ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第九話 ディー・エー

 

 

 いよいよ新学期が始まるが、ラインハルトも幾分は余裕を持って始められる。

 魔法にもだいぶ自信がついてきたことに加え、もう一つ理由がある。

 

 ラインハルトがダイアゴン横丁で知った人物をもったいぶってキルヒアイスに紹介していく。

 

 まるで秘蔵の宝物をひけらかす子供のようだ。

 キルヒアイスが驚いてしまうのは当たり前、驚先のファーレンハイトに続き、あのロイエンタールまで発見したのだから。そのロイエンタールことギルデロイ・ロックハートは何とこの学校に赴任してきたのだ。謎の失踪をしたクィレルという教師の後任に雇われて。

 ロイエンタールが先のダイアゴン横丁にいたのは全然偶然ではなく、信任の教師として使う道具を仕入れるためだった。

 

 

 だが今、嬉しい新学期のはずが学校に暗い影が差している。

 

 ある怪物に関わる噂が流れ、それに浸されているのだ。。

 生徒は息を潜めて、教師は落ち着かないでいる。学校全体が怯えているようだ。

 怪物とは伝説によると大きな蛇のようなもので、凶悪極まりない。厄介なことに見た者を石に変えるというなんとも恐るべき能力を持つらしい。ホグワーツは誰も全体像を知らないほど複雑な構造をしているが、昔からそのどこかにいる忌まわしき魔法生物である。

 それがいきなり伝説から現実に出てきた。

 最近になり明らかに怪物による被害者が出てきたのだ。生徒の中で石となって発見された者がいる。

 

「ラインハルト様、いかがいたしましょう。そのような怪物、ほっておくわけには参りません」

「キルヒアイスは優しいな。だが怪物退治ならば先ずは教師の役目だろう。それに詳細も分からぬうちから動くわけにもいくまい」

 

 

 ラインハルトはむやみと冒険を求めるわけではなかった。むろん、自分のことでないからほっておくということではなく、必要な時には必ず動く。

 そしてその必要な時は間もなくやってきた。

 

 何と、ハーマイオニー・グレンジャーが被害者に連なった。驚いた表情のまま、石に変えられたのだ。体の内部の心臓まで石になっている。この状態が長引けば本当に死んでしまう。早く、その原因である怪物を退治して解かなくては。

 

「キルヒアイス、もう学校の対応を待ってはいられないな」

「そうですね、ラインハルト様、では先ずいかがなさいますか」

「怪物をやみくもに探しても無駄だろう。ある程度の組織が必要だ。生徒を鼓舞し、戦える者を集めよう」

 

 密かに生徒の組織化を計画した。

 

 それにはラインハルトのカリスマとキルヒアイスの思慮、ファーレンハイトの人気が大いに役に立った。声をかけると芋づる式に人が集まる。

 集まったメンバーはなぜかグリフィンドールの者が一番多い。勇気のせいなのか、常に面白いことや冒険を求めているのかは分からない。

 

 ネビル・ロングボトム、ディーン・トーマス、シェーマス・フィネガン、ラベンダー・ブラウン、ケイティ・ベルである。何と新入学の一年生、コリン・クリービー、ジニー・ウィーズリーも加わっている。

 

 ハッフルパフからはジャスティン・フィンチ、ハンナ・アボット、スーザン・ボーンズである。

 

 レイブンクローから、ロジャー・デイビース、パドマ・パチル、新一年生のルーナ・ラブグッドが入っている。

 

 あまり上級生はいないが、こういった秘密のチームに入ったり、秘密基地を喜ぶのは子供の方に多いに決まっている。だが幸いにもこの中には単に騒ぎたい者、興味本位の者、裏切る可能性のある者はいない。魔法の実力はともかく、多かれ少なかれ正義感をもって怪物退治をしたいと純粋に思う者だけだ。

 

「名前は何にしようか。もちろん、俺たちこの怪物退治チームの」

 

