ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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待たせたな!
皆が待ち望んだ夢に出てきた牛だ!


天の牡牛

 ベートは二軍を引き連れ外に戻ってきた。

 傷だらけの団員達を見て顔色を変えるリヴェリアとロキ。慌てて治癒魔法をかけるが傷は塞がらない。

 

「無駄だ。不治の呪いがかかってやがる。さっさと【ディアンケヒト・ファミリア】に連れてけ」

「あ、ああ………それより、他の団員は? それに、解呪ならベルが」

「分断させられた。あそこにゃ罠の扉が無数にあったんだよ」

「なら、どうすれば……!」

「『鍵』は手に入れた。俺が探しに行く」

 

 と、再びダンジョンに潜ろうとするベート。幸い彼は他の団員と違い受けた傷はモンスターからだけ。エリクサーを全身にかけ傷を治すと再び潜ろうとする。

 

「あ、あの! 私も行きます!」

「………ああん?」

 

 と、ベートが足を止め振り返る。手を挙げたのはLv.3のリーネという団員だ。

 

「話聞いてたか? あそこにゃモンスターや闇派閥(イヴィルス)共がいる。雑魚は足手纏いだ、引っ込んでろ」

 

 突き放すような言葉に、リーネがベートに好意を持ってることを知っている一部の者は責めるように見るがベートは気にしない。

 

「てめえの治癒もリヴェリアに劣る。つまり役に立たねーって事だ。解ったら巣穴から出てくんな。苛つくんだよ」

「ごめん、なさい………でも、役に立ちたいんです!」

「役に立ちたいから役に立てると思ってんのかぁ? 寝言は寝てほざけ」

「………………」

 

 悲しそうな顔をするリーネを無視してベートは歩き出す。

 

「てめーは魔力を温存してろ。帰ってきた奴から、呪い以外の傷を受けた奴を見つけて治してろ」

「…………はい!」

 

 と、リーネが頷いた時地響きが聞こえてきた。

 モンスターの大群が溢れ出して来た。ベートが舌打ちして指をゴキゴキ鳴らすとリーネは服の裾を掴む。

 

「………頑張ってください」

「ああ……」

 

 それだけ言うと飛び出す。リーネはその背を見送る。

 

「雑魚は下がってろ! 邪魔なだけだ!」

 

 対応しようとした団員達にそう叫びモンスターの群に突っ込むベート。リーネは治癒魔法を発動する準備を始める。

 

「おおおおお!」

 

 と、ベートが引き連れていた団員の一人がモンスターに向かって突っ込む。

 

「幹部だからってでかい顔させんな! 俺達も行くぞ!」

「おお!」

 

 

 

 

 フリュネはベルを連れてこいというイシュタルの言葉を無視して自分の部屋にベルを連れ込んだ。

 イシュタルの食べ残しなど御免だ。最初に食う。その方がこのガキだって幸せだろう。何せ自分はこんなに美しいのだから。

 と、自分の美貌を信じて疑わないフリュネ。

 

「しかし何なんだろうねぇこの傷……」

 

 解呪薬を山ほど試したがどれも効果はない。まあ良いか、あれが無事なら楽しめる。と、不意にベルの唇が動いていることに気付く。

 

「ああん?」

 

 喉から空気が漏れ殆ど声になっていない。フリュネが耳を近づけた瞬間パリリという音と共に何かが鼓膜を突き破る。

 

「────あ、がああああ!?」

 

 床を転げ回るフリュネに対してベルは口の中から幾つかの鉄の塊を吐き捨てる。鎖に縛られた手はゴキバキと無理矢理骨を折り肉を抉りながら引き抜く。

 そしてベルは喉に手を当て────()()()()()()

 ゴボリと口から血を吐き喉からバシャバシャと血が流れる。のたうち回るフリュネは自身の痛みも忘れ目を見開いてその光景を見る。

 ベルはそのまま呪われた肉を捨てると喉が傷一つ無い状態で再生される。

 

「あ、あー………【砕け散れ邪法の理】」

 

 紡がれる短文詠唱。ベルの身体を魔力が包む。

 

「【アンチ・カース】」

 

 呪いが砕け散る。

 もしここにレヴィスが居たならば間違いなく妨害されていたであろうがここにいるのは醜い化け物だけ。取り出したヘスティア・ソードで脚を切り落とし新しく生やした脚で床を踏む。

 

