ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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弱者の意地

 商人もたまに寄り付く程度の辺境の村。ベルは物心つく頃からその村で祖父と共に暮らしていた。

 物心つくというより、気づいたらと言うべきだろう。

 

「良いかベル………強くなって、ハーレムを作れ! お主にはその才能がある、頼むからつくって!」

「黙れ爺。寝ている間に髭剃るぞ」

 

 懇願してくる祖父に対して何時もこんな感じ。いい爺ちゃんではあるのだが如何せん下半身が未だ元気すぎる。この前も商人の妻をナンパしてたのでゴールデンボール蹴って黙らせた。

 

「ぬぅ、何たる反抗期……男なら一度ぐらいハーレムを夢見んのか!?」

「商人のお姉さん達で満足。この前も背中に胸押しつけられたまま他のお姉さん達にもムニムニされた」

「ベルぅぅぅ! 貴様の血の色は何色だぁぁぁぁ!」

 

 とまぁ、こんなやりとりは何時もの事。祖父はベルが冒険者に興味を持つように寝物語に英雄譚を聞かせていた。

 ベルは自分が……自分の肉体が英雄になる才能を持っていると知っているが、そんな事知ったことじゃない。

 

「なあ爺、このアリアって精霊なんだよな? 何で子供産んでんの? 作れないんだろ精霊って。炎上するぞボケ爺」

「黙れ小僧! お前に精霊を犯せるか!」

「割と最低なこと言ってやがるなこの爺」

 

 陰でこっそり脳直結下半神と半ば変態の神扱いしていた。

 

「ベル、覗きに行くぞ。覗きは男のロマンじゃ!」

「もげろ脳直結下半神」

 

 口にしたこともあった。

 

 

 

 そんなスローライフを満喫しているある日、友に誘われ森に探検しに行った。探検と言っても少ない子供たちが必然的に仲良くなり、遊ぶ場所を求めて見つけた村近くの森。何度も遊んだ場所。ちょっと奥に行くぐらいは大丈夫だと思っていた。

 そこで熊に襲われた。唐突だった。見つけた洞窟の中からのそりと現れた熊は友人を吹き飛ばし、ベルは尻餅をつきそれが功を奏し頬の肉を爪で僅かに抉られるだけで済んだ。が、腰が抜けてその場から逃げることすら出来なかった。

 熊が大口を開けベルに迫った時聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「儂の孫に何してくれてんじゃ熊風情が! 食らえ、ケラウノス!」

 

 見覚えのある物干し竿が熊の眉間に文字通り突き刺さった。

 

「大丈夫かベル! ぬ、酷い怪我を………」

 

 ベルを抱きしめ、続いて大怪我をしている友人を見て顔をしかめ大急ぎで村に戻った。

 それ以来、ベルは塞ぎ込んだ。祖父はお前のせいじゃないという。けど、ベル自身はそう思えなかった。

 もし自分が祖父と共に修行していたら、少しは違ったかもしれない。英雄を目指していれば、救えたかもしれない。

 だから決めた。英雄になると。たとえ本物になれなくても一人でも救える力が欲しいと。

 

「………爺ちゃん、戦い方教えてくれ」

 

 

 

 容赦ない修行が始まった。ベル自身望んだことだが本当に容赦しない爺だった。何度も吐いた。が、少しずつ強くなれていると実感できた。そんなベルに祖父が言った言葉がある。

 

「ベルよ、お主は昔よりずっと強くなった。だが、一つ忘れてはならいことがある」

「それは?」

「お主は弱い。その事を忘れるな」

「?」

「どれだけ強くなろうと、どれだけ勝とうと、自分が強いと考えるな。何でも出来ると考えるな。その考えは己を殺す……そして、弱者であることを悲観するな。弱者は、故に強者に食らいつく。弱者にも意地があると教えてやれ。強者を食らえ………そうすれば、何時か頂点に立つのはお前だ、ベル」

 

 

 

 

「────!?」

 

 目を覚ますと壁のように巨大な足が迫ってくる。慌てて避けるベル。大気を振るわせるような轟音が響き壁が砕ける。

 

(──ッ! 走馬灯、今のが走馬灯か──!!)

 

 勝てると確信していた。慢心していた。

 相手はベルよりずっと上の力を持つ化け物だぞ。動きに追いついてこれないだけでどうして勝てると思った!