 チーム一のお調子者、ディーン・トーマスがそう言った。

 もちろんラインハルトもこの集団に名前が必要なことは同意する。

 

「その通りだな。単に『軍』でも良いのだが。そうすれば『Die Armee』になる」

「ディー・アルメー? 何だそりゃハリー、外国語か? 洒落てるけど言い難いな。それならディー・エーとでも略した方が秘密っぽくていい」

 

 意外なことにディーン・トーマスに賛同する女子生徒がいた。

 同じグリフィンドールのラベンダー・ブラウンだ。

 

「いいんじゃない、ディー・エー。そうよ、ダンブルドア軍団! それでディー・エー、いいわ、ぴったりよ!」

 

 ラベンダーは元からテンションが高く、良く言えば場の雰囲気を明るくし、悪く言えばうるさい。今、更に一人で舞い上がってしまった。

 校長アルバス・ダンブルドアは皆から人気があるが、グリフィンドール生は特に自分の寮出身であるアルバス・ダンブルドアを深く信奉している。

 チームをその名にちなむというアイデアに結びつけた。

 ハッフルパフやレイブンクローも校長は決して嫌いではない。というより校長を煙たがるのはスリザリンしかない。

 

 こうしてチーム名はディー・エーに決まった。

 

 

「それでどうするの? 最初に何をすればいい?」

 

 少し焦りを含みながらハンナ・アボットが言ってくる。

 ハッフルパフらしくとても控えめで節度ある女生徒だ。だが、今は石に変えられた生徒が現実にいる。しかもそれは友人になっていたハーマイオニー・グレンジャーも含まれているのだ。タイムリミットを考え、早くなんとかしてあげたいと真面目に思って発言する。

 

 それにラインハルトが答える。今、自然な形でこのディー・エーのリーダーに認められているのだ。

 

「それについては考えてある。先ずは怪物の通る経路を突き止めるのが第一になる。手分けして怪物の残した痕跡を見つけ出し、どういう動きをしているのか探るのだ」

 

 実はラインハルトは先にそうオーベルシュタインから提言を受けていた。

 さすがに新銀河帝国軍務尚書オーベルシュタイン、それは大変合理的な一手である。怪物は魔法生物、ならば通ったところに必ず魔法の痕跡が残るはずだ。オーベルシュタインは魔法動物のことならよく分かっていて、適切な推測を披露していた。

 

「陛下、被害者の生徒は、性別、年齢、寮に区別はなく、また襲う場所も毎回異なり規則性を見つけるには至りません。ですが逆に行き当たりばったりともいえ、怪物の知性がそれほどでもないことを示唆しております。そこから魔法の痕跡をいちいち消すような知性も無いと考えられ、それが最も重要でしょう」

 

 それを聞きながら、ラインハルトは思い出すことがある。

 以前オーベルシュタインの副官フェルナーが珍しくぼやいていたことがあるのだ。

 

「オーベルシュタイン尚書閣下は飼い犬のことになるととたんに饒舌になり、どんな忙しい時でも五分はその話題から離れません。しかもエサの鶏肉を煮る時間とか、散歩の途中で座ったとか、本当にどうでもいい話ばかりを喜んで。一度など、落としてしまってもう諦めていた鍵を犬が見つけてくれたのだと言ってはしゃいでおられました。その時には気のせいかうっすら涙まであったように記憶しています」

 

 オーベルシュタインが意外な面を持っていることを知り、それで記憶に残している。この場合犬ではないが何か関連があるのだろうか。

 

 

 

 こうしてディー・エーのは皆で魔法の痕跡を探しにかかるが、そういった仕事こそ組織の力が役に立つ。

 全員であちこち探した結果、ついにパドマ・パチルがそれを見つけた!

