ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「………そうか、こうなったか」
ガネーシャは集計結果を見て頷く。それに反応するのは監視とは名ばかりに、【ガネーシャ・ファミリア】の拠点である程度の自由を約束されていた
「反対一割、白紙投票一割、共存賛成に八割………お前達は、地上で生きることを許された」
──オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!──
と、
「やった! やったぞ皆!」
「ああ、これで……日ノ下を歩くコトが出来るのですネ」
「………長カッタ……ダガ、漸ク報ワレタ」
「やったなお前等!」
「よし、今日は飲むぞ!」
「宴だ! 宴を開こう!」
ここ数日ですっかり仲良くなった団員達が騒ぐ中、ガネーシャはいや、と止める。
「宴ではない。祭りだ! とはいえ
「…………お父さん」
その言葉に、周りがシンと静まり返り一人の少女がポツリと言葉を漏らした。
「ふう、こんな所かな………」
すっかりメイド仕事も板に付いてきたヘスティアはんー、と伸びをする。
「………ベル君、まだ起きないのかな」
ベルはあの日、
壁により掛かって眠っていたレフィーヤに抱き締められる形で眠っていたのをヘスティアが見つけた。
「めでたいこともあるのにな~…………ん?」
不意に厨房から物音が聞こえた。パリンと何かが割れる音。ガツガツと咀嚼音も聞こえてくる。
「ま、まさか動物? こんな所に……?」
恐る恐る厨房を覗き込む。そこに、居た………白い毛を持ち、一心不乱に食材を貪る─────ベルが。
「…………!」
厚切りベーコンに胡椒をふってかぶりついたベルははっとヘスティアに気が付き幾つか食材を持ったまま食いながら歩き出す。あまりの光景に呆然としていたヘスティアの横を通り過ぎ、ヘスティアも我に返り後を追う。
最後のパンを飲み込んだベルは自室の扉を開け中にはいる。
ヘスティアが閉められた扉を開けるとベルがベッドに寝ていた。ゆっくりと瞼を開く………。
「………ここは、俺の部屋?」
「………………」
「ヘス、ティア……? 俺、どれくらい寝てた?」
「諦めるんだベル君。やり直しは利かない」
ヘスティアの言葉にベルはムクリと起きあがる。
「何時から起きてたんだい?」
「さっきだ。腹が減ってな」
数日は寝ていたから、大食漢のベルは腹が減り厨房の食材をあさりにいったのだろう。
「まあ起きたなら良かったよ。所で、その目はどうしたんだい?」
「………目?」
「はい、鏡」
と、ヘスティアが鏡をベルに手渡す。のぞき込んでみれば本来なら両方とも赤いはずの双眸の左目が蒼く染まっていた。
「………この色……」
「…………懐かしいのかい?」
「え?」
「そーゆー顔してるよ、今のベル君」
「………まあ、そうだな」
ああ、本当に懐かしい。大好きだった祖父から引き継いだ蒼い瞳。片目がそれに変わっていた。理由は解らないが、予想をつけるならランクアップだろうか? あれは肉体を昇華させる、つまり造り直すという事。瞳の色が変わる可能性も否定できない。
「しかし、まさか今更この色か…………」
嬉しくない訳じゃない。嬉しくないわけがない。ただ、思うところがあると言うだけ。やはり、少し寂しい。
「……………」
そんな哀愁漂うベルの体をそっとヘスティアが抱き締めた。
「ごめんね、ベル君。きっと僕じゃ、代わりになれない………寂しいよね?」
「人は元々、誰かの代わりにはなれないさ……」
「それも、そうか……でも、同じにはなれると思うんだ」
「……………」
「同じぐらい大切な人には………」
そうかもな、とベルは笑う。それを見て、ヘスティアも微笑んだ。
「よし、じゃあ久し振りに一緒に寝よう! そうしよう!」
「………は?」
「抱き締めて寝てあげるよ。それなら寂しくはないだろう?」
何がどうしてそうなった。そう言うのは簡単だが、その温もりが心地よく、ベルは大人しく身を預けた。ヘスティアがベルの白い毛をそっと撫でる。
