ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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神の望む英雄

 フィンは【ロキ・ファミリア】の団員を引き連れミノタウロスの向かった方向に走る。

 ミノタウロスの強化種。ゴライアスの変異種を瞬殺したことも驚きだが何より、確実に()()()()()()()()()()事にも驚きを隠せない。

 厄介になるであろうフィン達Lv.6のメンバーやティオナ達Lv.5の二人でもない。かといって、こう言っては何だがベルよりも弱い団員にも目をくれず、ベルのみ狙ってベルのみ孤立させた。

 

「まさか、調教(テイム)済みなのか?」

 

 十分にあり得る。あのミノタウロスの調教師(テイマー)がベルを狙い攫わせた可能性もゼロではない。というより、モンスターがあの様な行動を行う以上そちらの可能性の方が高い。

 

「───っ!【目覚めよ】(テンペスト)

 

 故にアイズは加速する。ベルに執着し、かつあのレベルのミノタウロスを調教(テイム)できそうな人物に心当たりがあり、その人物の強さを誰よりも知っているから。

 が、たどり着いた場所にあの女は居なかった。

 

「オオォォォッ!!」

「くっ!」

 

 巨大な黒い斧を棒きれのように軽々と振り回し暴風を巻き起こすミノタウロスと、黒いオーラと青白い雷を纏いLv.3とは思えない速度で回避するベル。斧が掠るだけで肉が抉れバランスを崩すとミノタウロスの攻撃が大振りになり、ベルはそれを避け雷を纏ったナイフを投げつける。

 ミノタウロスも大振りは負傷すると学習し攻撃が連続攻撃に変わる。が、速度勝負こそベルの本領。バランスを崩しても即座に対応し馴れない動きをしながらも時折見せる隙に切りかかる。

 どちらも傷を負った端から再生している。

 

【打ち砕け】(エルトール)

「グォ!?」

 

 雷を纏わせた拳に肉体を硬直させる。その隙を逃さずヘスティア・ソードで切りつける。無数の傷を負いながらもミノタウロスは大きく息を吼える。

 

「オオオオ─────ッ!!」

 

 鼓膜どころか体の中まで揺らすような咆哮。硬直したベルに拳を振るう。それは斧を振るより速い。したがって、

 

「ベル!」

 

 嵐の中の葉のように吹き飛ばされるベルは岩にぶつかりその岩を砕く。欠片を蹴り上げ起き上がったベルの顔の形は大きく歪んでおり右目は破裂していた。

 ブチリと潰れた眼球を放り捨てると新しい目が中から現れ骨折した頭蓋骨も元の形に戻る。

 

「ヴオァアアァ!」

「…………ベル、下がっていて」

 

 不可解なほどベルしか見ないミノタウロスとベルの間に立ち剣を構えるアイズ。強い。基本能力(ポテンシャル)だけでもLv.6相当。そして、その手に持つは魔剣のように特殊な力があると思われる戦斧。恐らくミノタウロスは何もしなければベルのみを狙う。アイズには目もくれずに。

 だが、だからこそ引けない。ベルを守るために───

 

「退いてろアイズ」

「───へ?」

 

 しかしそんな決意を否定するのは、他ならぬベル本人。彼もまたアイズに声をかけながら、ミノタウロスのみを見ていた。

 

「あれは俺の『敵』だ」

「ベル、我が儘言わないで」

 

 ダンジョン内で獲物の横取りはルール違反だ。しかし相手の強さをみるに、そんな事を言っている場合ではない。

 アイズ自身どの口が言うのかと思うが無茶をするべきじゃ──

 

「断る」

「──────」

『───アイズ、そこにいなさい』

 

 咎めるようなアイズの視線を無視して背を見せるベル。その姿が、父の最後の背中と重なる。

 

 

 

 あれは危険だ。多くの命を奪う。だから殺せとか。

 殺して、脅威に曝される者を守れ、とか。

 暴力に屈しそうになる人を救え、とか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()。だってあのミノタウロスは、愚直なまでにベルしか見ていないのだから。