「ま、待ちなぁくそガキぃ! 良くもやってくれたねぇ!」

「……………」

「何なんだよ、アタイがせっかく愛してやろうってのにさぁ! もう許さないよぉ、お前なんか絶対抱いてやるもんか!」

「俺だって相手は選ぶ。たとえ一億積まれても、お前の裸を見ることすら御免被る」

 

 ベルは無表情でフリュネを見下ろす。

 

──弱いね。君は弱い──

 

──その弱さを利用するなんて英雄らしくない──

 

──最期までキチンと戦えよ──

 

「うるせぇ、黙れ………」

 

 これは俺の体だ。幻影を睨み付け歩き出すベル。フリュネが立ち上がり捕まえようとしたが倒れる。当然だ。鼓膜の奥、三半規管を破壊されて立てる生物は居ない。

 取り敢えず【イシュタル・ファミリア】が闇派閥(イヴィルス)と繋がっていたことは解った。その時点でイシュタルは『邪神』だ。潰すことを誰が責めようか………。

 と、その時ビタンと言う音が聞こえてきた。振り向けば廊下を這うようにフリュネが扉から出てきた。

 

「待ちなぁぁぁぁ! くそガキぃぃぃぃ!」

 

 ビタビタバンバンと短い両手で重い身体を持ち上げ後ろ足で床を蹴り追ってくる。その姿はまさしくヒキガエル。

 

「チッ、立てないからってあんな歩き方するか普通!」

 

 なまじ人に似ている分、迫ってくる化け物に嫌悪感を覚えるベル。

 Lv.5並の潜在値(ポテンシャル)を持つのかあの動きでやたら速いモンスター。流石は【イシュタル・ファミリア】。

 因みにベルは一切冗談を考えていない。本気でフリュネをモンスターの類だと思っている。それだけ醜いのだ。

 

 

 フレイヤは報告を聞き目を細める。そして、はぁ……とため息を吐き立ち上がる。

 

「フレイヤ様………」

「あの男の望む流れ通り、何でしょうね………気に入らないけど、仕方ないわ」

 

 だって愛しいベルが関わっているのだから。

 

「イシュタルの所に行きましょう?」

 

 

 フリュネを振り払ったベルは【イシュタル・ファミリア】本拠の女主の神娼殿(ベレート・バベリ)に向かう。

 目的は殺生石。イシュタルが手に入れたという禁忌のアイテム。これをギルドに提出すれば春姫を保護できるだろうし、ベルは攫われたのだから下手に出る必要もない。というか闇派閥(イヴィルス)と連んでいた時点で殺しても情報収集が出来なくなり咎められるだろうがその程度で済むだろう。

 まあ表向きには何らかのペナルティーを科せられるだろうが。

 宝物庫から奪った薬を飲みながら魔力、体力ともに回復するベル。と、流石に異変に気付かれたのか戦闘娼婦(バーベラ)達が迫る。

 

「邪魔だ」

 

 傷だらけの状態なら、Lv.3にでも苦戦したろう。だが完全復活した今のベルに勝る者など【イシュタル・ファミリア】には居ない。

 

【轟け】(エルトール)

 

 雷が駆け巡る。

 硬直した娼婦を蹴りつけ再び逃走を開始する。

 

「………イシュタルを捕まえて殺生石を手に入れた方が早いか」

 

 

 

 

 ピクリと鎖に繋がれた影が動く。本来なら地下に繋がれているはずだったが、急な出撃に備え地上で縛られていた『()()』は感じた気配に顔を上げた。

 

『────アハッ♪』

 

 

 

 イシュタルは逃げ続ける兎を漸く捕らえた。何て事はない。春姫を人質にすれば大人しくなった。

 ベルがイシュタルを人質にしようとしたように、彼女もまたベルと親しかった者を人質にしたのだ。もちろん殺す気はない。春姫は今回の計画に重要な存在なのだから。

 

「何だいイシュタル様ぁ………そのガキぶち殺させなよぉ!」

「黙ってろフリュネ。私の命令に背いて食おうとして、手痛い反撃を食らったのはお前の落ち度だ」

 

 エリクサーでも耳の穴に入れたのか立ち上がり追ってきたフリュネ。そして副団長であろうLv.4と思われる男や側近達。

 

「ベル様! 私のことは良いので逃げてください!」

 

 春姫が悲痛に叫ぶ中イシュタルは笑う。お寒い三文芝居でも見せられている感覚なのだろう。

 

