ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
リリは今日も渡されたウルガをオークに向かって振るう。ティオナは何故か完全に応援に回っており、ベルはベルでモンスターを狩っている。
「リリ、何でこんなことしてるんでしょう………」
「凄いねサポーターちゃん。ステイタスすっごく上がったんじゃない?」
流石第一級冒険者の武器で、しかも重量で叩き切ることを目的にした武器。刃こぼれ一つなく、オークなどあっさり切り裂くことが出来る。そんなウルガを渡した本人はニコニコ笑みを浮かべて聞いてくる。
「あー、その………リリのファミリアは…」
「【ソーマ・ファミリア】は更新、脱退に金がかかるんだよ。オマケに予約制で、予約したとバレると金を持っていると判断されて狙われることもあるらしい」
リリが言いよどんでいるとベルが戻ってきた。魔法を精緻に操る練習だとかでその周囲には一定間隔で浮かぶ鉄の玉が。数は4。
「最初は10だったから、ベルまた失敗したんだ」
「………………」
この少女は、どうしてこう何も考えずにズケズケ言うのだろうか?まあ、馬鹿なんだろう。
「でもそっかー。【ソーマ・ファミリア】って大変なんだねぇ。確かに換金額で言い合ってるの良く聞くけど」
「ていうかベル様良く知ってましたね」
「ああ、この前質問に何でも答えてくれる【ソーマ・ファミリア】の団員にあってな」
「なーんだ。ちゃんと良い人もいるんだ」
と、安堵したように言うティオナ。そんなの居たっけ?と首を傾げそうになるリリ。
「あそこの連中は皆ソ……金の亡者ですよ。良い奴なんていません」
「そう?サポーターちゃんは良い子じゃん」
「…………は?」
いきなり何言ってんだこの女、とティオナを見るリリ。どうもおべっかなどではなく本気で言っているようだ。
「ん?いや、だってさ。私やベルが離れて行動してても待っててくれるし、後ろから襲われそうになった時、魔剣使おうとしてくれたでしょ?」
ちなみに後ろから襲ってきたモンスターはティオナの裏拳で粉々に吹き飛んだ。魔剣の存在を知られただけ損だ。まあ、彼等はサポーター風情が生意気だ、などと言って奪おうとしてこなかったが。
「魔剣の無駄遣いしそうになりましたけどね」
「そうそう。魔剣って使える回数が決まってるのに偉いよね!」
「……………」
それは………この二人は良い稼ぎになるからだ。今までのどのパーティーより儲かる。本来の目的を果たさずとも、この二人と暫くいれば目標の金額に届くほど。
そう、だからだ。決して助けたいと思った訳じゃない。
「………ん?」
落ちた鉄の玉を集めながら再び浮かせる練習をしていたベルは不意に一方向を見る。
「どうしたのベル?」
「人の反応。それとモンスターが凄い数で減ってる………高位冒険者達だな」
「へぇ、そう言うのも解るんだ。便利ー」
「いずれはモンスターの動きを阻害できるまで精密に操れるようにするのが目標だな」
「ん? ベルの魔法って雷だよね? 何か関係あるの?」
コテンと首を傾げるティオナ。ベルはどう説明したものかと暫し考えティオナの手に触れる。パチン、と電気が弾けた。
「ひゃん! ………あれ?」
反射的に手を挙げようとしたが何故か下げた。
「人間の体に電気流すと筋肉が動くんだよ。そこを上手く扱えばこういうことも出来る………ちなみに何処にどんな電気流すかはヘスティアと試行錯誤した」
終わった後肩を電気マッサージする条件で。
「でもこれならモンスターそのものを操れるんじゃない?」
