ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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理知を持つ獣

 ベルはダイダロス通りを歩く。と、不意に建物の陰から音も気配もなく人影が現れた。

 

「よお旦那」

「ディックス………約束のものは?」

「持ってきたぜ。旦那の趣味に合うのを見つけるのに一苦労してよぉ」

 

 現れたのはディックス。渡してきたのは呪われた短剣。

 以前戦ったレヴィスは自分に匹敵する再生能力を持っていた。その対策のためにディックスに用意させたのだ。

 

「取り敢えずこれで何とか食いつけると良いんだが」

「あの化け物女に? ま、応援してるぜ」

 

 ゲラゲラ笑うディックス。向こうは魔石を食らって強くなる。

 今もきっと、前より確実に強くなっていることだろう。だからこそ通じる可能性がある限りどんな手でも使う。

 

「………ん? あれは、シル?」

「あん、旦那の知り合いか?」

 

 呪われた短剣を仕舞うとベルは不意に見知った顔を見つける。

 

 

「ヒュー。かなりの美人、旦那の恋人か?」

「友人だ。しかし何故ここに?」

 

 茶化すディックスを無視してシルの下に向かうベル。ディックスも付いてきた。

 

「シル」

「はい? あ、ベルさん! と………ええっと」

「あ、俺はディックス。旦那のパシりだ、よろしくな」

「はい。ベルさんの下僕ですね、よろしくお願いします」

「…………」

「冗談です」

 

 やりにくい女だ。それがディックスのシルに対する評価だった。

 

 

「わー白い!」

「変な眼鏡!」

「ねーねーその傷モンスターがつけたの!?」

「【ヴぉーぱる・ばにー】だー!」

 

 無数の子供達に引っ付かれるディックスとベル。二人とも高位冒険者なのでこの数に飛びつかれてもビクともしないがそれが面白かったのか子供達は二人の身体によじ登り始める。

 

「あぁ~、俺ガキって苦手だわ。旦那は?」

「子供は好きだ」

 

 と、腹の方からよじ登ってくる男の子の頭を撫でてやる。ここはどうやら孤児院らしい。シルも両親がおらず、似た境遇の子供達に料理を持って行ってたらしい。

 

「なぁなぁ、それよりダンジョンであったこと、聞かせてくれよ!?」

 

 そう言ったのはライと言う名の少年。

 ここの孤児院の子供達は皆冒険者になり、稼いで金を寄付しようとしたらしい。誰も帰ってこなかったので、孤児院の母であるアリアとしては目指してほしくないようだが。

 

「俺は良いと思うぜ。夢があるのは良いことだ。縛られねーのは幸福なことだ。なんなら、俺が鍛えてやろうか? ダンジョンのノウハウも教えてやるよ」

「ガキは苦手なんだろ?」

「夢を持てる奴は嫌いじゃねーんだよ。今は、だけどな」

 

 

 

「………まるで先生だな」

 

 宣言通りダンジョンについて教えているディックスを見てベルが呟く。子供達は真面目にディックスの話を聞いてふんふん頷いている。

 

──何見てやがんだよクソガキがぁ。知ってるぞてめぇ、最近冒険者になって、あっと言う間にランクアップしたんだろ? はっ! 才能に恵まれて、なりたいモノになれる奴が俺を見てんじゃねーよ!──

 

「…………まあ、楽しそうで何よりだ」

 

 しかしなりたいモノ、か。果たして自分は成れているのだろうか? 近付けているのだろうか?

 

──君は君らしく、君の望むままに生きればいい──

 

「───?」

 

 今のは、誰の言葉だ?

 つい最近聞いたような気もするが………。

 

「………ん? どうしたディックス」

 

 と、不意にディックスが此方によってきた。何やら面倒そうな顔をしている。

 

「何かよ、冒険者依頼(ク エ ス ト)申し込まれた」

 

 

 

 

 最近聞こえる謎の唸り声。その調査に赴き、ディックスとベルは地下に来た。瓦礫を退かしたらここに通じる道があったのだ。

 

「なぁ旦那、連れてきて良かったのか?」

「置いてきて、後で探検されても困るからな」

 

 ディックスは後ろを歩く子供達に視線を向け尋ねてきた。

 子供達というのは好奇心旺盛だ。放っておいて、離れた後勝手に入る可能性もある。その場合、ここで目を離すのは危険だ。

 この()()()()()では。

 

「いざという時はてめぇの『鍵』をフル活用しろ。優先は子供達とシル。ある程度把握しているお前だ。俺は一番に見捨てろ………特に、あの女が来たらな」

「まー、俺も密輸にしか使ってなかったから、他の奴らに比べると少し知らない部分もあるがな。この辺は知ってる。けど、彼奴等の潜伏先とは離れてるから大丈夫だと思うぜ」

「………それに、どうも護衛は俺らだけじゃないみたいだしな」

 

