ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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二つ名

「………ランクアップか、予想以上の成果だね」

 

 リリのステイタスが書かれた羊皮紙を受け取ったフィンは笑みを浮かべて言う。

 

「あれ、でもリリちゃん力の伸びしろが低いね」

 

 と、同様に見せてもらっているティオナが不思議そうに首を傾げた。重い武器を使っているならもう少し、というかこれが一番上がりそうだが。

 

「スキルで持てる武器を叩きつけてただけだからね。力はそれほど上がらなかったんだろう」

 

 一定以上の物をもてるスキルで、重装備を振り回していた。とはいえインパクトの瞬間に脱力し勢いと武器の重さに任せた戦い方なので力の伸び率はいまいちになる。

 

「他のステイタスの伸び幅は、まあ君達が中層一歩手前まで連れて行ったのと、僕等と共に中層のリヴィラまで行きあの事件に巻き込まれてしまった事と……まあ、後一つの要因かな」

 

 クスリと含みを持たせて笑うフィンにティオナが首を傾げる。

 

「中層一歩手前ってまずかったか?」

「時折中層のモンスターも迷い込むわけだからね。そりゃ不味いさ」

「ねーねー団長、もう一つの要因って?」

「それは、僕から言ってもいいのかな?」

 

 と、意味深にリリを見るフィン。リリは顔をしかめて半眼でフィンを睨む。

 

「イヤな予感がするので駄目です」

「私聞きたーい!」

経験値(エクセリア)は本人にとって特別な経験をするほど多く手に入る。少なくとも君達と共にダンジョンに潜り武器を手に取り戦い、頼られたのは彼女にとって特別な経験だったという事さ」

「わー! 何言ってるんですかこのショタジジィ!」

 

 顔を真っ赤にしてフィンに掴みかかろうとするリリだが流石Lv.6、スルスルと紙一重で躱す。ついでに羞恥で顔を赤くするリリにティオナが抱きつき追うことが出来なくなった。

 

「そんな風に考えてくれたんだねリリちゃん!」

「ち、違──ッ! 今のはこのオッサンが勝手に! ていうか締まる絞まる!」

 

 如何に力補正のスキルがあるとは言えLv.2ではLv.5のティオナはふりほどけない。ギリギリと絞まる腕から必死に逃げようとするリリを微笑ましそうに見るフィンに純度100%の殺意を向けてやった。

 

「ランクアップも同様さ。きっと、心の何処かで才能なんて無い、少し強くなれればそれで良い、なんて思ってたんじゃないかい? それでも、君はやっぱり強くなりたいと思った。新しいステイタスを見るに、ベルとティオナに追い付きたいと。君は殻を破ったんだ、それが切っ掛けだろうね」

「わあぁぁぁぁ! 黙ってください、黙れ!!」

 

 ジタバタと暴れとうとうティオナから抜け出すと顔を赤くして涙目のリリはキッとフィンを睨みつける。

 

「これで勝ったと思わないことですね! 覚えていなさい!」

 

 そのままピューともの凄い速度で駆けていった。あれもスキルの恩恵だろう。

 

「ははは。可愛いなぁ彼女」

「あ、ティオネ」

「!?」

「嘘だよ」

「…………」

「アンタも十分可愛いと思うぜ?」

「嬉しくないなぁ」

 

 

 

 

 ロキとヘスティアは共にある場所に向かって歩く。

 犬猿の仲で有名な彼女達が共に歩き多くの神々はギョッとしているが、二人は無視する。

 

「とうとう来たねこの時が」

「解っとるやろうなドチビ。これはベルっちとリリちゃんの為の……戦争や」

「解ってる。二人のために……」

 

「無難な二つ名を!」

「かっちょ良い二つ名を!」

 

「「はあ!?」」

 

 二人は同時に相手を睨み、周りの神々は「ああ、良かった。何時も通りだ」と安心する。

 

 

 

 

 神々が集まり、ガネーシャが怪物祭(モンスター・フィリア)について謝罪し、ソーマが趣味を禁止されたことを言い渡されたことを報告されたりと色々あったがいよいよ命名式が始まる。

