ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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番外の章 正史クロス⑥

 ダンジョンに向かって歩く一同。周りの視線が集まる。何せ世界最速兎(レコードホルダー)『白兎の脚』(ラビット・フット)を含めた【ヘスティア・ファミリア】が、二人居るのだ。

 正確にはベル、リリ、主神ヘスティアが二人。兄弟姉妹? それにしても似てる。

 

「あ、おーいエイナさーん」

「あ、ベル君! 今からダンジョ───ン!?」

 

 ベルに手を振られ反応したエイナは、ベルと『ベル』を見て固まる。

 

「───え? あれ、ベル君が、二人? ど、どういうこと!?」

「兄弟だ。ダンジョンに潜らせてもらうぞ」

「あ、うん───って、あれ? 冒険者登録したの!? じゃなくて、しました!?」

「ああ……」

 

 嘘ではない。『ベル』は混乱するエイナの横をすり抜けダンジョン入り口に向かう。と、人が増えてきた。というより、集まっている。

 

「あ、『ベル』! やっときましたね」

「おせえぞ」

「待ってた」

「ちっ。待たずにさっさと行きゃよかったんだよ」

「もー、こっちの『ベート』も口が悪いなぁ」

「ねー………」

 

 オラリオの大手ファミリア、【ロキ・ファミリア】の中でも有名どころが揃っていた。【剣姫】(けんき)アイズ・ヴァレンシュタイン。【凶狼】(ヴァナルガンド)ベート・ローガ。【千の妖精】(サウザンド・エルフ)レフィーヤ・ウィリディス。【大切断】(アマゾン)ティオナ・ヒリュテ。

 壮観だ。ただ、何で二人ずつ居るんだろうか?

 計8人の集団に二人の【白兎の脚】(ラビット・フット)小人族(パルゥム)の少女が加わり計12人。

 金稼ぎとしては多すぎる。中層辺りがちょうど良い数だろう。

 

「んで、何階層までいく?」

「このメンバーなら下層までいけるんじゃない?」

「Lv.1も居るから……下層はやめた方がいい」

 

 『ベート』の言葉に『ティオナ』が提案して『アイズ』が意見する。『ベル』はジッとダンジョンの入り口をみる。

 

「…………17階層」

「17? つーと、ゴライアスか」

「………いや」

「?」

「なんか、居るとさ……そいつを殺せば、ご褒美くれるらしい………そんな夢を見た」

 

 『ベル』の言葉に夢? と首を傾げる一同。ベルと『ベート』達はカサンドラを思い浮かべる。

 

「まあ、どちらにしろゴライアス倒しゃ昨日の金は払えんだろ」

「どうせ今日も食べるでしょうし、たくさん集めましょう。『ベル』がいれば荷物に関してはなんの心配もありませんからね」

 

 『ベート』の言葉に『リリ』が同意する。荷物に関してなんの心配もないとはどう言うことだろうか?とサポーターであるリリは首を傾げる。

 

「こういう事……」

 

 と、空間に波紋が生まれ、そこから剣が出てくる。

 

「《スキル》の一つでね、俺は異空間にモノを収納できるんだ。ポーションや剣なんかも入ってる」

「……サポーターいらずですね」

「『ベル』は遠征まだだけど、参加したら今までより美味しいものが食べられそうだよね!」

「全部この馬鹿が喰っちまいそうだけどなぁ」

「それは……いえ、どうなんでしょう………」

 

 『ティオナ』が共に遠征に向かう日を楽しみにして、『ベート』がふん、と鼻で笑う。『レフィーヤ』はあはは、と苦笑した。

 

「『ベル』が運ぶ分の食料は五割以上『ベル』の分だけにするって、言ってましたよ、『団長』が………」

 

 と、『リリ』が言う。元より『ベル』と分断されたり、最悪『ベル』が死んだりしたらその時点で物資がなくなることになる。そうならぬようにあくまで『ベル』が持つ物資は三分の二だ。本来の荷物運び達の分を減らして仕事が楽になるわけではないので、大凡三倍の物資を運ぶ計算になる。

 

「遠征前に準備するから今はなんも無いがな」

「遠征前にためてたら、食べちゃうとか? なんて───」

「………………」

 

 ベルがからかうように言うと『ベル』は無言で顔を逸らす。

 

 

 最上級冒険者達の揃ったチーム。上層など苦にもならず、あっという間に中層。少し開けた場所で、『ベル』と『ベート』の姿が霞む。

 

