ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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 春姫を見送った後、ベルは目の前の女を見つめる。

 微笑を浮かべる美しい女は恋人との再会を果たした娼婦のように蠱惑的で、祖父と再会した幼子のようにあどけない表情を浮かべていた。

 

『ベル……素敵ナ名前………ネェ、貴方モ一緒ニナリマショウ? 貴方ヲ食ベサセテ?』

「────!!」

 

 次の瞬間天の牡牛が動く。単純な突進。猪突猛進を絵に描いたようなその攻撃はベルの後方にあった建物をいとも容易く破壊した。

 まともに食らえばあっと言う間に肉塊になる。

 

『───アラ? 汚イ』

 

 建物に突っ込んだ衝撃でグチャグチャになったフリュネだった肉塊を首を振り回し捨てると再びベルに向き直ろうと振り返る。その瞬間にはベルのナイフが首に迫っていた。

 

『フフ。甘エン坊ナノネ』

「───な」

 

 だが、通らない。細い首の骨すら折れず、皮膚にも傷一つ付いていない。それどころか、ベルが行った行動を攻撃としてすら認識せず自分の胸に飛び込んできたベルを愛おしそうに抱きしめようとしてくる。

 

「らあ!」

『ア──』

 

 腹を蹴り距離を取ろうとするベルに切なそうな声を出した天の牡牛は手を伸ばしベルの脚を掴む。

 一瞬の躊躇いもなく脚を切り落とすと驚愕に目を見開きその瞬間にベルは呪文を完成させる。

 

「【呪われろ呪われろ偽りの英雄。救えもしない無力な力で試練に抗い煉獄に堕ちろ】!」

 

 完成と同時に加速して距離を取る。逃げる気はない。逃げたところで追ってくるだろうし、そうなればどれだけの被害が出るのか想像も出来ない。

 

『速イノネ───』

 

 言葉は返さない。ギギギィィィィィィィ!! と錆びた鉄の塔のような不快で不安を煽る音を奏で黒紫のオーラを纏うベルに再び迫る天の牡牛。

 ベルに頭部が当たる直前前足を高く上げ振り下ろす。地面が割れた。

 蜘蛛の巣状の巨大な亀裂が広がり周囲に隣接する建物を巻き添えに砕き地の底に沈める。しかもそれは必殺技でも何でもない。

 牛舞(ロデオ)の暴れ牛のように暴れ後ろ脚、前脚の牛蹄が地面を叩く度に衝撃波が発生し地震を起こす。遠くに見える建物も次第に崩れていく。歓楽街がまるで被災地のようだ。いや、被災地なのだろう。目の前の怪物はそれだけの化け物だ。

 

『アハッ、アハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

 壊れゆく街を楽しそうに眺めた天の牡牛はギョロリと淀んだ金の瞳を向けてくる。

 

「ケラウノス!」

 

 フルチャージには全く届かないながらも上級魔法使いの砲撃魔法並の威力を誇る雷槍を生み出す。彼女が動いたのはほぼ同時──

 

『【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊(トニトルス)(イカズチ)ノ化身(イカズチ)女王(オウ)──】』

 

 高速で紡がれた歌は直ぐに世界に及ぼす影響を顕わにする。

 

『【サンダー・レイ】』

 

 豪雷の矛と黒雷の槍がぶつかり合う。一瞬の拮抗すらなく黒雷を破った豪雷の矛は放った瞬間から再び黒紫のオーラを纏いながら回避行動をとっていたベルの肩を大きく抉る。

 

「───が」

 

 片方の肺が焼け黒煙を口から吐き出す。炭化した肉の中からドクドクと脈打つ心臓が再生しすぐさま他の器官、骨、肉、皮膚と再生させると再び迫る豪雷の矛に片腕を向け()()()

 

『ワァ、凄イ!!』

「ありがとよ!」

 

 懐から取り出すのは大量のアダマンタイト。次の瞬間、黒い豪雨となって降り注ぐ。

 

『アッハハハハハ!』

「─────!!」

 

 が、その豪雨の中を平然と進む。腕を交差させ頭を守りながら再生力に物を言わせて突っ込んでくる。

 【英雄義務】(アルゴノゥト)の連続発動による疲労感によりベルは動けない。迫る牛蹄を目の前に衝撃に備える。

 頭さえ無事なら体力と魔力が続く限りいくらでも戦える。生きている限り戦える。

 戦えるが…………勝てるのか?

