ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「しかし『フィン』や『ガレス』が活躍していて、『私』は負ける、か……立つ瀬がないな」
「そ、そんな! 『ベル』は私が勝ったって言ってましたけど、実際は『ベル』と一緒に、不意打ちに近い形で倒しただけですし……」
リヴェリアの言葉に『レフィーヤ』が慌てる。そんな反応にリヴェリアは楽しそうにクスクス笑った。
「しかし勝ったのは事実なのだろう?私は、それを誇りに思うよ」
「……………」
世界は違うとはいえエルフの女王に誉められ頬を赤くして固まるレフィーヤ。耳がピクピク動いていることから、嬉しいようではあるのだろう。
「『私』は?」
「………私は、『フィン』に特定の場所で待機を命じられてた」
「何で?」
「…………『ベル』を、殺そうとしてたから」
「「「────ッ!?」」」
アイズの言葉に暫し間をおいた『アイズ』だったが、絞り出すようにそう呟き此方側のベル達が戦慄した。
「『ベル』を、取られたくなかったから………モンスターを守ろうとするベルが、許せなかったから………でも、結局出会っちゃって………だから、全力で殺そうとして、首を折った」
「え、首を?」
「うん。こう……ゴキッと………」
その時の感覚を思い出したのか顔を青くする『アイズ』。モンスターを守ろうとするのが許せなかったから、という言葉に同意してしまうところがあったのかアイズは無言で己の手を見た。
「よ、よく無事だったね『ベル』君……」
「俺は自己治癒系のスキルがあるから。Lv.2の時点で魔力と体力を大量に消費すれば新しく生やせたし、魔力と体力さえ残ってればなんとか………」
「『ベル』、ちょっと前に高レベルの私が同じスキルを持ったら不死者って言ってた………ベル、不死身?」
「さあな……取り敢えず喉を抉っても大丈夫なのは確かだが………」
「……けど、あの時『ベル』は魔力残ってなかったはず」
「………それは説明したろ?」
『ベル』の言葉に『アイズ』はそうだった、と頷く。そういえば、そうだった。あれはあの時だけの裏技だったか。
何でも、もう一人の自分から体力と魔力、
「ところで『坊主』………あんたら、余所の世界から来たんだろ? 金、あんのかい?」
「…………………」
『ベル』の手がピタリと止まった。周りには、塔のように積み上げられた大量の皿。
「………ダンジョンに潜ってくる」
『潜るのは明日にしな』。そう言われた。ミアはやはりミアのようだ。あるいはベルへの信頼か……。
どうせなら此方の面子も共に潜ろうというロキの提案の下翌日全員で向かうことになったが、ベルは寝ずに屋根の上に腰をかける。
「満月か……」
そういえば向こうでは『神月祭』が近づいていた。ダイダロスの一部崩落とか、【アポロン・ファミリア】の街での魔剣、魔法使用によるゴタゴタ。ガジノの支配人偽物事件と捕らわれていた美姫達の謎の解放。『真・
そして
「楽しんでくれると良いんだがな」
「何が?」
「………ベルか」
不意に言葉が返される。気配は感じていた。驚くことなく振り返りその人物を見る。青と赤の目を持つ『ベル』と違いどちらも赤い瞳。それ以外は本当に瓜二つだ。
「眠らないんですか?」
「俺は魔力と体力さえ万全なら数日は飲まず喰わず眠らずで過ごせるからな」
その場合常に魔力や体力を消費続けることになるが。
「……あの、『僕』……」
「ん?」
「稽古を、つけて貰って良い?」
「…………へぇ」
もしその時の光景を彼の世界の
「良いぜ。お前、どうも
「うごげ!?」
グルンと視界が縦に回る。顎を打たれ吹き飛ばされたのだ。そのまま背中から屋根に落下し肺の中の空気を吐き出す。そして滑る体が肋に乗せられた足で止められる。
「俺の勝ち……」
「───っ……あり、がとうございました……」
息を整えながら立ち上がる。自分と『ベル』の戦い方は、似ていて違った。自分が速度とアイズから学んだ駆け引きならば『ベル』は速度と相手に駆け引きを与えない戦い方を主軸におく。
駆け引きをするために隙を作ろうにも作った隙すら誘われたものだった。
「まあLv.7と4ならな……ステイタスで勝ってるだけだ。同じレベルなら、俺はきっとお前には勝てないよ」
「そんなまさか! 同じレベルでも、僕なんてとても………『僕』みたいに、大した冒険もしてないし……」
「ん?」
