ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「じゃあベルさんは遠征に行かなかったんですね」
「まだLv.2だしな。俺の能力が遠征に貢献すると言っても裏を返せば俺一人が居なくなっただけで遠征に支障が出るわけだ。だから、最低でLv.3が参加条件」
「でもなったんですよね、先日」
「ああ……」
リューが酒を注ぎシルがベルの話を聞こうと興味津々と瞳が物語る。
「あの
「チッ………」
「シル、クラネルさんはその事を快く思っていない。余りに口に出すと怒らせてしまう」
「わわ! ご、ごめんなさい……」
と、慌ててベルにすがりつくシル。美女二人を侍らせた席に座るベルに殺気の籠もった視線が飛び交うが完全に無視していた。
「それでクラネルさん。今後の予定は?」
「上層じゃもうステイタス大してあがりそうにねーし。中層に行く」
「そうですか。ならパーティーを組むことをお勧めします」
「パーティーねぇ………今フィンが居ねーからなぁ。同じ時期にランクアップしたのリリだけだし」
既に組まれているパーティーに交ざる場合はフィンかリヴェリアの判断を必要とする。一人増えるだけで連携が崩れるからだ。組んで少しならともかくその連携になれた頃に増えるのは宜しくないという判断だ。
「パーティーをお探しかい
と、そこへニヤニヤした男達がやってきた。ベルに話しかけた割にその視線はシルとリューに向いている。
シルは身を小さくしてリューはギロリと男達を睨みつける。
「仲間が欲しいなら、お前を俺達のパーティに入れてやろうか? 俺達は全員Lv.2だ。『中層』にも行けるぜ。けどその代わり………このえれぇ別嬪なエルフの嬢ちゃんたちを貸してくれよ」
「………あぁ?」
「仲間なら分かち合いだ。なぁ?」
「生憎だな……彼女達は俺の持ち物じゃない。確かに好意は寄せられてるが、だからこそてめーらみたいのに渡すかってんだ。女抱きたきゃ娼婦を買え」
「クラネルさんの言うとおりです。あなた方は彼にふさわしくない」
「おいおい妖精さんよ? 俺らならこんなガキより───」
「おい、気安く人の友人に触れてんじゃねーよ」
先程オッタルの事を話され苛立っていたのに加え、見るからに
ミシリとベルの掴んだ手が男の骨を軋ませる。
「ぐあ、あがあぁ!! は、離せ!」
「て、てめぇ! 調子に乗ってんじゃ──!」
「インチキルーキーが!」
「アーニャ、クロエ」
「「はいにゃー♪」」
ベルが名を呼ぶとアーニャとクロエが息ぴったりな動きで冒険者達を押さえつけた。
「約束にゃ少年。今度デートする時そのお尻を触らせるにゃ」
「………ああ」
「みゃーは美味しいご飯をたくさん食べたいにゃー!」
「…………クラネルさん、何時の間にこの二人を手懐けたのですか?」
「酒場は口が軽くなって色んな情報が集まる場だからな。一人二人情報くれる奴を作っとくのは旅の癖だ……でもシルもリューも口堅そうだし………消去法でこの二人に情報料としてこっそりデートしてやってるうちに言うこと聞いたらご褒美デートするようになってた」
周囲からの殺気が増した。リューが何とも言えない顔でベルを見ていた。
「ベルさん、アナタはシルの伴侶としてもっと自覚を……」
「そうは言われても告られてもなければ了承してもねーし。つーかシルは結局告ってないけど俺で良いのか? きちんと評価されるようになってからはまだしもガキって理由で金をきっちり払われてなかった時期は金のために人妻彼氏持ちとも寝たような男だぞ俺は」
「へ!? あ、いや……そんな告白なんてー!」
シルはそう言って店の奥に引っ込んでいった。
「世界中回っただけあり、苦労していたのですね」
「その分コネは彼方此方にある。ちょっとした領地ぐらいならプレゼントできるぞ?」
