ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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毒蟲と白兎

 ヘスティア・ソードと曲刀がぶつかり合い火花が散る。

 どちらも高速で移動する生粋の肉体主戦。とはいえ、オラリオに来てから魔法を覚えてしまい、Lv.でも劣るベルは歯を噛みしめ眉間にしわを寄せていた。

 逆に持っている魔法も身に纏うタイプ故に近接戦のみを主体とし続けLv.も今のベルすら凌ぐバーチェは相も変わらず無表情で攻め立てる。

 どちらも培われた対人経験故に持つ先読みで互いの攻撃を防ぎ、或いは防御をかいくぐる。そしてやはり、それはバーチェが上。

 それでもベルがなんとか張り合えているのは先程レフィーヤに言い掛けていた裏技。

 簡単に言うと脳が体に送る命令を、電気信号を一足先に読み文字通り次の動きを予知しているのだ。雷を操る内に手に入れた電気に対して鋭敏な感覚を利用した予知。先読みはあくまで殺気と筋肉の動きで把握する予測。それと予知を併せることでなんとか張り合う。

 そう、()()()()

 あくまで鍛錬の域を出ない【ロキ・ファミリア】とは違う、オッタルのような圧倒的な実力差とも違う。リヴィラの街で会った赤毛の女同様対人に特化したバーチェの動きは、Lv.6の動きはベルが予知と予測をした瞬間には迫っている。

 そういう意味ではあのミノタウロスも対怪物に特化した動きだった。

 

「逃げ回るだけか、兎」

「まさか!」

 

 アマゾネスの言語で会話しながら雷をバーチェに向かって放つ。イメージが威力を左右する魔法において、普段と違い名を呼ばず発動した雷。威力は普段の八割程だがその速度は変わらず。しかしバーチェはそれを避ける。

 先読みでは予知を持つベルよりもなおバーチェが上。技術でも同様。

 レベルが違う。格が違う。研磨の時が違う。

 

──だけど負けるな。君が負ければレフィーヤはどうなる?──

 

 幻聴が言う。ここで勝てれば、或いはレフィーヤの救助に間に合うかもしれない。捕まっていたとしてもカーリーを人質に交換を行えるかもしれない。

 だから勝て。助けるために、守るために負けることは許されない。

 故に発動する。【英雄義務】(アルゴノゥト)を。

 

「───!?」

「ほう?」

 

 黒紫の光がベルを覆う。その光景に、カーリーは興味深そうに、バーチェは不自然なほど警戒する。

 

「貴様、それは───」

「言うかよ」

 

 まだ溜まっていない。故にそのまま放つ。先程と違い防ぐことなく避けるバーチェ。触れることを恐れているようにも見える。

 

「?」

 

 理由は不明だが、チャンスではある。攻撃してこないなら防御を無視して意識全てを攻撃に回す。

 

「───!」

 

 初めて表情を歪めるバーチェ。しかし向こうも避けることのみに意識を割いてベルの攻撃は当たらない。

 戦場は何時しか空き地を飛び出し街中を駆け抜け屋根へと移る。

 バチリとベルの身体を青白い雷が跳ねる。

 

「──!?」

 

 突然ベルが消えた。目は離していなかった。意識を向け続けていた。だが見失った。その後防御に移れたのは長年の戦士としての経験が彼女を救ったから。

 攻撃の気配を脳が感じる前に体が防御態勢をとり脳も理解した瞬間に先程とは比べ物にならない重さの蹴りがバーチェの左腕を折り、なお衰えずバーチェの体を吹き飛ばした。

 何時の間にか海岸に来ていたのか湖まで吹き飛び水柱を立てる。

 【英雄義務】(アルゴノゥト)の発動による疲労を少しでも回復させるために呼吸を整えるベルは上がってくれるなよと願いながら波立つ湖面を見つめる。

 

「同じではなかったか。しかしこの威力、どちらにせよ驚異的だ」

 

 折れた左腕をだらんと垂らし湖面から飛び出してくるバーチェ。ベルは舌打ちするが直ぐ構える。

 雷速移動を発動しながら雷を放つことは出来ない。故にただ殴ったが、雷を打ち込む方が良かった……いや、恐らく避けられた。

 

「しかしお前、思ったより喋るな」

「ああ。私は興奮すると饒舌になるタチだ。お前との闘いは中々心躍る。ともすれば、アルガナを超えられるかもしれないと期待している」

「アルガナ………お前の姉だったか?」

「私はアレを姉と思ったことはない。あの化け物に食われぬ為に、ここで死ね」

「ッ!」

 

