ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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汚れた精霊

『アアアアアアアアッ!!』

「オォオオオオオッ!!」

 

 天の牡牛はオッタルの剣と角をぶつけ合う。

 本来なら相手にダメージを与え硬直させることも可能なはずの雷の鎧は相手の攻撃が当たる直前に剥がされる。

 直ぐに再生しようとするも音速で飛んできた光線が傷口を熱と衝撃波で抉り飛ばす。

 

『ベルゥゥゥゥゥッ!!』

 

 軋む音を奏でながら瓦礫の山々を高速で移動するベルを睨む。鎧を剥がしているのは彼だ。

 追おうとするも、速い。直線なら自分に分があるがグルグル回る兎を捕らえられるほど牛はすばしっこさを持たない。

 そして、相手は兎だけではない。牛の命に届きうる()を持つ猪も居る。

 

「ガァ!」

『クゥ──!?』

 

 横腹から叩き付けられた一撃に吹き飛ばされそうになる天の牡牛。地面を踏み込むも先程自分で散々破壊したせいで脆くなり踏ん張ることが出来ない。

 

『アア、アアアアッ!!』

 

 傷を治すのに魔力を、鎧を纏い続けるにも魔力を使う。徐々に失っていく魔力は自分の死期が近付くように感じる。

 

『ア───!』

 

 ベルとオッタルが自分を挟むような位置になった瞬間を見逃さず、雷を纏った蹄を地面に叩き付け、雷の波と衝撃波を全方位に飛ばす。

 

「チィ!」

 

 ベルは優先順位を間違えない。オッタルに向かう雷を裂く。

 オッタルは衝撃波を防ぐがベルはどちらもまともに食らう。

 

「─────!?」

 

 身体が硬直し衝撃波に吹き飛ばされる。全身から煙を出しながら瓦礫の山に突っ込む。

 意識を失いそうになるが舌を噛み覚醒させる。

 天の牡牛は雷の鎧を失いオッタルの猛撃を浴びていた。

 

『【荒ベ天ノイ───』

 

 口内に飛び込んでくるオレンジの光線。オッタルはすぐさま飛び退く。

 

『──────』

 

 魔力暴発(イグニス・ファトゥス)。魔力が暴走自らを爆弾に変えた天の牡牛はぐらりとその巨体を傾ける。

 ()()、終わらない。

 

『【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊(トニトルス)(イカズチ)ノ化身(イカズチ)女王(オウ)──】』

 

 オッタルが攻撃に警戒する。しかし狙いは彼女にとって最大の脅威であるオッタルではない。

 

『【サンダー・レイ】』

「───ッ!」

 

 狙いはベル。猛牛の下半身をオッタルに向けながら女の身体を大きく捻りベルに向かって手を伸ばす。

 防御しようとしていたオッタルもオッタルの前に誘導用の雷を放とうとしていたベルも反応が遅れる。

 

「ガ、ア───!」

『アーハハハハハハッ!』

 

 雷を逸らすベルの胸を大きく抉る。

 

『【荒ベ天ノ怒リヨ】』

 

 すぐさま唱える第二の魔法。

 

『【カエルム・ヴェール】』

 

 再び纏われる雷の鎧。ニィ、と笑みを浮かべる。

 

【放電】(ディステル)

 

 全方位に放たれる雷の網を放つ。オッタルは地面を大剣でめくり上げるも威力を幾分か落とすだけ。全身を焼く雷はオッタルの肉体を麻痺させる。その一瞬の硬直を見逃さず突進してくる天の牡牛。超硬金属(アダマンタイト)すらその気になれば破壊できる突進力にオッタルの巨体が吹っ飛ぶ。

 瓦礫の山を幾つも貫き漸く止まる。

 

『ウフフ。コレデオ終イ………』

 

 と、オッタルに迫る天の牡牛。オッタルは血を拭いながら立ち上がり天の牡牛を睨みつける。

 

「なめるなよ……」

『アハハ。強ガリ強ガリ───』

()()()はあのお方が見初めた男だ」

『? ───!?』

 

 ゾワリと背後から感じる殺気。振り向こうとする前に身体の下に黒紫の軌跡を残した影が通る。

 

「う、おおおぉぉぉぉぉっ!!」

『ア──!!』

 

 腹にめり込む拳。メキメキと音が鳴る。それは拳から鳴る音。

 

『潰、レロ───!』

 

 体重をかけ下に侵入したベルを押しつぶそうとする天の牡牛。しかし、黒紫のオーラの一部が拳に集まり、身体が浮き上がる。

 

「らぁあああああ!」

『─────!』

 

 高く高く吹き飛ばされる巨体。目を見開く天の牡牛が見たのは胸の一部を回復させ隻腕の状態で腕を振り上げたベル。その拳は砕け腕はへし折れている。

 

「最強、根性見せろ!」

「───」

「その腕、いったん捨てろ」

 

 残りの蓄積(チャージ)分全てを折れた腕に集め黒雷に変えオッタルに差し向ける。

 

【轟け】(エルトール)!」

 

 迸った黒雷はオッタルの大剣に付与(エンチャント)され、大剣が鳴動する。

 

『【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊(トニトルス)(イカズチ)ノ化身(イカズチ)女王(オウ)】!!』

 

 その脅威を感じ取ったのか即座に詠唱を完成させる。

 

『【サンダー・レイ】!!』

「アダマントォッ!!」

 

 Lv.8の力で振るわれる大剣から放たれる黒雷の斬撃。腕が折れるのも気にせず殆ど溜めていたエネルギーは先程とは比べ物にならない。それがオッタルの剛力で振るわれた。

 

