ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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憤激の兎

 ベルはメレンからオラリオに戻ってきた翌日、ある場所を目指した。

 【ヘファイストス・ファミリア】だ。ベルが来ると視線が集まる。当然だろう。何せ世界記録(ワールド・レコード)を塗り替えた世界最速兎(レコード・ホルダー)がやってきたのだから。

 誰もが自分の武器防具を買って貰おうと狙う。と、そんなベルに声をかける者がいた。

 

「おおベルではないか!」

 

 すわ抜け駆けかと睨みつけかけた一同はしかし相手が【ヘファイストス・ファミリア】の団長と気づき大人しく去っていく。

 そんな周りなど気にせずベルは口を開く。

 

「ヴェルフは居るか?」

「うむ。付いて来い」

 

 本来ヴェルフは別の場所に工房を持っているが、ベルの依頼した品を扱うには炉の温度が足らなかった。故に別の場所で打っていたのだ。今回はそれを受け取りに来た。

 

 

 

 

 工房に行くと床で寝ているヴェルフが居た。涎を垂らしカーカーと寝息をたてているが椿が蹴り起こす。

 

「うおぉ!? な、何だぁ!?」

「ヴェル吉よ。出来た品を受け渡す時間まで決めておったのに眠っているとはどういう了見だ?」

「え、ああ……ベル。すまん………」

 

 小突かれて飛び起きたヴェルフはベルに気づき起きあがる。そして、部屋の机に置かれていた木箱をあける。

 赤い短剣が納められていた。ベルが倒したミノタウロスの角だったものだ。

 

「名前はそうだな………ミノタウロスの短刀………ミノタン、それか牛若丸だな」

「牛若丸だ。貰っていくぞ」

「おう!」

 

 牛若丸を鞘にしまい腰に差すベルはそのまま去ろうとして思い出したように振り返る。

 

「ランクアップおめでとう。これからも頼むぞ」

「………ああ! 俺は専属鍛冶師だからな!」

「解ってるなら良い。炉さえあればどこでも剣は打てるが、ここのレベルの機材があって初めて打てたんだろ? なら、少しは他の奴と仲良くしておけ。追い出されたなんて笑い話にもならん」

「………おう」

 

 

 

「それがあの時のミノタウロスの角を加工したナイフですか………」

 

 団長命令で何故かベルとチームを組むようになったレフィーヤは赤い短刀をしげしげ眺める。思ったより長いのは、あのミノタウロスが他のミノタウロスより一回り大きく角も大きかったからだ。

 

「そういえばベル、せっかくランクアップしたのに公表されないんですね」

「前回から一ヶ月と経たずに二回もランクアップしたんだ。混乱させるだけだろ」

 

 ベルは現在Lv.4。しかし公式ではLv.2だ。ギルドに報告したのだがその異常な成長速度に秘匿されることが決まった。知っているのはギルドと【ロキ・ファミリア】のメンバーだけ。後はギルドの職員を誘惑したとある女神ぐらいだろう。

 

「と、無駄話はここまでだな。構えろレフィーヤ」

「はい!」

 

 ビキリビキリと壁や天井に亀裂が走る。現れるのは複数のモンスター。ミノタウロスだ………。

 

「………これ持ってるからか?」

「無駄話は後です!」

 

 と、レフィーヤは駆け出す。本来後衛のレフィーヤだが二人しかいないなら囲まれては前衛も後衛もない。いや、前衛がベルならこの程度の階層のモンスターは何処から現れようとレフィーヤ1人守りきれるだろうが、レフィーヤは飛び出す。

 

「ぶおおぉぉぉぉ!」

「っ───やぁ!」

 

 振り下ろされた石斧をかわし懐に潜り込み、殴る。Lv.3が放った拳はミノタウロスに十分なダメージを与えたがそれでも彼女は本来魔法による火力砲台としての活動が主。ミノタウロスはすぐさま体勢を立て直す。が──

 

「解放【アルクス・レイ】」

 

 レフィーヤの拳の前に現れた魔法陣(マジック・サークル)から光が放たれミノタウロスの身体を消し飛ばす。動揺したミノタウロス達だが即座に左右から斧を振り下ろす。

 

「解放【ディオ・グレイル】」

 