 再び再開される攻撃。避けるベルだがバーチェは折れた左腕を振るう。

 

「───!?」

 

 折れた左腕は当然本来脳が発した命令通り動くはずもなくベルの頬に当たる。大したダメージは無いが、明確な隙。バーチェの拳がめり込んだ。

 

「ご、あ……」

 

 背骨がゴキャリと鳴り折れ、外れる。内臓が潰れ血を吐き出しあまりの速度の拳故に暫く止まっていた身体が思い出したように吹き飛ばされる。

 

「むう。終わりか? よし、では先程のエルフの娘を捕まえティオネ達を待つとしよう」

 

 と、他のアマゾネスに負ぶさりながら闘いの行方を追っていたカーリーが呟く。それにしても中々良いモノが見れた。アレもついでに持って帰ろう。そう命令しようとして土煙の中に人影があるのに気付く。

 

「なんと……」

 

 立っていた。背骨は明らかに折れていた筈だ。折れてなくてもズレたはずだ。それに内臓だって潰れていた。動けるはずがない。なのに動いている。スキルか? 魔法か?

 どちらにせよ間違いなく闘い続けるという意志が生んだもの。回復魔法なら救いたいという意志の可能性もあるが、カーリーは不思議とベルがそのような理由でスキルもしくは魔法を発現させないと確信していた。

 

「ははは! 面白い、面白いぞ! バーチェ、其奴を捕らえろ。必ず持って帰る。その回復力だ、生きてさえいれば使えるだろう」

 

 持って帰って、使える。つまりはそういうことだろう。仮にも自分の腕をへし折った雄だ。アマゾネスとしてはやはり自分より強い雄が欲しいがまあ不服はない。

 

【食い殺せ】(ディ・アスラ)……」

 

 超短文詠唱。無詠唱のベルに次ぐ、近接戦と平行して扱われることが多い魔法。

 

「【ヴェルグス】」

 

 【ヴェルグス】。アイズやベルが持つ魔法と同じ付与魔法(エンチャント)。その属性は猛毒。

 

【繋げ】(エルトール)

 

 ベルもまた自身に雷を付与する。脳から体に命令を送る伝達速度をゼロにし、細胞を活性化させる状態。

 黒紫のオーラを纏ったバーチェと青白い雷を纏ったベルが睨みあう。先程バーチェが動揺した理由はベルが纏っていた光が自分の魔法に似ていたからだろうと理解したベルは路面を砕き蹴り飛ばす。

 ベルには効果が解らない。あの不吉な詠唱からして触れた物質を消失させるタイプだろうかと試しに放った礫はしかしバーチェに触れることなくバーチェが目の前に現れる。

 限界まで加速していたベルはすぐさま回避するがオーラが僅かに掠る。

 

「が───!?」

 

 瞬間襲われる激痛。肌が焼け爛れる。いや、火傷無効があるベルは痛みこそ感じるが火傷するはずがない。先程の雷速移動だってずっと目を開けられていた。

 もちろん絶対ではない。Lv.3の時雷速移動を使ったら失明したし無効化出来る限界があるのだろう。しかし、これは違うと判断する。

 

「毒、か………」

「そうだ。それが私の魔法」

 

 ゴボリと血を吐くベル。【不屈の闘志】(ベルセルク)で毒を払おうとするもLv.差と、魔力と体力を消費しているベルでは無効化しきれない。無駄に体力と魔力を使い視界がボヤける。

 

「む? どうやら捕まえてきたようじゃな」

 

 と、カーリーの言葉に視線を向ければぐったりしているレフィーヤを連れたアマゾネスが現れる。

 

「む。しかしティオネ達を呼ぶのは小僧で十分か? ならばそのエルフをどうするか───」

「───おい」

「──?」

 

 ビリ、と空気が震える。声をした方をみると居るのはベル。カーリーの真紅の瞳に似た鮮血のような赤い瞳がレフィーヤを抱えるアマゾネスを見据える。

 

「俺の仲間に手ぇ出したら殺すぞ」

「「────!?」」

「─────」

 

 猛毒に侵され満身創痍のベルの言葉にレフィーヤを抱えたアマゾネスとバーチェは思わず後ずさる。

 それを見たカーリーは目を細める。

 

「バーチェ、黙らせろ」

「…………」

 

 バーチェの踵落としを最早避ける気力も残っていなかったベル。地面に叩き付けられ気絶し、バーチェは猛毒を解くとベルを運ぼうとする。

 

「まあ待て」

「?」

「面白そうじゃ。この小僧に、捕らわれの姫を助けさせる英雄役をやらせてみようぞ……」

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