ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「ぬはは! 急に元気が出てきたではないか!」
ガレスが斧を振るい、フォモールの
「つーか、何で動けなくなってた俺等を縛るとかしなかったんだ?」
「ん? そりゃ、つまらんからに決まっておるだろう」
「そうやって感覚で動くのはやめて欲しいな。まあ、今回はいい方向に転んだけどね………」
リドの質問に何を分かり切ったことをと首を傾げるガレスに呆れたように現れたのはフィンだ。
「何じゃフィン、随分やられたようじゃな」
「薬も尽きていてね。どうせ使っていないんだろ? 一つ、欲しい」
「ほれ……」
ガレスから投げ渡されたエリクサーを受け取りのみ干すフィン。口を拭うと
「いい方向ってのはどう言うことだ?」
「動けない君達をとらえ、一体誰が僕らを勝者と呼ぶ? これは戦争であると同時に、遊戯なんだ。観客の居るね」
「そういう意味では、もう十分だろうけどな」
と、声が増える。振り返るとそこにはレフィーヤを抱えたベルが居た。
「……あのアイズに、勝ったのか。いや、そうじゃなくちゃね……でも、君も解っているだろ?」
「……………」
「勝負の結果はどうあれ、ゲームが終盤に近づいても死者がいない現状、
「だから?」
「…………」
フィンの言葉にベルは問う。勝とうが負けようが、ベルの願いはほぼ叶うと言っていいだろう。
「勝っても負けても同じなら、俺は勝利を選ぶね」
「………違いない。不躾な質問だったね」
ベルの言葉に笑うフィンはそのまま槍を構える。
「
「ぬお!? ………?」
「ぬ、いきなり何を!? ………ほう」
と、不意にベルが指を鳴らす。
発生した雷、しかしそれは味方であるはずの
「………そういえば、それは本来
それを見てフィンは笑みを浮かべる。
「ここは頼む。俺は、ゲームを終わらせに行く」
「おうよ!足止めは任せろ!」
「させないよ!」
「てめーこそ、させねーよー」
「っ!?」
と、ベルを追おうとしたフィンはディックスの呪槍をギリギリで回避する。
「旦那、ここは任せな!」
「助かる」
と、槍を構えるディックス。フィンも構えようとした瞬間、魔法が飛んでくる。放ったのはレフィーヤ。
「やあレフィーヤ、王子様の抱っこは良いのかな?」
「………後で頼んでみます」
ぼそりと呟くレフィーヤに、変わったねと笑う。照れ隠しなのかレフィーヤが空に向かって魔法を放つ。そして、冒険者や
「……ふふ」
「何がおかしいんですか?」
「いや、なに………舐めるなよ。この程度の苦境、乗り越えられず勇者を自称できるものか」
「……そっちこそ舐めないでください。私だって、世界を敵に回すような大バカについて行ったんですから」
街並みが何故か直線的に破壊されている。その瓦礫の上を歩いていると、前方からも歩いていてくる影を見つける。
「………よお」
「ふむ……迷いが消えたようだな」
と、腕を組みながら呟くオッタル。バチリとベルの体から雷が走る。
「俺はお前が嫌いだったよ。力はあるが、その先に行こうとしないお前がな」
「俺もお前が嫌いだったよ。あの方に愛され、急激に強くなるお前がな……」
ベルが腰を低く構えナイフを逆手に持つ。オッタルは拳を構える。
「「俺が勝つ」」
ドン! と互いに駆け出しベルのナイフとオッタルの拳がぶつかり合う。
「────!?」
ナイフが食い込まない。堅く握られたオッタルの拳は鉄のようで、ベルが押される。
「ぐぅ──」
「ふん!」
吹き飛ばされるベルに迫るオッタル。足下の瓦礫が更に砕け、その衝撃全てが駆け上り腕から放たれる。右肩にかすり、肩がはずれる。ナイフを取り落とし、拾う前に追撃が迫る。
魔力を必要以上に割けないベルはギリギリで回避し距離をとる。
再び迫ったオッタルが放つ蹴り。裏拳を当て逸らし、拳を振るう。
「───ッ!」
オッタルが僅かに吹き飛ぶが、オッタルよりもベルの拳が痛む。その拳を治し再び放つ。
「おおおおおお!」
「はっ!」
ベルの放つ連打のダメージを上回る強力な一撃。吹き飛ばされそうになるも、手首に掴まり、引き寄せるようにバランスを崩させ蹴りを放つ。
「………!」
が、片手で受け止められぶん投げられる。
「らぁ!」
「ぬぅ!」
ゴッ! とベルの額とオッタルの拳がぶつかりオッタルの拳が砕ける。
「石頭め!」
「爺ちゃん譲りでな!」
すぐさま次の攻撃。オッタルは防御を捨てベルに向かい一撃一撃が強力な拳を振るい、ベルは威力を捨て回避し連撃を見舞う。
一度は負けた相手。だからこそ負けたくない。
惚れた女が惚れている男。故に負けられない。
男同士互いの意地をかけた闘い。そこに加わるは守るべき者を背負った重さと、背負った最強という名の重さ。
