ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
ダンジョンの壁を突き破りウォーシャドウが現れる。ベルが一瞬で接近するとその首を刈り落とした。
リリが魔石を抜いてる間にゴブリンやコボルトの群が現れる。
「てい!」
「…………」
ティオナがウルガでコボルトの群を斬り飛ばしベルはゴブリン達を切り裂く。この間、一秒ほど。
「お2人ともお強い!」
死体を一カ所に集め魔石を抜いていくリリ。手慣れている。聞けば【ソーマ・ファミリア】というファミリアに所属している、一応は恩恵持ちのサポーターなのだとか。
「魔石の回収は終わったか?」
「はい。ほらこんなに!少し待ってください今しまうので………あれ?」
何時の間にか手元の魔石が消えていた。ベルが手を翳した一瞬で。
「収納系スキルを持っていると言ったろ?」
「ねえねえベル、この子の荷物重そうだしもってあげたら?」
と、ティオナが提案するとリリがピクリと肩を揺らした。盗まれないか気にしているのだろうか?確かにこれはベルの意志がない限りベルが死んでも収納したアイテムは戻ってこないが。
「………まあ容量的には問題ないが」
「……なら、お願いできますか?」
と、バッグを下ろすリリ。ベルはそんなリリをジッと見るが直ぐにバッグに視線を向け触れる。バッグが消えリリの手持ちは魔石を抜き取るためのナイフだけになった。
「どうするベル、このまま10階層行ってみる?」
「俺としては構わないが、あそこは霧が深いから互いを見失うかもしれない。リリが持ってるのは解体用のナイフだけだぞ?」
「あ、リリは別──」
「そっか。はいサポーターちゃん、これ貸したげる」
「──に大丈………はい?」
ティオナが差し出してきたモノを反射的に受け取るリリ。ずっしりした重量に何だろうと見てみれば大剣二つを合わせたような独特の武器、
「ティオナ、それお前専用じゃ」
「ん? いーのいーの。愛着はあるけどサポーターちゃんの身を守るためだしね」
「そうじゃなくて、お前のステイタスに合わせて造られたんだろ?」
「あ! サポーターちゃん潰れて……ないね」
「?」
ティオナが慌ててリリを見るがリリは片手でウルガを持ったまま首を傾げていた。
「あれ、サポーターちゃん
「え? はい……」
「よく持てるね」
「ええと………あ! リリには
つまりそのスキルのおかげでウルガを軽々持ち上げられる補正が入っているのだろう。
「すごいスキルじゃん!何でサポーターなんてやってるの!?」
「へ?」
「重量のある武器を扱えるのは大きなアドバンテージだ。まあどうせ武器を買う金がないとかだろ」
「えー、勿体ないなぁ。せっかくの才能なのに」
「さ、才能? でもリリ戦い方なんて知りませんよ?」
「んなもん戦ってりゃ身につく」
と、ベルが言うとリリは一瞬だけ目を細める。
「……勝手なことを。強いから、そんなこと言えるんですよ」
「………うわぁ」
グチャリと潰れたオークだった死体を前に、ひきつった顔で己の手の中にあるウルガを見るリリ。その長さ故に振り回しにくく、斬ると言うより叩きつける感じにオークに向かって振るえば結果はこれだ。
恐らく武器の重量のせい。リリ自身はスキルの恩恵だがスキル無しで振り回していたあのアマゾネスはどんだけだ、と貸してくれたアマゾネスを見る。拳やら身体を血に染めて笑顔を浮かべてきた。
「やるじゃんサポーターちゃん!」
「あ、はい。でも武器の性能ですよ」
「武器は所詮武器だ。その武器を使って結果を残したのはお前自身だろ?」
「そうそう。団長も前言ってたしね………すぎたる何とかは何とかだって」
「すぎたる謙遜は嫌味、な……」
何故か殆ど覚えていないくせに無い胸を張るティオナに呆れた視線を送るベル。その手が霞むと遠くで呻き声が聞こえ砂の固まりが崩れるような音が聞こえた。どこかに潜んでいたモンスターの魔石を砕いたのだろう。
「凄いねベル。どうやってるの?」
「【エルトール】を周囲に薄く展開してるんだよ。これで何かが触れると直ぐ解る。で、後は生体電気を感知して、反応の強い場所、つまり魔石か脳を狙うわけだ」
パチチと音を立てベルの手元に戻ってくるナイフ。魔法の応用らしい。便利な魔法だ。
「今日はこの辺で切り上げるぞ」
「そうだね。私お腹すいちゃった」
全て換金して、金額54000ヴァリス。
「んー。微妙」
「そんな風に思うのはティオナ様ぐらいですよ。あの階層でここまで稼げるなら凄い方です」
うなるティオナに呆れるリリ。さて、これから分け前だが今回はサポーターとしての仕事は出来ず、強い二人はモンスターが出にくい回廊を使う必要もなかったので案内もなし。そして何故か冒険者の真似事をすることになったが倒したのはたった一体。それに今日は、お試し期間だ。全く不要なことを証明してしまった。
「はいサポーターちゃん」
と、ティオナが18000ヴァリス程入った袋をポン、と渡してくる。
「へ?」
