ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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落とされる太陽

 眼前の鏡に映った光景は、城壁を消滅させた黒い光。より正確には黒い雷。

 

「「「うおおおおお!? すっげぇぇぇぇ!!」」」

 

 当然そんな光景見せられれば神々のテンションは最高潮だ。

 

「黒い巨大な斬撃とかいったい何トリアなんだ」

「アサシンかと思ったらセイバーだった」

 

 と、神にしか解らない高等な会話をする神々。ロキは鏡を眺めながら目を細める。 

 

「どうしたんだいロキ? それより見たかい今の一撃! 流石ベル君だ!」

「………せやな」

 

 呑気に笑うチビを見てロキは適当に相槌を返す。

 ベルは元傭兵。闘争と殺戮の神であるカーリーが見初めるほどの存在………そしてわざわざ年齢制限に加えこのゲームで眷属が負うあらゆる不幸の責任を取らせないという契約。

 

「やる気なんかなぁ、やっぱ………」

 

 別に人殺しが悪とは言わない。フィンやガレス達もその昔『闇派閥』(イヴィルス)と殺し合っていた過去を持つし。

 単純に価値観の違いなのだ。ベルは人殺しを悪と思う道徳観念はあるが、行わないという理由にならない。敵対するなら容赦なく殺せる、そういう子供。

 

「会った時以来やなぁ、あの目……」

 

 少しずつ少しずつ、人と関わり消えてきた闇が戻っている。遊技の戦場という、結局は人と人が争う戦争を前にベルの瞳は暗く沈む。

 

 

 

 肌をヒリ付かせる無数の敵意。近付く度に大きくなっていく数多の気配。

 飛び込めばそこは敵地。周囲の者全てが凶刃を振るう場所。思考が研ぎ澄まされていく。感覚が鋭敏になっていく。

 焼け焦げた道を黒紫のオーラを纏って歩くベルに無数の矢や魔法が飛んでくる。次の瞬間、雷が塔の上に落下する。

 

「「「────ッ!」」」

 

 赤い瞳が下を見据える。破壊された城壁に集まっていた団員達は必然的に外に集まっておりその視線をもろに浴びる。

 

「ふん。派手な登場だな、魔剣の類か?」

「………ここにいるのは全員か?」

「いや、参加したくないと言う愚か者はここにいない」

「そうか。逆に言えばここにいる奴等はアポロンに忠義を誓ってるか、1人の冒険者を複数でいたぶりたかった奴らって事か……」

「だからどうしたというのだ。【我が名は────」

 

 ベルが何時攻撃を仕掛けても言いように警戒しながら側近に守られ詠唱を唱えようとしたヒュアキントスの首が宙を舞う。パクパク口を動かしていた頭は己の体を見て目を見開き地面を転がった。

 

「だから、皆殺しって事だ──」

 

 側近達は何が起きたか見えなかった。ヒュアキントスの詠唱時間を稼ぐために、耐久はもちろん俊敏も十分な値を持って開いたはずだ。なのに、少しも見えなかった。

 

「う、うおおおお!」

 

 そして、そんな事を認めたくない1人の団員がベルに向かって切りかかる。ベルの蹴りが頬に食い込み首がねじ切れ吹き飛ぶ。

 

「ひぃ!?」

 

 ヒュアキントスの側近はLv.2だが、【アポロン・ファミリア】に於いては実力者だ。なのに、ヒュアキントスも其奴も一瞬でやられた。恐怖に飲まれた小人族(パルゥム)の男が城壁の穴へと逃げようとして、頭を踏み潰されて赤い花を咲かせる。

 

【飲み込め】(エルトール)

 

 城壁の一部に触れベルが呟く。バヂヂ! と鳥のさえずりの様な音が鳴り響き黒雷が無数の蛇のように城壁を這う。上から弓矢をつがえていた者、魔法を放とうとしていた者、中庭に降りようとしていた者、門を通り逃げようと閂に手をかけた者達が一瞬で黒こげになる。

 

「言ったろ? 皆殺しだと……逃げられると思うな」

 

 城壁の消し飛んだ場所も、良く見ればチリチリと時折黒雷が弾けているのが見える。が、たいしたことは無さそうにも見えた。

 

「う、うわぁぁぁ!」

「ああああ!」

 

 筋肉質な美丈夫がベルにしがみつきその横を別の団員が抜ける。城壁の外の景色を見て感動したように笑みを浮かべ、黒こげになった。

 

「逃げられると思うなと言ったはずだ」

 

 バシャ! と()()()()()()()()()()()()()()()死体を地面に捨て血だらけのベルは呟く。その左右から斧と大剣が見舞われる。

 トン、と跳んだベルは空中で回転しながら斧と大剣を上下に逸らす。それは味方の頭と足を切り裂き足が無くなり倒れかけていた団員は胸を蹴られその衝撃で背中が吹っ飛ぶ。

 

「お、おい! 幾ら何でもやりすぎだろ!」

「そ、そうだ! 俺等はお前にそこまでやられるようなことは───」

「………は?」

 

 ゾワリと悪寒が駈け巡る。誰もが目を見開き固まる。

 そして思い出す。ここにいないメンバーの殆どは、ベルが【アポロン・ファミリア】本部に乗り込んできた時その場にいたメンバーだ。彼等は皆口を揃えて「アポロンの為にあれと敵になるのはごめんだ」と言っていた。

 今ここにいるのは嘗て自分がされたように新しく入る新人を合法的に痛めつけ上下関係をはっきりさせたかった奴と、あの場にいたがアポロンへの忠義で残った者。

 故にベルは容赦しない。

 

