ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第六話 鏡が映すもの

 

 

 ラインハルトらが入学し、早いもので一年近くが過ぎ去った。

 

 ホグワーツは一般的な学校と同じように、夏休みが学年の終わりの区切りとなり、秋になれば学年が一つ上がってまた始まる。

 学年末試験を終え、既定の成績をクリアすれば7月末から夏休みに入る。

 

「ラインハルト様、この夏休み期間はいかがいたしますか。一般的な生徒のように学校の外の世界に戻られますか。外の世界は魔法など考える必要はなく、古い様式の人類社会に大変似ているようです。それはそれで興味深いものかと。非常に不思議なことに人々はここを地球と呼んでいるくらいなのですから」

「キルヒアイス、正直、どちらでもよいな。いくら外の世界が魔法がないから気が楽だとはいえ、フェザーンやオーディンとは違う。ならばそのまま学校にいてもいい。俺はともかく、キルヒアイスは怪しまれないよう帰ったらよいのではないか。だが必ず戻れ」

 

 キルヒアイスの問いに対しラインハルトはそう答えた。

 二人が二度と会えない事態にならなければ大した問題ではない。

 

 ところが同じような質問を今度はハーマイオニー・グレンジャーがしてきたではないか。

 

「で、どうするの、ハリー?」

 

 夏休みをどうするか、当たり前だがラインハルトは同じことを返した。

 

「つまらないわね」

 

 ハーマイオニーに一言で断じられた。ラインハルトは何だかカイザーリン・ヒルダに反論を食らっている時のことを思い出してしまう。

 そして否応なく学校から帰省させるようなことを言われてしまうのだ。

 

「でもハリー、新年度のための買い出しは必要でしょ。ハリーは買って送ってもらえるよう頼める魔法使いは家にいないって聞いてたわよ」

 

 それはハーマイオニーの言う通りだ。

 新年度の授業に必要なものは教科書を始めとしていくつもあり、それらはダイアゴン横丁という魔法使いのための店が集まっているところで買わなくてはならない。そんな買い出しまでキルヒアイスに頼むことは憚られた。

 また、いくら鈍いラインハルトでもうっすら気付いた。

 夏休みも一緒にどこかに行きたいと言外に匂わせているのだ。

 まあ、ハーマイオニーがそう言ってくるのだし、一応この世界の見聞を広めるのも必要だろうと判断した。夏休みに入った最初の数日を使ってハーマイオニーとダイアゴン横丁に赴く約束をする。

 

 

 そのことを聞いたら悔しがる女生徒は数多かっただろう。

 ラインハルトは多少背が低く額に傷があったが、基本顔は整っていて眼鏡もよく似合う。

 何よりも態度が超然としている。

 内に持つ気概がにじみ出て、他の男子生徒とは全く異なる雰囲気なのだ。そこをたまらない魅力と感じる女生徒は決して少なくない数に及ぶ。

 ただし常にハーマイオニーが側にいて、オーラを醸し出しているのだ。なかなか入り込む隙間が無い。

 

 果敢にもケイティ・ベルが突撃した。

 さすがは勇気のグリフィンドール、と皆は思った。

 

「ハリー、チシャが嫌いだと聞いたわ。たまには同じテーブルで食べましょう。サンドウィッチからチシャを抜いて食べてあげるわよ」

「その申し出は大変ありがたく思うが、既にチシャの匂いまで嫌いなのだ。普段は最初から除けているし、見て分からぬ怪しい物はキルヒアイス、いや違うロナルド・ウィーズリーが先に食べて確認してくれている」

「それは凄いわねえ」

 

 それしか言いようがないではないか。それが一つしかなければどうするの、とまでは聞かなかった。ケイティも自分が半分食べてからハリーに渡すのは、赤面する事態だろう。

 

 

 またパドマ・パチルも挑んだ。

 さすが知恵のレイブンクロー、と皆は思わなかった。

 むしろそのやり方はスリザリンこそ似合うのではないかと眉をひそめることになる。

 

「ハリー、飛行術についてなんだけど、ちょっと相談したいことがあるのよ。いい?」

 

 きっちり斜め30度の上目使いに接近した。自分より背の低いハリーに対して上目使いができるスキルはさすがとしか言いようがない。

 

 そして見事にもラインハルトの得意分野である飛行術をダシに使う。もちろん、優位に立って教えるという、男子にとってはこの上なくいい気分にさせるのが狙いだ。同時に二人の時間を増やせるとは上手い作戦である。

 パドマ・パチルは決して不真面目な女生徒ではないが、男子を陥落させるツボは心得ていたのだ。いや、女子なら誰もが持つ天性のものを少し過剰に発現させただけのことである。

 

「それは何だろうか。教示できることがあればよいのだが」

「飛んでる最中に急に箒がブレちゃうことがあって。困るわ。高いところに行くと落ちるんじゃないかって心配なの」

「なに、箒が!? それは飛ぶ前に箒に向かい、飛ばなかったらどうするか具体的な想像をしてやればよい。それが伝わったならば箒も相応の覚悟を持ち、迷いが無くなるのではないか」

 

 パドマ・パチルのとってつけたような相談に対し、ラインハルトは非常に真面目に考え回答してきた。一緒に飛んで練習しよう、などという望んだシチュエーションにはならず、パドマは悔しくも断念せざるを得ない。

 

 

 

 そして学年末試験も迫ったある日、キルヒアイスが面白いことを言ってきた。

 