「最初はあの女の趣味を疑ったが、噂を集めれば中々やるようじゃないか。それに、自分への階位昇華(レベル・ブースト)………春姫と合わさればLv.6に届くわけか」

 

 蠱惑的な笑みを浮かべながらベルに近付くイシュタル。恐らくベルを魅了しようとでもしているのだろう。首をへし折り、天に返してから周りの連中をどうにかするか、とベルが指をゴキゴキ鳴らす。

 

「────!?」

 

 が、突如感じる飛びっきりの悪寒。振り返った瞬間地を揺らす音が聞こえてきて、同様に振り返った娼婦達が慌てて逃げる。

 図体のでかいフリュネは避けるのが遅れその腹を巨大な角が貫いた。

 

「………何だ、此奴……」

 

 現れたのは太過ぎる強靱な四肢を持ち、雄々しくも捻じ曲がった巨大な双角を生やして、頭部から不気味な緑色(りょくしょく)に蝕まれた体皮を持つ6M(メドル)はある巨大な牛。生えている尾は途中から二本に分かれており先端は剣のように尖っていた。

 

『見ィツケタ──』

 

 だが、明らかに異質な頭部から生えた女性の上半身。ベルを見据え、微笑を浮かべる。

 

『ネェ、オ名前教エテ?』

 

 牛の体が身を屈め、女性の体がベルの頬を撫でてくる。ともすれば『美の神』であるイシュタルすら霞む美貌を眼前にベルは困惑する。

 この感覚、知っている。何かに似ている………

 

『名前ハ?』

「………ベル」

 

 中々答えないベルに眉根を寄せる女。ベルが答えると漸く離れベル、ベル……とその名を反芻する。

 

「『天の牡牛』!? くそ、見張りは何をしていた!」

 

 イシュタルが叫ぶ。その答えはきっと『天の牡牛』とやらの蹄に付いた血が答えだろう。

 

「勝手な事はするな! お前は───」

『……………』

 

 叫んだイシュタルに鎖が巻き付く。『彼女』や雄牛の手足に僅かに巻き付いていた鎖。その一つ。

 

『私トベルノ邪魔シナイデ?』

「ま、待て───!」

 

 『彼女』が鎖を振るうとゴキリとイシュタルが絞め殺されながら吹き飛ぶ。

 それはつまり、この場にいる【イシュタル・ファミリア】全員が恩恵を失ったという事になる。顔を青くして逃げ出す【イシュタル・ファミリア】。縛られていた春姫だけはその場に倒れ、『彼女』は其方に視線を向ける。

 

「チィ!」

 

 ズン! と地面が踏み砕かれる。鮮血は、無い。

 春姫を抱えて移動したベルは縄を切り春姫を立たせる。

 

「逃げろ」

「で、ですが!?」

「アレの狙いはどうやら俺だ。なら俺が相手する……解ったら行け」

「─────御武運を!」

 

 

「ああん?」

 

 天に昇る光の柱を見てアレンは眉根を寄せ、後ろの仲間達に振り返る。

 

「おい、アレもう終わったんじゃねーか? クソ兎が、二度目の神殺しかよ」

 

 彼等は【フレイヤ・ファミリア】。主神の神意に従いベルの保護に来た。もっとも、それはオッタルだけで他はフレイヤの愛を独占するベルを好いていないが。

 

「どーするよ、帰るか?」

「………………」 

 

 オッタルは無言で光を見つめる。イシュタルが送還された以上、ベルの脅威はここに無い。

 と、そこへ───

 

「───貴方方は、冒険者様ですか!?」

 

 焦った様子の狐人(ルナール)が現れた。他の女に関わるなどフレイヤの寵愛が汚れると考えているアレンは汚物でも見るように睨む。 

 

「お願いです、クラネル様を………ベル様を助けて!? も、モンスターが現れて!」

「モンスター? 地上にか………あの阿婆擦れ、そんなもんで俺らを相手にする気だったのかよ」

 

 ふん、と鼻を鳴らすアレン。引き返そうと背を向ける彼に他の団員達も同様だ。彼等はベルを助ける気など無い。

 オッタルは靴も履かず血だらけになり、転んだのだろう細かい傷や痣を持った女を見る。

 

「……俺は行こう。奴が死ねば、フレイヤ様は天に帰るだろうからな」




俺は一言もミノタウロスなんて言ってない
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