ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

14 / 114
ファイアボルト

「ベルさん! エリクサーです!」

 

 レフィーヤがベルに駆け寄りエリクサーをかける。ベルの傷が治っていき、ベルは片手でエリクサーを受け取ると残りを飲み込む。

 身体に魔力が満ち、【不屈の闘志】(ベルセルク)の効果により体力も魔力も奪われていたが何とか持ち直した。

 

「アイズさんが来たから、もう安心ですね……」

「んなわけあるか……」

 

 安心して良いはずがない。助けられた、守られた。

 どうしてそれで安心できようか。ベルは悔しくて恥ずかしくて惨めで憤って腸が煮えくり返りそうだ。弱い自分が許せない。英雄を目指すことすら烏滸がましいとすら感じてしまう。

 

「くそ……!」

 

 ギリッと歯噛みするベル。

 どうして自分はああじゃない、どうして自分はここまで弱い。

 

「あ、あの………ベル様……」

「………リリか……」

 

 立ち上がろうとしたベルに声をかける者がいた。リリだ。

 

「………その、助けてもらってありがとうございます」

「礼は良い、結局できたのは時間稼ぎだ……」

 

 実際戦っているのはアイズだ。自分のあれは戦いと呼べるのかすら怪しい。

 

「この風……そうか、お前が『アリア』か」

「…………アリア? 爺ちゃんの言ってたあれか?」

「─────」

 

 女の言葉に、ベルは祖父の聞かせてきた英雄譚の一つを思い出し、アイズは目を見開く。何故、と言いたげな顔のアイズ。と、その時だった

 

『───ァァァァァアアアアアアアアッ!!』

 

 不意に聞こえてくる絶叫。布に包まれた球体から聞こえてくるようだ。そして、布が捲れ中の球体が姿を現す。

 

「……何だ、あれ……」

 

 アイズとベルはその球体、液体に包まれた胎児が入った宝玉を見つめる。ギョロリと異様に大きな目がアイズとベルに向けられた。

 

「「───!?」」

 

 ドクン、と二人の心臓が脈打つ。目眩がする中、宝玉を突き破り中の胎児が飛び出し跳躍すると水晶の向こうに消えていく。

 

『オオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 ズルリと水晶の奥から人型の輪郭を持ったモンスターが現れる。直感的に、先程の胎児が何かに寄生して変容させたと理解するアイズとベル。

 

「ええい、全て台無しだ……!」

 

 盛大な舌打ちをしてその場から離脱する赤毛の女。人型に膨れ上がったモンスターはアイズ達を追ってくる。ベルは舌打ちしてリリを抱えると走り出す。

 一方、胎児に寄生され変異したモンスターは食人花を食いながら追ってくる。何体ものモンスターが折り重なり繋がっていき、羽化するように体皮を突き破り女体のような姿を現す。

 

「あれは、50階層の……?」

「知ってるのかアイズ」

「うん、似てる………けど」

 

 女体のような上半身と蛸のように変容した食人花の束。風に乗り疾走するアイズと磁気で滑るベルを狙う。魔力に反応しているのだろう。

 

「そりゃあ───!」

『オオオオオオオオオオオオ!?』

 

 と、アイズ達に向かって伸ばされていた食人花の首がやってきたティオナによって切り落とされる。流石本来の持ち主、振るう速度も切断面の滑らかさもリリとは大違いだ。

 

「いったあー!?」

 

 が、食人花は気にせずティオナを跳ね飛ばす。とっさにウルガの極厚の刀身を盾にしたのでそれほどダメージは負っていないが。

 

「ありゃもう脚の一本だ、本体を狙え!」

「先に言ってよ! って、ベル血だらけ!?」

 

 ベルの言葉に文句を言ってくるティオナは、傷こそ治ったものの血の跡が彼方此方に残ったベルを見て目を見開く。

 

