ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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黒炎の狼王

 炎が燃える。

 闇を煌々と照らす炎。ベートの四肢に絡み付く炎。

 

「はっ……はは! 何だよ、散々勿体ぶっといてただの付与魔法(エンチャント)かよ!」

 

 確かにその見た目は付与魔法(エンチャント)そのもの。盾ほどしかない炎は確かに触れれば脅威だが触れなければどうという事はない。

 

「ベル、巻き込まれたくねーなら下がってろ」

「おらぁ! さっさと魔剣で焼き尽くせぇ!」

 

 ヴァレッタの叫びに再び魔剣を振るう残党達。ベルは下がっている。邪魔はない………炎は、雷は、ベートに向かって飛び、爆発する────()()()()()()

 

「…………あ?」

 

 ベートが鬱陶しげに手を振ると魔法は消え去り炎はより強く燃える。まるでもっと寄越せと強請るように蠢く。

 

「ま、魔法を………」

「喰って……る?」

 

 そう、まるで魔法を喰い餓えていた獣が暴れるように。そしてそれは間違いではない。

 それがベートの魔法【ハティ】。

 能力は損傷吸収(ダメージドレイン)魔法吸収(マジックドレイン)。傷付けば傷付くほど、命の危機に対して強く燃え上がり、魔法を喰らい火力を増す。

 追い込まれようと………否、自分(強者)を追い込む敵だからこそここで確実に焼き尽くしたいともっと力を願い敵の力すら喰らうようになった餓狼の牙。

 

「これが俺の魔法。家族(すべて)死なせ(喪い)仲間(すべて)否定して(失って)、力を求め続けて得た牙だ。これなら仲間を守れる。これがあれば守れたはずだった……これはな、喪った過去が、弱かった自分があったからこそ、強くなろうと思えたからこそ得た『弱者の咆哮』だ」

 

 ベルは、応えない。応えられない。

 だって彼は成り代わりなのだ。存在して良いはずがない。確かに友を喪いもした。だが自分が持つ全ては、本物が手に入れるはずだったもの。生まれてくるはずの命を奪い、居座り……そんなの許されるはずがない。

 だからベルは自分を認めることができない。友は作ろう、だが家族も恋人も必要ない。その筈だ、筈なのに………揺れる。

 

「………俺は、弱くなったのか?」

「強くなったさ……そうやって感じる余裕ができる程度にゃ。すり減って、追いつめてた心が、手を伸ばせなくなってた心が周りを求める程度には」

 

──感じる余裕ができたんですよ。すり減った心が、戻っているんです──

 

 それは何時か聞いた少女の言葉と同じだった。

 あの時、あの場にベートはいなかったはずだ。後から聞くとも思えないし、聞いた言葉を言うとは思えない。ならばこれはベートの本心なのだろう。

 ベートとて同じだった。弱い奴らが、奪われるだけの弱者が嫌いで、喪った自分と、死んでしまった一族と恋人に重ねて、その度に心は擦り切れた。

 けど何時しか同じぐらい大切な奴らが増えて、そいつ等にも強くなってほしくて、罵倒してアマゾネス達が突っかかってエルフの女王達が諫める今が暖かかった。

 

「だから笑えベル。今じゃなくても良い、何時かは必ずな」

「………………」

「おいおいおいおい! なぁに私等無視して話し込んでんだよぉ!」

 

 と、ヴァレッタが叫んだ。

 その顔には僅かに焦りが見えているが、それでも負けるとは思っていないようだ。大方何か罠が仕掛けてあるのだろう。それも、Lv.をひっくり返せる何か。彼女自身強力な【呪詛】(カース)でも持っているのかもしれない。だが、関係ない………。

 

「ベル、消し飛ばすぞ。力を貸せ」

「…………ああ」

 

 バチリと黒雷が弾ける。

 

【轟け】(エルトール)……」

 

 ベルの【エルトール】は()()()()。ベートの身に纏わりついた黒雷は炎に喰われ、炎は黒雷を喰らい黒く染まる。

 

「死ね……」

 

 それは錯覚か幻覚か、黒炎の形が巨狼のアギトに見えた。それがヴァレッタ達が最期に見た光景。悲鳴も、恐怖も、絶望も、混乱も何一つ行えず灰すら残らず焼き尽くされた。

 

 

 

 

「やー、二人とも派手にやったなぁ」

「ベルくん! 怪我はないかい!?」

 

 夜空の星々を飲み込みそうなほどの黒い炎の柱を見た冒険者達は現場に駆けつけ、報告を受けたのか二人の主神がやってきた。

 

「ちゅーかなんやねんあの黒い炎。神々が狂喜間違いなしやぞ」

「一言で言うなら合体技」

「それ余計にテンション上がりそうだね」

 

 ロキの言葉にベルが端的に返すと呆れたような顔をするヘスティア。

 二人だけで対処させると聞いた時はフィンに食ってかかったが、この天井が消し飛び穴と化した地下を見れば寧ろ巻き込まないための対処だったのかと納得できる。

 

「それで、ベート……どうせベルっちに言いたいこと言ったんやろ? なら、言い出しっぺも変わらなあかんと思うで?」

「あん? 何のことだ」

「そりゃ今の家族を嫌ったままじゃあかんちゅーことや。今を受け入れろ的なこと言ったんやろ?」

「はん、くだらねー」

 

 と、ニヤニヤ笑うロキに吐き捨てるベート。おん? と首を傾げるロキ。

 ベルはん? と瓦礫の山を見る。

 

