ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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アマゾネス

 早朝の鍛錬も終わり、昼は調査。

 昨日の食人花の件もあるし街中で聞き込みをする事にした。

 

「しかし全く情報が集まらないねぇ」

「誰かが隠しているんでしょうか?」

 

 ヘスティアとリリはベルの横に付き添いうむむ、と唸る。

 朝から探して今は昼。しかし一向に集まらない情報。ベルはどうもきな臭さを感じる。主に漁師たちから。知らないのは確かだろうが、だからといって無関係というわけではなく……こう、『糸』が絡みついているような。

 

「まあまあベル君。集まらないなら仕方ないよ。それより観光でもしないかい!?」

「ヘスティア様。ベルは今リ・リ・と! 仕事中なんです。邪魔しないでください」

「む! なんだいリリ君、僕とベル君の逢瀬を邪魔しようってのかい? ベル君に水着を見せる機会を奪ったロキと言い、二人っきりになる機会を奪った君と言い、胸の小さな女は悉く僕の敵だね!」

「んなぁ!? リ、リリは同い年の小人族(パルゥム)よりはありますぅ! 何よりロキ様と一緒にしないでください! リリは膨らんでます!」

 

 ベルを挟んで口喧嘩する二人を思考の外に追いやり街中を観察するベル。皆どこか楽しそうだ。先程得た情報によると最近人がモンスターに襲われ死ぬ事故が減ったからなのだろう。

 

「あ、おい待てよ!」

「ん?」

 

 不意に聞こえた声に振り向けば露出度の高い服を着た褐色肌の女達。アマゾネスの集団だ。その先頭の者が林檎を食い、それを呼び止めているのは恐らく店主。

 

「ゼ・エダル……ハーク・デリエ?」

「え、あ………いや、えっと……」

 

 ギロリと睨まれ後ずさる店主。ベルははぁ、とため息を吐いてヘスティアを下がらせる。

 

『金払えって言ってんだよソイツは』

「───!」

 

 ベルの口から紡がれたのは流暢なアマゾネスの言語。言葉が通じぬ異国にて初めてかけられたら同郷以外からの伝わる言葉に驚くアマゾネス達は、しかしベルの言葉の意味に目を細める。

 

『強い者が弱い者から奪うのは摂理だ』

『ここはテルスキュラじゃねーんだ。自重しろ』

『ふん。言葉だけでなく力で説得して見せろ男風情が』

『吼えたな三下』

 

 ベルの嘲笑に飛び出すアマゾネス達。その数4人。生意気な雄の首をへし折ろうと伸ばされた手はしかし何も掴まない。

 

『どうした? 急に俺の横を通り抜けて』

 

 振り返ると先程自分達が林檎を奪った店の前に立つベル。硬貨を置くと林檎を一つ取り噛みつく。

 

『物はこうやって買うんだよ。解ったか猿共』

「────!!」

 

 再び飛びかかるアマゾネス達を見てベルはユラリと揺れるような構えをとる。いや、構えというよりただ突っ立っているようにも見える。

 先頭のアマゾネス。その手首にベルの手の甲が触れ逸らされる。地面に向かって落ちるが、片手で衝撃を吸収し足技を見舞おうとするもその前にベルの膝が腹にめり込む。

 

「カ───ッ!」

 

 Lv.4となったベルの一撃は細い女の体などチリのように吹き飛ばす、路面を転がりながら吹き飛ばされるアマゾネス。残りの面々がすぐさま襲いかかる。仲間がやられたことに動揺しないのはまあ評価に値する。が、遅い。

 腰に差していた曲刀を抜こうとしていたアマゾネスの眼前に一瞬で移動すると、今度は動揺したアマゾネスの腕をつかみ反対側から向かってくるアマゾネスに向かって投げつける。吹き飛んでいく二人はそのまま壁にぶつかり気絶した。

 

『この──!』

『判断がおせぇ』

 

 漸くベルをいたぶる獲物ではなく警戒すべき敵と理解できた最後のアマゾネス。放った蹴りを同様に蹴りで受けると相手の姿勢が大きく揺らぐ。その頭を踏みつけ地面に顔を押し付ける。

 路面に罅が入ったが戦ってみた感想は前衛のLv.3程。この程度なら死にはしないだろう。

 

『おい店主…………と、騒いで悪かったな店主。取り敢えずこの装飾品でもうっぱらってやれ」

 

 アマゾネスの言語から共通語(コイネー)に戻し気絶したアマゾネスから装飾品をむしり取り店主に渡すベル。

 

「あ、ああ……しかしあんた強いな」

「対人戦はまだ怪物退治より得意でな。この程度なら問題ねーよ」

 

 と、ベルが立ち去ろうとした瞬間新たに現れたアマゾネスによって蹴り飛ばされる。

 

「いで!」

 

 硬い壁に頭からぶつかりブンブンと横に振るベル。襲撃者を睨むとアマゾネスらしく露出度の高い格好。

 ペッ、と切った頬から出た血が混じった唾液を吐き出しアマゾネスを睨む。強い。恐らくLv.5。 

 

『お前は強いな』

『あぁ?』

 

