ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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リリの救済

 ダンジョンの中を走るリリ。

 逃げる時のルートは何通りも用意している。そのうち一つを走っていると、陰から飛び出してきた足に転ばされる。

 

「ようアーデ」

 

 ニヤニヤ笑って現れたのは狸の耳と尾が生えた文字通りの狸オヤジ。

 

「………カヌゥ、さん」

「おう」

 

 カヌゥに続き、取り巻きの二人も現れる。囲まれた。

 リリが逃げ道を探そうとするとカヌゥはその太い指でリリの細い首を掴む。

 

「アーデぇ……お前金ないとか言ってたけど、ネタは上がってるんだぜ?」

「あ、ありません! リリには隠してるお金なんて!」

「は! じゃあその首に下げてる鍵は何だよ? ノームの貸金庫の鍵だろ?」

「そ、それは……!」

 

 ブチリと紐をちぎり首に下げられていた鍵を奪うカヌゥ。リリを地面におろし、残りの二人が持っていた荷物を放る。ピクピク動いているから何か生き物が入っているのだろう

 リリは鍵を取り返そうと手を伸ばし、カヌゥは鬱陶しげに蹴ろうとして、

 

「それは………()()()()()()()──」

「────あ?」

 

 リリが笑う。疾風が駆け抜けカヌゥの足が消える。ボトリと音が鳴れば、そこに落ちているのはカヌゥの足だった。

 

「な、あ………あぁぁぁ!?」

「喚くな。すぐに繋げてエリクサーかければ治る」

 

 そう言って何時の間にか現れたのか白い髪の赤目の男はリリを抱え、カヌゥの手から鍵を奪う。

 

「こ、このやろう!」

「くたばれ!」

「…………まあ、比べるまでもなく遅いな」

 

 男達が振るった剣は鉄板仕込みの靴による蹴りで砕かれる。呆然としていると片方の男の首筋に肘が、もう一人の男の腹に膝がめり込みカハッと息を吐き横たわる。

 

「遅いですよベル様。もっと早く来てください」

「文句はさっさと鍵を奪わなかったこの狸に言え……」

 

 拗ねたように言うリリにベルが淡々と返すと冗談です、とベルの首に手を回す。

 

「さて、ダンジョンで人の持ち物盗ろうとしたんだ、何されようと文句はねーな?」

 

 ベルはそう言うと動いている袋を見てから、リリを抱えたまま歩き出す。

 

「お、おい待て! 待ってくれこのままじゃ───」

【打ち砕け】(エルトール)

 

 ガガ!と雷が袋を中身ごと焼き払う。

 

「ベル様、あの袋結局何だったんですか?」

「気にするな。自分のケツも拭けない冒険者の尻拭いをしてやっただけだ」

 

 ベルはそう言ってその場から去った。

 

 

 

 

 その日の夜。【ソーマ・ファミリア】の門が吹っ飛んだ。

 

「げほ、げほ………ベルっちやりすぎやで……」

「魔法以外だと威力が解りにくいんだよこれ」

 

 咳き込み抗議をするのは糸目で露出度の多い服を着た美女。冒険者なら彼女を知らない者は居ない。

 

「ろ、ロキ!? 【ロキ・ファミリア】の襲撃か!?」 

「ソーマー。おるー? 酒飲みに来たでー」

「隣の馬鹿はほっといてくれ。今回の件には関係ない」

 

 と、神に対してあんまりな態度をとる少年。と、そこへ眼鏡をかけた男がやってきた。

 

「何事だ?」

「お前んとこの団員が、俺から大金を奪おうとした。俺の主神はこれを侮辱行為と受け取ったので文句を言いに来たんだよ」

「それより酒~」

 

 男の名はザニス。【ソーマ・ファミリア】の支配者にして団長である。

 

「………ソーマ様」

「嘘を吐いては居ない………」

 

 その男と共にやってきたのは【ソーマ・ファミリア】の主神ソーマ。ベルを見て、嘘を吐いていないと伝えるとザニスはチッと舌打ちした。

 何処の馬鹿かは知らないが、余計なことをしてくれる。

 

「そいつ等は本当に【ソーマ・ファミリア】か?」

「ああ、カヌゥとかいう狸オヤジだ。キラーアント使って殺人を行おうとしてたんでぶっ飛ばした。運が良ければ助かってるんじゃねーか?」

 

 ソーマは無反応。つまり嘘はない。

 

「それで、我々に何を要求する気だ?」

「おう、ひとまず酒や! 酒持ってこーい!」

「いい加減頭引っこ抜くぞロキ。ちょっと黙ってろ」

「いや、構わない………持ってきてやれ」

 

 と、市販のソーマを持ってこさせる。ロキはうほほーいと喜んでいるが団員の少年の表情は変わらない。

 

「此方が要求するのはリリルカ・アーデの脱退許可だ」

「………何? それだけ、か……」

「ああ。彼奴、俺が世話になっている【ロキ・ファミリア】の団長の嫁候補かもしれないしな」

「……………」

 

 再びソーマを見る。これも嘘ではない。

 ザニスは記憶を探る。リリルカ・アーデと言えば底辺サポーターの小人族(パルゥム)だ。最近は更新する金がないのかファミリア本拠にも現れなかった構成員。

 別段抜け出されても問題ないが、抜けるなら本来の手はず通りの金が手には入らないのは気に入らない。

 

「なら脱退金も払ってはくれまいか?」

「お前、どの立場でモノを言ってる」

「「「───!」」」

 

 ビリビリと空気が震える。思わず武器に手をかける数名の団員達は皆顔を青くしている。

 