ゴォンゴォンと
「「吹っ飛べぇぇぇぇぇ!!」」
己の全霊をとした一撃と鍛え抜かれた体から放たれる技の一撃。ぶつかり合い、周りの崖が吹き飛ぶ。
「っう……」
「ぐ……」
両者とも腕が折れた。ベルは、治すだけの体力も残っていない。
「俺の勝ちだ………」
「………」
「俺が、最強だ」
反対の手で放たれる拳。吹き飛ばされ瓦礫を砕いていくベル。
起きあがる気配はない。
それでも、終了の合図は流れない。彼の持つ規格外の回復スキルをギルドは認知しているから。
10秒。立たない。
20秒。指が動く。
30秒。起きあがる。
40秒。倒れた。
50秒。起きあがらない。
60秒。起きあがらない。
『…………戦闘終了。【反対派】の勝利です』
「───ッ!くそ!」
壁を叩き砕くのはフィンだった。勝ったというのに、浮かない顔。当然だ、フィンはこれを胸を張って勝利などと呼べない。
倒したのは自分じゃない。終わらせたのは自分じゃない。別の【ファミリア】のオッタルだ。
「ふむ。苛立つ気持ちも解るが……お前さんらしくない。だが、まあ悪いとは思わんよ……」
「ありがとね………さて、見ているかいオラリオ、冒険者達、
「団長?」
「フィン?」
殴り合っていたアマゾネスの姉妹は拳を止め空に浮かぶ鏡に映ったフィンを見る。
『このゲームで、死者はいない。これは僕らがそれだけ強かった────
「「……………」」
二人は黙って空の映像を見つめる。
『彼等が、僕らを殺そうとしなかった。モンスターである彼等が、だ。僕はもう、彼等をただの
「私たちが、決める?」
「えっと、どういうことだろ……」
『ギルドに、署名と共に自分が賛成か反対か書いてくれ。その結果で、彼等の扱いを決める』
その日の夜。
オラリオがざわつく中、黄昏の館でも団員達が夜遅くまで話し込んでいた。
そんな彼等に見つからぬよう闇に紛れ歩く影が一つ。
「………本当に、やるのか?」
──うん。このままじゃ、彼女が目を覚ますことがないからね──
ベルの問いかけに消えかけの『ベル』は言う。
彼の前に眠るのはアイズ。本来ならこの世界に関われないはずの存在が無理矢理干渉してきたことで、魂にダメージを負っていた。
「だけど、お前じゃなくても……このまま消えたら、誰にも覚えられず……お前は何のために──」
──生きた証とか、誰かが称えてくれるのとか、そんなのはどうだって良いんだ──
「……………」
──君も
「………解ったよ」
──もうすぐ僕も完全に消える。まっさらな、生まれる前の魂に成り代わる。拒絶反応だって起きやしないよ──
「………ベル」
──なに……?──
「………じゃあな」
──うん。バイバイ──
頭を撫でられたような気がする。
アイズは気付けば真っ白な空間にいた。
「良かったの?ベルは、私のものにはならないよ」
その声に振り返る。目つきの鋭い幼い
「所詮本物はそっち。私は単なる一感情って事………」
不機嫌そうな
「あれで良かったよ。私は……あのままだったら、きっと私は私じゃなくなっていた」
「………私を、
「……………」
アイズが手を伸ばし、
「消さないよ……私は、ベルにお父さんの影を見てた。あのヴィーヴルがベルに守られてるのが嫌だった……だから……
「…………それだけじゃないくせに」
「うん。だから、さ……
「…………うん」
「アイズさんの部屋で何してたんですか?」
アイズの部屋から出てきたベルにジトっとした瞳を向けるレフィーヤ。
「特に何も」
「ふーんだ。アイズさん綺麗ですからね、寝ているのを見てイタズラでもしたくなっちゃいましたか?」
「かわいいからイタズラしたくなるなら、レフィーヤにしたいな」
「はにゃ!?」
ボッと赤くなるレフィーヤは
「もう! からかわないでください! ………ていうか、笑えるようになったんですね?」
「本当の俺はこんなんだよ。幻滅したか?」
「……いいえ。もっと見せてください。私が知らない貴方を」
ベルの言葉に微笑むレフィーヤ。ベルも微笑み返す。
「そうだな………これ、から………いくらでも………」
「ベル!?」
と、倒れたベルを慌てて支えるレフィーヤ。筋力的に他のLv.4の冒険者より弱くてもそこはやはりLv.4でかつ相手が小柄なベル。少しふらつくだけですむ。
「…………寝てますし」
すうすうと寝息を立てるベルにはぁ、とため息を吐くレフィーヤ。壁に背を預け腰を下ろすとベルの頭を胸に抱く。
「お疲れ様でした、ベル」
その白い髪を撫でながら、先程言い掛けていた言葉を思い出す。
「これから、いくらでも………ですか。約束ですよ?もっと色んな貴方を見せてください………そしたら、きっと私ももっと貴方を……」