『ア───』

 

 先程の逆。

 一瞬の拮抗もなく黒雷が豪雷の矛を飲み込み突き進む。目を見開いた天の牡牛は黒雷に飲まれその身を消失させた。

 

 

 

 夕暮れの中祖父の背に揺られ帰った。

 大きな背中、力強い背中に揺られると、不思議と安心した。

 祖父は好きだった。真剣に鍛えてくれた。笑わなくなった自分をずっと愛してくれた。

 だからずっと悲しかったことがある。英雄の話を聞かせ寝かしつける祖父。ある日寝付けず、寝たふりをした日の祖父の言葉。

 

「すまないベル。こんな手しか使えない儂をどうか恨んでくれ……だが、信じている。何時かお前がお前を見つけられると」

 

 悲しそうな顔で言うのだ。そんな事を。

 祖父が言っていることは今でも解らない。ただ、祖父を悲しませてしまった事が今でも心残りだ。

 

 

 

「くそ、ベルの奴どこ行きやがった!」

 

 既にベル以外の団員は発見した。ベルだけが見付からない。

 

「や、やっぱりベルさんはあの女に………!」

「ざけんじゃねぇぞ!」

 

 顔を青くするラウルにベートが叫ぶ。胸倉を掴み持ち上げ睨みつける。

 

「彼奴がんな簡単にくたばるかよ! また潜る!」

 

 そう言って再び地下迷宮に向かおうとするベート。その肩をフィンが掴む。

 

「落ち着けベート。闇雲に探し回っても意味がないだろう」

「じゃあどうしろってんだ!? ここで大人しく待ってろってか!?」

「そうは言っていない。まず捜索隊を組む」

「わ、私も行きます!」

 

 フィンの言葉にレフィーヤが勢いよく手を挙げる。と、その時──

 

「その必要はない」

 

 と、そんな声が響いた。振り向けば全身の各所から血を流し火傷を負った腕で支えながらベルを背負ったオッタルが現れた。

 

「ベル!」

 

 レフィーヤが慌てて駆け寄るとオッタルはベルを下ろす。背負われて気付かなかったが片腕を失っていた。いや、服の損傷を見るに胸辺りを一度失っているようだ。

 

「…………何や、またお前か」

「今回は俺が傷つけたわけではない」

「……………」

 

 ロキは神故にその言葉に嘘がないことを見抜いた。

 

「モンスターに寄生し強化する女のような上半身を持ったモンスターと戦闘した。それだけだ」

「「「!?」」」

 

 その言葉に数名の団員が目を見開く。オッタルは心当たりがあるなら其方で話せと踵を返して歩き出した。

 

「とにかく、マジック・ポーションとエリクサーを、ベルの傷を治せ」

 

 

 

 

 

「…………それで、今回はどこまでが計算通りだったのですか?」

「殆ど俺の計算外だよ」

 

 そう、計算外。まさかイシュタルが『汚れた精霊』の端末である『精霊の分身』(デミ・スピリット)を使っているなんて誰が予想できたか。そしてそれを、たった2人で撃破するなど。

 

「つまりそれ以外は計算通りと………不穏分子(イシュタル・ファミリア)の壊滅が目的ですか?」

 

 イシュタルは食人花を扱える立場にいる。それを知ったヘルメスは即刻()()する事に決めた。

 イシュタルの嫉妬を、フレイヤの独占欲を、自分の地位を利用して今回の件を描いてみせた。

 

「あるいは娯楽? ………それとも、()()のつもりですか? 神()()が……」

 

 アスフィの刺々しい言葉に肩を竦めるヘルメス。

 

「風情、か……言うようになったねアスフィ」

「クラネルさんの殺気を浴びてしまいましたからね。アレに比べれば、少なくとも恩恵を持たずにでも殺せる貴方はそこまで恐ろしくない」

 

 その言葉に肩を竦める。

 

「………試練、ね…………世界は今正に『英雄』を欲している。世界に迫る危機に抗う駒が足りない。強力な切り札(ジョーカー)が……」

「それがクラネルさんだと? オッタルや、フィンではなく?」

「ああ。俺は大神の力を引くベル君にかける」

「育てられただけなのでは?」

 

 と、アスフィが首を傾げるとヘルメスは可笑しそうに笑った。

 

「ベル君はゼウスより力を賜りし現代の精霊………いや、半精霊だよ」

 

 異界より干渉してくる何かの存在にはゼウスはとっくに気付いてた。放置すればベルがそれに操られるだけの人形になり果ててしまうことも。それを防ぐ方法が此方の世界により強い繋がりを持たせること。つまり此方側の人間にしてしまうことだ。

 そのために有効なのは経験値(エクセリア)。この世界で成した結果をこの世界の神の力で反映させる。

 だがダンジョンも無い外で集められる量などたかが知れてる。故にゼウスは二つの選択肢を用意した。

 もとより強大な力を持つ存在の力をベルに与えること。黒竜の鱗か己の力だ。

 決断し、ゼウスは己の力を与えた。「古代」に神々が放ったようにベルの魂に少しずつ己の力を馴染ませた。

 それはつまり神の分身たる精霊と同義。ベルが狙われた理由はそれだ。

 

「ゼウス、貴方はそのことを責めていたが、誇るべきだ! おかげでベル君は彼処までの力を手に出来たのだから……」

「………何時か滅ぼされても知りませんよ」

 

 アスフィはそう言って長いため息を吐いた。

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