ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「戻ったぞ」
「あ、おかえりー」
【ロキ・ファミリア】のホームに戻ると出迎えたのはティオナだった。
「どこ行ってたの?せっかく自己紹介の後誰が質問するか話し合ってたのに何時の間にか居なくなってたし」
「ダンジョン」
「おー。病み上がりなのにやるー」
と、感心するティオナ。実際三日も寝ていたのだから普通は身体が硬くなっているだろうに、ダンジョンに向かったのだ。
「寝起きは確かに関節が鳴ったが、あれは別に硬い床に寝た時とそう変わらん。直ぐに向かえる」
「スキルの力だっけ? いいなー。私なんて大怪我した時暫く潜るの禁止だったよ」
まあ今はLv.5。そう簡単に傷など負わないが。と、ベルが意外そうに見ているのに気付く。
多分意外そうなんだろう、目を見開いているし。
「な、なに?」
「いや、綺麗な身体してるのに意外だと思ってな」
「え、そ……そうかな?」
「ああ。知り合ってる傭兵、その実力者は大抵身体のどっかに傷がある」
「あ、そっちか……」
確かにここは天下の【ロキ・ファミリア】で、ロキはエロオヤジだ。女の子が怪我しても良いように常に薬を買い揃えている。だから大抵の怪我は傷跡残さず完治する。
「そういえばベルのスキルって傷跡は治せないの?」
「発現した以降の傷だけだな」
「せっかく可愛い顔なのに」
「余計なお世話だ」
ふん、と鼻を鳴らしそっぽを向くベル。怒ったのだろうか? 可愛いと言われるのが嫌いとか? やっぱり可愛い。
「服の下も傷跡だらけなの?」
「ああ」
見るか?と首を傾げるベル。見たいか見たくないかで言えば当然見たい。
「よし! じゃ、一緒にお風呂行こっか!」
流石裸体を見られても気にしないアマゾネス。太陽を思わせる笑顔でとんでもないことを言う。が、ベルとて武器を少しでも多く手に入れたり盗賊の情報を優先して貰うために年下好きの女達と八歳の頃から寝ていた非童貞。全く慌てることなくティオナに腕を引かれるまま風呂場に向かった。
「わ、本当傷だらけ」
「それだけ俺が弱い証だ」
傷跡を弱さの証として自嘲するベル。確かに強ければ傷なんて付かないだろう。しかし八歳が大人相手に戦っていたのだ、それも恐らく回復薬などがない場所で。十分偉業に値すると思うが、まあ本人は認めないだろうし黙っておこう。
「………………」
ジッとベルの身体を見つめる。傷跡が手足、腹、背中と様々な場所に刻まれた引き締まった身体。幼い頃、力が弱い頃から真正面からぶつかり合うことを捨て、攻撃を当て、避けることのみ優先した結果であろう筋肉質ながら細い身体。
そんな体をジッと見ていると不意に新たな気配が増える。
「…………あ」
「あ、アイズ!」
入ってきたのはアイズ。ティオナは笑顔で手を振るがアイズは固まってベルを見ていた。ベルは頭を押さえ壁を向いてやる。
「ティオナ、ここまさか女湯か?」
「え? うん、そうだよ」
「…………はぁ」
「? あ、そっか! 普通女湯に男入っちゃ駄目だったっけ」
流石羞恥心のないアマゾネス。いや、単純にティオナが馬鹿なだけだろう。
「あ、あの……大丈夫、だから………ゆっくり」
「そうだ! ベルの昔のこと教えてよ、何で冒険者になったのとかさ!」
「………私も、聞きたい」
と、アイズまで興味を持ったようだ。身体を洗い湯船に浸かり寄ってきた。ベルは面倒くさそうにはぁ、とため息をついた。
「………英雄になりたいからだ」
「どうして?」
「…………昔、大ざっぱに聞かされた英雄みたいになりたい、そう思ったんだよ」
憧れ、とは違う。ただ、これは自分に課せられた責務なのだと、そう思っている。
「その英雄は、たくさんの人間を救ったらしい。生き方を変えられなかった女や、生き方が縛られそうになった鍛冶師とかな………つっても、どう救ったかまでは知らねー」
アイズもティオナも英雄譚が好きでそれなりの数を読んだつもりだが、そんな話はあっただろうか?まあ、世界は広い。地方にしか伝わっていない逸話があってもおかしくないし、そもそもベルも詳しく知らないようだ。
「まあ最初は、俺が目指さなくてもどうせ誰かが救ってくれる。俺がわざわざ救いにいく必要なんてない、そう思ってたんだけどな」
「…………何があったの?」
「………友人と森に遊びに行ったある日、熊に襲われた。その時俺は何も出来なかった」
「その友達は?」
と、アイズがのぞき込んでくる。何か同調することでもあったのだろうか?
