ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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カジノ

「………ん?」

「あん? 誰だお前」

「俺だ」

「あ!? 【殺戮(ヴォーパル)───いってぇ!?」

「何でここに──あいったー!?」

「横にいるのはまさか【剣──いでぇ!」

 

 知り合いを見つけたので髪の一部の色を戻し消していた傷を現し声をかけるベル。気付いて叫びそうになったモルド達(Lv.3)アイズ(Lv.6)ディックス(Lv.5)リュー(Lv.4)に向こう脛を蹴られ強制的に黙らせられる。

 

「悪いな三人とも…」

「お、おう………お前にゃ稼がせて貰ったしな………気にするな」

「………お前も怯えないんだな」

「【アポロン・ファミリア】の奴ら、エイナちゃん殺そうとしたんだろ? その場にいたならキレんのも当然だろ」

「…………後でエイナになんか別のお礼しとくか」

 

 どうもエイナの人気に救われたらしい。後で担当アドバイザーのハーフエルフに何か礼をしよう。

 

「時にお前等、ここにいるって事はゴールドカードか?」

「「「おうよ!」」」

「俺の手伝いをするならプラチナカード。降格することで一度だけ借金をチャラに出来る権利をやる」

「…………マジで?」

「え、できんの?」

「ほれ、娯楽都市(サントリオ・ベガ)の許可証。十人までならくれてやれる」

「で、何をすれば良い?」

「何でもするぜ」

「跪いて靴だって舐める」

 

 あっさり忠誠を誓う三人に作戦を伝えてから、その肩を順に叩き頑張れよ、と応援して去っていった。

 

 

 

 

 

 

「遠路遙々ご足労様ですチャイム・シールズ様……」

 

 出迎えたテリーは腰が低く揉み手でベルに挨拶する。が、その目には敬意など全くなく寧ろ見下していると言っても良い。時折その視線はアイズとリューを行き来する。

 

「形式的な挨拶は良いんだよ。所詮親父の代わりだしな」

 

 今回ベルは娯楽都市(サントリオ・ベガ)の重役の1人の息子、という設定だ。如何にもなドラ息子な横暴な態度にテリーの顔がピクピクひきつる。

 リューとアイズと言えば演技とはいえベルの表情が変わる珍しい光景にジッと観察しており、それがベルにぞっこんに見えてテリーの怒りが尚増す。

 

「それで、どうでしょう私の店は」

「んなことより聞いてるぜ? お前、結構な上玉を侍らせているらしいじゃねーか。俺にも見せてみろよ」

 

 その言葉にテリーは途端に機嫌を良くしええ、ええ、と笑う。

 このクソ生意気な坊主に自分の手に入れたコレクションを見せて自慢しようと考えたのだ。どうも、このクソガキも自分と同じように女好きらしい。

 

「まあ、俺の女ほどの上玉が居るとは思えないが」

「─────っ」

 

 少し良い女を揃えただけで生意気な、と自分を棚に上げるテリーはしかし女神に勝るとも劣らないその美貌にゴクリと唾を飲む。目の前のクソガキが重役の子でなければ、と歯噛みしそうになりながら、我が城であるかのようにソファーに座り料理を注文するベルを睨みつけた。

 

(………成功を続けて増長してるな。なめられるのが気に食わなくてどうやり過ごすかよりどう俺から女を奪ってやろうか考えてるな)

 

 扱いやすい奴、とベルが考える中リューがソっとベルに耳打ちする。チラリとテリーを見ながら。ベルがこれ見よがしに笑いを堪えるふりをすると忌々しげな目でリューとベルを睨む。

 リューはそのままストンとベルの横に腰を下ろしアイズもその横に座る。ディックスは護衛なのでソファーの後ろに立つ。

 

「それより女だ女。さっさと見せろ」

「………ええ、直ぐにでも」

 

 両隣に美女を侍らせ睨まれながらもケラケラ笑う若造に内心舌打ちしながら集めに集めた美姫達を呼び寄せる。

 護衛がヒュウと口笛を吹くがクソガキはふーん、と興味なさげ。ますますイラつく。

 

「所で、その明らかに場になれていない女は? 新入りか?」

「────っ」

 

 ベルが1人の美少女を見て尋ねるとビクリと肩を震わせる。男の視線に怯えおどおどした様子は保護欲や加虐欲を掻き立てる。

 

「ええ、アンナと言いましてね。恋多き私のことを愛してくれた子ですよ」

 

 羨ましいだろう? と言いたげな視線にベルは見下したような表情を返す。

 

