ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
ベルはピクリと指を動かし起きあがる。どうやらベッドで寝ているようだ。
頭が痛い。自分は何をしていた?
混乱する記憶を整理し、立ち上がる。
「そうだ、レフィーヤ!────ッ!」
が、直ぐに膝をつく。肉体の損傷が治っている。寝ている間にスキルが発動したのだろう。エリクサーとマジック・ポーションを取り出し消費した魔力と体力を回復する。
「──よし、これで動ける」
耐異常を以てしても毒を防げないほど消費していた体力と魔力を十分に回復した。これで後れを取ることはないだろう。
──助けなきゃ。お前が弱いから捕まった──
言われずとも解っている。必ず助ける。
──………なら、手を貸してやろうか?──
「…………あ?」
何時かのリヴィラの街で警告された時と同じ、幻聴に扮した何者かの声が聞こえる。
──強くしてやる。ランクを上げてやる。強くなりたいんだろ? 守りたいんだろ? なら、俺の手を取れ──
目の前に現れる
そうだ、この手を取れ。力を手に入れろ。もっと強く、もっと強く。全てを救える
──でも、私ベルのお兄さん知りませんよ?──
聞こえてきたもう一つの幻聴に伸ばした手を止めるベル。幻影は訝しむように首を傾げる。
──私が見た物を、負けたくないと思った光景を、魅せられた戦いを否定しないでください。解りましたか?──
焦らされた幻影が手を伸ばしてくるがその手を避けるベル。そういえば、彼女は言っていたか、既に居ない者を真似ようとする行為は、行き過ぎれば呪いと変わらないと。
──これからは自分にちょっとぐらい自信持ってください! じゃなきゃ貴方に負けたくないと思ってる私は何なんですか──
幻聴の少女は拗ねたように叫ぶ。次に思い浮かべるのは戦斧使いのミノタウロス。
「失せろ」
──…………何?──
「力は欲しい。だが、こんな身なれど憧れてくれる奴がいる。だから、お前のそれは要らない」
それに、と付け足すベル。
「確かに俺が
幻影の輪郭が歪む。ベルが手を払うと霞のように消えた。
幾分か冷静になれたベルはまずヘスティアを探すことにした。
「ベル君! もう起きて平気なのかい?」
起き上がったベルを見て駆け寄ってくるヘスティア。スキルの特性上最早傷など治っていると解っているがペタペタと体中を触り確認してくる。
「ヘスティア、ステイタスの更新頼む」
「…………今、ロキ達が動いてる。オラリオからもメンバーが来てるし、ベル君が何もしなくたって──」
「しなくて良いのとしないことは違う」
「それは、そうだけど……」
しかし危険な目にあって欲しくない。
ベルをここに運んできたのはアマゾネスの女。体力、魔力を消費したせいか傷が治らず頭から血を流し続けていたベルの姿を思い出す。
「頼むヘスティア。お前の
「………その言い方は卑怯だよ、ベル君………」
背中だして、と言うとありがとうとベルは服を脱ぐ。ヘスティアは自らの血を垂らし
スキル、魔法に変化は無し。ステイタスは
『力:G205
耐久:E427
器用:H142
敏捷:E435
魔力:F327』
これまたとんでもない伸び率だ。この短期間でここまで伸びるのは、それだけの向上心、力を欲する理由があったということだ。
「ベル君……」
「ん?」
「頑張れよ」
「ああ」
宿屋から出ると【ロキ・ファミリア】のメンバーが集まっていた。ベルを見て何名か驚いているところをみるに、別に待っていたわけではなくただ間に合っただけらしい。
「よお兎」
と、ベートがやってくる。長身の
「聞いたぜ。てめぇ、情け無くやられたんだってなぁ。んで雌も奪われて……ヒャハハ! なっさけねぇなぁ!? 俺だったら恥ずかしくて死にたくなるね!」
「ちょ、ベートさん!」
ラウルが叫び他の面々もベートを責めるように睨むが睨み返され目を逸らす。流石に士気に関わると思ったのかフィンが一歩前に出ようとして、その前にベルが口を開く。
「返す言葉もない」
「あぁん? おい、まさかてめぇもあの陰険エルフみてぇに達観したこと言うんじゃ──」
「だから次は勝つ」
「……………ふん」
グシャグシャと乱暴にベルの頭を撫でるベート。そのベートらしからぬ行動に多くの団員が目を見開き声を失う。リーネだけは羨ましそうにベルを見ていたが。
「負けたらまた身の程知らず野郎って呼んでやるよ」
「長くねーかその蔑称」
「良いから行くぞ」
ゴッ、と互いを見ずに拳打ち合わせるベートとベル。ベートが彼処まで──しかも
レフィーヤは檻の中で目を覚ます。混濁した記憶を探り、自分がアマゾネスに攫われたことを思い出す。
ベルと相対していた者以外のアマゾネスが居たのだから早く逃げようとどのみち捕まっていただろうが迷惑をかけてしまった気になる。ここは海蝕洞のようだ。
杖はない。それでも魔法は使えるが───
「………………」
周囲を見回すレフィーヤ。数人のアマゾネス。呪文を唱える前にやられるだろう。
平行詠唱を覚えたとは言え、早朝の訓練からあくまで動きながら唱えられるだけと思い知らされている。
「おお、起きたか!」
と、檻の上に座っていたカーリーが上下逆さまになってのぞき込んでくる。
「いやすまんな。思った以上に動けたせいで加減し損ねたらしい」
そういえば何発か避けることが出来た。何というか、解りやすかったのだ。ベルの攻撃はもっと速くそれでいて殆ど気配を感じさせないこともある。そんな相手としていたからだろう。結局攻撃を食らったわけだが。
と、何やら打撃音が聞こえてくる。
「ティオナさん!?」
果てしてそこにいたのは、ティオナと自分とベルを襲ったアマゾネスのバーチェだ。
「これこれ口を挟んでやるな。それが原因でティオナが負けたとしたら可哀想ではないか」
慌てて口を閉じるレフィーヤ。ティオナはお世辞にも頭がいいとは言えない。今、アマゾネスの言語でバーチェと会話しているがここで
「向こうの船ではティオネとアルガナが戦っておる。勝った方が
「私は、ティオナさん達を呼ぶ餌ということですか?」
「うむ。それと姫じゃ」
「………はい?」
姫? 何で姫?