 だが突如現れた白く輝く障壁に阻まれ石斧は砕け散る。驚愕するミノタウロス。そして、千の妖精はその隙を逃すほど甘い鍛錬を受けていない。炎が彼等を飲み込んだ。

 

 

 

 

「ふぅ、こっちは終わりました。ベルの方は………終わってますね」

 

 斧を、手を、足を、胴を、首を切り刻まれたミノタウロスの死骸を見ながらうわぁ、という顔をするレフィーヤ。恐らく牛若丸の切れ味を試したかったのだろうがこれではモンスターにも同情してしまう。耳がヘニャリと僅かに垂れる。

 まあでも高威力の魔法を使える自分と違い、魔法を使った様子もなく自分より早く終わらせたベルは凄いと思うし負けてられないと思う。

 

「ん? そっちも終わったか」

 

 魔石を取りながら振り向くベル。辺りに灰が舞い………ベル達が倒した数の二倍の『ミノタウロスの角』がドロップする。

 ミノタウロス全ての角がドロップアイテムになった。これもベルの発展アビリティ『幸運:G』のお陰。このうち半分を売って半分を専属鍛冶師に渡すらしい。

 

「と、ところで私の戦いどうでした?」

「まあ良い方じゃないか? 少なくとも前衛のLv.3の中に交ぜても違和感はないだろ」

「えへへ………まあ最近じゃベルの攻撃も読めるようになってきましたしね! むしろ偶に止まって見えます」

 

 耳をピコピコ動かしてどや顔をするレフィーヤ。ベルはそうか、と呟く……

 

「なら明日から三倍の速度でも平気だな」

「ごめんなさい調子にのりました」

 

 考えてみれば向こうは格上(Lv.4)だ。しかもランクアップ前ステイタスは全てカンスト(オールSSS)している。

 そして自分は今まで魔力値のみが上がってからランクアップしてきた。ベルの言う交ぜても違和感がないLv.3というのはきっと伸びしろが悪く早々ランクアップした中で、という事だろう。再び耳が垂れる。

 

「全く。少しはいい気分にさせてくださいよ」

「それで無茶されても困るしな」

「わ、ベルだけには言われたくない台詞」

 

 階層主やLv.6下位のスペックを持つミノタウロスに単独で、しかもLv.差が2以上開いているのに挑んだ者の言葉とは思えない。

 と、ベルは徐に周囲の壁を破壊し始めた。ここで小休止するためにモンスターが生まれないようにしているのだろう。

 

「さて、昼飯は片方がシルで片方がリュー作だが、どっちにする?」

「ひ、左で………」

 

 ベルが取り出したバスケット二つの内、神妙な顔で左を選ぶレフィーヤ。美味しかった。

 ベルはゴギリバギリと音を鳴らし炭の塊を噛み砕く。毎回これだ………彼は幸運を持ってるはずなのに。まさか、わざと?

 

「……あの、それ美味しいですか?」

「マズイ。でもまあ、ガキの頃くった百足やカブトムシよりはマシだ」

「そんな傭兵時代の食事情聞かされても………あの、食べます?」

「………口直しにならな。最後の一つで良い」

 

 と、ベルが了承したので最後の一つを残そうとしたら今食べているのがそれだと気付く。言い訳させて欲しい。シルのサンドイッチが美味しすぎるのがいけないのだ。

 

「んじゃ貰うぞ」

「あ!」

 

 ヒョイとレフィーヤの手からサンドイッチを取り食べるベル。まだ一口だけで、レフィーヤも大口を開けて食べるタイプではないので食べかけと気付かなかったらしい。

 ベルの唇をじっと見つめる。ベルが視線に気づきこちらを向くと耳がピンと立つ。

 最近なんか妙だ。具体的にはミノタウロス戦から変で、メレンで早朝訓練をするようになってから段々と違和感が強くなったような………そして、ベルが今まで見せたことのない顔を見たあの晩から特に………。

 普段の張りつめたような顔とは違う、年相応でいて何処か無防備すぎるような表情。素直に可愛いと思った。

 

「レフィーヤ、そろそろ行くぞ」

「あ、はい!」

 

 まあ今はダンジョンに集中しよう。

 

 

 

 ダンジョンから出ると既に日は傾いていた。

 

「少し潜りすぎたな。こりゃ外食の方が良さそうだ………それで良いか、レフィーヤ」

「はい。大丈夫です」

 