「………アンナ………アンナなぁ……そういえばテリー、知っているか? この街に神さえ求婚する美少女が居るらしい」

「…………ほお、それで?」

「一目見たくてここに来るより先に顔を見に行ってな? そしたらびっくり、賭博の担保にされて連れてかれたそうじゃないか! 賭事と聞けば黙ってられない俺は少し調べてみたんだ。そしたら、裏で誰かが糸を引いてるらしい」

「何が言いたいのか私にはさっぱりですがなる程、チャイム様は美しい奥様と愛人がいて尚満たされていないようだ」

「女なんて何人居ようと同じだ。所でテリー、お前何時からノーマルになった?」

「……………は?」

「それと、会うのが久し振りだからか随分顔が変わったじゃねーか。別人かと思ったぜ」

「……………え、えっと………どこかでお会いしましたかな?」

「忘れちまったのか? 昔ベッドに誘ってくる度に蹴り飛ばしてやったろう。あの時の喜んでたお前はどこに……」

「─────!!」

 

 テリーは顔を赤くして、しかし直ぐに青くする。

 此奴は、知っている。()()()テリー・セルバンティスを……。

 

「い、幾ら払えば宜しいのですかな?」

 

 敢えて言及しないと言うことは、つまりそういうことなのだろう。金を寄越せと強請っているのだ。

 

「ここは最大賭博場(グラン・カジノ)だぜ? なら、俺等のやり方で決着を付けようじゃねーか」

「ほう、宜しいので?」

「ああ。親父に誓って」

 

 やはり若い。娯楽都市(サントリオ・ベガ)の重役は、たとえ親であっても名を使うと言うことを解っていない。

 

「しかし私はいらぬ疑いをかけられている身。どうせなら、そちらの奥様方も貸してほしいものですね」

「「────ッ!」」

 

 それにいざとなったら殺せばいい。此方には「黒拳」と「黒猫」が居るのだ。その事を思い出し急に強気になるテリー。

 舐め回すような粘度すら感じる視線に2人が不快感を顕わにするとベルが2人の手にソッと手を置く。気持ち悪さが無くなった。

 

「安心しろ。俺が守るから……」

「………う、うん」

 

 ベルの言葉に顔を赤くするアイズ。

 ベルはテリーに向き直る。

 

「生憎、この2人はお前みたいな奴が触れて良い存在じゃないんだ。というか、お前が触れて良い女がこの世に居る訳ないだろ」

「な、き………貴様!」

「そもそも一回も勝てないって解りきってるゲームで何故何かを賭けられると思った」

「………ほう、大きく出ましたな。では、私が一度でも勝てたら私の言うことを何でも聞いて貰っても?」

「構わない」

 

 テリーはニヤリと笑う。大方甘やかされて勝ちを譲って貰ってきたのだろう。本当のゲームというのを見せてやる。と、ほくそ笑む。

 ゲームはポーカー。ディーラーがカードを配った瞬間、腕が落ちた。

 

「………へ?」

「おいおいなに坊ちゃんにいかさま仕掛けてんだお前」

「──ひ、ひぎいぁあああ!?」

 

 呆然としていた男は自分の腕が斬られたことに気付きのたうち回る。その度に周囲に血に染まったカードが床に転がった。

 

「…………ゼクス、やりすぎだ」

「さーせん」

 

 ベルの言葉にディックスはケラケラ笑う。テリーが雇った護衛達は予備動作すら見えなかった護衛の動きに目を見開いていた。

 

「気を取り直して、ゲームを始めようか………ああ、またいかさますると腕が無くなるから気を付けろ」

「……………」

「悪かったって。次からはちゃんと止める」

 

 アイズとリューの責めるような視線にベルは肩をすくめ、エリクサーを取り出す。

 

「ほら、運ばれた男に使ってやれ」

 

 ベルが小瓶を近くの職員に渡すと職員は早足にその場から去った。

 

「じゃあ今度こそ始めようか」

 

 

「ストレート」

 

 ………可笑しい。

 

「フォーカード」

 

 可笑しい。

 

「お、ロイヤルストレートフラッシュ」

 

 可笑しい!