「俺は雑魚は嫌いだ。だけど別に、彼奴等を嫌ってる訳じゃねーよ」

「………おお」

「………あ」

 

 その言葉にヘスティアが感心したように目を見開いてベルが思わずと言った風に声を漏らす。

 

「だ、そうやで皆ー」

「あ?」

 

 ロキが振り返ると瓦礫の影から【ロキ・ファミリア】の面々が出てくる。

 

「本当にデレた。彼がツンデレってロキの冗談かと思ってた」

 

 と、ヘスティアが呟くがベートは固まったままゾロゾロ出てきた【ロキ・ファミリア】の面々を見ていた。

 

「いやー、嫌ってないとか照れるねー」「やっぱりベートさんは優しいですね」「私は? 私は嫌ってないよねベート・ローガ!」「『だけど別に、彼奴等を嫌ってる訳じゃねーよ』、痺れましたベートさん!」

「誤解しててすいません!」「これが神様の言う『萌え』なんですね!」「『つんでれ』!」「ツンデレだ!」

「ツンデレベートさんちぃーす!」

「ツンデレベートさん素敵っすね!」

「ツンデレベート・ローガ子供作ろう!」

「────てめぇらぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

『あっすいませんっ許してっギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

 調子に乗った団員達にベートの怒りが炸裂する。

 この光景前にも見たな。と、ベルは眺める。

 

「なあ、レフィーヤ」

「はい?」

 

 同じくその光景に既視感を覚えて苦笑していたレフィーヤはベルの言葉に振り返る。

 

「俺は今を見てないのか?」

「見てませんよ」

「過去を、罪を乗り越えてしまって良いのか?」

「それは、どうでしょう………でも、乗り越えることと忘れることは違うんだと思います」

 

 

 

 翌日の昼。ダンジョンに潜らず趣味や鍛錬も一区切り付け食堂へ向かう団員達は開け放たれた窓から聞こえた声に目を見開くことになる。

 

「Lv.7来たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「「「はぁ!?」」」

 

 

 

ベート・ローガのステイタス

 

『Lv.6→7

 力:I0

 耐久:I0

 器用:I0

 敏捷:I0

 魔力:I0

狩人:G

耐異常:G

拳打:G

魔防:H

狼王:I

《魔法》

【ハティ】

付与魔法(エンチャント)

・炎属性

魔法吸収(マジックドレイン)

損傷吸収(ダメージドレイン)

《スキル》

【月下狼哮】(ウールヴヘジン)

・月下条件達成時のみ発動

・獣化。全アビリティ能力超高補正

・異常無効

【孤狼疾駆】(フェンリスヴォルフ)

・走行速度強化

【双狼追駆】(ソルマーニ)

・加速時における『力』と『俊敏』のアビリティ強化

【狼王の意地】(フェンリル・プライド)

・晩成する

・意地を通す限り効果継続

・意地が強いほど効果向上

【双頭狼】(オルトロス)

・ある個人との共闘において両者全アビリティ能力微補正

・ある個人との共闘時における経験値補正   』

 

 

 

 

 それは世界の終わりのような光景だった。

 数多のモンスターを引き連れ支配者であるかのように進軍する兎。相対するは槍を持った小さな勇者を筆頭にした人間の戦力。

 そこから飛び出すは美しい女性の形をした風。周りのモンスターには目もくれず、兎のみを狙い暴風を放つ。雷を放ち抵抗する兎だがやがて力尽き風の精霊はその首を掴む。その手には段々と力が籠もっていきバタバタ暴れていた兎もやがてピクピク震えるだけ。

 

ゴキリ

 

 不快な音が響き兎は動かなくなった。

 

 

 

 

「………誰だ?」

 

 武器の手入れをしていたベルは扉が叩かれる前に人の気配を感じて問いかける。驚いたような気配の後、扉が少し開き寝間着姿のカサンドラが顔を半分覗かせる。

 

「あ、あの………その、怖い夢を見まして………」

「………入って良いぞ」

「…………!」

 

 ベルは武器を異空間に収納する。カサンドラは枕を抱えたままテテテと駆け寄ってきた。そのままベッドに座る。

 

「………あの、ベルさんは……人間嫌いですか?」

「別に。胸を張って好きとは言えないが、守るべき存在だと思っている」

「モンスターは?」

「そりゃ……倒すべきなんだろうな」

「………?」

「曖昧で悪いな。そりゃ、俺なら……ベル・クラネルならきっと人を襲うモンスターを倒さなくちゃいけないんだと思う。けど最近、周りの連中のせいで……おかげ、か? まあ、とにかくよく解らなくなった。けど、まあ……そうだな、倒すべき存在だろ」

「そう、そうですよね………」

 

 そもそもモンスターと人間が共に歩くことなど出来るはずがない。もちろんレヴィスという女については聞いたが、夢の光景は比較にならない程の様々な種族がいた。

 だからきっとアレは、ただの夢だ。全ての夢が予知夢になったわけではないのだから。アレはただの怖い夢。

 

「………眠れないか?」

「…………はい」

「…………仕方ない。今夜は一緒に寝てやる」

「へ? あ、いやそんな! ……………良いんですか?」

 

 顔を赤くして慌てるカサンドラだったが、枕で顔を隠した後少しだけ覗かせ尋ねてくる。

 

「いやか?」

「いやじゃありません!」

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