ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

26 / 114
神の娯楽

「ベル君、ちょっと付いてきてくれるかい?」

「あん?」

「団長君、少しベル君を借りるよ」

 

 フィンに上がったLvに慣れるための訓練をしてもらっているとヘルメスが急に呼んできた。汗を拭きながら息一つ乱していないフィンをチラリと見る。

 

「うん。今日はこの辺にしておこうか………行っておいで」

「行きたくないが、何だ?」

「俺、君に嫌われてるねぇ。やっぱり腹の底を見せないから?」

「ああ」

 

 そういう意味じゃフィンも同様だが、ヘルメスは娯楽に飢えた神だ。何をするか解らない以上、必要以上に警戒してしまう。

 

「まあ、後悔はさせないよ」

「……………」

 

 

 

 ついてきて後悔した。

 信用できないのについ言うことを聞いてついてきてしまった理由が一つ解った。何となくこの男は祖父(エロジジイ)に似ているのだ。

 少女達の笑い声を聞きながらぐっと親指を立てるヘルメスを枝から蹴落とした。

 

「ぬあぁぁぁ!?」

「……………」

「ごぼべ!?」

 

 水の中に落ちたヘルメスを飛び降り踏みつけるベル。バシャバシャ暴れているがこのまま殺してしまおうか、と思ったが帰りにアスフィが恩恵を失うことになるので止めた。

 

「ぷはぁ! 酷いじゃないかベル君!」

「黙れ」

 

 ドゴォ! と神のドタマに踵を落としたベル。そのまま出て行こうとするが。

 

「え? 結局、何………?」

「ヘルメス様……まさか人を巻き込んで覗きを?」

「あのー、これ叫ぶべきなんですかね?」

 

 神が降ってきたと思ったら連れて行かれる状況の移り変わりに何を言えばいいのか解らず混乱する一同。しぶとくも気絶していなかったヘルメスが口を開く。

 

「おいおいベル君、こんな状況だ。せめて誰の体が一番好みなのか言ってやるのが男ってもんだぞ?」

「アスフィ」

「へ?」

「ほう、これは予想外な返し………嘘は、ないな」

 

 取り敢えずヘルメスを完全に気絶させる。と、見張りをしていたであろうレフィーヤがやってくる。ん、とヘルメスを差し出すとポカンと固まる。

 

「後は任せた」

「あ、はい………じゃなくて! 貴男も覗きでしょう!」

「覗きの誘いって知ってたらそもそも来てねーよ。女の裸なんざ八歳の頃から見飽きた」

 

 そう言うとさっさと行ってしまうベル。選り取り見取りの美少女達の裸にこれっぽっちも反応していなかった。怒るタイミングを逃し立ち尽くすレフィーヤ。取り敢えずヘルメスはシバいておこう。

 

 

 

 

 

「で、いい加減に出て来いよ」

 

 ベルがギロリと周囲を睨むとカサカサ音が鳴る。が、人影は無い。マップにも映らない。しかし気配だけはある。

 

「────!」

 

 不意に空気の流れを感知し身を仰け反らせるベル。驚愕する気配が伝わる中、微弱な電磁波を放ちレーダーとして活用する。数人の人影が浮かび上がる。

 

「チッ、面倒だな」

 

 囲まれている状況で、流石にやりにくいと判断したベルは囲まれないために木々の中に飛び込む。慌てて追ってくる気配に鉄の塊を飛ばし狙い撃つ。勿論加減はしている。そうでなくては殺してしまう。

 

「逃がすな! 魔法だ、魔法を使え!」

「魔剣でも構わねー!」

 

 と、次の瞬間炎、雷、風、土、水と様々な魔法が飛んでくる。が、威力も速度もそこそこ。木の上を飛び避けるベルは気配の数を正確に把握する。残りは12人ほど。これなら見えなくても十分対処できる。

 と、木々が薄くなった場所めがけて跳ぶ。

 そこには池があった。丁度良い………と、思い目が合った。

 

「クラネルさん?」

「あっちだ、逃がすな!」

「チッ」

 

 ベルは舌打ちすると沐浴していたリューの身体をすくい上げる。

 

「え―――きゃ!」

 

 そのまま懐から取り出した鉄の塊をオレンジの光線にして放ち後ろに飛ぶ。ドォン! という爆音と共に池が爆ぜ雨のように水が降り注ぐ。

 

【轟け】(エルトール)

「が!?」

「あべ!?」

「ばぴ!?」

 