 街を破壊したが、その一撃はベルの気を引くため。ゴライアスを倒した後ベルに気づき、嬉しそうに()()してきた。あれはほっとけば害はないだろう。ベル以外には、だが。

 あれはベルを待っていた。ベルと決着を付けたがっていた。

 英雄になれだとか、人を救えだとか、そんな責任感故の幻聴は鳴り止む。

 目の前の敵と戦えと、決着を付けろと本能が叫ぶ。

 或いはそれは、再戦するためだけにああも傷だらけになりながら生きてきた彼への敬意か。故にあれは自分が相手する。しなくてはならない───と、そんなベルを止める者が居た。

 後ろから腰に腕を回される。振り向けば目に映るのは鮮やかな金の髪。

 

「だ、駄目───」

 

 一瞬、動かなくなってしまった身体をアイズは必死に動かした。動かせた。

 彼の過去を聞いたから。救えず、故に力を欲する彼が自分と同じだから。死なせたくなくて、失いたくなくて、だから動けた。

 

「いっちゃ、駄目……ベル、死んじゃう………また、私の前から、消えちゃう」

 

 父のように。母のように。

 怯えるアイズを見てベルは目を見開き、そしてその頭を撫でた。

 

「悪い。当てられた───ちゃんと戻るから」

「──本、当?」

「ああ。約束する。だから我が儘を聞いてくれないか?」

「…………」

「俺は彼奴と決着を付けたい。あの時、流れてしまった戦いだ。俺も彼奴も、それを付けないと満足できない」

 

 それは単純な男の意地。下らない、泥臭い信念。何時ものベルなら興味も持たず切り捨てる。だが、今まで戦場で会ってきた者達とは違う。本当にそれしか興味のないミノタウロスに当てられた。冷静になったが、熱が冷めたわけではない。

 

「リヴェリア、は……」

「ん?」

「私が危なくなった時、手を貸してくれた……」

 

 だから、とアイズは繋げる。

 

「ベルが、危なくなったら……我慢できない、絶対……助ける」

「解ったよ。じゃあアイズ、そこにいてくれ」

「…………うん!」

 

 コクリと頷くアイズ。ベルは改めてミノタウロスに向き直る。

 

「悪い。待たせた」

「………………ヴヴ」

「ああそうだな。あの時の、そしてさっきの続きだ【呪われろ──】」

 

 詠唱が紡ぎ出される。本気で、そして全力で挑むためのベルの(うた)。英雄に焦がれる者を嘲笑うような(うた)。アイズはこれが好きではない。でも、ただじっと聞く。

 

「さて、始めるぞ」

「オオオオオォォォ!」

 

 黒紫のオーラと軋む音を纏い、黒い紋様を刻んだベルと全身の筋肉を隆起させ叫ぶミノタウロス。

 バチリと、紫電が弾けベルが飛び出した。

 

 

 

 

「あ、アンタ何で俺らを……」

「クラネルさんの頼みです。それに、死なれては寝覚めが悪い」

 

 と、モンスターを斬り殺しながら言うリューに男達は熱い視線を向ける。

 

「ただしエルフである私の体に気安く触れた者達は、必ず後悔させる」

 

 モルドは思った。ベル・クラネルのみを標的にしていて良かったと。

 

 

 

 

 

「アイズー! 追い付いた、あれ……ミノタウロスは?」

「彼処」

 

 アイズが指さした方向では高速で動き回るベルと地面を穿ちながら礫を武器にするミノタウロスの姿があった。

 神の加護を受けた刃がダンジョンの加護を受けた斧を逸らし、ダンジョンの加護を受けた斧が神の加護を受けた刃を弾く。

 折れ曲がった腕は、切り裂かれた腕は即座に再生し放り出された得物を掴み目の前の相手に切りかかる。

 

「いた! 待っててベル、今手を………」

「駄目」

「へ?」

「ベルは……『冒険』してる。だから、待って。約束なの……」

「で、でも………!」

「危なくなったら、助けるから」

「………………」

 

 アイズは悔しそうに言う。本当は彼女も助けにいきたいのだろう。それに気づいた故に、ティオナは見守ることにした。

 