生憎自分は姫などと呼ばれる身分ではないが、と混乱するレフィーヤ。カーリーは檻から飛び降りるとその小さな胸を張る。子供が知ったかぶりするような態度はその神威さえなければ微笑ましい。
「ティオナが英雄譚をよく強請ってな。知っておるぞ、とらわれの姫を助ける時、英雄は本来の力以上の力を発揮するのであろう? 妾はあの男がどこまで強くなるのか見てみたい」
「あの男………ベルの事ですか?」
「うむ。彼奴とバーチェかアルガナに子を作らせる。次代もまた強い戦士が生まれるだろう」
「………………」
テルスキュラはアマゾネスの国。故に男を攫い種馬として使う、というのは知識で知っていたが住む者から直接聞くと何とも言えない気持ちになる。
「それは、アナタが推奨してるんですか?」
「いや、彼処は元々そういう国だ。殺し合いも昔から起きていた。妾はそこに恩恵というピースを加えただけ。たとえ妾が居なくても、アレほどの雄なら目を付けたろう。恩恵がないならより強く感じる故余計に」
カカカ、と楽しそうに笑うカーリーにレフィーヤは気丈に睨みつける。
「貴方の目的は何なんですか」
「殺戮の果てに生まれる『最強の戦士』を見たい……」
「…………殺戮」
ベルの二つ名にも刻まれている言葉。殺し続ける、命を奪い続ける行為。
「英雄とて見方を変えれば敵を殺し尽くす殺戮者。あの小僧がどれほどのモノになるか見ものじゃな」
「それで、アマゾネスさん達が負けたら?」
「それはそれで面白い」
カーリーは神だ。永遠を生き死の概念が存在しない。たとえ眷属が死んでもその魂が天に返り再び生まれることを知っている。本当に気に入った魂があるなら、天へと返りその魂を抱きしめ永遠に過ごすことも出来る。だからこそ、神というのは娯楽のために何だって出来る者が多いのだ。
「………ベルはベルです。英雄じゃない………」
「む?」
「何時かはなれるかもしれない。でも、今じゃありません」
「ほう? では今はなんだ?」
「私の友達です──!」
瞬間、海蝕洞に雷が落ちる。
入り口から横向きに飛んできた雷はバーチェとティオナが戦うために開けられていたスペースに落ちる。
「………あ」
ティオナが呟く。
「カカ」
カーリーが喜色を浮かべる。
「……………」
アマゾネス達は固まりバーチェは無言で睨む。
バチバチと紫電を弾けさせ現れたのはベル。全身を黒い紋様が覆い、薄暗い海蝕洞の中赤い目が怪しく輝く。
「レフィーヤとティオナ………俺達の仲間を返して貰うぞ」
「ベル!」
「ようティオナ。ティオネの方にはフィンが向かった。もう大丈夫だろ」
ベルの言葉にそっか、と笑うティオナ。ベルはバーチェをギロリと睨む。が、ティオナが遮る。
「ごめんベル。私にやらせて」
「………勝てるのか?」
「勝つよ!」
見たところティオナもバーチェの毒牙にやられたようだ。だが、笑顔で戦う。段々と速くなる。
ティオナの持つスキル
負けられない理由はそれで事足りる。
「いっくよぉぉぉぉぉぉ!」
加速した拳が、重くなった一撃がバーチェを吹き飛ばす。岩壁に激突しめり込むバーチェはティオナの隣に立つベルを見る。
あの男は立ち上がった。毒に侵され、死にかけて尚。
負けていられるか!
