ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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吼えろ

「おいおい何か騒がしいけど、問題でも発生したか兄弟」

 

 暗闇の中ディックスは不気味な男に話しかける。兄弟と呼んだように、彼はディックスと母を同じにする者だ。

 

「止めろ、ディックス。同じ女の腹から生まれた、それだけのことだ。間違っても私を兄などと呼ぶな」

 

 嫌悪感すら滲ませた視線にディックスはヘラヘラと笑う。

 

「冗談だよ、冗談。俺だっててめぇみたいな『呪縛』の下僕共とチが繋がってると思うと、虫酸が走る」

 

 そういうと男の前にあった植物と融合したような台座に張られた水膜をみる。そこに映る金色を見てあ? と間の抜けた声を出す。

 

「何で【ロキ・ファミリア】が来てやがる? ああ、まあ一部派手にぶっ壊されたもんな。そこからか?」

 

 ぶっ壊された、という言葉に不快感を放つ男にディックスはおかしそうにゲラゲラ笑う。

 

「まあ良い。俺は新しい槍貰いに来たんだ。ついでにもう一つ」

 

 赤い長槍を抜き取るディックス。男は丁度良いとディックスに命令を飛ばす。

 

「手を貸せ。ここが暴かれるようなことがあれば───」

「ああ、うん。そういうのは良いからよ、ちっともう一つ欲しいモノがあるからそれくれよ」

「…………何だ」

 

 面倒そうに嘆息する男。しかし、目の前の男が望む物を渡さない限り動かないことも理解してるので尋ねる。

 

「俺の()はもう使えねーからよ()()()()()()

「何? ───ッ!?」

 

 ズブリと心臓に朱槍が突き刺さる。槍の持ち主は当然ディックス。

 

「き、きさ───」

「じゃあなバルカ。旦那達が来てる以上、てめぇは邪魔だ」

 

 朱色の呪槍が抜かれ、支えをなくし倒れる男──バルカは虚空に手を伸ばす。

 

「クノッソスの、完成………我等が、始祖の……作品……完成、させなくては……我等の悲願………」

「それはてめえの悲願じゃねぇだろ………」

 

 ドシャリと血の海に腕が落ちる。その左目から『D』の文字が刻まれた赤い球体が零れ落ちる。ディックスが懐から同じ球体を取り出し眺める。

 

「あんたも、他の奴も………変わらねーか」

 

 暗やみに包まれた広間の中、槍以外にも立て掛けられた武器を手に取り台座を破壊するディックス。これで監視は出来ない。尤も、機能は止まったりしないが。

 

「じゃあなバルカ。俺は『呪縛』を受け入れその道を疑いもせず突き進むお前等が大嫌いだったよ」

 

 扉を開け外に向かって歩くディックスはしかし一度振り返る。

 

「だけど、哀れだと思う。せめて外に出るぐらいの心が残ってりゃ、そこで旦那に出会えてたなら今はきっと違ったんだろうな」

 

 その目はきっと、一度も向けたことがない弟から兄への同情を映していたのだろう。

 

 

 

「るぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 まるでモンスターの咆哮(ハウル)のような遠吠えをあげモンスターを蹂躙するベート。何人かと引き離され今引き連れているのは二軍共。ベートの強さにおののく彼等を見て、苛立ったように叫ぶ!

 

「何してやがるてめぇら! 戦え!」

 

 ベートの怒号にビクリと肩を震わせる一同。

 

「兎は、ベルはゴライオスに、強化種のミノタウロスに、Lv.6のアマゾネスに挑んだぞ! それに憧れるだけか、ああ!? ちげぇだろ! 憧れてるだけで満足してるんじゃねぇ、尊敬してるだけで特別になったと勘違いしてんじゃねぇ! 悔しがって、その背を追って、『冒険』の一つでもしてみやがれ!」

「「「───!!」」」

 

 息を飲む団員達。そして、一人が飛び出した。

 

「う、うおおおおお!」

「くそぉ! 駆け出しに負けてたまるかぁ!」

「あの狼何時か泣かす!」

「………はん」

 