「生きてはいたよ。元々、誘ったのもそいつだったから、俺は責められることなくむしろ謝られた………」
けどその時思ったのだ。力があれば助けられたはずだ、守れたはずだと。
「それから強くなりたくて爺ちゃんに戦い方学んで、八歳の頃村に来ていた商人にこっそりついてって……後は前話した通りだ」
「ベルは、弱い自分が許せないの?」
「ああ」
「私も、一緒。強くなりたい………私達、えっと……お揃い?だね……」
「…………かもな」
アイズが微笑みベルが同意する様を見て、ティオナがムッと不機嫌そうに顔を歪める。
「そ、そういえばさ!その熊からどうやって逃げたの?」
「ああ、爺ちゃんが『儂の孫に何してくれてんじゃ熊風情が!食らえ、ケラウノス!』って叫んで物干し竿を熊の頭に突き刺して倒した」
「………変わったお爺さんだね」
「おまけに変態だ。まあ英雄の心得に関しては微妙なとこだが戦い方を教えてくれたのには感謝してる」
やれハーレムを作れだの、女の子には優しくしろだの、ハーレムを作れだの、女が背にいるなら逃げるなだの、ハァァァァレムをつくるのじゃぁぁぁだの二言目には必ずハーレム作りを目標にするように言ってくる英雄の心得の授業だったが、楽しくないかと問われれば楽しかったと答える。
「まあ、勝手に出て行っちまったから爺ちゃんも怒ってんだろうな」
「ご両親は?」
「いない。ずっと爺ちゃんと二人暮らしだった」
「あ、ごめん…」
「良い。気にしてない」
シュン、と落ち込むティオナの頭を撫でてやるベル。と、さらに新たな乱入者が現れた。
「アァァァイズたぁぁぁん!背中流しっこしよばぁ!?」
ドゴォ!とアイズの拳が飛び込んできたロキの腹に食い込む。カハァ、と肺の中の空気を吐き出したロキは湯船に落下しプカリと浮かぶ。
「ベル、チャンス。ロキがお風呂場に近づいたから暫く女の人は寄ってこないはず」
「…………面白い神だなお前等の主神」
ベルはそう言うと立ち上がりタオルで下を隠すと風呂場から出て行こうとする。
「あ、そうだベル!明日一緒にダンジョンに潜ろう!約束、ね!?」
「…………ああ、解った」
「やった!あ、時間は……七時半!ダンジョン前集合ね」
「ああ」
ところでさっきからピクリとも動かず浮いているロキを放置しておいて良いのだろうか?
そして翌日の七時半になり、ベルはソロでダンジョンに向かう。
「ごめーん、待った!?」
「待った」
「あれ?ここは今来たところだよって言われるって書いてあったのにな」
妙な知識でも得ていたのか首を傾げるティオナ。ちなみにベルは祖父に『たとえ1ヶ月待たされようと今来たところと言うのが真の男だ!』とか言われていたが知ったこっちゃない。
「行くぞ」
「あ、うん!」
【ロキ・ファミリア】の
「お兄さんお姉さん、サポーターをお探しではありませんか?」
「探してない」
「あれ!?」
スタスタと歩みを止めないベルと視線だけ向けたがベルについて行くティオナ。声をかけた少女は慌てて二人の前に移動する。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
身の丈より大きなバッグを背負った少女。ベルは歩みを止める。
「…………?」
何かが頭に引っかかる。チリチリと不快にならない程度の痛みを感じながら、ベルは目の前の少女をみた。
「サポーターはいらん。収納系のスキルがあるからな」
「え?あ、で、でもほら!モンスターが出にくい道とか、ダンジョンの構造とか記憶してますよ!」
「それはティオナがいれば間に合う」
「え?あ、あー………うん、期待しててよ!」
「……………いや、やはり雇おう。お前、名前は?」
「あ、はい!リリはリリルカ・アーデです」
「ティオナ・ヒリュテだよー」
「ベル・クラネル。駆け出しだ」