 と、水を駆け抜ける電気にやられバシャバシャ倒れる冒険者達。リューは彼等を見て大体の事情を察した。

 

「闇討ちですか。嫉妬というのは何時の時代も厄介ですねクラネルさん」

「ああ、やっぱり動機はそういうのか」

「………ところでクラネルさん。そろそろ下ろしてもらって良いだろうか?」

「あ、すまん」

 

 と、ほんのり赤くなった顔で睨んでくるリューに謝罪すると地面に下ろす。服は木陰に置いておいたので濡れていないようだ。

 取り敢えず気配は去った。早々に帰ろう、とした時、頭に衝撃が走る。

 

「クラネルさん!?」

 

 気配はなかった。電磁波レーダーにも反応はない。この透明化がマジックアイテムによるものだとしたら明らかに格が違う性能だ。

 

「むぐ!?」

 

 と、突然口を閉ざすリュー。いや、恐らく押さえつけられているのだろう。それも数人に。太股や胸が掌の形に歪んだ瞬間ベルはリューの真横の空間を蹴りつける。

 

「ごぺ!?」

 

 ゴシャァ! と木に背中からぶつかり気絶した男。リューがすぐさま解放された。掴んでいても自分達の位置を知らせるだけだと気付いたようだ。

 ギリ、と周囲を忌々しげに睨み付けるリュー。しかし歩く音も空気の流れすら感じない。

 

「…………【繋げ】(エルトール)

 

 

 

 

「ふふん。流石アスフィの『ハデス・ヘッドⅡ』。姿だけでなく動いた時の空気の流れ、さらには音や気配に至るまで完全に消してるね」

 

 顔面を痣と腫れだらけにしたヘルメスは眼下で殴られているベルを見て呟いた。対するアスフィは明らかに不快そうな顔でヘルメスを睨みつけていた。

 

「あの様なことをする連中に渡すなど聞いてませんよ。彼等の狙いはあくまでベル・クラネルのみなのでは?」

「んー。リューちゃんの所に行ったのはベル君が囲まれにくい森に逃げて、偶然出会(でくわ)したからだね。そして美女がいて透明人間になったとなったら触らないわけにはいかない!」

「もうやだ、この変態………」

「さぁて、それよりベル君はどうやって切り抜け────」

 

 瞬間見えない何かが飛んできてぐへ、という呻き声と共に姿を現す。

 

「───あれ?」

 

 

 

 

 人間の体は、生物の体は感じる、脳が感じる、脳が命令する、動くという面倒な行程が存在する。反射運動もまず脊髄に感じるという刺激が来なければ起こらない。そしてその信号と命令は微弱な電気だ。故に、()()()

 見えなくとも、触れた瞬間には解る。そして()()()()()()()()()()ベルはコンマ数秒のズレもなくそちらに攻撃を放つ。皮膚に傷一つ付く前に行われる反撃。

 

「これで最後か?」

 

 攻撃がなくなりコキリと首を鳴らすベル。この技を使うまでに食らった傷は既に治っている。

 

「リュー、平気か?」

「はい。足を引っ張ってしまい申し訳ありません」

「いや、狙われていたのは俺だろう? 巻き込んですまない」

「足を引っ張ったのは事実です。全く、笑えますね………一人生き延び、他のファミリアにまで迷惑をかけるなんて」

 

 と、自嘲するように笑うリューにベルがチョップした。

 

「………クラネルさん?」

「お前、俺を友人だと思ってくれているか?」

「はい、それは………」

「なら、俺の友人を悪く言わないでくれ」

「……………」

 

 少しポカンとしたリューはやがて吹き出した。

 

「成る程。それはすまないことをしてしまいました。解りました。今後自分を……いえ、クラネルさんのご友人を貶めるような事はしないと誓いましょう」

「おう、そうしろ……ところで神殺しって罪に問われると思うか?」

 

 

 

「あれ完全にばれてますよ」

 

 マジックアイテムで音を拾っていたアスフィは自慢の兜を踏み砕いていくベルを見て顔をさぁ、と青くする。しかし隣の主神(馬鹿)は満足そうに頷いている。

 

「見えない敵数人ですら当て馬にならないか。仕方ない、ここはもうダンジョンに任せるしかないかな?」

「は? ちょ、何を!?」

 

 ヘルメスは神威を解放した。

 

 

 

 

「…………?」

 