と、不意にベルの雰囲気が暗くなるのを感じる。
「僕じゃ絶対、Lv.1の時にゴライオスなんて倒せないしオッタルさんに手傷を負わせるなんて出来ないだろうし……その他のことだって絶対に出来ないよ」
「………まあ、確かに……だがなベル、一つ勘違いしているぞ」
「勘違い?」
「俺は人に、環境に恵まれてここまで来た。お前は、恵まれてないとは言わないがそれでもそこまでいった。お前は決して俺に劣らない…」
素直な賞賛に嬉しくなる反面、やはり完全に気は晴れない。それを見て『ベル』はふむ、と顎に手を当てる。
「そういえば、お前はウィーネを守る際獲物だから手を出すなって言ったんだったか?」
「え? あ、はい………ずるいよね。『僕』は、家族だって言い切ったのに……」
「何故だ?」
「はい?」
「正直言うと、お前が立場を気にする男には見えない。何故、保身に走った……お前はその時、ウィーネを助ける以外何を考えていた……」
「えっと……それは───」
確かにあの時血が上っていた。ウィーネを、モンスターを庇うという行為を行った。人類を敵に回す愚行をした。その後、ウィーネが獲物と言ったのは何故だ? 【ロキ・ファミリア】を敵に回すのが怖かったから? いや、街にでたモンスターを庇った時点でオラリオを敵に回すようなものだ。事実そうなったし、それが解らなかったわけではない。予想してたから、まだ耐えられたのだ。
ウィーネを助ける以外に、か……。
「………皆の事、かな」
「皆って?」
「リリ、ヴェルフ……春姫さんに、命さん……エイナさんと神様。僕があの時、ウィーネを仲間と言えば、人類を敵に回してしまえばきっと……皆まで責められる。そう思った」
「………なら、強くなれるさ。俺はその時、片方しか守れないと諦めていたんだぜ? 諦めなかったお前が、俺より強くなれないわけがあるかよ」
グシグシとベルの頭を撫でる『ベル』。その乱暴な撫で方に、既視感を覚える。
「……おじいちゃん」
「誰が爺だ。あんな温泉にいくたんびに女湯覗きに行く奴と一緒にするな……」
「いだだだ! ご、ごめんなさいぃぃ!」
ギリギリと握力が込められる『ベル』の掌。ステイタスのアビリティが常に上限を超える『ベル』だ。その握力はLv.7でも上位だろう。種族特性的にガレスなどには劣るとはいえやはりすさまじくベルが慌てて謝罪し、頭を押さえた後吹き出す。
「昔、おじいちゃんが女性にビンタされてたこと言うと良くされてた」
「こっちの爺もか? 彼奴、一応はモテるがそのせいで女に怒られることしょっちゅうの癖にな」
「でも懲りずにいろんな女の人に声をかけるんだよね」
「彼奴の辞書に懲りるって文字がそもそも無いんだろ」
「「あはははは!!」」
そのまま笑いあう二人。暗い雰囲気は、もう無い。
「よぉ……諦めたらどうだ? 同じ俺なら、レベル差がある以上勝てねぇよ……」
『ベート』はゴキリと首を鳴らし目の前の肩で息をするベートを見る。その言葉にベートはギロリと睨みつけてくる。しかしそこに宿るのは闘志で、怒りや忌々しさはない。
「そっちのうさぎ野郎は、レベルで劣っててもてめぇに勝ったんだろ? なら、まだだ! まだ諦める理由はたんねぇよぉ!」
「はっ! 良いぜ、良く吼えた! 来いよベート・ローガァァァ!」
「ルゥオオオオオオオッ!!」
二人の
「それでそれで!? あっちの『アルゴノゥト』君は『バーチェ』と戦ったの?」
「うん。負けちゃったらしいけどね………でもその後直ぐに復帰して戦おうとしてくれたんだよ! まあ、流石に譲れなかったけどね」
「ええ~、何々? 『あたし』ったら自分のために戦おうとして貰ったの~?」
きゃっきゃっとティオナと『ティオナ』が楽しそうに話す。
「うーん……残念だけど、あたしと『レフィーヤ』の為かなぁ……」
「『私』の………」
レフィーヤはうむむ、と唸る。ライバル視している少年に助けられた、という事実に何とも言えない顔をする。異世界の自分達とはいえ、助けられたのだ。感謝すべきだ、と心では解っているのだがやはり感情では………。
「まあ、『ベル』は本当は優しい子ですからね……私の為じゃなくても、頑張ったでしょうが」
と、『レフィーヤ』が何処か残念そうに言う。その様子を見たロキはま、まさか……と震える。あの男っ気のない、ともすればそちらの気がありそうなレフィーヤが? いや、でも別世界のレフィーヤだし、ありえるか?
