ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

2 / 114
黒雷の少年

 今日も今日とてモンスターを狩るベル。場所は七階層。新人の冒険者が訪れて良い場所では無い。が、ベルはそこにいた。

 ステイタスの伸びしろが落ちてきた。寧ろ今までが異常だっただけだとヘスティアは言うがベルは早く、もっと早く強くなりたかった。

 強くなるためには経験を積まなくてはならない。雑魚をプチプチ潰したところで、ゲームと違いレベルアップは出来ない。故にベルは下に向かう。

 強くなれ、全てを救えと幻影のベル・クラネルが囁くのだ。きっとこれは自分が勝手に見ている虚像だ。しかしこの声は鳴り止まない。強くならないと、常に耳元で囁き続ける。

 

「────黙れ。強くなれば良いんだろ、救えばいいんだろ………解ってるから、静かにしろ」

 

──来るよ──

 

「……あ?」

 

 普段は決して言ってこない単語。だが訝しみながらも短剣を抜き構えるベル。これはあくまで幻影なので、所謂ベルの虫の報せを言葉にするだけだ。これにかなり救われている。

 

「───ッ!!」

 

 大きな気配を感じて反射的に投擲用のナイフと近接用のナイフを構える。現れたのは、牛頭人身の巨大な怪物ミノタウロス。

ミノタウロス………この身体の本来の持ち主、主人公(ベル・クラネル)がレベル1の時点で倒した敵。

 

「オオオオオオオオオ!!」

 

 全身の毛が逆立つ。肌が粟立つ。初めて感じる濃密な恐怖。外のモンスターや盗賊とは比較にならない存在がそこに居た。

 

「グオォォォ!」

「ッ!チィ!」

 

 迫ってきた拳。人の命を容易く奪うそれに対して、ベルは受け止めることを諦め柄尻でミノタウロスの手首を叩きそらさせる。地面を砕いたミノタウロスの腕にナイフを振り下ろす。

 

「───っそだろ、マジか………!」

 

 薄皮と、ほんの僅かな肉が斬れただけ。驚愕しているベルに向かってミノタウロスが反対の拳で殴りかかってくる。ベルは飛び退き距離を取ると姿勢を戻そうとしているミノタウロスに向かって投擲用のナイフを投げる準備をする。

 

【刺し穿て】(エルトール)!」

 

 雷を帯びたナイフは弾かれるように飛びミノタウロスに突き刺さる。が、数ミリから数センチの深さになっただけだ。大してダメージは無さそうだ。

 次に取り出したのはモンスターの爪や牙、鱗を加工した投擲用ナイフ。

 

【刺し穿て】(エルトール)!」

 

 此方は加速させることが出来ないので回転を加え四方から迫らせるように飛ばす。その間にベルは詠唱を開始する。

 

「【呪われろ呪われろ偽りの───】ッチ!」

「ブモォォォォォ!」

 

 詠唱を唱える前にミノタウロスの拳が迫る。忌々しげに舌打ちしたベルは半身になってかわすが肩を拳が掠める。

 

「───!!」

 

 肩の骨がミシミシ悲鳴を上げる。左腕は、折れていないが暫く使い物にならない。

 本当にこれをレベル1で倒したのだとしたら正史のベル・クラネルはとんだ天才だ。だからこそ、ここで越えなくてはならない。せめて並び立たなくてはならない。

 

【打ち砕け】(エルトール)!」

 

 雷を纏ったナイフがミノタウロスの拳とぶつかり合う。バチチィ!と雷が僅かに斬れた傷からミノタウロスの腕を中から焼く。

 

「ブオオォォ!?」

「───ッ!」

 

 右腕は、痛い………が、動く。すぐさま近接用ナイフを放り投げ投擲用ナイフをミノタウロスの左目に向かって投げる。

 ベルは壁を蹴り天井を蹴り再び壁を蹴りながらミノタウロスの背後に回る。死角にはいるように左目側に飛んだのでミノタウロスには消えたように見えただろう。

 空中で掴んだナイフを構え再び詠唱するベル。

 

「【呪われろ呪われろ偽りの英雄。救えもしない無力な力で試練に抗い煉獄に堕ちろ】!」

 

 ベルが、加速する。地を蹴り駆け抜けナイフを振るう。今度は数センチ刺さる。再び振るう。ミノタウロスの胸に赤い線が走った。

 

「グオオォォ!」

「───!」

 