 アイズは顔を上げる。18階層を照らす光に揺らぎが起きた。上を見上げれば太陽の役目を果たす水晶の中に()()()()

 蠢く黒い影は水晶を突き破り顔を出す。それは黒い巨人。

 

「ゴ、ゴライアス!?」

 

 誰かが叫ぶ。そしてその通り、水晶の中から生まれ出たモノは17階層の階層主であるゴライアスと瓜二つだった。

 

「オオオオオオォォォォォォッ!!」

 

 大気を振るわせる咆哮を上げるゴライアス。異変はそれだけでは収まらない。

 

「くそ、何が起きている!」

「知るか!だがチャンスだ!」

「愚かなる冒険者に鉄槌を!」

 

 と、何処からか現れたローブの一団が食人花を連れ【ロキ・ファミリア】の拠点、さらにはリヴィラの街を襲い始めたのだ。

 その間にも落下したゴライアスは周囲に向かって吼える。それだけで地面が抉れた。

 

 

 

 

咆哮(ハウル)──!?」

 

 巨人の攻撃に目を見開くリュー。慌てて服を着ると駆け出し、木陰に隠れていたベルの下に急ぐ。

 

「クラネルさん!」

「ああ、何かが起きやがった───!」

 

 異変はゴライアスだけではない。周囲のモンスター達がゴライアスの周りに集いだした。まるで兵になるように。

 そして同時に狂暴化して冒険者達に襲いかかる。

 

「リュー、俺が気絶させた奴らの護衛を頼む」

「彼等を助けろと?」

「……嫌なら良い」

「………いえ、承りました」

 

 リューはそう言うとベルに微笑みを向けた。

 

 

 ゴライアスの下に向かう【ロキ・ファミリア】。ゴライアスはただ暴れ回っており、ローブの一団……闇派閥(イヴィルス)の残党の仕業ではないようで、彼等の死体が散らばった咆哮(ハウル)の着弾地点も見つかった。

 

「この威圧感、普通のゴライアスと思わない方が良さそうだ」

 

 と、疼く親指を舐めるフィン。明らかに通常の個体と異なる変異種。被害が出る前にここで食い止める、と思っていると黒雷がゴライアスの片腕を吹き飛ばす。

 

「………脆い?」

 

 いや、普通のゴライアスよりは硬そうだが。するとゴライアスは失った腕を再生させた。自己再生、本来のゴライアスなら持たない能力。しかもあの速度。そしてあの巨大さ。

 厄介なモノが生まれた。

 そしてその厄介なモノは内部の魔石ごと大きな影が振るった拳によって吹き飛んだ。

 

「………は?」

 

 ズゥン、と着地したのはゴライアスとは較べるまでもなく小さな、しかし人よりは大きな影。

 

「…………ミノタウロス?」

 

 確かにそれはミノタウロスだった。本来ならLv.2相当の怪物。しかし全身に傷を持ち、特に左目に至っては眼球があるのが不思議なほど深い傷跡が周りに存在した。

 そのまま砕けた魔石をガリガリ咀嚼する。

 

「強化種か……」

 

 それも先程のゴライアスを倒せるほどの。と、そのミノタウロスが顔を上げる。

 

「……………ブォ」

 

 じっと見つめるのは強者揃いの【ロキ・ファミリア】─────ではなくベル一人。

 地面に手を突っ込むと巨大な黒い戦斧を取り出した。骨を無数に組み合わせたような戦斧、その中央には魔石が埋まっており、その魔石が輝く。

 

「────避けろぉ!」

 

 親指の疼き。その正体に気付いたフィンが叫ぶと同時に【ロキ・ファミリア】の面々は左右に分かれる。斧が振り下ろされ、地面が割れた。

 圧倒的な衝撃波は大地を砕きながら突き進みリヴィラの街を両断する。誰もがその馬鹿げた破壊力に瞠目するなかミノタウロスはベルに急接近するとその顔面を掴みぶん投げる。

 

「───ぐ!?」

 

 空中で体勢を立て直し地面を滑りながら着地するベル。そのすぐそばに高速で飛来した巨大な物体が地面を抉りながら失速する。

 

「ブヴヴヴ……」

「…………」

 

 ミノタウロスだ。斧を構えベルを見つめる。その左目の傷を見て、ベルはミノタウロスに問いかける。

 

「……お前、まさかあの時のミノタウロスか?」

 

 当然言葉は返ってこない。が、ミノタウロスは歯を剥き出しにして嗤った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。