「おいまてティオナ」
リリが固まっているとベルが呼び止める。ああ、何だ。
「ほぇ?」
「本来戦闘職じゃ無いのに真似事させて悪かったな」
「あーそっか。でも私サポーターちゃん才能あると思うけどな。また明日もやってみようよ、良さが解るよ!」
「………明日?」
「引き続き頼む。魔石を取り出す速度とか、階層に現れるモンスターの種類の知識とか俺達には殆どないからな、無知な俺たちに是非教えてくれ」
そう言うと去っていく二人。手元に残ったのは19000ヴァリス。今まで貰ったこと無い金額だ。
「………変なの」
変すぎる。サポーターに戦わせるし、荷物は持っちゃうし……おかげで目的は果たせなかった………。
──弱っちい
──サポーターが冒険者様に意見してんじゃねーよ──
──サポーターちゃん才能あると思うけどな──
──無知な俺たちに是非教えてくれ──
「……………………」
「くそ、何でこれしか……こんなんじゃ……」
ブツブツと頭をかきむしりながら去っていく男の姿が見えた。ベルはその男の肩につけられたマークを見る。
「………【ソーマ・ファミリア】か」
「あれ? それってサポーターちゃんと同じ?」
「………………」
ベルは顎に手を当て暫く考えるとティオナに向き直る。
「ティオナ、今日はLv.1の俺に付き合って10階層まで付いてきて貰ってありがとな」
「どうしたの急に? まあ、うん。どういたしまして!」
「俺はちょっと私用で物を買ってくるから、後で豊穣の女主人で集合しよう」
「オッケー。今度は私が待ってるからねー」
笑顔で走り去っていくティオナを見送り、ベルは裏通りに向かう。数名の冒険者が目配せして後を追った。
「よお、随分稼いでたみたいだな?」
ニヤニヤと笑みを浮かべた男がベルの前に現れる。後ろを向けば同じような表情をした男が二人。
「へへ、実は俺ら貧乏人でね。日々食いつなぐのがやっとの儲けだって言うのに
「俺は彼奴の恋人じゃねーよ。好意は寄せられているみたいだがな」
ベルの言葉に男はッチ、と舌打ちしてベルを睨む。目的は金だけではなく、女と共にダンジョンに潜っていたベルを痛めつけることも含めているようだ。
遠慮する必要はなさそうで安心した。
「おとなしく有り金全部おいぺ──」
三人組で、一人で出てきたという事は目の前の男が一番の実力者なのだろう。隙だらけに話しているので接近し顎の下を蹴る。グリンと白目をむき気絶した。
「な!?」
「て、てめぇ!」
後ろの男達が目を見開き片方がナイフを放ってくる。矢のように飛ばすベルと違い曲刀を回転させて放たれたナイフ。ベルはその柄尻を蹴り男の足に返した。
「あぎ! ………はぁ!?」
回転するナイフの柄尻を蹴るという離れ業に目を見開く男。最後の男が剣を抜き切りかかってくるが高速で飛来した林檎が手首に当たり砕けた。
「大の男がたった一人の少年に寄ってたかって何をしている、下郎ども」
凛とした透き通るような声が響く。振り返れば緑の給仕服を着た美しいエルフが目を細め男達を睨みつけている。
「私はあまり気が長くない。早々に失せろ」
「ひっ!」
エルフの女性、リューに睨まれ顔を青くした男は足に怪我をした男に肩を貸すと逃げ出す。残されたのは気絶した男とリュー、ベルの三人。
「お怪我はありませんかクラネルさん」
「ああ……ま、一人でも良いか」
「?」
「げふ!?」
リューが首を傾げているとベルは気絶した男の腹を蹴り無理やり起こす。男は仲間が居なくなっていることと自分が気絶していたことに気づき顔を青くする。
「俺も気は短い方でな。聞かれた質問には全て早急に答えろ」
男の髪を掴み顔を持ち上げると首筋にヒタリと冷たいナイフを当てる。男の顔は白くなり涙を流しながら動かしにくい頭を必死に縦に振った。
「……クラネルさん、あまりこういった危険なことはしないでください。貴方に何かあればシルが悲しみますので」
だいたいの事情を察したのだろう。リューはため息を吐いた。
「じゃあ一つ目だ。【ソーマ・ファミリア】について話せ」
男の話をまとめると、【ソーマ・ファミリア】は酒造のファミリア。しかし主神のソーマはそれのみを目的として、事実上団長のザニスが支配しているらしい。
その支配体制は報酬によるもの。金を多く集めた者に市販されているソーマとは別の
【ソーマ・ファミリア】の者は一度飲んだそれを味わうために金を集め続けているのだとか。
「……随分と、不快な結束ですね」
「薬物中毒みたいなもんか。なあ、リリルカ・アーデを知ってるか?」
潔癖なエルフであるリューは顔をしかめベルは再び質問する。
「アーデ? ああ、あの役立たずのサポーターか………彼奴は両親に生まれた時から入れられてた奴だよ。その両親も死んで、卑しく金せびりにくる虫だ」
「………そうか」
ベルの爪先が男の腹にめり込み男を再び気絶させる。
もはや興味を失ったように立ち去るベルは振り返りリューを見る。
「今日この後、ティオナと豊饒の女主人で飯食うんだ。一緒に行こうぜ」
「はい」