 改めて自分を見直し罵倒する。

 油断するな、慢心するな、勝てるなどと勘違いするな。お前は弱い、本来なら守られるだけの分際で、格上相手に油断を晒すな。相手は強い。赤毛の女に比べれば弱くとも、お前より強い。

 強いが───勝て、殺せ。

 

『オオオオオオオオオオオ!!!』

 

 ベルを潰したと思ったのか勝利の咆哮を上げるゴライアス。腕を広げ天を仰ぎ、ベルと目が合う。

 

「………【導け】(エルトール)

 

 出し惜しみは無しだ。今ここにいる味方は自分一人。先程のやりとりで、フィン達も救援に向かってくるだろう。それまでに片づけろ。

 ゴライアスが手を伸ばす。瞬間駆け抜ける疾風───否、閃光。

 超速の斬撃がゴライアスの腕を巻き付くように駆け抜け、ゴライアスの腕に先程より深い傷が螺旋状に刻まれる。

 

『オオ!?』

「───ッ! やっぱ、キツいな……」

 

 雷は地上に落ちる時、まず雷雲から地上に降りる光、先駆放電。地上から天雷を迎える先行放電。この二つが合わさり出来たレールに大量の電気が流れる。これが主雷撃、雷となる。

 それの応用。自身を起点に先駆放電を放ち、先に敷いた先行放電と合わせ生まれたレールの上を駆ける超高速移動。

 己が主電撃となりレールの中を駆け抜けるため全身に火傷を負い、その速度故に内臓(中身)がかき混ぜられ激痛を伴う。Lv.が上がればこれも何とかなるのかもしれないが今は痛みも火傷も押し殺し駆け抜ける。

 眼球以外の場所の火傷の修復は後回しだ。寧ろ止血になって丁度良い。内臓や三半規管の揺れを正常化させることを優先する。これも肉体の修復に含まれるのはこの技を試した時に実験済み。

 

『オオオオオオオ!!!』

「アァァァァァァ!!」

 

 この技の難点はあまりの速度にベルの視力が付いていけないこと。そして眼球が焼けるので失明することだろう。

 だが、構うな。移動する位置を決めたら剣を構え飛び出せ。今の自分に追いつける程目の前の怪物は速くない。勝てる要素のみに全てを注ぎ込め。

 

『ガアアアアア!?』

 

 ゴライアスには何が起きているのか全く視認できない。青白い雷光の蛇が自分に巻き付いたと思えば先程と比べ物にならないレベルの傷を負う。彼方此方に切り傷と火傷を負い、時折姿を現すベルに攻撃しようにもゴライアスを見て、レールを敷くほんの一瞬だけ。振るった拳は何もない空間を駆け抜ける。

 青白い雷光は何時しか黒紫の不気味な光と混じり合い、ギギギギギ!と鉄が軋むような音が響き、雷光の蛇は17階層の天井まで飛ぶ。

 天井にヘスティア・ソードを深く突き刺し鍔に脚をかけ天井に立つベル。

 

【迸れ】(エルトール)……」

 

 【英雄義務】(アルゴノゥト)の光がベルの纏う雷光と混じり合い黒雷へと変質する。迸る黒雷に天井が砕けベルが落ちる。

 

『ッ!!ゴアアアァァァァァァァァ!!』

 

 ゴライアスは叫び、脚を曲げベルに向かって跳ぶ。両手を伸ばし、ベルを握り潰そうと迫る。

 

「───ケラウノス」

 

 黒雷がベルの右腕に集まり、一本の黒槍を形作る。

 振り下ろされる黒槍。ゴライアスが最期に叫んだのは死の恐怖による絶叫か、ベルに対する怒りの怒号かは解らない。関係ない。

 轟音が、閃光が全てを飲み込み消し去ったからだ。

 

 

 

 

 世界が白く染まる閃光と爆音に意識を奪われかけたティオナ達はチカチカする視界とガンガンと響く聴覚を徐々に回復させながらそれを見た。

 巨大なクレーターと手足を残して頭と身体を失ったゴライアスの残骸。砕けた魔石と共に地に落ちるドロップアイテムである『ゴライアスの硬皮』と大量の灰、そしてベル。

 

「ベル!」

 

 ティオナは慌てて駆けだしベルに向かって飛ぶ。空中でベルを抱き締め背中から落ちる。

 熱い。全身に火傷を負い、ベルはしかし生きていた。

 

「ベル、大丈夫?」

「……あのデカいのは?」

「もう居ないよ。ベルが倒した」

「…………そうか」

 

 ティオナの言葉にベルは満足そうに言うと意識を手放した。精神疲弊(マインド・ダウン)だ………。

 

「………本当に、階層主を倒したのか」

 

 エリクサーをベルにかけながらベルを見つめるフィン。Lv.1が、階層主を………いくら階位昇華(レベル・ブースト)があるとは言え。

 

「は、はは………凄いな。この子………ウチのファミリアに正式に加入できなかったことが悔やまれるよ」

 

 階層主の単独撃破。それは途轍もない偉業だ。彼が小人族(パルゥム)だったらフィンの夢は大きく前進した事だろう。

 

「ティオナ、早く戻るよ。彼を休ませよう」

「うん……」

 

 そして後日、奇しくも【ロキ・ファミリア】の一人が同様に階層主を単独撃破したという報せが届いた。




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