ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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エルフの説教

「………自室か」

 

 ムクリと体を起こすベル。ポキポキと関節がなる。また二、三日は寝ていたようだ。ガチャリと扉が開き、バシャっと水が零れる音を聞いた。見れば目を見開いているヘスティアがおり、その足下には桶が転がり水たまりが出来、タオルがびしょ濡れになっていた。

 

「ベルくぅぅぅぅん! 起きたんだねぇ!」

 

 ピョーンと飛んでくるヘスティアの片手を掴みクルリと回転させる。ボスッと背中から落ちたヘスティア。キョトンとしている彼女を見下ろし、その頬を指でツツく。ムニムニしている。

 

「夢じゃないな」

「どんな確かめ方!?」

「ヘスティアの気配は覚えている。幾ら夢でも、超越存在(デウスデア)の気配を間違えたりはしねーからな」

「うーん?」

 

 良く解らないけど自分の気配で現実か夢かを判断してくれたらしい。それは素直に嬉しい。

 

「あ、そうだベル君、汗かいてないかい? 何なら僕が拭いてあげるよ!」

「そうか、頼む」

「おうっふ!」

 

 目を光らせ手をワキワキさせるヘスティア。【ロキ・ファミリア】の女子勢が見たらロキみたいと言ったであろうヘスティアの態度を気にせず脱ぎ出すベル。これにはヘスティアの方が動揺した。

 

(いやいや、そもそもベル君のステイタスならずっと更新してたじゃないか。何を今更……)

 

 フルフルと首を横に振りベルの身体に布を近づけるヘスティア。相変わらず傷だらけで、細いながらも筋肉質な身体をしている。と、その時───

 

「ベル君!起きたの!?」

 

 ヘスティアの叫び声でも聞いたのか、ていうか来ていたのかエイナが慌てた顔で扉を開けて叫んだ。上半身裸のベルを見て、あっ…と顔を赤くする。

 

「……………ええと、エッチ?」

「普通逆じゃないかなぁ!?」

 

 

 

 ギルドの職員がファミリアのホームに入って良いのかと思ったら、何でもロキに【ソーマ・ファミリア】について聞きに来たらしい。その上でベルに忠告してきた。が………

 

「ああ、【ソーマ・ファミリア】に関しちゃ知ってるよ。それよりヘスティア、ステイタス更新頼む」

「へ?」

「え? あ、うん……」

 

 あっさり返しエイナがポカンと呆けてヘスティアも流されるように更新を開始する。

 

「ベル君私の話聞いてた!?」

「聞いてた。てか、俺はリリが最初盗みを目的で近付いてきたの気づいてたし………これでも外じゃ犯罪者狩りまくってたんだぜ?」

「え、あの……な、なら何で……!」

「落ち着けエイナ。取り敢えず水でも飲め」

 

 ベルはそういうとベッドの近くに置かれていたコップに水を注ぎエイナに渡す。エイナも大声を出して少し恥ずかしかったのか水を口に含む。

 

「『ベル君(アイズたん)Lv.2(Lv.6)キタァァァァァァァァァッ!!』」

「ぶっ!?」

 

 と、何処からか聞こえるロキの声とヘスティアの声が完全にシンクロしてそのあまりの内容にエイナは口に含んでいた水を吹き出す。ベルに向かって…………。

 

「…………………」

「ああ! ご、ごめんベル君!」

 

 

 

 

「へえ、アイズ一人で階層主に挑んだのか。それも深層の………無茶しすぎじゃねーの?」

「お前が言うな!」

 

 目が覚めたなら丁度良いとアイズと共に正座させられ説教されるベルとアイズ。リヴェリアははぁ、と頭を手を当て押さえる。

 

「リヴェリア、私もう怒られた」

「小言を言っただけだ。だが、お前のように無茶をする奴が現れたとなっては言いたくもなる」

「無茶はしていない。ちょっと命を懸けて全身に火傷を負って内臓が腹の中で揺れまくって脳震盪も何度も起こしかけたけどあのスキルがあるからな」

「ずるい。私も欲しい」

「Lv.6の魔力と体力で? お前、不死者にでもなる気か?」

 

 アイズが羨ましそうに言ってくるので聞き返す。Lv.1のベルでこれだ。Lv.6になったアイズがこのスキルを手に入れたらそれもう殆ど不死に近いだろう。

 

「不死者……?」

「死なないってことだ」

「ほーん。ならベルっちの二つ名は【不死の兎】(アンデラビット)やな」

「止めろ痛々しい」

「そう?」

「うん。無いね」

「ベルっちこれ痛いと思うんか……」

 

 ロキがケラケラ考えた二つ名を嫌そうに拒否するベル。アイズとエイナは痛いと思わないのか首を傾げていた。

 

「せやったら【血染めの兎】(ビー・ラビット)

「神って不変なんだよな? 歯を全部引っこ抜いても生えてくんの?」

「すいません」

「痛々しいのは爺ちゃんだけで十分だ」

「お、なんや? ベルっちの爺ちゃんも何か考えとったの?」

【女神の威光】(ヘラクレス)……あれはないな。うん……」

 

 何故よりによって男色の気のある筋肉モリモリマッチョマンの名を名乗らなくてはならないのか。というか何故女神にヘラを選んだのだろうかあの爺さん。

 