 

「な、なんだその引きの強さは!」

 

 一度も勝てない。もはや払える金はなく、ならばと美姫を一人ずつ差し出して、それでも尚勝てない。

 クソガキの外で遊んでこいという言葉に従い金を受け取り出て行く美姫達。残る美姫はアンナただ一人。護衛のファウストに向かって叫ぶがいかさまを見破る役目の彼は首を振る。

 

「く、くそ!」

 

 と、カードを引く。キングの四枚。最強のフォーカード。

 これなら、と笑み浮かべる。

 

「勝負だ!」

「ほらよ」

 

 一度でも勝てれば、そう思い勝負に出る。そんな彼を嘲笑うように兎に跨がった『道化師』(ジョーカー)が2人微笑んだ。

 

「約束通り最後の娘を返して貰うぞ。さ、おいで」

「は、はい……」

「………何なんだ」

「…………」

 

 テリーはプルプル震えながら呟く。

 

「何なんだお前は!? 女達を助けて、正義の味方気取りか、ええ!?」

「正義の味方、ねぇ……そんな大層なもんじゃねーよ俺は。英雄に憧れた(姫を助ける騎士を気取りたい)だけの若造さ」

「…………殺せ………コイツを始末しろファウスト! ロロ!」

「………そう来るか」

 

 スゥ、と無表情になるベル。指輪を外し、髪と瞳の色を元に戻し、消える。

 

「「が!?」」

 

 腹に十字の切り傷を刻まれ床に倒れる2人組。その瞬殺劇にテリーとアンナは唖然とする。

 

「ファウストに、ロロねぇ………何時からお前等が「黒拳」と「黒猫」になったんだシャールと……すまん、片方名前忘れた」

 

 その無表情で無感情な口調に、2人は憶えがあった。

 まだ恩恵を刻まれる六年ほど前。二桁にも届かぬ子供に殺されかかった記憶。自分を見下す赤い瞳。

 

「………あ、【赤目の──」

「───死神】………?」

「懐かしい呼び名だ」

「………な、あ……?」

「テリーの名を騙って、雇った部下も名を騙るだけの偽物を掴ませられるとは滑稽な奴だ」

「ま、待て! 金なら幾らでも払う! こんな事を二度としないと誓う! 誓います! だから、見逃して」

「…………信用できませんね、テッド」

「…………へ?」

 

 唐突に聞こえた自分の本名にテリー───テッドは目を見開き自分から全てを奪っていた男の妾のエルフを見る。

 

「アナタはアストレア様に慈悲を戴き、一度は見逃された身。その上でこの悪行、見逃してやる道理はない」

「……お前、まさか………【疾風】………?」

 

 それはかつて自分に屈辱を味わわせたファミリアに所属する冒険者の二つ名。ガチガチと震えるテッドはしかし勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「おいクソガキ! 交渉だ、その女をギルドに突き出されたくなけれ──ば?」

 

 リューを指した指がボキリと折れる。何時の間にか目の前に移動していたベルがテッドの指をへし折ったのだ。

 

「やってみろクソジジイ。娯楽都市(ウ  チ)に手を出して………さらに此奴等に手を出すってんなら殺すぞ」

「ひ、ひぃぃぃぃ!?」

 

 腰を抜かし後ずさるテッド。床に水溜まりを作る。

 

「ただまあ、確かに金で解決しても良いぞ」

「ベルさん!?」

「払えるならな」

「…………は?」

 

 と、その時扉が勢いよく開く。

 

「た、大変です経営者(オーナー)! 全部持ってかれました!」

「は?」

「よお兎! お前の言うとおり稼ぎまくったぜ!」

「後でプラチナカードだからな!」

「解ってる。で、テッド………お前は何をかける気だ?」

 

 

 

 

 

「お疲れ様」

「えっと……うん」

 

 あの後、娯楽都市(サントリオ・ベガ)の査察官の証明書を見せるとあっさり素通りできた。そして現在、四人は酒場に来ていた。

 

「………今回は助かりました。しかしベルさんは、どうしてあの三人が勝てると?」

「実体験。幸運を分けてくれと抱きついてくるロキがその日は決まって大勝ちしてたからな」

 

 なのでモルド達に触れ、勝つように命じたのだ。彼等は儲かり娘達は解放されベルは娯楽都市(サントリオ・ベガ)から金を貰う。誰も損をせず望みを果たしたわけだ。

 

「………ねえベル」

「ん?」

「ベルは、私を守ってくれるの?」

「まあ必要ないだろうがな。お前の方が強いし………でもまあ、守るよ」

「………助けてほしかったら、助けてくれる?」

「ああ」

「………そっか………うん、そっか……」

「………………」

 

 リューが不機嫌そうな顔をして、ディックスがケラケラ笑いリューに向こう脛を蹴られた。




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