 二人で食事。本来なら身持ちの固いエルフが異性と行うことなど滅多にないがベルとは数日とは言え早朝訓練をしダンジョンにも一緒に潜る仲だ。別段いやでもない。

 耳が無意識にピコピコ揺れた。

 

 

 

 耳が垂れた。

 場所は「豊穣の女主人」。別にここの料理は嫌いじゃない。美味しいし、店員は丁寧だし。では何が理由かと言われれば何故か同席しているエルフの店員とヒューマンの店員だ。

 

「……お二人は仕事良いんですか?」

「ミア母さんが私達を貸すから存分に飲んで食え、と……」

 

 ベルからすれば良くある光景だ。特に気にせず食べ続ける。

 

「おいおい何だぁ? 兎が女侍らせてやがるぜぇ?」

 

 と、そんな声が聞こえてきた。

 

新人(ルーキー)は怖いものなしで良いご身分だなぁ! 世界最速兎(レコード・ホルダー)といい、嘘もインチキもやりたい放題だ、オイラは恥ずかしくて真似できねえよ!」

 

 金の弓矢に太陽のエンブレム。【アポロン・ファミリア】所属の小人族(パルゥム)の男が酒を煽りながら叫んでいる。

 

「そうか。なら真似せず頑張ると良い。他人をこき下ろして安心できるお前じゃ一生無理だろうが」

「んだとぉ!?」

「おいよせ!」

 

 明らかにベルを見下しているのに手を出すことを恐れている。そんな不思議な反応にレフィーヤは首を傾げる。

 

「──っ。ふん、兎は馬鹿な女を侍らせて羨ましいねぇ。今夜は誰と寝るんだい? オイラにも貸し──」

 

 ゴシャ! とベルの足が男の顔を壁に押し付ける。顔に影が差し赤い瞳が怪しく輝く。

 

「ちょっとコイツ借りるぞ」

 

 ベルは男の仲間たちにそう言うと気絶した男の髪を掴みズルズル引きずりながら歩く。

 

「ま、待ってくださいベル! 私は大丈夫ですから」

「私も平気ですクラネルさん。真実のない侮辱に腹を立てたりはしない」

「私もですよ」

「…………そうか」

 

 ベルはそう言うと男を仲間達に放り投げる。

 

「でも意外ですね。ベルさんってこういう事は殺気出して終わりかと思ってました」

「………………」

 

 言われてみればその通りだ。今までのベルならそうしていた。そうしない理由、出来なかった理由は何だ? と考える。

 

「………まあ、考えてみれば旅してる間は友人を作る機会なんて殆どなかった訳だしな。俺は俺が思っているほど、友人を馬鹿にされて何もしないほど我慢強く無いらしい」

 

 と、ベルが言うと背後から気配を感じる。先程から此方を伺っていた気配には気付いていたがこのタイミングで動いたか、と少し意外に思いつつ対応しようとして男が持つ【アポロン・ファミリア】のエンブレムに気付く。瞬間、拳がベルに当たる。

 

「ベル!?」

 

 倒れるベルに慌てて駆け寄るレフィーヤ。キッと男を睨みつける。

 エルフにも劣らぬ美青年はふん、とベルを見る。

 

「良くもやってくれたな【殺戮兎】(ヴォーパル・バニー)。我が仲間を傷つけた罪は重いぞ……相応の報いを受けてもらう」

「な!? 先に侮辱してきたのは貴方達の方じゃないですか!」

 

 レフィーヤが叫ぶが男は取り合おうとしない。ベルがスゥと目を細めた瞬間怒声が聞こえてきた。

 

「喧嘩すんなら外でやんな! ここは飯を食って酒を飲む場所だよ!」

「………………」

 

 ミアの言葉に興が冷めたというように鼻を鳴らし出て行く青年。他の【アポロン・ファミリア】も気絶した男を抱えて出て行った。

 

「ベル、大丈夫ですか?」

「ん? ああ。先に手を出したのはこっちだからな。取り敢えず一発はもらってやった。反撃しようとしてたのを途中で止めたからバランスは崩したが問題ない。心配してくれてありがとな」

「仲間なんだから当然ですよ」

 

 レフィーヤはそう言って微笑んだ。

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