「頑張ったね、ベル君」
「ああ」
「大変だったね」
「……ああ」
その温もりは、喧嘩し祖父の家に出て行ってしまったきり顔を合わせなかった母を思い起こす。
思えば自分は、あの頃から臆病にすぎた。
「おやすみ、ベル君」
「ああ、おやすみヘスティア」
「んなー!?」
「んぅ……何だい五月蠅いなぁ」
まだ眠っていたのに、と不機嫌そうに起きたヘスティアは自分を起こした声の主であるレフィーヤをジトリと見つめる。
「な、なんでヘスティア様がベルのベッドで寝てるんですか!? ふ、不潔です!」
「ん? ああ、あのまま寝ちゃったのか」
「ベルは寝込んでるんですよ? やって良いことと悪いことがあります!」
「わわ!? 引っ張るなー!」
「………何をしているんだお前達は」
ベッドからヘスティアを引き剥がそうとするレフィーヤ。と、騒ぎを聞きつけたのかリヴェリアが呆れた様子でやってきた。
「………ん」
「あ! ほら、ベル君が起きるよ! というか昨日の夜一度起きてた!」
「ああ。食料の紛失はそういう………」
「………んぅ………母さん?」
「「「──────」」」
ベルの言葉が年上である3人の胸に突き刺さる。特に年齢的に子供がいてもおかしくない二人に。
「アイズ、おはよう」
「ん。おはようティオネ………なんか、騒がしいね」
というか彼女が部屋まで来るのも珍しい。
「ベルが目を覚ましたのよ」
「………そっか。ベルが……」
「行かなくて良いの? レフィーヤとか、結構差を付けてるし……いっそ告白でもしてみたら?」
なんて、と笑うティオネ。この数日、ベルが目を覚まさないことに責任を感じていた彼女を元気づけようとからかってみたのだが……。
「? 何でいきなり……」
「え、いや……いきなりっていうか、だってほら……スキルの暴走、危険だったんでしょ? 助けてくれて、好きになったんじゃないの?」
「ティオネ、現実は英雄の本じゃないよ? 命を助けてもらえば、好意は湧くかもしれないけど、それで男女間の関係になるのは早計だと思う」
「あ、そう……ごめんね。なんか、早とちりしちゃったみたいで……」
「………ねえティオネ。フィンは沢山の子を作るためにハーレムをつくろうとしてるけど、どう思う?」
藪から棒に何だろう? 彼女もフィンに惚れたとか? いや、それはないだろう。女の勘で分かる。
「もしも、仮に、もしかしたらティオネがフィンと結婚できて───」
「可能性少ないみたいな言い方しないでくれる?」
「フィンが誰かと手を繋いで歩いて、笑いあって、子供を育む。それは、どう思う?」
「………それは、やだ……かな」
「………私は別に良いよ」
と、アイズは言い切る。
「ベルが誰かと恋仲になっても良い」
「ちょ、ちょっと待ってアイズ! あんた、さっきベルに惚れてないって……!」
「? そんなこと言ってないよ?」
「え、でも……助けてもらっただけで好きにならないって………」
「うん。私はその前からベルの事好きだもん」
「………………」
またも言い切るアイズに唖然とするティオネ。
「最初は、お父さんと重ねてた………でも、何時の間にか好きになってた。気付いたのは最近だけど……」
「そ、そうなんだ……でも意外、アイズはてっきり嫉妬深いかと」
「うん。そうだよ」
「……へ?」
「ベルが何人と恋仲になっても良いけど、誰かと手を握っている時、私の手の感触を思い出してくれなきゃ嫌だ。笑いあう時、私の顔を思い出してくれなきゃ嫌だ。子供を育む時、私との子供のことを考えてくれなきゃ嫌だ」
「………………」
ゾクリと、ティオネが震える。
「私が一番じゃなきゃ嫌だ。でも、今のベルはきっとレフィーヤが好き」
「だから、告白しないの?」
「ううん。何時かするよ………必ず振り向かせて」
「………………」
「逃がさないよ、ベル」
アイズはそう言うと、人形のような顔で微笑を浮かべた。
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