 

 それは細長く伸びる線状の痕跡だった。

 

 明らかに足で歩いたようなものではない。これで蛇のようなものだという伝説が真実なのを知る。

 そして何人かで隊を組んでから痕跡を辿っていく。単独行動は危ない。

 慎重に進んで行くと、何と女子トイレに伸びているではないか。しかし奇妙なことにそこから出てきた痕跡がなく、先が消えていた。窓もないトイレなのに。

 

 それではどうしようもない。というわけではなかった。

 目撃者になりえる者が存在したのだ。

 それは人ではない。人ならばトイレに四六時中いるわけがない。それはトイレに住み着いているゴーストだった。

 ゴーストが現れたことには皆驚いたが、勇気のあるスーザン・ボーンズがそれに話しかける。

 

「あなたは、ゴースト? 名前は何ていうの? ずっとここにいるの?」

「私はマートル。ここにずっと前から住んでる。今日はお客さんがいっぱいだわ」

 

 何が面白いのか分からないがゴーストが笑いながらトイレを飛び回っている。

 飛ぶからには重さがあるのだろうか。しかしなぜか時々トイレの水に突っ込む時には水が撥ねるのだ。なぜそんなものに突っ込む必要があるのかも謎だが、皆は慌てて水しぶきを避ける。

 尋ねたスーザンはその名を聞いたことがある。

 皆も思い出した。

 昔、ホグワーツ在学中に死んだ女生徒がいたと。それは闇の帝王による最初の犠牲者だそうだ。無念のあまりゴーストになって漂っていたのか。しかもゴーストには何も用のないはずのトイレで、ずっと。

 まさか排泄のフリだけでもして、生きていた頃の行動をしたいのだろうか。

 

 次に焦れてきたディーン・トーマスが質問をする。しかし、性急に過ぎたようだ。

 

「まあいい、今俺たちが聞きたいのは、怪物のことだ。蛇みたいな怪物がここを通ったろう? そいつはどこへ行った?」

「私のことなんてどうでもいいのね! 何よ、みんなで押しかけといて無視なんて! 教えて上げるもんですか!」

 

 ロジャー・デイビースはもっと気が短かったようだ。

 

「うるさい! ゴーストに怪物は何もできないかもしれないが、生きてる俺たちには問題なんだ。さっさと教えろ!」

 

 だがマートルはへそを曲げてしまった。そうなるとわがままなゴースト、頑として情報を出す気配はない。

 

「マートルの気持ちは分かるんだもン。ずっとここにいて、いきなりそう言われたらこうなる方が普通だもン」

 

 そう言うルーナ・ラブグッドだけはマートルを少しばかり理解していた。

 ルーナには孤独な者の気持ちが分かる。

 

 

 問答が手詰まりになりそうな中、ロナルド・ウィーズリーことキルヒアイスが語り掛ける。

 

「ですが、こちらは是非とも話を聞かなくてはならないのです」

 

 穏やかでありながら、逃げを許さない真摯な瞳をマートルに向けた。

 

「なぜならそれは、人を助けるためなのですから」

 

 この時、居合わせた女生徒は全員、マートルからうまく聞き出せるものと確信した。

 あの瞳が真っすぐに向けられ、甘く落ち着いた声を掛けられれば抗える女などいるはずがない。

 ロナルド・ウィーズリーの見かけ自体は縮れた赤毛が目立ち、ハンサムかと言われれば並より上ではあっても凡庸の域を出ないものだ。だが、このような時のウィーズリーは内面の気品と優しさが滲み出て、引き込まれる魅力を持つ。めまいがするほどだ。

 他でもなく妹ジニー・ウィーズリーがその兄の姿を見て驚く他はない。

 いつからこんな風になった? あの底抜けに明るいが粗忽で馬鹿に見えた兄が。

 

 

「奥から二番目のトイレの下水管よ。そこから下水道を通っているの」

 

 マートルはあっさり陥落し、情報を話した。

 これでディー・エーは蛇の怪物の住処を突き止めることができる。

 

 

 

 

 

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