ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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ベートの魔法

──凄いじゃないか! 君はたくさんの人間を救ったんだよ? もっと喜ばなきゃ──

 

 靄が掛かったような夢の中、くぐもった声が賞賛してきた。

 

 誰だお前は?

 

 何時か聞いた、虚像の皮をかぶり話しかけてきた者とは、何か違う。

 

──えー、なんかすっごく警戒されてる。僕は()()とは違うのに──

 

 しょんぼりと落ち込む人影。やりにくい。

 

 第一、あんなの理想に届いてない。

 

──んーと、まさか誰かが傷つく前に全員助けられた、なんて言わないよね? そんなの不可能だよ、ナルトだって木の葉の里壊滅してから来たし一護だって護廷十三隊がやられてから来たしウシオだって妖怪が悪さしてから動くじゃないか──

 

 ………………お前、何者だ?

 

──え? うーん………あ、じゃあアナザー──

 

 中二病か?

 

 ふふん、どうだ? と胸を張る明らかに()()()の知識を持っている人影は、中二病の意味も理解しているのかショックを受けたようにうなだれた。

 

──まあ、良いか。うん、話せて良かった。君が彼奴に頼らず強くなってくれたおかげだよ。干渉の方は、なんとか抑えてみる──

 

 何の話だ。

 

──まあ任せてよ。君は君らしく、君の望むままに生きればいい。彼奴の暇つぶしなんかに乗る必要はない!──

 

 だから何の話をしている。

 

──こっちの話さ。じゃあそろそろ起きなよ。あ、昨日は歯磨きもせずに寝たんだから起きたらちゃんと磨くんだよ!大事なのは腰のフリ──

 

 踊りか何かか?

 

 

 

「…………………」

 

 うっすらと目を開けると霞んだ視界に人影が映る。長い髪、女性だろうか?

 どうも頭を撫でられているようだ。

 

「………母さん?」

「………………」

 

 目が覚めた。

 母親じゃなかった。今世の母親は知らないが前世の母親とは似てもいない。

 

「…………………」

「……………?」

 

 人形のような無表情な顔の周りに花が浮かんだような気がしたが気のせいだろうか?

 

「こ、これが母性本能?」

「……………状況は?」

「え? あ、えっと………お、襲われたアマゾネスは全員無事です。貴方と【ロキ・ファミリア】、【カーリー・ファミリア】の尽力もあり、死者はいません」

「そうか………良かった。役に立てたようだ」

「ええ、とても………」

 

 そのまま再び頭を撫でてくる。無表情だがとてもほっこりしているようだ。

 

「で、襲撃犯共は?」

「主犯格と思われる女性は仲間数人を犠牲に逃走したそうです。今は【ロキ・ファミリア】、【カーリー・ファミリア】が【勇者】(ブレイバー)の指揮の下捜索中です………」

 

 フィンが指揮しているなら間違っても取り逃がすことはないだろう。後は時間の問題だ。

 問題はレヴィスか『精霊の分身』(デミ・スピリット)が動くかだ………。まあこの可能性は低いと思うが。

 

「………………」

 

 暗殺者達は【セクメト・ファミリア】の団員らしい。事情聴取する前に皆自害したらしい。

 

「つまりまだ捕まってないんだな?」

「はい」

 

 

 

 

 

「起きたか………」

「ベート?」

「…………付いて来い」

 

 【ディアンケヒト・ファミリア】から出たベルを出迎えたのはベートだった。外は雨が降っており傘もささずにずぶ濡れになっていた。

 

「………付いて来い、って……何処に?」

闇派閥(イヴィルス)共の所だよ…………」

 

 

 

 

 暗殺者達の血が舞う。

 クルクルと舞う首を別の暗殺者に蹴りつけ怯んだ暗殺者の二つの頭を壁に押しつけ一つにする。

 

「殺せ!」

「殺せぇ!」

 

 暗殺者達が叫ぶ。白い髪が闇に溶ける。赤い瞳が闇に光る。

 暗殺者達は混乱していた。

 闇は自分達の領域の筈だ。闇は自分達の独壇場の筈だ。

 なのに何故見失う。何故狩られる。

 ギギギと軋むような音が闇の中から響き渡り恐怖を煽る。

 

「終わり……」

 

 ズブリと背後から心臓を貫かれる。同志達から奪ったであろう呪いの短剣。

 

「あ、が……何故………」

「兎は地下に住むんだよ。闇の中で兎に勝てると思うな」

 

 白い髪に赤い瞳、兎のような少年は短剣を抜き最後の暗殺者を血の池に沈めた。

 

 

 

「………ベル」

「ん?」

 

 闇に紛れ、闇の中にいる暗殺者を見つけあっと言う間に狩り尽くしたベルにベートは声をかける。

 