「………リヴェリア」

「何だ? 言っておくが、こういう光景は二度目だが、それでも邪魔はするかもしれん」

 

 アイズと階層主との戦闘を思い出し、何時でもベルをサポート出来るように呪文を唱えようとしたリヴェリアだったがフィンが呼び止める。

 フィンはベルが階層主に単体で挑むのを見たらしい。それに熱せられたとも言っていた。この戦いを見せて、他の団員達にも熱を与えるかと思い、それでも手を出すと進言したリヴェリアにフィンは予想外の言葉を放つ。

 

「何時でも結界を張れるようにしてくれ。レフィーヤも」

「……何?」

 

 

 

「おいおい、あれって………ミノタウロスだよな? けど、一々地面が抉れてんだが」

「あの斧天然武器(ネイチャー・ウェポン)か!? くー、欲しいぜ!」

「だったら挑んで見ろよ。あの【殺戮兎】(ヴォーパル・バニー)に取られちまうぜ?」

「うっせ! Lv.2の冒険者とモンスターなんて………おい、あれLv.2だよな?」

 

 

 徐々に徐々にベルが押され始めた。同じレベルの再生能力持ちなら、地力が強い方が勝つ。纏った雷により人間の限界を超えた反射と、細胞の活性化と階位昇華(レベル・ブースト)を行ったベルでも目の前のミノタウロスには格段に劣る。

 逆に格段に勝る速度で翻弄していたが疲労には勝てない。

 だがベルの目に諦めはない。ミノタウロスは、自分より弱くしかし屈さなかったベルを見て、故にもう一度挑んできたのだ。ここで倒れるのは彼への、そして何よりあの時立ちはだかる壁全てを破壊して英雄(ベル・クラネル)に追い付くと決めた自分自身への裏切りに他ならない。

 

 

 

「おい、あれ………馬鹿じゃねーの?」

「【ロキ・ファミリア】の主戦力もいるんだぜ? 自分で倒す気かよ」

 

 集まってきた見物客の言葉にレフィーヤはムッとする。自分でも何故かは解らない。けど、あの戦いをあざ笑われるのが我慢できなかった。一言文句を言おうとして、しかし彼等の表情を見て声を詰まらせる。

 誰も笑っていない。瞬きせず魅入っている。あの光景を。リヴィラの街に来て、それで満足していた冒険者達はその光景から目を離すことが出来ない。

 初心を思い出してしまったから。強大な敵を討ち、信念を貫き至れる英雄に憧れていた子供時代を………と、ベルの背後にミノタウロスとは別のモンスターが現れる。冒険者の誰かが斧を投げつけた。

 

「邪魔してんじゃねー! 雑魚が!」

「おい集まってきてるぞ! あの戦いの邪魔させんな、ぶち殺せ!」

「おい【ロキ・ファミリア】! あれお前等の仲間だろ!? 周りは俺等がやるから後でどんな戦いだったか教えろ!」

 

 と、一人、また一人と集まってきたモンスター達の対処に当たる。普段ならバグベアーの群なんて見た日には逃げる自分の命優先の冒険者まで剣を持ち果敢に挑んでいく。

 

 

 

「は、ははは! 見ろアスフィ! 誰もが、彼に感化されている! 英雄になろうとしている! 美しい光景だと思わないか?」

 

 それを見下ろすヘルメスは大手を上げて叫ぶ。

 

「見ているかゼウス? 見せたかったぞこの光景を! 彼こそ貴方のファミリアの残した最後の英雄(ラスト・ヒーロー)! いや、新たな時代を告げる新たなる英雄(ニュー・ヒーロー)だ!」

 

 強いモンスターに怯えLv.2止まりだった冒険者達が果敢に挑む。新しいLv.2に嫉妬し、弱い内に痛めつけて満足していた冒険者達が罵倒しあい、高めあい戦っている。

 自身の血を嫌った鍛冶師が友人の邪魔をさせないために魔剣を振るう。

 なんと美しき光景か。英雄とは斯くあるべきだ。

 導け、進め、それこそ英雄の本分。小さな勇者が求めたモノ。

 決着の時は近い。どうか負けてくれるなベル・クラネル!

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