ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
浅層でキラーアントを半殺しにして寄ってくるキラーアントの群を狩るベル。懐から取り出した鉄製の投擲用ナイフを構えると徐に投げる。
「
バチチ!とベルとナイフの間に糸のように黄金色の雷の橋がかかる。空中でクルクル回っていたナイフはピタリと動きを止め、僅かに動き地面に落ちた。
「ッチ」
キラーアントの頭を踏みつけ落ちたナイフを拾い投げつける。現在ベルが行っているのは魔法の応用。
電気使いとしてかなり有名かつ上位に入る前世の世界のアニメのキャラクター。そのレベルとは行かなくても応用の参考にはしたい。
が、今出来るのは磁力による加速と回収のみ。後ろから迫るキラーアントの額に加速させた投擲ナイフを突き刺し、磁力を操り引き寄せる。再び投擲。
少しは楽が出来た。
今回のノルマも終わったので投擲の練習としてナイフでジャグリングしながら振るうという動作を繰り返していると不意に檻に入ったモンスターを見つける。その前に見覚えのあるギルド職員が居た。
「………エイナ?」
「ベル君?って、何そのナイフ……」
「ああ」
ベルは高速で回転しているナイフ全ての柄を掴み取る。その曲芸にエイナは思わず拍手しそうになった。
「ギルド職員がダンジョンで何してんだ?それにこのモンスター……」
「もうすぐ
「へぇ………」
そんなイベントがあったのか。見て回るのも良いかもしれない。
そして当日。人混みに巻き込まれないように屋根を歩いていたが屋台を回るために降りなくてはならないので屋台があるエリアに着くと降りる。
人が多い。それだけ人気な行事なのだろう。
「……はぁ」
「ん?シル」
「え?あ、ベルさん……」
暫く進んでいると落ち込んだ様子のシルにあった。どうしたのかと聞くと財布を忘れ、メインであるガネーシャ・ファミリアのイベントを行う闘技場に入れなかったらしい。
「俺が奢ろうか?」
「良いんですか!?」
「その代わり来月好きなだけ食わせる回数を増やせ」
豊穣の女主人という店で食い過ぎたベルは大食いを月一のみにしないと出禁にすると言われていた。燃費が悪いわけではなく、あくまで沢山食えるだけなので了承したが食えるなら食えるだけ食いたいベルはシルにそう持ちかけた。
「う、ミア母さんに相談してみます」
「頼む…………ん?」
不意にベルは絡み付くようなネットリとした視線を感じた。周囲を見渡すが視線の主は解らない。不思議そうに首を傾げたシルと共に再び歩く。
美を具現化したような女神は捕らえられたモンスター達を前に悠然と歩く。檻に入っているから安心しているのではない、モンスター達は彼女を襲わない。
「あの子はまだLv.1だったわね………なら、貴方にしましょう」
と、一匹の猿の前に微笑む。彼女が不快に思わぬよう音を立てずにジッとしていた猿の手に繋がれていた鎖が切れる。
「さぁ、私のために兎を捕まえてきて?」
ベルはピクリと顔を上げる。
「ベルさん?きゃ!?」
ベルはシルを抱えて跳ぶ。屋台の支柱を踏みながら人の少ない場所に着地し振り返ると、闘技場から白い猿が現れた。
「も、モンスター!?」
「……………」
ベルは長剣を取り出すと構える。ミノタウロス程の脅威は感じない。恐怖はない。
「あ、あのモンスター………ベルさん見てません?毛も白いし、お友達ですか?」
「
ひきつった顔で冗談を言うシルを無視して、靴底の鉄板に磁力を発生させ高速で地を滑る。ベルを見ていた猿は高速で接近してきたベルに反応できず右腕を切り落とされる。
「ホ、アアァァァァッ!!」
「と……」
痛みに絶叫しながらもベルの追撃を避け闘技場の壁を上る。デカいがやはり猿、上るのは得意なようだ。憎々しげに睨みつけてくる猿に、ベルは長剣を投げつける。大猿はその剣を弾くと手を離し落下してきた。
「チィ!」
地面を砕くような一撃。ミノタウロスで学習していたベルは片手だけで顔を守りながらも最低限の視界を確保する。大猿が腕を振り上げているのが見えた。この距離で、大猿の手は届かない。が、ジャラジャラと鎖が迫る。
「
「ぐぎゃ!?」
が、その鎖はベルを避けるように逸れた。ベルは触れていない。ならば直接叩き潰すとベルに向かってかける大猿。ベルは何かを引き寄せるように腕をグン!と引く。
「───カッ!」
ズブリと大猿の胸から剣が生える。それは先程弾いたベルの剣。ベルがクイクイと指を動かすとズブズブと深く刺さっていきとうとう大猿の体を通過する。
血だらけになった剣の柄を器用に掴むと胸から血を流し倒れる大猿の頭を踏みつけるベル。
「じゃあな」
「─────!!」
ゴロリと首が転がる。そのまま胸の魔石に向かって首の切断面から剣を刺すとバキリという音と共に猿の死体が灰になって消えた。
「………こんなものか」
ミノタウロスと比べるほどもない。ベルは魔石を回収すると、周囲から歓声が沸いた。ベルに取っては雑魚でもモンスターは人間にとっては十分脅威だ。
「ベルさん!」
と、シルがベルに抱きついてきた。
「凄かったです!かっこよかった!」
「…………これじゃ駄目だ」
「へ?」
しかしベルは満足しない。これでは駄目だ。自分は主人公になってしまったのだ。なら救え、もっと救え。
───まだ敵はいる。斬るんだ、殺すんだ……街の住人を救ってみせろ──
「シル、俺は他のモンスターを追う」
ベルのスキルなら街のどの方向にモンスターが居るのか解る。まだ数体残っている。
「だ、駄目ですよベルさん!まだLv.1でしょう?モンスターの中にはきっと適性Lv.2以上だって居ます。ベルさんが行かなくても、他の冒険者が………!」
「それでも俺は行く」
「どうして………」
言う必要はない。あえて言うなら、自分が
自分の命に価値があると思うな。どうせ存在しない命だ。一人でも救えるなら喜んで死ね。
そんな声が聞こえてくる。
「黙れ、解ってんだよ」
カチカチ鳴る歯をギリィと噛み締めベルはモンスターの反応を追った。