「いりませんよ………時にクラネルさん」
「あん?」
「貴方はそうやって恋愛ごととなると昔の女性関係を持ちだしてすぐに距離を取ろうとしますね。幸せになりたいとは思わないのですか?」
「思わねーよ。目に見える範囲で屑を痛めつけたり殺したりして、食い物にされる奴らを救えるだけで幸せだからな」
「それは誰の幸せですか?」
「…………………」
蒼と赤の瞳が互いの内面を見透かそうとするかのように見つめ合い、ベルが視線を逸らした。
「もちろん、ベル・クラネルの幸せだよ」
「………そうですか」
リューは何も言わず追加の酒を注いだ。
バベルの内部に存在する【ヘファイストス・ファミリア】の武具店にやってくるベル。駆け出し達が己の名をあげるために作った安い装備の中で、ベルは目的の物を探して歩き回る。
「ないな……売れたか? あるいはファミリア内で孤立して置かれてないか………」
と、不意に言い合っている声が聞こえた。見ればカウンターで言い合っている赤毛の男がいた。ふむ、と顎に手を当てる。
「おい、あんたがヴェルフ・クロッゾか?」
「あん? 如何にも俺はヴェルフ・クロッゾだが……何だ、アンタも俺に依頼か?」
と、何処か敵意の混じった視線を浴びながらもベルは気にせず言葉を続ける。
「防具を作ってくれ。前のは壊れた」
「……………防具? 魔剣じゃなくて?」
「クロッゾについては旅先で知った。容姿についてもな………が、俺は魔剣にゃ興味ない。俺が求めてるのは防具だ」
「………は、はは………はははは!」
と、突然大笑いし出すヴェルフ。バシバシとベルの背中を叩いてくる。
「防具だったな? あるぜ、ここに丁度な!」
「というわけでダンジョンに行くぞリリ」
「はい? いきなり何がというわけですか?」
「ああ。だからヴェルフが俺の専属鍛冶師になるから発展アビリティの『鍛冶』を手に入れるため中層に向かう」
ヴェルフを【黄昏の館】の前で待たせていたベルは鍛錬所でハルバードを振り回していたリリに声をかける。リリとしても中層へ行きたかったが、ヴェルフとは誰だ?
「【ヘファイストス・ファミリア】の
「まあ………ベル様がそう言うなら……」
「その様付けやめないか? もうサポーターって訳じゃないんだし」
「…………まぁ、それもそうですね。ではいきましょうかベル」
「やってきたぜ11階層!」
と、ヴェルフが叫ぶ。リリとベルは特に興味なさそうだ。ここには何度も来たからだろう。
「ヴェルフ、これから中層に向かうが大丈夫か?」
「おう。しかし中層か~……主神はなんて?」
「ロキもヘスティアも許可をくれた。ただ、日帰りだとよ」
「普通そうですよ。ダンジョンの中で単独で寝るベルが変なんですから」
リリは呆れたようにハルバードで肩をトントンと叩いた。
「ヴェルフこそ平気か? 主神の許可は」
「おう、問題ない!」
「じゃあ行くか」
サラマンダーウールという耐火装備を纏ったリリとヴェルフ。先頭を歩くベルは
「今日のベル、歩くの遅くないですか?」
「マップ浮かべながらの同時進行だ。少し遅くなるのは見逃せ………来るぞ」
と、ベルがヘスティア・ソードを抜くと同時に黒い大型犬、ヘルハウンドが現れる。ベルがまっすぐ向かうとヘルハウンドは炎を吐き付ける。が、その炎の中から腕が飛び出してきた。
「!?ぎゃうん!」
鼻っ面を掴まれ壁に叩きつけられるヘルハウンド。そのまま壁に押しつけるように踏みつぶすとグシャリと足が肋を砕き内臓を潰し魔石を砕いては灰に返す。と、別の方向から別の個体がリリ達に向かって襲いかかってくる。
「ほい、っと……」
リリはハルバードで地面を抉りながらヘルハウンドを叩き上げる。
明らかに非力そうな個体を狙ったというのにこの結果だ。混乱するヘルハウンドをヴェルフの剣が切り裂いた。
「ん? うお、今度はミノタウロスか!?」