「おい、説教は終わっていないぞ。だいたいお前達は、強くなることに執着しすぎている………」

「すまない母さ………リヴェリア」

「お前まで私を母と呼ぶか」

「母親が居ないんで、たぶんこんな感じかな……って」

「ぬ………」

 

 ベルの言葉に怒りが静まりかける。アイズは何を思ったのかベルの頭を撫でた。

 

「もう一人じゃないよ」

「もともと一人じゃねーよ。爺ちゃんいたし」

「そうだったね」

「って、何を二人で良い雰囲気つくっているんだい!」

 

 と、慌ててヘスティアが二人の間に飛び込んでくる。

 

「よーしよしよし! ベル君、寂しいなら僕に甘えて良いんだよ!」

「以前俺に『一人にしないでくれよ』と寝言を言いながら抱きついてきたお前に? はぁ、仕方ない。甘えさせてやる」

「わぁい! って違う!」

 

 頭を撫でられ笑顔で両手をあげるヘスティアはしかしつっこんだ。

 

「ええっと………ベル君。おふざけはそこまでにして、私が何時も言ってること覚えてる?」

「『冒険者は冒険をしてはならない』」

「そう! それなのにゴライアスと、階層主と単独で戦ったぁ!? 馬鹿なの!」

「あぅ、ごめんなさい……」

「あ、いえヴァレンシュタイン氏に言ったわけでは」

「そうだ。別段反省することはない。冒険者なんだ、Lvをあげるために強敵に挑んで何が悪い」

「そーだそーだ」

 

 二人は二時間ほどエイナとリヴェリアから説教を受けた。

 

 

 

「もう! 団長の意地悪!」

 

 取り敢えず起きたことをフィンに報告しようと団長室に向かうと怒った様子の涙目のティオナが飛び出してきた。入れ違うように中に入るとため息を吐いたフィンが居た。

 

「ん? ああ、ベルか………起きたんだね」

「心配かけたな。で、何があった?」

「【ソーマ・ファミリア】の現状を知ったティオナが、リリルカ君を助けたいと言い出してね。かといって、こういっては何だけど【ソーマ・ファミリア】と敵対する可能性を作ってまで助ける価値はないと思っているよ」

「才能あると思うがね」

「ティオナも同じことを言っていた。で、ベル………君の本音は?」

「武器を振り回せるだけ。武器に救われてるな」

 

 リリのスキルはあくまで物を持ち上げる時の補正。腕力が上がるわけではない。通常の重量装備では上層の小型モンスターならともかく大型モンスターには弾かれて終わる。大双刃(ウルガ)という規格外の重量を持つ武器があって初めて中層で何とかやっていけるのだ。

 

「そう。つまりウルガ級の専用武器を用意しなくちゃいけない………それも、上層のちょっと下に行くためだけに、だ。割に合わない」

「だから断ったのか?」

「重い物がもてる。単純だけどこのスキルが発現する条件はほぼサポーター。言っては悪いけど彼等に身を守るための武器として一級品の専属武器を用意する馬鹿は居ないよ」

 

 確かにその通りだ。が、飛び出てきた際見たティオナの涙と、リリの顔を思い出しはぁ、と息を吐く。

 

「才能なんて後からどうとでもなる。それがステイタスだ」

「確かに。一応は冒険してたんだ、ステイタスは上がっているだろうね。けどそれだけじゃ……」

【縁下力持】(アーテル・アシスト)を持つ主なサポーターは小人族(パルゥム)。というかサポーターの殆どが小人族(パルゥム)だ………もし、彼女がそのスキルを使い強くなったと知れ渡れば」

「サポーターで諦めてしまっている同朋達の道標になる、と? そうだろうね。でもベル、問題はそこじゃない……【ソーマ・ファミリア】はたかがサポーターを逃がさないためだけに一般市民にも手を出す奴らだ。波風を立てないで彼女を引き取る方法が思いつかない限り……」

「あるぞ。ロキとリヴェリア、後はリリ自身の手伝いが必要だけど」

「……………後々厄介なことにならないのかい?」

「なるとしても【ロキ・ファミリア】は知らぬ存ぜぬを通せばいい」

「ロキやリヴェリアが関わるのに?」

「ああ、リヴェリアにはちょっとロキの禁酒をといてもらって、ロキには酒飲みに来て欲しいだけだから」

「………成る程。君、良く性格が悪いって言われるだろ?」

 

 フィンはやれやれと肩をすくめながら笑う。

 

「良いよ。やって……ただ、もし【ロキ・ファミリア】に被害が出れば──」

「ああ、切り捨ててかまわな──」

「僕らも動く。きっと大騒ぎになるから、覚悟しておくんだね」

 

 

 

 

 リリは新しいカモを探してダンジョンの前に佇む。前回の宝玉に関しては結局金にならなかった。あの日、地上に戻ってからベル達とは会っていない。

 

「見つけたぞ」

「え──」

 

 その言葉にビクッと震えて振り返ればそこにいたのはベルだった。ベルは膝を屈めリリと視線を合わせて、言う。

 

「リリ……【ソーマ・ファミリア】から抜けたいか?」

「………はい」

「なら手を貸してやる。代わりに、お前の全てを寄越せ」




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