 ミノタウロスがダメージを無視して両手を振り上げ頭上で組むと振り下ろしてくる。後方に飛び退くが爆弾でも爆発したかのように地面が砕け礫が散弾のように飛んでくる。

 

「───ぎぁ」

「オオオオォォ!」

 

 体に突き刺さる礫。目を守るために腕を交差させると隙だらけの腹にミノタウロスの拳がめり込む。

 

「か、え──ごはっ!」

 

 殴られた瞬間、悲鳴すら上げられなかった。壁に当たって漸く肺の中の空気を吐き出すことで声が絞り出せた。

 視界がチカチカと暗転する。身体に刻まれた禍々しい紋様による強化が無ければ今の一撃で死んでいただろう。

 

「俺の、前に………立ちはだかるなぁぁぁぁ!」

 

 ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ!!!

 

 複数の虫が詰まった箱で、虫が身体を摺り合わせる様な不快な音が響きベルの身体を黒紫の光が包み込む。

 

【ぶっ潰せ】(エルトォォォル)!」

「──────!」

 

 ベルが使ったスキルは【英雄義務】(アルゴノゥト)。チャージ時間に対して威力を上げるスキルだ。凡そ三秒のチャージでは大して威力は上がらないが階位昇華(レベル・ブースト)の魔法も加わりその威力は大幅に上昇。

 ナイフを振り下ろすとその動きに合わせるように黒雷がミノタウロスに落ちる。

 

「ガアァァァァァ!?」

「らあぁ!」

 

 雷により動きが止まったミノタウロスに向かってナイフを振り下ろす。ミノタウロスもギリギリ反応して、頭突きをかまして来た。ナイフと角がぶつかり、どちらも砕ける。

 

「…………グフ」

 

 ミノタウロスは笑う。此方にはまだ主武器(メインウェポン)である強靱な肉体が残っている。が、目の前の少年の牙は折られた。

 

「ブオオオオ!!」

「なめ、るな……なめるな怪物がぁぁぁぁ!」

 

 ギチギチギチギチギチギチ!!

 

 ベルは懐から取り出した投擲用ナイフを爪のように構えミノタウロスの拳に横から当てる。拳が逸れる。ナイフに罅が入る。再び振るわれ、逸らされる。ナイフが二本砕け散る。そこで蹴りを放つ。ミノタウロスの向こう脛にナイフが刺さりベルの体が吹き飛ばされる。天井に着地したベルは投擲用ナイフを投げ新たに三本構えると天井を蹴る。

 ミノタウロスが拳をベルに向かって伸ばすとナイフで逸らされ、ベルは勢いそのままミノタウロスの腕の上を回転する。ミノタウロスの腕に小さな傷が足跡のように複数刻まれる。

 

「グ、ブォォ!」

「うるせぇよ」

 

 砕けたナイフを捨て新しいナイフに替えるベル。ギチギチギチと先程から聞こえる音。ベルのチャージが続いている証拠だ。

 

「ブルアァァァァ!!」

「ああぁぁぁぁ!!」

 

 ギチギチギチチチチチ!

 

 拳を逸らす。ナイフが砕ける。捨てる、新しいのを取り出し再び逸らす。拳が振るわれる。逸らす。ナイフが砕ける。

 拳を振るう。逸らされる。ナイフを砕く。新しいナイフが取り出される。拳を振るって、また逸らされる。

 何度も繰り返される同じ動作。両者とも攻めきれない。いや、ベルのナイフが尽きた。

 

「ッ!!オアァァァァァ!」

 

 その時のミノタウロスの叫びは何の意味があったのか。勝利の咆哮か、或いは相手が不利になって漸く勝機を見いだせた自分への叱責か。しかし、それは傲りだ。

 チャージされた黒雷がベルの掌で輝く。

 

「オオオオオ!!!」

【轟け】(エルトォォォォォル)!!!」

 

 ミノタウロスの剛腕と黒雷を纏った拳がぶつかり合う。ミノタウロスの片腕が炭化し砕けベルの右腕が折れる。

 ミノタウロスにはまだ左腕が残っている。ベルは、もう両手とも動かない。

 

「があ!」

「ぐお!?」

 

 ゴン!とベルの頭突きがミノタウロスの顎を打ち上げる。が、それだけ。もはやベルの紋様も消えステイタスも元に戻っている。ベルの負けだ。ミノタウロスはベルの頭を掴み上げ、投げつけた。

 

「ぐあ!」

「きゃ!」

 