「けどそっか………『アルゴノゥト』君は『レフィーヤ』と一番仲が良いんだ~」
「『ベル』は女の子と仲良いよ。ギルドのアドバイザーでしょ、『カーリー』にも気に入られてるし、『バーチェ』も街中で出会うとよく話してるし、『リリ』ちゃんとも組むし……本当にね、絵本で読んだ英雄みたいにモテモテ………はぁ」
「大変だね『あたし』………」
「特に最近はね………拒絶……というか、仲良くなることに恐怖がなくなったせいで………うむむ」
まあ、それでもまだ………まだ決まった女性は居ないのだ。いや、一番仲が良い相手はいるのだが。娘だって居るが、妻は居ない。
「あ、私『ベル』のお嫁さんになったことある、よ?」
「「「え?」」」
「………嘘や、ないやと───う、嘘やぁぁぁ! アイズたんが、あんなひょろっちい兎にぃ!」
「『ベル』の悪口、言っちゃだめ……」
ピキリと、迷宮の壁が割れる。そこは17階層。生まれるのは、本来ならゴライアス。
しかしそれは、ゴライアスには見えなかった。というか、ゴライアスなら既に生まれている。漆黒の体を持ち昆虫類のように硬い鎧殻に覆われ、蜘蛛のような体。その頭頂部には顔のない人のような形をしたものが生えていた。
『────あああああ』
目も鼻もなく、口だけの人の頭。顔と呼ぶべきものが存在しない無貌の口が地の底から響くような声を発する。
『おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれ! 俺が、こんな、下位世界に───人形が、木偶人形が!』
ギリギリギリギリと、歯軋りをして、それは確かに人の言葉を発した。どうしても許せない存在を思い浮かべて。
彼は英雄が好きだった。崇められる英雄が、神格化される英雄が───
本来なら届くはずのない、下位世界の大神の加護を持つ雷。それが彼の魂を、神格を、神髄を大きく削った。それでも、何とか、ギリギリ生きていた。信仰を失った今回復手段は世界から流れる僅かな気。しかし、見つかった──
『おのれ! あの女も、絶対に許さん!』
太陽のごとき眩しい笑顔で、しかし死を司る母の面影を残す残虐な笑みを浮かべる女神に。愚かなことをした、と呆れられ。無様なものだと嘲笑された。そして格が下がったその魂を、世界の穴の跡に押し込み落とされた。
殺して見せろ、褒美をやる。そんな事をほざいて、この世界に落とされた。せいぜい大好きな英雄に相応しい姿になれ、そう笑った───
『オオオオオオオッ!!』
と、ゴライアスが向かってくる。『それ』はゴライアスを蜘蛛の足で捕らえ、蜘蛛の牙を突き刺す。顎はない。消化液を流し込みジュルジュルと啜る。その容貌はまさに怪物。あの質の悪い女神が見れば腹を抱えて笑うだろう。現在進行形で見て、笑っているかもしれない。
それは『ベル』達がダンジョンに潜るのと、殆ど同じ時間に起きた事だった。
「んで、何階層までいく?」
「このメンバーなら下層までいけるんじゃない?」
「Lv.1も居るから……下層はやめた方がいい」
『ベート』の言葉に『ティオナ』が提案して『アイズ』が意見する。『ベル』はジッとダンジョンの入り口をみる。
「…………17階層」
「17? つーと、ゴライアスか」
「………いや」
「?」
「なんか、居るとさ……そいつを殺せば、ご褒美くれるらしい………そんな夢を見た」
感想お待ちしております
アルテミス様とフィルビスをどうしよう
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アルテミス様だけ救おう
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フィルヴィスだけ救おう
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どちらも救おう
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どちらも救ってフラグを立てよう