ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
あの後、アイズは強くなりたいと言い出し下層に向かおうとした。が、ベルやリリも居たので二手に分かれ、リリとベル、フィンとティオナが地上に向かい残りが下層に向かっていた。
「………あー、一層上がっただけなのに懐かしく感じます」
「まあ、色々濃い一日だったからね」
ハハハ、と笑うフィンに半眼を向けるリリ。此方としては笑い事ではない。バックパックを壊されるしアイテムは大量に失うし。まあ、ヤケに高く設定されていたリヴィラの街で新しいバックパックを買ってくれたことには感謝するが。
「こんな冒険二度と御免です」
「えー? なれれば楽しいよ。終わった後の達成感とか!」
「まあ、そこだけなら解らなくはないですがリリは達成感を得るために頑張ることすら出来ませんので」
「そんな事ないって。サポーターちゃんウルガ振り回せるし強いよ」
「いや、それはどうだろうね────おっと」
ティオナの言葉にフィンがチラリとリリを見た瞬間、ピキリと壁に亀裂が走る。すぐさま槍を構えるフィンとウルガを構えるティオナ。ベルは無言で亀裂が走った壁を見てリリが顔を青くして距離をとる。
ひび割れた壁は剥がれるように落ち、砕けた壁面から目が覗く。
「ゴライアスか……本当に、今日は色々なことが起こるね」
「ついてないなー。ベル、サポーターちゃん、下がっててね…………ベル?」
リリが愚痴を吐きながらも余裕そうな二人に大丈夫そうだと安堵していると二人の横をベルが通り抜ける。
「【呪われろ呪われろ偽りの英雄。救えもしない無力な力で試練に抗い煉獄へ堕ちろ】」
詠唱を紡ぐとベルの身体を不気味な黒い紋様が包み込む。
「手を出すな」
「え? ちょっ───ベル!?」
それだけ言い残すとベルは壁の中の目の主、壁を突き破り現れた巨人の名はゴライアス。《
ベルはそれに単身で突っ込んでいく。
『ゴアアァァァァァァァッ!!』
無謀にも自身に駆けてくる小さな敵を見て、ゴライアスは叫ぶ。その大声は突風となりルーム中に駆け巡るが白兎の疾走は止まらない。
「
自身に雷を纏わせ、磁場を形成し高速で駆け抜ける。
ゴライアスは唐突な加速に一瞬目を見開くもその巨大な足で踏み潰そうと足を振り下ろす。次の瞬間足に無数の切り傷が刻まれる。
『グウ!?』
浅いが自身が傷つけられたことに驚きを隠せないゴライアスはベルを探し首を左右に振る。パチチチという小さな音が聞こえ、振り向いた瞬間目に向かいナイフが迫る。
『ヴォ!?』
反射的に腕で目を覆い護る。視界が狭まり身体の周りを風が駆け抜けると小さな傷が複数刻まれた。
「凄いな、あれが恩恵を得た武器か………」
フィンはベルの持つ短剣の詳細をロキより聞いていた。
「うはー………ベル速い」
「ですね……」
仕組みはフィンには解らないが、電気を扱う応用で磁気を操り行うという高速移動。フィン達なら追い付けないことはないが、ゴライアスには小さく高速で動く獲物を捕らえることが出来ないでいた。
「団長、どうする?」
手を出すなと言われ取り敢えずリリを連れ距離をとっていた三人だが、ティオナが心配そうに尋ねてきた。相手はゴライアスだ、手を出すなと言われてハイそうですかとは納得できない。
「………ベルは、弱い自分が許せないんだろうね。今手を貸しても、彼を傷つけるだけさ」
「でも──!」
「ベルには
ロキに開示されたスキルは団長であるフィンにもあるスキルを除き全て教えられている。その上で、フィンは大丈夫だと判断する。
「あれは
「それは………そうだけど………」
先程のベルの目。
ゴライアスのみを見ていたあの目。
「………頼ってくれるよね?」
ティオナがポツリと呟き、その呟きを聞いたリリは顔を伏せ、小さく呟く。頼られる可能性があるだけ、マシじゃないかと。
「
ベルが取り出したナイフは、普段のナイフと僅かに異なる細工が施されていた。
柄に嵌め込まれたのは水晶。雷を帯びると震動を始め、刀身がキィィィィン!と不快な音を奏でる。
「らぁ!」
『─────!?』
放たれたナイフはゴライアスの皮膚を易々切り裂く。ベルがそのナイフの柄頭を蹴りつけ深く沈めると、黒紫のオーラがベルの纏う雷に混じり雷を黒く染め上げる。
「
『ガアァァァァァァァァ!!?』
ナイフを避雷針に体内へ侵入し駆け巡る黒雷に叫ぶゴライアス。筋肉が痙攣し、思うように身体が動かせない。ベルはその隙に喉元に接近すると力の限り振り抜く。が──
「……ッチ、まだ浅い……」
血は勢いよく吹き出た。が、それだけ。決して深くない。一見すると血だらけにも見えるが小さな切り傷から溢れているだけだ。決定打に欠ける。
『グオオオォン!』
「───ッ!」
さらに厄介なことに、ゴライアスが対応し始めた。ずっと高速で動いていたから目が慣れてきたのだろう。なら、その目を潰す。
「───ッ! 待て、ベル!」
フィンが叫ぶが僅かに遅い。両腕を振り回し頭部を無防備にしていたゴライアスはニィ、と笑い口を大きく開ける。
『オアアアアァァァァ──────!!!』
「──!?」
ギシリとベルの動きが固まる。
『オアァ!』
「が───!!」
ゴライアスの剛腕がベルを捉える。咄嗟にチャージしていた力を無理矢理解放し眼前で暴発させるベル。後ろに飛ばされた分、幾分かダメージを減らせたがそのまま壁に叩きつけられた。
「……べ、ベル……さ………ベル様ぁ!」
血が大量に流れている。有り得ないほど。おそらく出血死を防ぐために
「だ、団長………」
「ああ、こうなったのは僕の責任だ。彼が強力なスキルを持つからと、過大評価し過ぎた──!」
ベルは確かに強い。二桁に満たない頃から始めた戦闘経験に加え強力なスキルと魔法、さらに応用の幅が異様に広い雷の魔法とそれを使いこなす知識。恐らくLv.3冒険者の下位となら善戦出来るであろう。が、それはベルが対人に特化しているから。
外の世界にもモンスターはいるが、無限に生み出され続けるダンジョン程ではないはずだ。故にベルが相手していたのは半数以上が人間。ダンジョンにすむ生粋の怪物相手にベルは素人とも言える。
「この───!」
ティオナが真っ先に飛び出すとゴライアスは片足を大きく後ろに下げる。上半身を下に、片足を上に掲げ、振り下ろした。
「───!!」
岩盤が砕け岩の津波が迫る。フィンはリリを抱えて跳びティオナは巻き込まれ吹き飛ばされる。ゴライアスはその二人に追撃を行わず壁に叩きつけられたまま動かぬベルに向かって駆け、片足で壁に押し付けるように蹴りつけた。