「最後の一匹は俺が切ったな」

「俺が首を蹴り折ったんだよ」

 

 む? あ? と睨み合う二人。本当に仲が良い。

 

「あの二人、すっごく速い? 魔法使った『私』とどっちが速いの?」

「あの二人はスピードにモノを言わせたバトルスタイル、だよ。二人とも私より速くて、『ベル』は魔法使うともっと……速い……」

「ていうかさー、あの二人って組むと何時も以上に強いよね? あたしの気のせい?」

「ロキ様に隠されてるけど、なんかそういう《スキル》があったりして……」

 

 アイズの質問に『アイズ』が返す。『ティオナ』の言葉に『リリ』がそんなことを言う。しかしだ、《スキル》と化すには相応の想いが必要なはず。本物の兄弟でもあるまいしそんな《スキル》に目覚めているとは………というか、目覚めてたらなんか、すっごく負けた気分になる。そんな事を思いながら『レフィーヤ』は二人の背中を見つめる。

 

「お二人とも、喧嘩はそこまでに」

「なんというか……冒険者になっても『リリ』は苦労してるんですね」

「ええ全く。最近じゃ喧嘩の仲裁だけでなく、アマゾネスの襲撃に備える日々………」

 

 『リリ』が二人を止めるとリリがその光景を見ながらポツリと呟く。

 

「けっ。仲良しこよしでくだらねぇ」

「妬いてるの? ベートは慕ってくれる人居ないもんねぇ」

「冗談はその貧相な胸だけにしろバカゾネス!」

「「なんだとー!?」」

 

 『ベル』と『ベート』の様子を見て鼻を鳴らすベートにティオナがからかうように言うとベートが苛立ったように反論し、飛び火した『ティオナ』も突っかかってくる。

 

「み、皆さんその辺に………まだ後四階層もあるんですよ?」

「皆さんからしたら後四階層しかないんでしょうね……」

「ですよね。皆さんLv.5以上ですもんね………『私』も」

 

 私はまだLv.4なのに……ベル・クラネルももう4だし、とブツブツ呟くレフィーヤに『レフィーヤ』はあはは、と苦笑する。

 

「ま、まあどっちのベルも、成長が異常なんですね」

「そうですよ。異常なんですよ。何か狡を───……いえ、まあ……あの漆黒のミノタウロスに挑む姿はすこーしだけ、ほんの少し格好いいと思いましたがね。思わず応援するぐらいには」

「………………」

「で、でもあれは、その……あれです! そう、同じ冒険者として応援しただけですからね!」

「え? は、はぁ………」

 

 唐突にレフィーヤに叫ばれ何がなんだか解らず取り敢えず返事を返すベル。『レフィーヤ』はそんな様子を見て、こっちの自分もミノタウロスとの戦いに心を動かされたのか、と何気ない共通点にほっこりした。

 と、その時だった────

 

───オアアアアアアアッ!!

 

「「「───!?」」」

 

 地の底から響く不気味なうなり声。一同が目を見開き、固まる。ベルはただ一人、地面を………否、その遙か下を眺める。

 

「この気配は───ッ! 走れ!」

 

 『ベル』が叫んだ瞬間、地面が揺れ、砕ける。

 

『オオオオオオオオオオッ!!』

 

 床を突き破り現れた漆黒の柱。それが何かの脚だと気付いた時には床が崩れる。階層無視の物理攻撃。深層でも起きないその現象は、間違いなく『異常事態』(イレギュラー)

 

「『リリ』っ! こっちのリリを!」

「はい!」

 

 この中で唯一のLv.1のリリを守るように本人同士仲良く話していたため近くにいた『リリ』に命じる『ベル』。言われるまでもなく『リリ』は動いていた。

 地面から飛び出てきた柱。否、脚。

 全体の大きさは『階層主』(ゴライアス)をゆうに凌ぐだろう。

 

「───【祖父の雷よ】(ブ ロ ン テ)

 

 『戦争遊戯』(ウォーゲーム)でアイズに使用した殺さぬように手加減した一撃でも、異端児(ゼノス)達に行った付与(エンチャント)でもない───本気の一撃。一度右腕に付与された雷が、振り下ろすと同時に轟雷となって崩れた床の瓦礫の奥から顔を覗かせようとして巨大な影に当たる。

 

『オオオアアアアアアアッ!?』

 