 蔑まれて侮蔑されて漸く前に進み出した雑魚共にベートは鼻を鳴らす。あの光景は、何も素晴らしいことなどない。

 自分を憎々しげに見てくるだけで目が合えば直ぐにそらす雑魚共が漸くやる気になったただけ。吠えただけ。それは当然の事だ。

 だが───

 

「笑わせてんじゃねーぞ最後の奴! てめぇらはそのままずっと背中追いかけてやがれ!」

 

 悪い気はしない。だから──

 

「吼えろ雑魚共!」

「「「うおおおおおおおお!!!」」」

 

 

 

「か───は──……は──」

 

 右目を失い左手を失い、喉が斬られた。

 血は出ていないがそれでも一目見て満身創痍と解るベル。剥き出しの神経が空気の流れに触れ泣き叫びそうな激痛を寄越してくる。

 声が出せないベルは呪文も唱えられず、呪いも解けない。唯一詠唱を必要としない雷も『英雄義務』(アルゴノゥト)のチャージ無しでは通じないと解っているがとっさの防御や回避に使用してしまい溜まらない。チャージした分を小分けに使っても同様だ。

 

「終わりだベル。そうやって無様に転がれ……それこそが弱者の姿だ」

 

 ベルにほんの僅かに付けられた傷も既に再生しているレヴィスが無表情で見下ろす。ヒューヒューと切れた喉から空気を漏らすベルの瞳からは、闘志は消えない。

 

「───ッ! まだ解らないのか!」

 

 レヴィスは苛立ったように叫びベルを蹴り飛ばす。

 

「お前は負けたんだよ、私に! 何も出来ず! なのに何だその目は、何だその顔は!? 勝てると思っているのか!? 一矢報いようとでも思っているのか!? 出来るわけないだろう!」

 

 だから立つな。そんな姿を見せるな。

 頑張ればどうにかなったなどと、お前みたいな事が出来れば良かったなどと思わせるな。

 

 床を何度も転がるベル。打撲や擦り傷は回復しているが、それでも満身創痍には変わりない。

 なのにまるでレヴィスの方が追い詰められている様な顔をしている。

 

「───ッ! もう良い、ここで死ね」

 

 届けるのは死体で良い。剣を振り上げるレヴィス。狙うは首。

 

「────何?」

 

 しかしそれは空を斬る。ベルは、突然開いた床に吸い込まれた。

 

「───ッ!」

 

 直ぐに追おうとするが閉まる。『鍵』を取り出そうとして、戦闘の末何時の間にか壊れていたことに気付く。

 狙っていたわけじゃないだろう。そんな余裕があるようには見えなかった。

 

「くそ!何奴だ、邪魔をして!」

 

 苛立ったように床を蹴る。軋んだ音を上げるが破壊した頃には逃げているだろう。 

 雷に焼かれ砕けかけた球体を踏み砕く。

 

「………運の良い奴だ」

 

 と、その場から去ろうとしてガクリと膝を突く。

 

「───?」

 

 全身から感じる倦怠感は、それこそ『呪詛』(カース)でも食らったかのようだ。

 

「いや、これは……」

 

 ブチブチ音を立て体の中から金属片を取り出す。戦闘に於いて、ベルが光線を放つ核に使っていた物よりも小さい。それは微かに雷を帯びている。

 思い出すのはリヴィラの街での最初の邂逅。意思に反して腕を伸ばされた記憶。

 恐らくそれと似たようなこと。雷を帯びた金属片を斬りつけた際に埋めていき毒のように体を蝕んでいたのだろう。

 レヴィス自身、激しい怒りで気づかなかった異変。もしこれがもっと多く繰り返されていたら倒れていたのはどっちだ?