「アポロンは都市から都市、国から国へ追ってくるんだってな? しかも白昼堂々襲いかかる始末。一般人を巻き込んで、だ。まあそれ以前に………お前等は敵だろ? 俺を襲い、友を殺そうとした。だから殺す」

 

 極東には『虎の尾を踏む』という諺があるらしい。怒らせてはいけない者を刺激して怒らせることを指す諺だ。

 踏んだのは兎の尾だ。だがただの兎ではなかった。

 戦場を縄張りとして駆け回り、屍の山を作る【殺戮兎】(ヴォーパル・バニー)。外での二つ名をそのまま使ったという異例の二つ名。その意味を漸く理解した。

 

 

 

 首が落ちる。

 四肢が千切られ内臓が抉り出され悲鳴を上げるまもなく潰され逃げようとした者は焼かれる。

 歓声を上げるのは黒い雷という感性を刺激されるモノをみた神々だけ。圧倒なんて言葉すら気休めにしかならない殺戮に、息を飲むことしかできない。

 

「………はぁ………」

 

 そして闘争と殺戮を愛するカーリーは頬を紅潮させその殺戮を眺める。潤んだ瞳は妙な色気を放ち一部の神々は鏡そっちのけでそれを見ている。

 ヘスティアは目を逸らさずに無表情で眺める。あれは彼が歩んできた過去、その一端。主神(おや)として目を背けるわけには行かない。

 

「………………」

 

 珍しく神々の集まる席にまで降りてきていたフレイヤはトントンと苛立ったように指で頬を叩く。

 

「せっかく綺麗だったのに……」

 

 ここ最近ベルの魂に変化が現れていた。と言うよりは、本質が剥き出しになり始めたと言うべきか。

 透明な膜の中に燃える黒い炎。その所々が色を変えていた。黒の炎を少しずつ焼き払うようにチリチリと燃える蒼白い光。まるで満天の星空だった。

 きっと黒く染まった彼の本来の色が見え始めていたのだろう。本質が露わになる(夜明け)切っ掛けには是非自分がなりたかった。故に見守っていた。

 今は真っ黒だ。それはそれで趣はあるが……

 アポロンは後で必ず殺そう。

 

 

 

──()許すな(殺せ)──

──()滅ぼせ(殺せ)──

──()打ち取れ(殺せ)──

──敵を殺せ──

──街で炎を魔剣を振りかざしエイナを危険に遭わせた敵を殺せ──

──神に忠誠を誓い何をしても神のためとほざく敵を殺せ──

──新しく入ると思いこんでいた新人を痛めつけ楽しもうとしていた敵を殺せ──

──自分と同じ目に遭わせて溜飲を下げようとしていた敵を殺せ──

 

 何時になく幻聴が騒ぐ。頭痛がする。だが懐かしさを覚える。

 ダフネのおかげだろう。彼女からアポロンの所行を聞いていたから、分かり易い悪の形に英雄になれと騒ぐ幻聴は食いついた。

 

「……………」

 

 黙れと呟く。口は動いても声は出ない。

 

「…………」

 

 五月蠅いと叫ぶ。口から出るのは息だけ。

 最後の1人が何やら叫んでいる。酒場でベルを挑発してきた男達の1人だ。

 

──悪を殺せ。エイナさんまで巻き込もうとして、人1人手に入れるために都市に、国に迷惑をかける悪を殺せ──

 

 ダフネの言葉を信じるなら白昼堂々襲いかかってきて、街のモノを破壊するのは初めてではないのだろう。ずっとやってきたことだろう。アポロンの趣味のために。

 短剣が振り下ろされる。男の首が転がる。

 

「────どっちが悪だ………」

 

 漸く声が出た。

 ベルは思い通りに動くようになった体を動かし血に染まった手をみる。

 

「………弱くなったな」

 

 昔は気にもしなかった。数ヶ月前は今と変わらぬ血だらけの姿をしていても、何も思わなかった。自分の意志で敵を殺していた。

 人の血を浴びるなんて日常で、味方には賞賛、敵には恐怖を向けられるのは何時もの事。気にもしない。はずだ………

 

「俺は、弱くなった」

 

 強くなったけど、弱くなった。

 だがまだやることは残っている。感慨に浸るのは後だ。

 

 

「………そんな、ヒュアキントス………ルアン、リソッス……馬鹿な、そんな馬鹿な! Lv.4だとしても、彼処にはLv.3のヒュアキントスにLv.2の団員達も多くいたんだぞ!? なのに、あんな……一方的に………」

 

 席から立ち上がり叫ぶアポロン。目の前の光景が信じられなかったのだろう。

 他の神々は気にせず掛け金を受け取ったりしている。

 

「………さてアポロン、そろそろ……」

「ふざ、ふざけるな! まだ私から奪う気か!?」

 

 と、アポロンが叫んだ瞬間窓ガラスが砕け散り雷が床を滑る。

 その雷はベルだった。半日はかかる距離のはずなのに、一分も経たないウチに来た。

 

「ベル……クラネル!」

 

 滑りつくような視線から一転、憎々しげにベルを睨み付ける神にしかしベルは割れた窓ガラスを踏みつけながら歩く。

 

「約束通り願いを聞いてもらう。一つは【アポロン・ファミリア】が所有する全財産。これは人材も含める。お前が無理矢理眷属にした者は全員脱退させてもらう」

「───っ!」

「二つ目。天界でも仕事をキチンとこなせ」

「───は?」

 

 いきなり何を? アポロンが傾げた首は止まることなく床に転がった。

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