 それはもう酷いモノだった。非道なモノだった。

 無知な下界の民(子供達)は喜ぶが、子供達の(主神)はある者は絶叫し、ある者は力なき己を責め、ある者は名付け親の神を睨んだ。

 ちなみに命名式とはLv.2以上にランクアップした冒険者に二つ名をつけることで、今回決まったのは今のところ『絶†影』(ぜつえい)『美尾爛手』(ビオランテ)『暁の聖竜騎士』(バーニング・ファイティング・ファイター)等々。惨い、余りに惨い仕打ちだ。

 

「ロキんとこの剣姫はまんまとして………お、もう一人改宗してすぐランクアップか……てかこのスキル公開していいのか?」

「本人たっての希望やからな。【縁下力持】(アーテル・アシスト)持っとるサポーターも頑張って欲しいんやと」

「ふむ……この子、重装備を使うのか。萌だな………『バトルアックス』」

「『合法ロリ』」

「『リリカル・マジカル』!」

『小さな巨人』(リトル・ジャイアント)でどうだ!」

「『泥棒猫』!」

「おい、ヘスティアが男とられたらしいぞ! つまり男が居た!」

「「「なにぃ!?」」」

 

 

 

 結局リリルカ・アーデの二つ名は『暴殺者』(ストロング)になった。惨い。

 

「最後はヘスティアんとこか~。は!? ゴライアス単独撃破!?」

「すげーな。げ、ロキと同盟組んでやがるのかロリ巨乳……」

「ちなみに必殺技はケラウノスらしいぜ」

「マジで? ゼウスの爺この場にいたら感激のあまり勧誘するんじゃね?とりあえず白いから『兎吉』(ピョンキチ)

「それ防具の名前につけてる奴居たな……『バニーボーイ』」

「…………こいつ知ってるぞ。ギルドの可愛い子沢山誑してるの見た………『全方位下半身』(ゼウスⅡ)

「「いや、まずいだろ」」

 

 流石に神の名を冠するのは無理だ。と、一人の男が手を挙げる。

 

「ちょっと良いか?」

「お? 居たのかヘルメス」

 

 手を挙げた男神の名はヘルメス。基本的に彼方此方を旅して滅多に帰ってこない神だ。 

 

「なあヘスティア、この子元傭兵じゃないか?」

「し、知ってるのかい!?」

「ああ。外じゃかなり有名な子だぜ。外の神々はみーんな狙ってた。ただ、行き先が不規則で後を追えなかったらしいがな」

「なんだヘルメス、こいつすごいのか?」

「凄いさ。何せ傭兵として働き始めたのは八歳の頃。依頼達成率100%で、どんな怪我をしても治り次第すぐにまた旅にでちまうから『不死身の兎』(アンデラビット)、戦場を常に血に染めることから『血染めの兎』(ビー・ラビット)何て呼ばれてた」

 

 ロキはもうあったんか、と悔しそうな顔をした。

 

「他にも常に黒いボロ布を纏っているが髪や肌が白く目が赤いから『赤目の死神』、『殺戮兎』(ヴォーパル・バニー)『黒い白兎』(ブラックホワイト)何て呼ばれてたな。この中から決めない?」

「ふざけるな、馬鹿野郎! どれも痛々しいんだよぉぉぉ!」

 

 

 

「それで、何か俺に用か?」

 

 神々の話題の中心にいる男、ベルは人気のないダイダロス通りの奥で振り返り追ってきた気配に振り返る。

 

「気づいていたか」

「隠す気無かったろ、アンタ」

 

 現れたのは猪人(ボアズ)の大男。大剣を構えベルを見据える。

 

「手合わせ願おう」

「断る」

 

 ベルはそう言って逃げ出す。ファミリア間の抗争などごめんだし、何より相手は遙かに強い。迷宮のようなダイダロス通りなら地形を把握できるベルに有利───の、ハズだった。

 

「何処へ行く」

「───は?」

 