 投げつけられたベルを受け止めたのは金髪の少女。ミノタウロスは背を向け逃げ出す。理解したのだ。この少女は自分と互角に渡り合った少年より高みにいると。

 

「待てごらぁ!逃げんな、俺以外を見て、逃げでんじゃねぇぇぇ!!」

「……………」

「俺を見ろ、てめぇの敵はベル・クラネル()だろうが!」

 

 ミノタウロスは一度だけ自分の腕と片目を奪った少年を一瞥する。そして、やはり止まらず走り出した。

 

 

 

────────────

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは目の前の光景に目を奪われていた。

 上層にいた冒険者が、アイズの所属するロキ・ファミリアの失態で上層へと逃げ出したミノタウロスと戦っていたのだ。

 ミノタウロスは適性レベル2のモンスターだ。上層を彷徨く、それもソロで彷徨く冒険者は大概がLv.1。数人のパーティーならともかく、単身でミノタウロスと渡り合えるはずがない。

 ならばLv.2という事か?しかしあの白い髪、あんな特徴的な冒険者が無名とは思えない。

 やがて両者の拮抗が崩れた。少年がマントの中に隠していたナイフが尽きたのだ。助けなくては、駆け出そうとしたアイズが見たのは禍々しい黒雷。

 黒雷を纏った拳はミノタウロスの片腕を砕いた。が、そこまで。少年は肩で浅い呼吸を繰り返しもはや動けない。ミノタウロスが少年の頭を掴み、アイズがその腕を斬ろうとした瞬間少年が自分に向かって飛んできた。いや、投げ飛ばされたと言うべきか。

 ミノタウロスはアイズを見ると逃げ出した。追うべきか、しかしこの傷だらけの少年を置いていくわけには───

 

「待てごらぁ!逃げんな、俺以外を見て、逃げでんじゃねぇぇぇ!!」

 

 と、少年はフラフラと身を起こそうとして叫ぶ。その目に映るのは闘志。これだけ傷つきながらも少年はまだ諦めていない。

 

「俺を見ろ、てめぇの敵は俺だろうが!」

 

 少年はミノタウロスが自分ではなく突然現れた知らぬ少女を恐れ逃げたのを察したのか怒り心頭にほえる。その言葉が通じたのかは知らないが、ミノタウロスは確かに少年を見てから去っていった。

 

「待ち、やがれ……俺は、お前に………ミノタウロスに………」

 

 そこまで言って少年は気絶した。傷もそうだが精神枯渇(マインド・ゼロ)にもなっているのだろう。アイズは懐から取り出したポーションとエリクサーを飲ませる。呼吸は、とりあえず落ち着いた。

 少年をおぶると上に向かって歩く。勝手に先に地上に戻ったら怒られるだろうか?しかし今回は緊急事態だ。放置するわけにも行かない。

 

 

 

 

「ねぇ……」

「はい?あ………アイズ・ヴァレンシュタインさん!?」

 

 地上に出た時一番近くにいた黒髪眼鏡の職員に話しかける。アイズは有名人だ。直ぐに視線が集まるが気にせず背負っていた少年を渡す。

 

「この子お願い」

「え?あ、はい………って、ベル君!?」

「………知ってるの?」

「知っているというか、担当なので」

「…………そう」

 

 ならこの子の事を少し知ってるかも、と少し期待する。

 

「この子の名前は?」

「ベル・クラネルです。それにしても、何でこんなに……」

「ミノタウロスと戦ってた。私達のせい、ごめんなさい」

 

 と、アイズが謝罪してから事情を説明する。職員、エイナと言うらしい女性ははぁ、と頭を押さえた。

 

「ベル君ったら七階層まで?全く……それにミノタウロスなんて、直ぐに逃げるべきなのに。ベル君を助けてくれてありがとうございます」

「………その子、冒険者になって何年?」

 

 ふと気になった。ある程度冒険者をしていれば、七階層までなら怒られることでもないだろう。なのにエイナは新人冒険者が無茶をした時のような反応をしていた。自分も過去、担当の職員にされたことがあるので直ぐわかる。

 

「へ?あ、えっと……半月ですけど」

「…………びっくり」

 

 半月で七階層に来て、更にミノタウロスと渡り合う。しかも単身で。

 

「………ベル………ベル・クラネル………」

 

 覚えておこう。アイズはエイナの腕の中で眠るベルの頭を撫でてその場から去った。




感想キボンヌ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。