「ラインハルト様、学校に隠し部屋を一つ見つけたのですが、中に面白い物がありました」

「何だそれは? 隠し部屋とは…… 確かに近頃試験勉強ばかりで息が詰まっていたところだ。面白いものなら見てみたい」

「そう言われると思っていました。一緒に見に参りましょう。そうです、面白いものが見れる、のです」

 

 キルヒアイスがなぜか意味ありげなことを言う。

 

 言葉通り二人は深夜、こっそり寮を抜け出して歩む。それはまるで二人がオーディンの幼年学校時代を彷彿とさせるもので、逆にいえば二人ともその頃からあまり成長していないとも言える。

 

 こっそり進み、キルヒアイスの案内で目的の部屋に着いた。入ると隠し部屋というには案外広く、しかし古くて半分壊れたガラクタが数多く散らばっているばかりだ。

 

「……いったいガラクタのどれが面白い物なのだ、キルヒアイス。見たところ役に立ちそうな物は何も無いが」

「これでございますラインハルト様」

「ん、何だこれは、鏡か! 大きいものだな」

 

 キルヒアイスは少し奥へ行き、ガラクタの一つから覆いを取り除いた。そこで出てきたのは一つの大きな姿鏡だった。だいぶ古い物のようで、既にけっこうな曇りが入っている。普通には役立ちそうもない。

 

「よく見ると、見えるものがあるのです」

 

 自信ありげなキルヒアイスに従い、ラインハルトは鏡の正面に立って近付いた。鏡なら自分の姿を映すはずだ。

 しかし、鏡に見えてきたのはそうではなかった!

 自分が映っていない。しかし、代わりに見えてきた人物があるではないか。

 

「どういうことだ! 大勢の人が見えるぞ。姉上、キルヒアイス、カイザーリン、将官たち、小さく見えるがロイエンタールまでいるではないか。いったいこの鏡は何だ。何を見せている」

「面白いものです。思うのですが、この鏡は見たいものを見せてくれるのではないかと。つまり、何かは見る者によって変わるのです。その心の望みを映し出してくれるのですね」

 

「なるほど、確かに使い道はともかく面白いものだな。ん、よく見たらヤン・ウェンリーまでいるぞ。奴との決着を俺が心から望んでいるというわけか。当たり前だ。そんなことは見せられるまでもない」

「ちなみにわたくしはラインハルト様、アンネローゼ様、そしてわたくし達のおりました小さな二軒の家まで見えました」

 

 面白いおもちゃだと最初は興奮したが、ラインハルトはこの鏡の危険性に思い当たる。

 

 見たいものを見せる鏡、心優しい道具に感じられる。

 だが同時に人を引きずりこむ魔にもなりえる。

 

「しかしキルヒアイス、面白がってもいられないかもしれないぞ。こんな幼稚な道具でも、心の弱い者が見れば虜になる可能性がある。見たいものを見せてくれるのなら、それしか見たくなくなるのも人間だ」

 

 それはキルヒアイスにも理解できる。

 同時に、なぜこの二人が鏡の虜にならず、笑い飛ばせるかも知っている。

 

「そうですね。ラインハルト様やわたくしにはただの幻影ですが」

「そうだ、キルヒアイス。宇宙での戦いを繰り返せば、見たくないものを見ないでは済まされない。そのような軟弱者は即座にヴァルハラ行きだ。美しくも残酷な戦いの中にあって見るべきは現実であって願望や妄想ではない」

「では鏡を破壊なさいますか、ラインハルト様。今後、弱い者が惑わぬように」

「優しいな、キルヒアイスは」

 

 

「待て!! 待つのじゃ二人とも!」

 

 突然後ろから声を掛けられた。

 ラインハルトもキルヒアイスも、姿を見る前に声だけですぐに誰か分かる。

 このホグワーツの校長、アルバス・ダンブルドアだ。

 

「二人とも、その鏡を壊してはならん! その鏡は『みぞの鏡』といい、それなりに使い道もある道具なのじゃ。本来ここは生徒の来る部屋ではない。確かに虜になる者が出るやも知れんので隠しておった」

「ならば校長、その使い道とやらは分からんが、もっと厳重に保管しておく必要があるだろう。現にこうして見つかっているのだから。今度は決して生徒が見つけぬ場所へ置くがいい。それであれば別に破壊することはない」

 

 ラインハルトはそれで引き下がり、キルヒアイスと共に部屋を後にする。

 今夜は面白いおもちゃで良い気晴らしができた、それで充分だ。

 

 

 残されたダンブルドアが呆気にとられたところから回復し、呟く。

 

「あの二人…… 予想以上にとんでもなく強い心の持ち主じゃ。鏡に魅入られるどころかいきなり壊そうとしおった」

 

 その反応は思慮の深いダンブルドアにとってさえ予想外だった。

 

「儂の見るところ、二人に魔法力はほとんど無い。とても魔法使いと呼べるレベルではなく、ホグワーツにいるのが不思議なくらいじゃ。じゃが現実に二人の杖は魔法力を強力に絞り出しておる。その理由が何であるのか、このあたりに答えがあるのかも知れん。なにしろ、この儂でさえずっと見続けたくなる『みぞの鏡』を正に一顧だにせぬとは、驚きの精神力よの。試しておいてよかった」

 

 それはキルヒアイスに鏡をわざと見つかるように仕掛け、二人の強さを試した感想である。

 

 ダンブルドアは鏡にまたベールをかけ、部屋の不可知の深部へと飛ばす。

 最後にベールがはためき、ちらりと鏡の端が見えてしまった。

 

 そこにはダンブルドアがどうしても見たくて止まない、まだ生きていた頃の妹の姿がわずかに映っていたのだ。

 

 

 

 

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