薬系の犯罪が増えている。それだけならまだしも、捜査に向かった闇払いたちが立て続けに返り討ちにされるとは…… 尋常ではない」
魔法大臣であるヨブ・トリューニヒトは社会におけるわずかな歪も軽視しなかった。
決して見逃さず、そこに何かが隠れていると察知したのだ。
これについて、情報収集を買って出たルパートが決死で探り、驚くべき情報を掴むことができた。
判明した事実はあまりにも重大だった。
魔法省の一室にルパートの他、三人の者が密かに集まる。
ヨブ・トリューニヒト、
アドリアン・ルビンスキー、
パウル・フォン・オーベルシュタインである。
「諸君。かの問題は単なる犯罪集団などのせいではなかった。問題の次元が違う。おそらく、首謀者の名だけで皆にはその計り知れない重大さが理解できるだろう」
先ずはトリューニヒトから簡潔に事実が伝えられていく。
「すなわちその者の名は、ド・ヴィリエ」