 再びアマゾネスの言語で会話するベル。アマゾネスは腰の剣を抜き放つ。双剣使い。

 ベルもまた収納空間に置いていたヘスティア・ソードを取り出し構える。

 

『お前を殺せば、私もあの境地に至れる!』

『やってみろ』

 

 振るわれた曲刀を受け止めると反対の曲刀も振るってくる。が、ベルが反撃に放った膝の方が先に当たる。しかしアマゾネスはそれを受け止めて見せた。もう片方の剣はクルクルと宙を舞っている。

 ベルが距離をとろうとするがミシリと膝に圧迫感が走る。もの凄い握力で逃がさんとばかりに獰猛に笑うアマゾネス。

 アマゾネスは片足を背中側に回し剣の柄を指で挟むと蠍のようにベルに向かって放つ。

 

「ベル君!」

「ちぃ!」

 

 柔軟さに驚きはしたがアマゾネスの腹に手をやり片足で地面を踏み込みその衝撃を膝と両手に伝えるベル。ドン! と吹き飛ばされたアマゾネスはしかし空中で回転し着地する。

 

『………良いな、お前。強い……それに満足していない。私には解るぞ、もっと強くなりたいと思っている』

 

 ベルと対極的な黒い髪を風に流しはぁ、と熱いため息を吐くアマゾネス。強い雄を求めるアマゾネスの本能がベルに目を付けた。

 

『殺すのはやめだ、連れて帰る。私と子を作ろう』

『今は儲けてるから金払われてもイヤだね。アマゾネス(てめーら)はねちっこいんだよ』

 

 腰を落とし双剣をまるで雄牛の角のように構えるアマゾネス。姿勢が低い……あれが彼女の本来の戦闘スタイルなのだろう。

 地面を這うように高速で迫る。

 

『ゴキブリが!』

『私の旦那は言葉遣いが荒い──!』

 

 足首に向かって放たれた一撃を跳んでかわし背後に移動しようとした瞬間、蹴り飛ばされた。地面に両手をついて行われた暴れ馬のような両足蹴り。

 周りの建物より高く飛ばされたベルは空気を吐き出し、慌てて息を吸う。

 アマゾネスは地面から跳んでくるがベルは空中で回転し勢いをつけた蹴りで吹っ飛ばす。地面に着地したアマゾネスは砕けかかった頬を撫で折れかかった首をコキコキ鳴らす。

 

『そういえば旦那よ、名を聞いていなかったな。私はレイシーだ』

『旦那と呼ぶな。ベル・クラネル』

 

 ベルの名を聞き嬉しそうに微笑むレイシー。再びあの特徴的な姿勢を取る。得物が低く、狙いにくい。

 ベルはヘスティア・ソードを咥えると両手を突く。

 

『ほう、まるで獣だ。人のことは言えないが』

 

 同時に飛び出す。片方の剣を片手で手首をつかみ押さえもう片方を咥えた剣で弾く。そのままベルの短剣()がレイシーの腕を貫く。

 

『───!?』

 

 幼い頃、ベルもまたレイシー同様に主に足を狙った戦闘方法を取ったことがある。当時のベルでは正面からぶつかり合うなどまず不可能だからだ。

 しかしバランスが取りにくく、その結果編み出した戦闘スタイルがこれだ。

 因みに乳歯が何本か抜けた。以来、鎧を着た相手には隙間に短剣()を突きつけている。しかし今は昔と違い恩恵を持つ。Lv.も上がり高い咬合力を持つベルが咥えた剣は最早体の一部と言っても良いだろう。

 押さえていた手首を掴み振り回すベル。頭から血の気が引いていき貧血状態になるアマゾネス。空高く放り投げ、その背中を切りつける。

 

『がは!?』

 

 受け身もとれず地面に倒れたアマゾネスはそのまま気絶した。脊椎を断ったわけではない。圧力を加え一時的に麻痺させただけだ。

 とはいえ血を流す女を放置しては既に逃げ出した街の住人に迷惑だろう、ポーションを背中にかけてやると道の脇に他のアマゾネスと並べて放置する。

 

「大丈夫かいベル君!」

「ああ、大丈夫だ問題ない」

「良かったぁ。あの、ベル? あのアマゾネス、ベルに熱い視線を向けてませんでした?」

 

 勝利したベルの下に駆け寄ってくるリリとヘスティア。不意にリリが気になっていたことを尋ねてきたのでベルはチラリとレイシーを見る。 

 

「求婚されてた」

「「んな!?」」

 

 まあ当然断ったが、と付け足すベル。その言葉に二人はほっとした。

 

「それにしてもベル君、彼女達の言語が解るんだね」

「昔の知り合いから学んだ。アマゾネスだ」

 

 あの女のおかげでアマゾネス相手にする時は通常の倍は貰わないと割に合わないと学んだのだ。

 

「まあでも怪我がなくて良かったよ」

「この程度に負けていられるかよ。俺はいずれ最強になる予定なんだからな」

 

 全てを救える最強の英雄に。取りこぼすことなく、全てを守れる英雄の偽物(主人公の模造品)に。

 黒い炎がくすぶる中、ふと戦斧を扱うミノタウロスを思い出した。僅かに炎が揺らいだ気がした。

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