ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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ヴェルフ・クロッゾ

「……………」

 

 ベート・ローガがLv.7になった。自分とは二つ差だ。

 負けていられない。もっと強くならなくては。

 ダンジョンに潜りモンスターを狩るベル。が、不意に足を止める。

 

「………20階層まで、か………」

 

 それがベルに許された単独行動可能な階層。【ロキ・ファミリア】の面々は、現在戦争に赴いている。

 敵はラキア。そのラキアの進行にオラリオの住人は思う。

 『あぁ、またか』

 と。

 戦争と聞き、しかも負け続きのくせに懲りずに六回目と聞きラキアのトップにして主神の『軍神アレス』をぶち殺そうかと思ったベルだったが聞けば死者すら出ないお遊びみたいなものだとか。

 平和で実に羨ましい。自分が経験した戦争では常に死が溢れていたというのに。

 

「…………ラキア、か」

 

 そういえば以前勧誘されたなぁ、と懐かしんだ。

 

 

 

 

 

 【ヘファイストス・ファミリア】でヴェルフ・クロッゾは目の前の男を睨みつける。が、その睨みには今一つ覇気が籠もっていない。恐れているのだ、目の前の相手を。

 しかし誰が責められようか。

 

「もう一度言う。魔剣を作ってくれ」

「あんたにゃ、そんなの必要ないだろ。帰ってくれ……つーか、ラキアとの戦争は良いのか」

 

 目の前の男は【フレイヤ・ファミリア】所属の【猛者】(おうじゃ)オッタル。世界唯一のLv.8の、世界最高の冒険者。

 それが魔剣を造ってくれと自分の下に現れた。普通の鍛冶師なら喜んで頭を縦に振る事だろう。 

 

「以前決着を付けられなかった者がいる」

「あんたが?」

「次戦い、もし負けた時武器の性能差という言い訳を残したくないのだ。そのためには、血筋に拘らず己を鍛えた鍛冶師であり、クロッゾでもあるお前の魔剣が必要だ」

「俺はクロッゾじゃねぇ。ヴェルフだ……」

「確かに使用限界のある魔剣は俺も好かん。だが、ただ一戦のためにどうしてもいるのだ」

「…………ああ、くそ。解ったよ! 一振りだけだ、能力は?」

「感謝する。能力は過重と雷撃だ。出来るか?」

「二つか………その上であんたの膂力に耐えられるとなると、相当な材料がいる。俺の腕じゃなぁ……」

 

 魔剣としての能力は確かに付与できる。だが、剣としての性能を加えると別だ。

 少し天狗になっていたのは認める。だが、目の前の男の持つ大剣を少しでも見れば伸びかけた鼻なんて簡単にへし折れる。

 だからあっさり素材に頼るしかないと暴露する。

 

「これを使え」

「…………これは?」

 

 目の前に置かれたのは布の包まれた何か。めくると出て来たのは巨大な角だ。

 

「以前戦った強力なモンスターのドロップアイテムだ。雷を使っていたので、俺の望む魔剣の素材としては最高の物だと思っている」

「………………」

「それと、これは俺の勝手な評価だ。気にせずとも構わない」

 

 と、オッタルは周りに立て掛けれている剣を眺める。

 

「お前にも信念があるのだろう。それを貫くのは、お前は周りの評価も相まって並大抵のモノではない。だが、信念で命を守れないこともある。それが己の命ならどうでも良い。だが、時に救えた命も救えなくなると知れ」

「…………………」

 

 

 

「オッタルめ、サラッとドロップアイテム持ってきやがったか……」

 

 ヴェルフはベルを誘い酒場に来ていた。オッタルが戦ったというモンスターに心当たりがあるのかベルは不機嫌そうだ。というか言い方からして共闘でもしたのだろうか?

 

「なあ、俺は魔剣を造るべきだと思うか?」

「造る造らないで言うなら造るべきだろうよ。それ一つあるだけでダンジョンの攻略も早まるし死者も減る………というか一つ質問なんだが、不壊属性(デュランダル)も魔剣の一種じゃないのか?」

「あー、言われてみれば特殊な力だもんな」

「特殊といえばこれもそうだが………」

 

 と、ヘスティア・ソードを取り出すベル。ヴェルフはその刀身を眺める。ベルが手放せば忽ちナマクラに変わる剣。

 生きていて、ベルと共に進化する剣。

 

「それ、今はどんな感じだ」

付与(エンチャント)時の違和感が少なくなってきていた。今は殆ど無いって言っても良いな」

 

 神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれた神の眷属たる剣。ならば何らかの特殊な力に目覚めている可能性も否定できない。何せ神の眷属は何時だって様々なスキルに目覚めているのだから。

 

「まあ俺は防具さえ造ってくれれば良いさ。砕ける魔剣にゃ興味ない。その一戦だけは対等でありたいと思う奴も、もう殺したしそもそも俺には付与魔法(エンチャント)がある」

「まあ実質全部魔剣だわな」

 

 ベルの言葉にはは、と笑うヴェルフ。

 

「………なぁ、ベル」

「あん?」

「魔剣を打たせてくれ。まずはお前のために」

「………そうか、頼む」

「ただ、魔剣を最初に見せたい相手がいるんだ」

 

 

 

 

「それでよ、魔剣を見せた後、つい告白しちまってよぉ。全くあの人はよぉ、俺の熱はあの程度じゃ冷めねーってのに」

「その話は三度目だ………」

 

 

 

「全く主神様と来たら15回も同じ話をしてな……」

「俺もあの後11回ほど………」

 

 惚気話に付き合わされたベルと椿の二人は街中で偶然遭遇し、何となくお互い察しどちらともなく酒に誘った。

 

「ふむ。しかし前は破傷風でも起こしそうだったが、大分錆が落ちたな」

「?」

「どうだベルよ。手前がお前に武器防具をこしらえてやろうか?」

「必要ない」

「むぅ。これでも手前は知る人ぞ知る鍛冶師なのだぞ?」

「知ってるよ。けど、俺はヴェルフにぞっこんなんだよ」

「ほぅ、鍛冶師冥利に尽きる言葉だ。先に唾を付けられず残念だ。おおそうだ、お主はどんな魔剣を造ってもらったのだ?」

「これだ」

 

 と、机の上に置かれるのは黒い剣。椿は剣を手に取りふむ、と眺める。

 

「剣としての性能は……ヴェル吉め、個人のためになら多少腕は上がるか。これの属性は?」

「魔法破壊だとよ。つくづく彼奴らしい」

 

 ヴェルフの対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)を思い出し呟くと椿も違いないと笑った。




【アポロン・ファミリア】戦でヴェルフの魔剣出番無かったからね、親父達も来ない。
来たとしても魔剣造ってもらわなきゃ行けないオッタルが動く……むしろ来なくて良かったな

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