「ベル、【嫉妬の龍】(レヴィアタン)のステイタス簒奪は、調節できるかい?」

「まだ数回しか使ってない。やるとしたらぶっつけ本番だ」

「………そうか、なら援護を頼む」

「無茶を言ってくれる」

 

 立ち止まりリリを下ろすと、オラリオの外で集めていた武器全てを取り出し、そのうち一つを磁力を使い高速で放った。それは食人花を破壊することは叶わずとも弾くことには成功した。

 

「こんな感じで良いか?」

「十分だよ」

 

 と、フィンは飛び出す。ティオナとティオネも飛び出していった。アイズもそれに続こうとするが、赤毛の女が邪魔をする。

 

「お前の相手は私だ。このままただでは帰れん……付き合ってもらうぞ」

「……!」

 

 赤毛の女とアイズは睨み合い剣戟を交わしどこかに行ってしまう。ティオナが叫ぶ中触手が迫り、高速で飛来した剣が己を砕きながら触手を弾いた。

 

「わっと、ありがとうベル!」

「どういたしまして──と!?」

 

 魔力を探知し迫ってくる触手に再び鉄製の武器を放つベル。弾かれた触手をフィン達が切り裂いていく。

 

【刺し穿て】(エルトール)!」

『──────!?』

 

 ガガガガガッ!!と横向きの雨のように向かってくる刀剣の嵐に漸く動きを止める女体型。知能があるのか、他の魔力を無視してベルにのみ触手を伸ばしてくる。が、それは悪手。

 

「おとりは必要なかったか……」

『!?』

 

 鉄の雨音の中、詠唱を完成させていたリヴェリアが魔法を放った。ベルが魔力を解くとティオナが彼を抱えて跳び、本能か反射か触手がリヴェリアに向かってしまう。が、遅い。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 炎の柱が刀剣の豪雨に代わり女体型に襲いかかる。

 紅蓮の魔力は花部を飲み込み、断たれた足、切り裂かれていた体皮も炎に包まれていく。

 

「たたみかけさせてもらおうか」

「お供します、団長!」

「──せぇーのっ!!」

 

 紅蓮の柱の乱立が収まると同時にフィン達が迫り、幾つもの強力な攻撃を放つ。食人花の足が何本も上半身から切り離され、その体皮が炎ごと弾け飛ぶ。

 

『アァァァァァァァァァァッ!?』

 

 悲鳴と共にのけぞった女体型は、重心を後方へと傾けると極彩色の上半身を下半身から切り離し湖に逃げる。

 

「ベル、後は任せてくれ!」

「っ! あ、あ……」

 

 ギリッと悔しそうな顔をするベルにフィンはふっと笑う。

 

「下を向かず、上を向き続ける気概があるなら追い付けるさ……」

 

 そう言って女体型の後を追うフィン達。ベルは振り返りリリを見る。

 

「………リリ」

「は、はい!?」

「金は払う。魔剣を、くれ……」

「魔剣を?」

「単なる意地だ。せめて、一矢報いたい………」

 

 

 

 アイズは目の前の女と剣戟を交わす。その表情は苦しげだ。スペックも技量も、全て向こうが上。

 

「先程の男よりはマシだが、その程度だな……」

「………ベルに何をした」

「手を切り落とし胸を切ってやっただけだ。すぐ治ったがな────ッ!!」

「─────!!」

 

 轟ッ!と風の勢いが増す。今度は女が顔を歪めるほどの暴風に押し飛ばされそうになるも、何とか踏みとどまり歯をむき出しに笑う。

 

「何だ『アリア』、あれに懸想でもしていたか?」

「そんなんじゃ、ない……!」

「まあどちらでも良い。終わらせる」

 

 ドン!と地面が砕けるほどの踏み込みでアイズを押し飛ばす女。そのまま追撃を加えようとするが、飛来してきた刀剣を弾くために足が止まる。振り返ると、再び紋様を浮かべ黒紫のオーラを纏ったベルの姿が。

