ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
気が付けば視界が高くなっていた。下を見れば炎の波が先程自分が居た場所を飲み込んでおり、数人の【アポロン・ファミリア】と思われる冒険者達が炎が晴れ誰もいないのを見て目を見開く。
「ちょっと! 今、一般人が居たじゃない! 合図を出す前に撃つんじゃないわよ、ギルドまで巻き込む気!?」
「ダフネ、アポロン様の寵愛を受け入れようとしない者を罰するのに他の誰かが巻き込まれようと、それは事故だ」
「こんの、変態が! ヒュアキントスと言い、いい加減にしろ!」
聞こえてくる声は二つ。短髪の少女が金髪の男に向かって叫んでいた。というか自分は何故ここに?
と、疑問に思いようやくベルに抱えられているのに気付く。俗に言うお姫様抱っこで………
「んな!? べ、ベル君! おろ──……し、て………?」
羞恥で赤くなったエイナだが声につまる。一瞬別人かと思ってしまった。
ベルの瞳が、見たこと無いほど冷たい光を宿していたから。
「とにかく、標的はベル・クラネルだけにしないと言い訳も────」
鮮血が舞いダフネの目が見開かれる。
アポロンに心酔し、アポロンの為なら何をしてもいいとヒュアキントスみたいな事を言う団員の首がゴロリと地面に転がる。
「──へ?」
「な、何時の間に!?」
「う、撃て!」
「ば────!」
慌てて標的に狙いをすませる魔剣使い達。ダフネの制止も間に合わずダフネの首に圧力がかかり浮遊感が襲う。瞬間、爆音。
魔剣使い達が同士討ちする中ダフネは細腕で自分の首を掴み持ち上げるベルと見つめ合う。
「お前で良いか……」
「あ、が……な、何、を………?」
ベルは数人を殺し取り敢えず冷静になっていた。冷静に【アポロン・ファミリア】を潰すために思考を巡らせることにした。そのためにはまず情報だ。
「全て教えろ。アポロンが何故ここまで俺に執着するのか、俺に何があるのか……」
ギリッと圧迫感が強くなる。必死に暴れるもベルは微動だにしない。
「ない、よ……あの神は、昔から執着心が強いんだ………私やカサンドラの時も、都市から都市へ、国から国へ捕まるまでずっと追いかけてきた」
自分もまた被害者であると伝えるが、同情を誘おうとしたわけではない。そんな事をしたら首を折られて殺されるだろう。隠し事をしても。だから全て本当のことを伝える。
「………エイナ、今の話だが」
「ん……しょっと………え? ああ、うん。聞いてたよ? でも、少し難しいかな? あのね、【ファミリア】同士の抗争ってそんなに珍しくないの。一々しょっぴいてたらキリがないから、さっさと
と、エイナは出来るだけ見ないようにしながら同士討ちで黒こげになった死体と首が転がった死体を見る。
「死者が出てるのは向こうだけってか………」
「…………うん」
「………エイナ。お前、初めて会った時も信じねーし、まだ信じねーのか? 俺は傭兵。人を沢山殺してきた。あまり俺に、勝手な理想を押しつけるな」
「そうじゃない!」
ベルの言葉にムッとしたエイナが叫ぶ。
「もう、信じてるよベル君の事は………オラリオでもあるんだもん。モンスターっていう共通の敵が少ない外じゃ、もっとあると思ってる。そこで育ったベル君がこういう事を出来るのも、仕方ないって思ってる。それでも、悲しいだけ。だから、そうやって突き放すようなこと言わないで……」
──本当に貴方が好きな女はそんな事気にしないの──
何故か美の女神の言葉を思い出した。
──でもそれは、本来
知っている。だから手を取れない。と、ベルは屋根の上を睨みつける。
近隣住民は既に逃げてる。珍しくないと言うだけありなれているようだ。今上に居るのは【アポロン・ファミリア】。大方ベルを逃がさぬ為の包囲網を敷いていたが捕まえたという報告もなければベルの姿も現れないので来たのだろう。
ダフネを放り投げゲホゲホ咳き込むのを後目に投擲用ナイフを両手三本ずつ取り出す。が、使う必要はなかった。
突如現れた褐色の影が全員ぶちのめしたからだ。
「なにやら面白いことになっておるのぉ」
幼い声で老人のような言葉遣いが聞こえてくる。振り向けばそこにいるのは一柱の神。
満面の笑みを浮かべてベルに飛びついた。
「ベル~! 久し振りじゃのう。会いたかったか? 妾は会いたかったぞ」
「…………………」
「ぬお!?」
神の名はカーリー。ベルに抱き付きスリスリ頬ずりしてきたがバーチェが無言で引き剥がす。
「カーリーにバーチェか……なんだお前等、何しに来た?」
「ギルドに色々報告しにな。今から向かうところじゃった……」
カカカ、と楽しそうに笑うカーリー。殺戮と闘争を司るだけありそう言った気配に敏感なのだろう。手を貸したのは意外だが。
「つーか何でバーチェ? 一応団長的な扱いなのはアルガナじゃ……」
「これでも気を使ったのじゃぞ? アルガナは今途轍もなく面倒なことになっておるからなぁ……」
「ああ。発情期の獣だもんな………そういやバーチェだけはティオナにやられたから誰かに惚れたりしてねーのか」
「いや。良く見てみよ……」
「?」
カーリーの言葉にバーチェを見るとバーチェは無言で目を逸らす。その頬はほんのり赤く染まっている。
「………………」
「久し……ブり……」
「ああ。俺等の言葉覚えたのか」
「お前ト……ソノ……話シたクテ……」
「…………おい、何だこのしおらしい生き物は」