「麻痺させることまでなら出来るだろうが、操るとなるとな。学園都市の第一位並の演算力がねーと無理だろ。確かにアルビノだけど」
ボソリと呟くベルにティオナは首を傾げる。まあ、動きを止めたり関節を伸ばさせたり程度なら出来るだろうが。
「………あ、ティオナ、ベル」
「あれ、アイズー!」
と、不意に霧の奥から声をかけられる。見ればそこにいたのはロキ・ファミリアの面々だ。アイズにレフィーヤ、ティオネとリヴェリア。フィンもいる。他の団員はいないから遠征ではなさそうだ。
「どうしてここに?」
「気晴らしに、少し散歩にね」
「ダンジョンを気晴らしに……?」
「おや、君は?」
ポツリと呟いたフィンにリリが呟くと気付かれる。そして、ああと納得言ったように手を叩く。
「君がサポーター君か。聞いているよ、ティオナのウルガを扱えるんだってね」
「………振り回せるだけですよ」
「いや、それでも十分凄いことだよ。えっと、名前はリリルカ・アーデさんだったかな?」
ニコリと女性冒険者に大人気の幼顔を笑顔にして手を伸ばしてくるフィン。取り敢えず失礼に当たらないようその手を握る。
「良かったらこれから、君達も来ないかい?特にベルはこれから先、潜ることになるわけだからね」
「良いけど、どの層までだ?」
「そうだね。今日はリヴィラの街まで行ってみようと思ってる」
「中層か………てことはミノタウロスが居るのか」
「今回は散歩だ。余計な事はしないようにね?」
フィンの言葉にベルは舌打ちをして大人しく従った。
レフィーヤはベルの背中を見つめる。
最初にあったのは酒場。ベートが言っていたミノタウロスにやられながら、逃げるなと文句を言っていた冒険者。初めはどんな怖い顔の人かと思った。きっとベートみたいな顔だろうと。アイズがミノタウロスと互角に戦っていたと言うのを聞いた時は世紀末覇者を想像した。
実際現れたのは自分より一つ下の、兎のような少年だったが。話を聞くとオラリオに訪れる前からモンスター狩りや人間を相手に戦ってきたらしい。しかも八歳から。
二回目の邂逅は食人花に襲われた時。いきなり腕を掴んできたと思ったら引っ張られるし散々だった。おまけに圧倒的な実力をみせられ自信を失いかけた。
(………そういえばあの時助けて貰ったんだったなぁ)
ふとそんな事を思いベルを見る。ユラユラ揺れる鉄の玉を浮かせながらリヴェリアに指導されていた。
お礼はまだ言ってない。何時かは言うべきと解っているがなかなか言い出せない。そもそも年が近い異性と話したことなどないし………。
「ふむ。雷が磁力に、か………ベルは色々知ってるな」
「爺ちゃんが電気系統のこと詳しかったんで………今思えばあの爺何者だ?明らかに知りすぎてたな」
リヴェリアに誉められたベルは謙遜し祖父のおかげといい、その祖父の言動を思い返し首を傾げる。ティオナは10階層にいる間のベルの戦い方をアイズやフィン達に話しており、ポツンと一人残された。
チラリと横を見るとウルガをティオナに返し、何も持っていないと落ち着かないからとベルにバッグを返して貰ったリリが居た。話したこと無い相手だ。
そのまま無言で歩くしかなかった。
「………………」
嘗て自分が苦戦した相手があっさりやられていく様を見ながら英雄になれる未来は遠そうだと嘆息し、17階層の半ば程まで来て急に足を止めるベル。
──引き返せ。お前には荷が重い。死ぬだけだ──
幻影が呟く。何時もは英雄になれ、困難に立ち向かえとしか言わない幻影が。いや、これは本当に何時もの幻影か?