 

──怪物を殺せ──

 

──英雄へと至れ──

 

──街を救え、そのために殺せ──

 

──無様を曝すな、名誉を掴め──

 

「────!!」

 

 迫ってくる天の牡牛に恐怖を覚えた瞬間咎めるように騒ぐ幻聴。生存本能の声と合わさり思考能力が裂かれる。

 

『アハッ♪』

「しま───」

 

 振り下ろされる牛蹄。避けるのが間に合わない。と、ベルを後ろに引き前に出て牛蹄を受け止める者が居た。

 ガイィィィィィィンッ!! と爆音が響き渡り暴風が全方位に吹き荒れる。

 

「臆せば死ぬぞ未熟者」

「───ッ、てめえは……」

「思考を乱すな。どうやら、お前を狙っているようだな。なら、逃げる事など考えるな、戦う理由など考えるな。向こうが殺そうとするから殺す。戦う理由はそれで事足りる───ぬぅん!」

 

 ズン! と天の牡牛にも劣らぬ踏み込みで地面を踏み、吹き飛ばす。

 数M(メドル)後ずさった天の牡牛はズザザと地面を擦りながら、やってきた影──オッタルを()()

 オッタルを『敵』と判断したのだ。あれは『玩具』ではない。殺す気でかからなければ殺される。

 

『アァアアッ!!』

「ふん!」

 

 オッタルの大剣と天の牡牛の角がぶつかり合う。打ち勝ったのは天の牡牛。押されるオッタルを見て笑みを浮かべた瞬間オッタルは剣を傾けその上を滑る角を殴りつける。

 

『ア───!?』

 

 体が大きく傾き腹を見せる天の牡牛。その腹に渾身の一撃を見舞う。

 

『ガ───!!』

 

 吹き飛ぶ天の牡牛は零れ落ちた内臓を再生能力で体内に戻すとオッタルを睨みながら歌う。

 

『【荒ベ天ノ怒リヨ】』

 

 一節。それだけで完成する魔法。

 

『【カエルム・ヴェール】』

 

 ()()()()()により夥しい雷の鎧が天の牡牛の全身を覆う。ベルと同じく雷の付与魔法(エンチャント)。質も量も桁違いだが。

 

『ガア!』

「ぐう!?」

 

 大剣で防ぐも肌が焼かれ筋肉が引きつる。

 やはり(コレ)は厄介だ。嘗て自分の片腕を奪った技を思い出し舌打ちする。一度距離を取り、脚に力を込める。

 身体の硬直を無視できる速度で突っ込む。隙が出来るだろうが雷を食らいただ硬直するよりはましだ。

 と、その時天の牡牛が前片足を上げ、振り下ろした。

 

【放電】(ディステル)

「────!?」

 

 全方位に広がる衝撃波と雷の波。オッタルが目を見開く中雷はオッタルに迫り──

 

【導け】(エルトール)

 

 左右に裂けた。目の前に現れた別の雷に引かれるように分かれた。

 

「は───……くそ、ただ逸らすだけでどんだけ魔力使わせる気だ………」

 

 雷を裂いたのはベル。片手を突き出し忌々しげに天の牡牛を睨みつける。

 

『─────!』

 

 衝撃波だけならオッタルにも防げる。そして、防がれたことに目を見開いた天の牡牛は未だ残っている雷を纏い突っ込んでくる。

 オッタルはベルの首根っこを掴むと高く跳ぶ。

 

「ベル・クラネル………あの鎧を引き剥がすことは可能か?」

「不可能ではない……一部だけならな」

「そうか。なら手を貸せ」

 

 突進を避けながら会話するオッタルとベル。オッタルはベルを見ることなく言葉を続ける。 

 

「………一つ聞かせろ、ここに来たのはフレイヤの指示か?」

「そうだ。あの方はいずれお前を手に入れるおつもりだ」

「俺の成長速度は知っているはずだ。お前の今の地位を奪われると思わねーのか?」

「そんな事はあり得んさ。何故なら、お前がいくら強くなろうと俺が強くなれば変わらん。あの方の最強の眷属の座は誰にも渡さない」

「……………下ろせ」

 

 天の牡牛が瓦礫の山に突っ込み埋まったのを見るとベルはそちらを睨みながら降りる。

 偉業を成せ、一人で倒せと喚く幻聴を抑えつけ黒紫のオーラを纏いながら軋んだ音を奏でる。

 

「手を貸せ最強。俺一人じゃ殺せない」

「良いだろう。存分に頼れ」




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