 

「………忌々しい」

 

 所詮可能性の話だ。

 負けていたのは、転がっていたのは、殺されるところだったのは彼奴。自分ではない。なのに、怒りは中々治まらない。

 体の中から感じる違和感を頼りに金属片を抉り取りながらレヴィスは舌打ちした。

 

 

 

 

「ふぅ、あの怪物女………好き勝手やってくれたねぇ」

 

 『鍵』を持つ外部の人間。アマゾネスのアイシャ。落下してきたベルを受け止めようとするも反撃され、ベルは頭から落ちた。片腕が無くなりバランス感覚が狂っていたのだろう。

 まあ気絶した分には丁度良いが。

 

「しっかしこの傷どうにかならんかね。まあ、戻ったら解呪薬をありったけ試してみるしかないか」

 

 これだけ深い傷なのに。肉も、脂肪も、場所によっては骨すら見える傷なのに血は一滴たりとも零れない。そういうスキルなのだろうが、まるで此方こそ呪いのようだとアイシャは思った。

 戦えるんだから戦えと、そう急かしているようだ。

 

「ああん? ゲゲゲゲゲゲ。何だい、傷だらけだが好みじゃないか」

「手を出すんじゃないよヒキガエル」

 

 美麗なアイシャと同種であるアマゾネスとは思えない醜い容貌のフリュネがカエルのような笑い声を上げる。

 2M(メドル)を超える巨体は横にも広く短い腕と脚は筋肉の塊。顔は大きく黒髪のおかっぱ頭のしたでギョロギョロ蠢く目玉は気味が悪く、まるで巨大なヒキガエルだ。そのくせ自分は美の女神にも劣らない美女だと思い込んでいるのだから手に負えない。

 

「なんだい嫉妬かい? これだから醜い女は嫌なんだよ……」

「チッ、どっちが………早く行くよ。あの怪物女が来たら殺されちまう」

「ふん。醜いくせに力だけはあるからねぇあのブス」

 

 彼女達の目的はベル・クラネルをイシュタルの下に届けること。自分より崇められるフレイヤが気に食わず潰そうとする主神(イシュタル)がフレイヤの欲しがっているベルを寝取り挑発しようとしているのだ。

 

「全く、そのためにあんな気味悪い牛まで用意して。私には理解できないね」

 

 とはいえ、逆らう気は起きない。彼女はイシュタルに『魅了』されているのだから。

 魘され眠る白兎の頭を撫で、アイシャは歩き出した。

 

 傷だらけで血が流れないという光景に誰もが驚いていた。

 だから、誰もベルが持っていた剣が消えていることに気づかなかった。

 

 

「何だぁ、てめぇは………」

 

 ベートはモンスターや闇派閥(イヴィルス)を葬っていると明らかに毛色の異なる男が現れた。

 軽薄そうな笑みを浮かべたゴーグルを付けた男。男は何かをベートに向かって投げる。殺気と敵意もない。受け取ると『D』の文字が刻まれた球体だった。

 

「やるよ。『鍵』だ」

「………どういうつもりだ?」

「別に~? 俺はただ旦那の恩に報いただけだ」

「旦那? 恩? 何のことだ?」

「ヒヒヒ。まあてめぇらにゃわかんねーよ。一族の道標になろうとした勇者や世界を見たいって理由で地位を捨てた王族に率いられるてめえ等にゃあ」

 

 ゲラゲラ笑う男にベートは警戒心を解かず構える。恐らくLv.5。後ろに控える雑魚共じゃ相手にならない。ならば戦うべきは自分だ。

 

「俺は漸く自分で生きたいように生きれる。何かに当たり散らす必要も無くなった。だから、旦那の恩義に応えるためにこうしててめえ等に『鍵』をやる」

 

 が、ここまでだ。

 と、踵を返し駆け出す男。ベートが後を追おうとするが扉が閉まる。

 

「……………」

 

 渡された球体を翳し念じると開いた。本物のようだ。が、開いた扉の向こうには幾つもの閉まった扉。追うことは出来ない。

 

「おい、呪い食らった奴どんだけいる?」

「は、半分です」

「チッ。役立たずの雑魚共が……一度地上に戻るぞ。付いて来い」

「「「はい!」」」

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