「何故かバーチェだけこんな感じじゃ。まあ可愛いじゃろ?」
「まあ如何にもなアマゾネス共よりはマシか」
「あの、そろそろ他の追っ手も来るかもしれないのでさっさと移動しません?」
ニッコリと笑顔で尋ねてくるエイナ。バーチェとカーリーが気圧される。
「ぬぅ、流石お主等の住む都市よな。これほどの強者が」
「エイナは恩恵なしだ。俺は俺で行くとこあるから、またな………」
「──ああ、ベルきゅんはまだ捕まらないのかい?」
アポロンがはぁ、とため息を吐く。
確かに、遅い。先程ダフネから先行部隊がやられたと報告があり新たに動員した。この数でLv.2の冒険者を捕まえられないなどあるはずがないのだが、と団員が思っていると慌てた様子の門番が駆け込んできた。
「あ、アポロン様! 現れました、ベル・クラネルです!」
「おお、とうとう来たか! それで、顔に怪我をしていないか? いや、していたとしても私が癒やそう……」
「それが、その……乗り込んできました……」
「
たった二文字。たった二文字の言葉で団員達が動きを止めた。誰1人として近付く者も後退する者も現れない。目を付けられたくないから。意識を向けられたくないから。
近くを通られる者は早く過ぎ去ることを祈り己の不運を呪い遠くの者は安堵する。そんな中、アポロンが現れた。
アポロンを心酔する者たちはそれだけで動けるようになりアポロンとベルの間に割り込む。
「よお。ティオナとかベートとか暴れる連中も居たから早いとこすませることにした。
「ちょ、ちょっと待ってくれベル君! 僕は聞いてないぞ!? ロキ達に任せれば──」
「これは俺が売られた喧嘩だ」
ベルに担がれジタバタ暴れるヘスティア。が、ベルはあっさり無視する。
「とはいえ此方は1人だ。故に、ルールは俺が決めさせてもらう」
「ほう、どんなのだい?」
「『攻城戦』。攻め手は此方で、防衛は其方だ。城の中の人間が全員やられるまでが勝負。ああ、防衛には団員全員使えよ?」
その言葉にどよめく【アポロン・ファミリア】。勝ちを捨てたとしか思えないベルの言葉にアポロンはうんうんと頷く。
「なるほど。ベルきゅんは照れ屋さんだね………それとも、せめて負けてヘスティアを納得させたいのかい」
「黙ってろ。次に3つルールを追加する」
「3つ?」
「どのみち一騎打ちにでもならない限り此方が不利なんだ。そして娯楽に飢えた神々がそんなことで納得するとも思ってない。というわけで1つ、観戦の制限。これでも元傭兵でね、戦争と名の付くモノが子供の目に触れるのは些か抵抗がある」
「ふむ。ならば子供の寄りつかない酒場などに限定しよう」
「二つ目。此方が勝利した場合叶える願いは二つだ」
「………そのぐらいなら、まあ良いだろう」
「三つ目。団員がどうなろうと、責任の追及はしない。この三つを叶えるなら俺は何時でも開催してもらって良い」
「だからベル君聞いているのかい!」
「良いから許可出せ。負けないから」
「うぬぬ………はぁ、意見を変える気は?」
「ない」
即答のベルにヘスティアははぁ、と息を吐いた。
「………解った」
その四日後
開催期間3日。
開催場所、古城跡地。
【ヘスティア・ファミリア】対【アポロン・ファミリア】の攻城戦が始まった。
【ヘスティア・ファミリア】の団員は相も変わらずベル1人。神以外の誰もが【アポロン・ファミリア】に賭ける中【ヘスティア・ファミリア】の勝利に大金が置かれた。
「お、おいモルド! 正気か?」
最近ランクアップしてLv.3になった冒険者モルド。
「おもしれぇ! 俺も『兎』に賭けるぜ!」
これまた最近ランクアップして第一級冒険者の仲間入りを果たしたボールズ。めったにリヴィラから出て来ない彼まで噂を聞きつけやってきたのだ。
「そういや知ってるか? とある日リヴィラの街に居た冒険者達が皆一気にランクアップしたりステイタスが大幅上昇したらしいぜ」
「マジか!」
「俺もその噂知ってるけどよ、確かその日『兎』も居たって……」
「じゃあ彼奴も?」
「いやいや、確かそのちょっと前にランクアップしたばかりだぜ?」
『あ、それと不正を疑われないためにある情報を開示します』
冒険者達が話す中そんな放送が聞こえてきた。何だ何だと反応する冒険者達。
『ベル・クラネル氏はLv.2へのランクアップ後
「「「はあぁぁぁぁぁぁ!?」」」
『ルールはどちらかが全滅するまで! 【ヘスティア・ファミリア】はベル・クラネル氏が倒れた時点で、【アポロン・ファミリア】は城の中に闘える者が居なくなった時点で城を落とされたとして敗北になります。それでは、はじめ!』
開始の銅鑼が鳴る。【アポロン・ファミリア】の面々は特に緊張感はない。相手は1人だ。恐らく夜に忍び込んで団長との一騎打ちにでも持ち込み人質として、或いは恐怖で降参させるのが狙いだと言うのがヒュアキントスの考え。
団員全員を参加させたのは数を多くすることで動きにくくさせるための浅はかな考えだとか。敢えて乗ってやる。
「なあ今の放送どう思う?」
「ガセだろ。情報を混乱させるのも作戦であるってギルド説得して一度だけブラフはらせたんじゃね?」
「だとしたらもっとリアリティある嘘にしろって話だよな?」
「ちげぇねぇ!」
と、トランプに興じながら笑いあう団員達。窓側が見える席に座っていた男は、ん? と窓の外を見る。
巨大な黒い光の柱が立ち、振り下ろされ地を裂き城壁の一部を消滅させた。