死を恐れるバーチェもまた生粋の戦士の血を流すアマゾネス。アマゾネスでもないのに立ち上がり此方を竦ませたベルを前にして、沸々と闘志を燃やす。
「ティオナァァァァァァッ!!」
「バァァァチェェェェェ!」
口から血を流しながら獣のように叫ぶバーチェとやはり笑みを浮かべるティオナ。拳が交差し互いの頬を穿つ。
ドンッ! と海蝕洞が震える衝撃を起こし、2人の身体が地面に横たわる。バーチェが気絶したことでティオナの毒が消え、ベルはエリクサーをかけた。
「ううむ。まさか引き分けとは…………煮え切らんな」
周りのアマゾネス達も不服そうな気配を放つ。そしてカーリーはベルは見据える。
「まあまだ闘争は残っている。そちらで楽しませて貰おう」
「それは無理だろ」
「何?」
「バーチェは倒れた。アルガナは居ない。ならここから先は闘争じゃない」
「ほう、では何だ?」
『ただの殺戮だ』
アマゾネスの言語で答えるベル。その殺気に、その闘気にアマゾネス達が殺到する。その中にはベルと互角に戦って最終的には負けたレイシーの姿もある。
だが、違う。今のベルはステイタスを更新して、
バーチェが目を覚ます。感覚的に、眠っていたのは数分だろう。あの後、どうなった?
と、そんなバーチェの直ぐ横にアマゾネスが倒れてくる。
飛んできた方向をみる。そこには兎がいた。
圧倒的な速さで、力で戦士達を食らい尽くす兎が。前後左右から迫る攻撃を雷となってかわし、時には雷となったまま戦士達を吹き飛ばす。
白い髪が鮮血を浴び赤く染まる。赤い瞳に赤い髪。それはまるで自分達の主神のようであった。
やがて最後の一人が壁に叩きつけられると漸く闘争は………蹂躙は終わりを迎える。ベルはまだ動ける者が居ないか探し、バーチェと目が合う。
「─────ッ!」
食われる。反射的にそう思った。
姉と、先程のティオナに感じたモノと同等の恐怖。しかし動くことが出来ない。精神的にではなく、肉体的に。
疲労困憊の身体は逃げることも出来ず、そのくせ臍の下がジワジワと熱を持つ。
やがて視線が逸れベルはカーリーを睨む。
「ははは! 素晴らしいな! やはり欲しいぞ。おい、小僧。妾と共にテルスキュラにこんか? これだけの強さなら種馬にするのも勿体ない。今よりも強くなり、いずれ『最強の戦士』と子を作るのだ。間違いなく噂の
カーリーは自慢の戦士達を傷つきながらも全て倒しきったベルを評価していた。外の世界にいて尚これだけの戦士を見つけて歓喜していた。故に、気付かず地雷を踏み抜いた。
ズガン! と額に衝撃が走り二つに割れた仮面が落ちる。
同様に地面に落ちるのはこの戦闘で刃が潰れて鈍器に成り下がった投擲用のナイフ。
カーリーはペタンとしりもちを付く。恐怖からではない。混乱していた。
ベルが欲しかった。必ず連れて帰りたかった。故にカーリーは神威を解放した。通常、下界の子はそれだけで動けなくなる。逆らえなくなる。
なのに攻撃してきた。しかも、刃が潰れていなければカーリーを殺していた。
「最強の戦士になる子供? オッタルを超える?」
自身と同じく赤い瞳がカーリーを見据える。そのまま細い首をつかみ持ち上げた。
「か、あぅ───」
「よく覚えとけ。彼奴を超えるのも、最強になるのも、全部俺だ。ガキなんかに譲ってやるものか」
その瞳に宿る光を見た。何処までも貪欲で、強さに焦がれ、求める目。
その目に、カーリーは呑まれる。
見てみたくなった。行く末を。破滅か大成かそのどちらでもないのか。
と、ベルはカーリーから手を離す。海蝕洞の入り口をみるとアイズが立っていた。
「………えっと、終わった……よ?」
「そうか」
「ロキがカーリー以外を船に積んでおけって……」
「…………ふん」
要するに自分達は負けたようだ。カーリーは不服そうに息を吐いた。そしてチラリとベルを見るとその背をよじ登り首に足を絡め腹を後頭部に小さな胸を頭頂部に押し付け頬を撫でる。
「わかったわかった。妾達の負けじゃあ! 大人しくついて行く。ほれ、ベル歩け」
「下りろ」
「落とされた時腰を打ったのじゃあ。もうあるけーん」
「チッ………」
今さっきスルスルと小猿のようにベルの身体を登ったくせに何を白々しいと思ったが蛇のように絡み付き離れない。無理やり剥がせば大怪我を負わせ結果的に天に返すことになるかもしれない。
今回の件、色々聞きたいことがあった。何せ来る途中食人花が暴れているのを見たのだ。ロキも賠償としてその事を尋ねるはず。
「レフィーヤ、ティオナを頼む。アイズは此奴等船に運んどいてくれ」
「は、はい!」
「うん」
こうして短くて長い夜は漸く終わった。