「やめいベルっち。殺気を収めんかい………」

「………ふん」

「すまんなー。ベルっちはオラリオくる前ずっーと傭兵やっとったから人ビビらせるん得意なんよ」

「余計なことを言うなロキ。それで、返事は?」

「あ、ああ………それより君も飲んだらどうだ?」

 

 と、ベルに新しく注いだ酒を渡すザニス。ベルが口を近づけ、今まさに含もうとした瞬間、ザニスの口が歪む。

 

「ッ! ベルっち!」

「…………」

「それで、脱退金の事だが」

「払わん。良いからさっさとリリを寄越せ」

「なに!?」

「あり?」

 

 ベルの言葉にザニスが椅子から立ち上がりロキは首を傾げる。

 

「ベルっち平気なん? それ、完成した神酒(ソーマ)やで?」

「精神に異常が出るものなら効かない」

「あー………あったなそんな発展アビリティ」

「────ッ!」

「さて、もう一度言う。とっととリリルカ・アーデを寄越せってんだよ」

 

 再び放たれる殺気。これ以上ごねるなら実力行使に訴えるという脅しに、ザニスはギリッと歯軋りした。

 

「………解った。連れていけ」

「ああ」

 

 

 

「いやーやるやんベルっち。神を騙すなんてなー」

「人聞きの悪いことを言うなよロキ。俺はリリから全財産を貰っているから、狸どもが何を盗んでたところでリリに()()()()()何かを奪っただけで訴えられるし、ヘスティアが怒っていたのは本当だ」

「せやねー。んでリリちゃんは小人族(パルゥム)やからフィンの嫁さん候補ではあるしなぁ」

 

 クククと笑うロキ。ティオネ辺りが来ていたら暴れ回っていたことだろう。

 

「それにウチは酒飲みに来ただけ。たまたま傘下の子供が文句を言ってる現場を目撃しても知らんしなー………かといってドチビ相手からじゃせびれるもんもせびれん。何せ借金抱えとる神やし」

 

 現状ヘスティアの財布はロキに握られていると言っても良い。何を言われようと払えないモノは払えないし、そもそも文句を言えば【ソーマ・ファミリア】の団員による盗みがバレ罰則をもらうことになる。

 

「まあエイナが動いてるみたいだしどの道何らかの罰則は受けるだろうが………それよりこっちだな」

 

 そう言ってベルが取り出したのは羊皮紙の束。

 

「なんやそれ?」

「リリの契約書。俺の場合リリから誘ってきたが、普通ガキ装ってるリリとチームを組む奴が何人もいるはずがない。守らなきゃいけねー手間が増えるしな。んで、ちょっと調べてみたらギルドを通して募集をかけてたんだよ。大方リリを見て予定の金払うのが馬鹿らしくなったんだろ」

「予定?」

「最低限の分け前について書かれてる。ギルドはそういうとこしっかりして欲しいだろうからな……で、これが果たされてないと当然罰則を受けるのは確約を反故にした冒険者達。盗まれた魔石やアイテムは賠償金扱いに出来る」

「………どーやって手に入れたんそれ」

「ちょっとギルドの男慣れしてなさそうな子や、出会いを欲しがってそうな大人の女性とお茶しただけだ」

「悪女………や、この場合は悪ショタ? ま、これでリリちゃんに手出しできる奴はおらんゆーことやな」

「後は【ロキ・ファミリア】に所属させれば完璧だな」

 

 【ヘスティア・ファミリア】より【ロキ・ファミリア】に正式所属させておけば下手なことは出来ない。もちろん条件に重量装備に頼らず10層のモンスターを倒せるようにすることと付け足されたが、約束は守る。

 

「ほな帰ろかベルっち」

「ああ……」

 

 その時だった。

 チリッ、と背中に熱が走る。

 

──約束は果たされた。そら、褒美をやろう──

 

「───!?が」

「ベルっち!?」

 

 その場でうずくまり倒れるベル。ロキが慌てて近づき背中の熱に気づく。

 

(なんやこれ、ステイタスに干渉しとる……!?)

 

 あり得ない。神の授けた恩恵に、触れずに干渉するなど。

 いや、そもそも此方の干渉を払いのける相手だぞ、不可能を可能にするなど容易いのかもしれない。

 

「くそ、これ……どないすれば……」

 

 こんな事ならヘスティアを連れてくるべきだった。現状ベルのステイタスに干渉できる唯一の存在は彼女だけ。

 

「………いや、くそ……恨むなよドチビ!」

 

 ロキは親指に針を突き刺し、血を流す。その血をベルの背中に塗りつけた。

 

「────()()()()()

『─────!?』

 

 ベルのステイタスに干渉し、同様に干渉しようとしてきている気配を探知する。ロキに見られたことに気づいたのか動揺するように引き下がる気配。逃がす気はない。追って、居場所を見つける。

 

「────あぐぅ!?」

 

 が、()()()を越えた瞬間、気配を見失い頭痛が襲う。

 

「………なんや、今の……」

 

 頭痛と同時に、ロキは何かを見た。見えたのは、バベルに匹敵する摩天楼の群に、オラリオに負けぬ量の人、走る鉄の箱に空を飛ぶ鉄の鳥、様々な国の景色が見えた。そしてそこにはヒューマンしか居なかった。

 

()()が住んどる国、か?」

 

 いや、違う。ロキは確かに多くの国を見た。あれは明らかに『世界』だ。

 

「外の神からの干渉、やと? 居る可能性はあるとされとったが………つーか何やねんこの頭痛」

 

 ベルの干渉は事前に防げたがベルは気絶して、自分は酷い頭痛で意識を失いそうだ。

 

「……しゃーない、今夜帰るの諦めるか」

 

 ロキは近くに開いてる宿が無いか探すためベルを抱えて歩き出した。

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