 気がつけば男は目の前に移動しており、剣を振り下ろす体勢になっていた。

 

「──ッ!【導け】(エルトール)!!」

「ぬ!?」

 

 反射的に超加速を行い建物の上に移動するベル。男は驚愕し()()()()足を見て、直ぐにベルが逃げた建物の屋上に一度のジャンプで移動する。

 

「何だてめぇ!」

 

 足を切り落としたのは偶然ではない。明らかにこの男は慌てて狙いを変えてから斬った。

 

「オッタル……」

「オッタルだと……」

 

 オッタル。それはオラリオでは知らぬ者は居ない。否、その名はオラリオを飛び出し世界に広まっている。

 【猛者】(おうじゃ)オッタル。【フレイヤ・ファミリア】所属のLv.7()。現在のオラリオ最強の存在だ。

 

「それが何で俺を狙う!」

「知る必要のないことだ」

「そうかよ」

 

 ギチギチと軋む音を立てながらベルを黒紫のオーラが包み込み、右足が新しく生えてくる。オッタルは僅かに動揺したが直ぐに目を細めベルを見る。

 建物の中に人の気配がないと解ると黒紫のオーラを足に集め踏み込む。建物が崩れ土煙が舞う。土煙が互いの姿を隠し、ベルは呟く。

 

【導け】(エルトール)

 

 雷速の突き。第一級冒険者の殆どが反応する間もなく貫かれる速度。視線で、殺気で、力の入れ方で、それら全てで事前に察せなくては避けることも出来ないその超高速移動をオッタルは反応し殴った。

 方法は簡単。ベルが敷いた先駆放電のレールの位置を察しそこに拳を振り抜いただけ。言うだけなら簡単だがコンマ数秒にも満たない時間に反応するなど人間業ではない。

 

「ふっ──」

「ぐぅ!」

 

 地面に落ちたベルに向かって大剣を振り下ろす。咄嗟に回避したベルだがその衝撃が爆風となりベルを襲い、更に地面に開いた穴に吸い込まれるように落ちていく。地下空間があったらしい。

 こんな所があったのかと意外そうな顔をするオッタルは遠ざかっていく気配を感じる。あの速度だ。追跡は困難。が、不可能ではない。

 地面を砕くような踏み込みでベルの気配を追うオッタル。ベルもその気配を感じたのか止まることはしないが、いずれ止まる。

 事実数分経ち、止まった。闇になれたオッタルが見たベルの姿は全身に火傷を負い、目は完全に失明していた。

 

「しつこい奴だな」

「恨みたいなら恨め。その権利を否定しない」

「そうかよ」

 

 バチン!と雷が跳ねる。それは闇を照らす青白い光から、ベルの纏っていた黒紫のオーラと混じり合い、圧縮され黒槍を生み出す。

 

「消し飛べ、ケラウノス!」

 

 放たれた黒槍はオッタルの剣とぶつかり合い、その中から多量のエネルギーを感じたオッタルは拮抗するのを止め横に弾く。それは壁を打ち砕きながら進み、轟音が響きわたる。オッタルの背後の壁が膨らみ砕け散り、先程の槍の威力を物語っていた。

 

「……………まともに喰らえば危うかったな」

 

 が、特に恐怖を感じた様子はない。対してベルは気配でオッタルの健在を察し忌々しげに顔を歪め、しかし倒れた。今の一撃に全てをつぎ込んだのだろう。

 

「素晴らしい成長だ」

 

 それだけ言うとエリクサーを持ってベルに近付く。と、その瞬間ベルが跳ね起き首に噛みついてきた。

 

「…………」

「げぁ!?」

 

 殺気はない。敵意も。気絶したまま反応したのだ。が、オッタルの首を噛み千切ることは叶わず腹を膝で蹴られ地上まで吹き飛んでいく。オッタルは僅かに流れた首筋の血を拭うと手足の骨が折れ動けなくなったベルにマジックポーションを飲ませる。

 傷が徐々に回復していき、しかし動ける程じゃないと解ると両手でベルを抱えて歩き出した。

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