と、ヴェルフが叫んだ先には上に迷い込んだであろう二頭のミノタウロスが。ベルの目がスッと細くなり、パチリという静電気のような音が鳴ると二頭のミノタウロスの首が落ちる。全身から白い煙を放ち火傷を治すベルはミノタウロスの死骸をじっと見つめた。が、すぐに顔を上げる。
「次から次へと、キリがないな……」
ベルの視線の先にはピョンピョン跳ねて此方に向かってくる兎のモンスター。角を持っており、ベルを見ると小首を傾げ───首から上が蹴り飛ばされていた。
「うお! ベル仲間に容赦ねー」
「アルミラージだっての」
「キィ! キュイイ!」
「キュウウ!」
アルミラージは群れで行動するモンスターだ。仲間がやられ、残りがベルに襲いかかってくる。が、当然ベルに切り裂かれる。武器を持ち、連携を組む。下手に人間に近い動きをした分ベルに取っては先読みしやすい動きにしかならなかった。
が、群れはその三体だけでは無かった。大量のアルミラージがベル達を囲む。
ベルは強くても一人だ。一度に倒せるのには限界がある。故にリリ達と背中をあわせるように並ぶ。
「………ん? おい、チッ………面倒なことに。引くぞ、ヴェルフ、リリ」
「へ? どうした急に」
「この音、まさか………」
ベルの言葉にヴェルフが首を傾げ周囲を警戒するために獣人に化けていたリリがはっとする。ヴェルフがその視線の先を見ればモンスターに追われながら此方にまっすぐ向かってくる一団が。
「押しつける気か!? どうする!」
「こうする」
懐から取り出したのは鉄の塊。小指ほどのそれを指で弾くとオレンジの光線となってアルミラージの群れの一部を抉り取る。生まれた道にすぐさま駆け出すリリとヴェルフ。
ベルは穴を埋めようとするアルミラージを切り裂き進み、振り向きざまに一団が出てきた通路を破壊する。一団を追っていたモンスター達は瓦礫に潰されるか、あるいは閉じ込められた。
「………おい、マジか」
が、それに対応するように彼方此方の壁に亀裂が走り大量のモンスターが現れる。慌ててリリ達を追えばリリ達が立ち止まっていた。見れば前にもモンスターの群が。
後ろを確認する。狭い通路。
前は、少しずつ道幅と天井の高さが上がっていく。
「進むぞ!」
再び鉄の塊を核にした光線を放つベル。モンスター達は為す術無く消し飛んでいき道が出来る。が、逃がさないと言うように天井に亀裂が走る。
「ッチ!」
リリとヴェルフを掴み磁場を生み出し滑走するベル。天井が崩れ蝙蝠型のモンスター『バットパット』の群れが現れる。瓦礫とモンスターを避けながら駆け抜けるベル。開けた場所に出て、崖が現れる。反転しようとした瞬間足元からピシリと音が響く。
生まれたモンスターを踏みつぶした瞬間、通路の脇に隠れていたヘルハウンド達が口を開き煌々と燃える火を見せてくる。
「【燃え尽きろ、外法の技】!」
と、ベルに抱えられていたヴェルフが咄嗟に叫ぶ。
「【ウィル・オ・ウィスプ】!」
瞬間起こる爆発。磁気で浮いていたベルは踏ん張ることも出来ず崖に身を投じる。焼かれるよりはマシだが、ついていない。
警戒はしていた。まだ周囲わずか十メートルのみだがマップ表示と索敵を行えるようになり、常にオンにしていた。それでも虚を突かれた。
(───これが中層)
改めて思う。フィン達と来た時、あの時本当に自分は守られているだけだったのだと。
ピクリと18階層の森に潜んでいた大きな影が顔を上げる。周囲に広がる灰はその影がどれだけモンスターを倒したのかを物語っている。
立ち上がろうとしたその影はしかしその場で膝を突く。
休息が必要だ。彼に会うには、今のままではいけない。新しい右腕を撫でながら、双眸で天井の水晶、その奥を見る。
今ここには強い気配がある。騒ぎを起こすのも得策ではない。目を閉じ、眠る。願うならば待ち望む少年も万全な状態であることを望みながら。