「お前は強いな」

「………ありがとう?」

「今なら守れなかった者も守れるだろうよ」

「そうか………」

「だがな、失った者は守れない」

 

 ピタリとベルの動きが止まる。瞳が揺れるのを見てベートはふん、と鼻を鳴らす。

 

「守れなかった者の代わりなんざつくれねーよ。俺が(ルーナ)幼馴染(レーネ)………そして彼奴の代わりを見つけられないようにな」

「…………」

「けど、おんなじぐらい大切な奴は見つけることが出来る」

 

 ベルの瞳がまた揺れる。

 

「それは決して代わりにゃならないが、傷を癒してくれる」

「……………」

「だから今を見ろベル。弱さを嫌うのは良い。けど過去(弱かった事)を否定するな」

 

 全く良くもそんな台詞を吐けるものだ。

 過去を否定したがっているのは自分もだろうに。

 

「雑魚は奪われるだけだ。だから奪われたくないなら強くなりゃいい。お前もそう思ってんだろ? けど、それは過去があったからだ………」

 

 ベルの【操作画面】(メニュー)の案内の下ベート達は歓楽街跡地の地下にやってくる。

 

「───よく来たなぁ、【凶狼】(ヴァナルガンド)! 【殺戮兎】(ヴォーパル・バニー)!」

 

 女性とは思えない馬鹿でかい肉声が響き渡る。地下空間の中央、柱の陰から長外套(オーバーコート)を翻すヴァレッタが姿を現した。

 

「ひひひひひっ。二人だけで来るとはなぁ………クソムカつく【凶狼】(ヴァナルガンド)はともかくよぉ、クソガキはこの手でぶち殺してやりたかったんだよなぁ!」

「………………」

「ひひひひひひひひひっ。四肢を斬っても治るんだってなぁ? ならよぉ、杭で打ちつけて固定して好き放題陵辱(おか)して目ン玉や股の球を食わせ続けてやるぜ!」

「………………」

 

 ヘスティア・ソードと牛若丸を構えるベル。ベートはそのベルの肩を掴んで下がらせる。

 

「?」

「下がってろ………」

 

 一歩前に出るベート。フィン達には無理を言って二人だけにして貰った。

 

「離れてよく見てろベル。これが弱さを受け入れる(強  く  な  る)って事だ───【戒められし、悪狼(フロス)の王──】」

「なっ……【凶狼】(ヴァナルガンド)が魔法!?」

「……………」

 

 驚愕するヴァレッタ同様目を見開いていた。

 ベートは肉体一つで敵を蹴散らす前衛特化。それを補助する為のメタルブーツ、魔法を代用する特殊武装(スペリオルズ)を使っていたはず。しかしむざむざ魔法を使わせるほどヴァレッタは呑気ではない。

 

「ぼさっとしてんなぁ! さっさと焼き殺しちまえ!」

「は、はっ!」

 

 ヴァレッタの怒号に魔剣を持つ者達に声をかけるもベルがナイフを投擲して殺す。

 このまま殺しに行った方が早い。だが、ベートの言葉を思い出し威嚇だけにすませる。

 

「【一傷(いっしょう)拘束(ゲルギア)二傷(にしょう)痛叫(ゲオル)三傷(さんしょう)打杭(セビテ)。餓えなる(ぜん)が唯一の希望。川を築き、血潮と交ざり、涙を洗え】」

 

 この魔法を使う気など無かった。過去を思い出すから。

 

「【癒せぬ傷よ、忘れるな。この怒りとこの憎悪、汝の惰弱と汝の烈火】」

 

 詠唱文を含め『魔法』は本人の資質、そして心に持っている想いを反映する。だからこの魔法が嫌いだ。

 

「【世界(すべて)を憎み、摂理(すべて)を認め、(すべて)を枯らせ】」

 

 この呪文はベートの『弱さ』を知らしめてしまうものだから。目を背け続けている『傷』に気付かせてしまう。

 

「【傷を牙に、慟哭(こえ)猛哮(たけび)に───喪いし血肉(ともがら)を力に】」

 

 だが、その傷に目を向ける。過去を、救えなかった弱かった頃を否定しようと今を生きれない馬鹿のために。

 

「何やってんだぁ!? 無能共、さっさと動けぇ! 魔剣で焼けぇ!」

「し、しかし…………!!」

 

 ヴァレッタの叫びとベルの殺気の板挟みに震える残党達は全く動けない。

 

「【解き放たれる縛鎖(ばくさ)、轟く天叫。怒りの系譜よ、この身に代わり月を喰らえ、数多を飲み干せ】」

「早くしろぉ! ぶち殺すぞ!」

「う、うわぁぁ!」

 

 やがて動き出す残党達。だが───

 

「【その炎牙(きば)をもって───平らげろ】」

 

 詠唱が完成する。魔力の流れにベルが距離を取る。

 

「【ハティ】」

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