 

「ッチ、また貴様か。今は『アリア』だ……いずれ相手してやる、貴様は引っ込んでいろ!」

「ベル──!」

 

 その両腕を切り落としてやるとベルに向かって駆ける女。アイズが慌てて庇おうとするも、女の方が早く接触する。

 そしてベルは、紅の短剣で迎え撃とうとする。

 

「そんなもので───!」

【轟け】(エルトール)…………」

 

 バチバチと黒い雷が紅のナイフに吸い込まれ、異物を押し込められたそれはひび割れ炎を漏らす。魔剣だ、アイズが察した瞬間ベルは魔剣による刺突を放つ。魔剣の属性は、炎。それがベルの雷と合わさり奇しくもベルはその名を叫ぶ。

 

「ファイアボルトォォォォォッ!!」

「─────!?」

 

 黒い炎雷が放たれ魔剣が砕け散る。その圧倒的な破壊の炎は天井まで届き18階層を不気味な光で包み込む。

 ありったけの魔力をつぎ込んだベルは精神疲弊(マインド・ダウン)を起こし膝を突く。アイズが慌てて駆け寄り肩を貸すと黒炎を見る。

 

「………やった、の?」

「…………いや」

 

 アイズの言葉にベルが舌打ちしながら答える。炎が煽られ、女が現れる。身体の所々が黒く炭化しており、特に右足など完全な黒い固まりになっていた。

 

「───っ、貴様………!」

 

 忌々しげにベルを睨み付ける女は、しかし剣を構えたアイズを見て舌打ちする。

 

「流石に分が悪いか──」

 

 ピュゥと女が口笛を吹くと地面から2体の食人花が現れ、片方に乗り、片方を襲わせてくる女。アイズはすぐさま切り裂いたがその一瞬で女はかなりの距離を移動していた。

 

「逃がさない」

「ッチ!」

 

 バキン!と炭化した右足が砕け散るのも気にせず踏み込み跳ぶ女。アイズが目を見開く中女は崖の向こうへと姿を消した。ややあって水飛沫が上がる音が聞こえた。

 

 

 

「手酷くやられたなレヴィス」

「……………」

 

 全身に激しい火傷を負い、右足を炭化させ砕けた赤毛の女に話しかける者が居た。

 そいつは異様な姿をしていた。モンスターの頭蓋を被った長身の男。何の武器も装備しておらず、白ずくめの格好をしている。

 

「そんな事で彼女を守れるのか?」

「………黙れ、喧しい」

 

 ズブリ、と女の、レヴィスの手が男の胸に沈む。

 

「え? ………は?」

「が、良くきてくれた。丁度治したかったところだ。それに、強さがいる」

「ま、待て……!! 私が居なければ──」

 

 レヴィスの手が抜き取られ、その手には極彩色の魔石が握られていた。男は目を見開いたまま固まりその身体がまるでモンスターの最期の時のように灰になって崩れていく。

 

「…………ッチ」

 

 完全に崩れ去る前に、()()()を生やした頭を殴り砕くレヴィス。握った拳を開き、魔石を口に含むと噛み砕き飲み込む。

 右足に力を込めると炭化した部分が砕け新しい足が生えてくる。

 目を細め『アリア』が呼んでいた少年の名を思い出すレヴィス。

 

「………ベル………ベル! この借りは、必ず返すぞ!」

 

 自分より弱かった。そのくせ、自分の力を奪おうとしてきた白髪の少年を思い返す。

 とるにたらない弱者と判断し、無謀を馬鹿にし、簡単に叩き潰せると油断した結果がこれだ。次は油断しない。侮らず、確実に潰す。

 手足をもいで『彼女』に差し出し食われる様を観賞し、嘲笑してやる。

 レヴィスはそう決めると深い闇の奥へと歩を進めた。




感想お待ちしております
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。