 文字通り雷神の如き一撃に、影は上ってきたであろう穴へと押し戻される。そもそもこんな巨体が13階層に居るはずがない。もっと下から来たのは明らか。予想よりよほど深い穴に落ちていく影と瓦礫。その瓦礫に巻き込まれぬように降りる一同。

 

「─────?」

 

 アイズは違和感を覚える。あるいは、既視感か───。今の力には何処か懐かしさを感じた。

 『アイズ』は知っている。『レフィーヤ』も過去24階層で『アイズ』の【風】をみた時のことを思い出す。異常な威力の魔法。短文詠唱どころか、無詠唱でこれ。

 これがエルフを超える魔法種族(マジックユーザー)──精霊の力を、大神たる祖父(ゼウス)の力を一切の不純物のなくなった魂で受け止めた『ベル』本来の魔法。

 

(────また、差が開いた)

 

 追い付かれ、追い抜かれた。気付けばLv.6と憧れの『アイズ』や尊敬する『リヴェリア』や『フィン』達に並び、自分にはLv.2差。Lv.4から5になった。でも、それは差を開けられなかった訳じゃない。差はむしろ、開いた。

 

「────っ!」

 

 キュッと杖を握る手に力が篭もる。差が開いた、だからどうした。だったら、もっと速く走れ。一人で無茶をする彼の背に追いつけるように。彼の隣に立てるように。彼と共に戦えるように。

 じんわりと背中のステイタスのスキル一覧の一部が熱を持った。

 

 

 

「全員無事か?」

「おう……」

「たりめぇだろうが………ここは、17階層か?」

 

 つまりあれは四階層をその肉体一つでぶち抜いてきた、ということだろうか?

 瓦礫が重なる場所をにらみつける一同。『リリ』はリリを下ろし離れるように言う。と、瓦礫が吹き飛ぶ。

 

『────ぁ──あぁ───ああああああ!! 貴様、貴様貴様貴様貴様貴様きさまきさまきさまきさまきさきさきさきさきさきさまぁぁぁぁぁっ!!』

「───え? あれは」

「おい、まさか──」

「そんな、何でこんな浅い階層に──」

「え? え? な、なんです………あれ」

 

 どちらの【ロキ・ファミリア】と『ベル』が警戒する中箝口令がしかれその存在を未だ知らなかった『リリ』と此方のリリ、ベルが動揺する。

 そこにいたのは巨大な昆虫。それだけなら珍しいモンスターといえたかもしれない。その頭頂部から人型が生えて、人の言葉を発していなければ。

 鼻も目もなく口元だけが存在した無貌の人型。口元だけで憤慨していると解るほど歯を剥き出しにギリギリやかましく歯ぎしりの音を立てる。

 

「────『精霊の分身』(デミ・スピリット)………なの?」

「いや、違うな……」

 

 アイズの呟きに『ベル』が否定する。それをすんなり納得するアイズ二人。【血】が、少しも反応しない。あれは精霊ではないのだと、【母の血】が教えてくれる。むしろ、反応したのは───と、『ベル』を見るアイズ。

 『ベル』は忌々しげな、それでも会いたかったというような獰猛な笑みを見せる。

 

「あれは、俺を此方に送った神……いや、もはや神とすら呼べない『神堕ち』(かみおち)だな……」

 

 かみおち? と首を傾げるベル。あれが、神? とてもそうは見えない。

 ふとLv.2になったばかりの時、出会った一人の女神と、その女神に依頼されたモンスターの討伐を思い出す。()()とも違うような気がする。

 

「………つまりあれが、『ベル』を苦しめてたってこと?」

 

 と、『ティオナ』が尋ねる。

 

「好き勝手やっておいて姿を見せず、いざ干渉されそうになったら逃げ出そうとしてたっつー雑魚か……」

 

 『ベート』はジロリと睨みつける。

 

「『ベル』を乗っ取ろうとした挙げ句……『アイズ』さんも一時的に乗っ取った………」

 

 『レフィーヤ』が杖を強く握りしめる。

 

「……………」

 

 『アイズ』は無言で《デスペレート》を構える。

 

「そのくせ、逆らったら逆上したんでしたっけ?」

 

 『リリ』は目だけは笑っていない笑みを浮かべた。

 

「殺す」

「「「異議なし」」」

 

 バチン! と『ベル』の周囲で紫電が弾け、その言葉に『ロキ・ファミリア』一同は同意した。




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アルテミス様とフィルビスをどうしよう

  • アルテミス様だけ救おう
  • フィルヴィスだけ救おう
  • どちらも救おう
  • どちらも救ってフラグを立てよう

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