何時ものは単なる虫の知らせ。故にベル自身、イヤな気配を感じ取ったりする。しかし今は感じない。それがまだ、というだけなのかもしれないが。
「どうしたんだい、ベル?」
「………いや」
何故だろうか?この幻聴の声を真似た何かの声に従うのが、酷く不快だ。苛立ちすら覚える。
「そうかい?じゃあ、行こうか」
リヴィラの街がある18階層には木々が生えており、森が存在した。天を見上げれば光り輝く水晶があり、その周りを青水晶が、柔らかな光を放っていた。
そして、街が見える。
「ここはモンスターが生まれない
「まあ、それでも333回壊滅しているけどね」
リヴェリアの言葉にフィンが付け足す。
「普段ならかさばるドロップアイテムや魔石を売らなきゃいけないんだけどねー」
「ベルのスキルがあるから、今回は必要なさそうだ。君が遠征に加われる日を楽しみにしてるよベル…………ベル?」
ベルが目を細めているのを見てフィンが首を傾げる。
ベルはベルで、あの街を見て漸く不穏な気配を感じた。しかしこれは街が放つ気配であり、何か問題が発生しているだけのような……。
つまりその事件が、ベルを帰そうとする何かにとって都合が良くないのか? あるいは、本当にベルの身を案じているのか。
「……………少し、妙な感覚がした」
「確かに、街の様子が変だな」
ベルの言葉にリヴェリアが肯定する。人の気配が少なすぎるのだ。
「………少し良いか? 何かあったようだが……」
「ん? 何だ、あんた今来たところかい? 殺しだよ。街中で冒険者の死体が出て来たらしい」
【ロキ・ファミリア】の名は流石だな、と現場にあっさり入れたベルは思う。被害者は男性。鍛えられた上半身を晒し、頭部を失った状態で死んでいた。
「しかし
「どう言うことだいベル」
飛び散っていた肉片を指で摘まみ見ていたベルがぽつりと呟くとフィンが尋ねてくる。
「顔の皮膚がない。死んだ後か前に剥がされたのかまでは解んねーけど、ああいうの集めるのいるんだよな。俺も昔盗賊に捕まった時目を抉られかけた」
酒精の強い酒の中にゴロゴロ転がった目玉だらけの部屋を思い出し顔をしかめるベルに、フィンは顎に手を当て尋ねる。
「ベル、男の詳しい死因は解るかな?」
「頸椎骨折。首の骨を凄い力で握られてんな……けど、爪に皮膚とかねーし……抵抗の間も殆どなかったみたいだな」
「抵抗はしたのかい?」
「知らん。出来なかった可能性もあるし、腕力で押し返そうとした可能性もある……」
「どのみち、Lv.4の首をへし折れるなら同様にLv.4、あるいはそれ以上か」
と、ベルの言葉に嘆息するフィン。思ったよりやっかいそうだ。大手のファミリアと抗争にならなければ良いが。
「他に気づいたことは?」
「俺は検査官じゃねーっての………物取りの可能性もあるがバッグパックが荒らされてるのをみるに何か目的の物があったんだろうよ。けど、それを手に入れられなかった」
「どうしてそう思う?」
「一瞬
まあこれは俺の経験則だから完全に当てになるかは解らないが、と付け足すベル。レフィーヤはうぷ、と口を押さえ出て行った。リリも何時の間にかいない。
「俺がやれる情報はここまでだ。謎解きはそっちでやっててくれ」
「ベル、怪しい奴を見かけても………挑むな」
「…………ああ」
フィンに注意され纏っていた剣呑な気配を抑えるベル。リヴェリアとフィンは一度アイズを見てからベルを見てため息を吐いた。注意しなければ挑みに行ったかもしれない。本当に、幼い頃の彼女にそっくりだ。
何か目的の物があった、それはまだ加害者の手に渡っていない、その二つの言葉を聞いたリリは宿からそっと出て先程見かけた冒険者を探す。
いた……。
「冒険者さん冒険者さん」
「ひっ!? え、あ……な、何?」
小麦肌の
「実は私、【ロキ・ファミリア】と共にここに来ましてね。物取りの容疑者から外されてます……アナタは受取人でしょうがそれを持ったままだと犯人と疑われかつ犯人に狙われるはず。どうです、リリと交渉しませんか?」
「こ、交渉……?」
「街を出るまで、或いはダンジョンを出るまでリリが預かります。報酬を頂けるのでしたら、ですが……」
「……………ば、場所……変えよう」
「……………」
この少女は今回の事件の参考人になるだろう。リリがやろうとしているのは、その邪魔……【ロキ・ファミリア】の妨害とも言える行為だ。あの二人は果たしてどんな反応をするか……。
「まあ、良いですけどね」
戦わされたが、お金も多く入ったので目標の額に大きく近づいた。Lv.4が所属しているファミリアに依頼した何者かが用意周到にも運び屋を雇っていた。契約金自体多くあるだろう。それさえ頂ければ、きっと目標の金額に届く。
あんな二人、早く別れてしまおう。これ以上冒険者の真似事なんてしたくない。
「………リリは、役立たずなんですよ。才能があるなんて言わないでください………甘い夢なんて、みせないでください」
「リリちゃん?」
吐き気を抑えられず結局吐いてしまい、恥ずかしくなってその場から逃走したレフィーヤは、見知らぬ冒険者と共に歩くリリを見つけた。何となくその足取りが重そうに見え、気になったレフィーヤは後を追う。
その後を、一人の冒険者が音を立てずに追った。