 子供達に聞こえないようにこそこそ話すディックスとベル。ベルがもっとも警戒しているのは、レヴィスが此方に気付くことだ。あの時の会話を思い出すに、本来の仕事を放り出してまでベルを殺そうとしていた。次に『精霊の分身』(デミ・スピリット)。まあそのどちらもベルだけを狙うだろうから囮になれば子供達は助けられるだろうが。

 

「…………居たぞ、モンスターだ」

 

 立ち止まりベルが呟く。子供達をより下がらせディックスに守らせる。そして、少しずつ前に進み現れたのはモンスター『バーバリアン』。

 

「───!?」

 

 バーバリアンは飛び退き大きく息を吸う。が、吐き出す前にベルが顎下に肘を打ち込む。 

 

「ヴゥ!?───オオォ!!」

「っ───!」

 

 仰け反ったバーバリアンは状態を戻すと同時にねじ曲がった角をベルに向けて突き出す。それを回避し頭を蹴りつけようとしたが防御され、拳が飛んできた。

 

【駆けろ】(エルトール)!」

 

 だが、ベルは星の磁界に介入し浮かび上がる。空振りした拳にバランスを崩したバーバリアンに切りかかると後ろ回し蹴りがベルを吹き飛ばした。

 

「ベルさん!」

「兄ちゃん!」

「ベルお兄ちゃん!」

 

 シル、ライ、ルゥが叫ぶ。何名かは息を呑む。ディックスが飛び出そうかと迷うが吹き飛ばされた通路の奥から飛んできた投擲ナイフを見てホッと息を吐く。

 

「モンスターが、格闘技?」

 

 ペッと口の中でも切ったのか血が混じった唾を吐き出す。

 このモンスター、妙だ。以前戦ったミノタウロスに通じる何かを感じる。

 

「………知性を持ちかけたモンスター、か?」

 

 だとしたら、危険だ。モンスターが人の知能を手に入れればどうなる?

 まずは強くなるために強化種となることを覚えるだろう。そう、危険だ。ならば英雄(ベル・クラネル)であるべき自分は───

 

「────殺す」

「ヴオオオォォォ!」

 

 疾駆するベルに拳を振り下ろすバーバリアン。ベルはそれをかわすと腕を駆け上り目に向かって剣を振り下ろ────

 

「旦那、待て! そいつは───! てめぇもだバーバリアン、ダンジョンの帰り道を知ってる!」

「「────!?」」

 

 ディックスの動きにピタリと止まるベルとバーバリアン。ベルはすぐさま動こうとしたが、まるでディックスの言葉を理解したように動きを止めたバーバリアンを見て固まる。

 

「───本当か?」

「な!?」

「え?」

「嘘!?」

「しゃべったぁぁぁ!?」

 

 ベルが瞠目し子供達が驚愕する。目の前のバーバリアンは、今、確かに人の言葉を発した。

 

「………本当に、戻れるのか? 仲間の下に、ダンジョンに……」

「ああ。約束する……何なら、俺がいない間に捕まったであろう奴等も後で解放してやる」

「……そうか、帰れるのか……皆、帰れるんだな」

 

 ひざを突き片手で顔を押さえるバーバリアンは、完全に人の言葉を話し人並みの知性を持っていた。

 

──何を迷う、殺すべきだろう。こいつはモンスターだ──

 

 そう、モンスターだ。だけど、良いのか? 泣いているんだぞ。帰れることを喜んでいるんだぞ。言葉が通じる、争わずに済む。殺してきた敵兵や盗賊、モンスター達とは違う。それを、殺して良いのか?

 

──目の前のこいつが、ダンジョンの根元に関わりが無いと何故言える? 言葉が通じようと化け物は化け物だ──

 

 そうだ。その可能性はある。

 ダンジョンのより深い、正体も掴めぬ何かに関わっているかもしれない。彼等が、この世界の所謂最後の敵組織なのかもしれない。

 

「……良かった、本当に……」

「モンスターさん、泣かないで」

「おいルゥ! 危ないぞ!」

「だって、泣いてるし……」

「た、確かに……可哀想」

「フィナまで、ああもう! お前もモンスターの癖に泣くな! それでも男か!?」

「………………」

 

 解りやすい悪なら、気にしなかった。

 街中で一般人にでも手を出してくれれば躊躇せずに、騒ぐ幻聴に身を任せ暴走できた。けど、無理だ。

 目の前でなく彼を、慰めに来た子供達を見てしまった。

 ベルは短剣を鞘に収め、壁に背を預ける。

 

「…………はは、なんだこれ……? どうするのが正しいんだ?」

 

 その呟きに、答える者は誰もいない。

 

 

 

 

「誰もいねーな」

「この時間帯はな。誰も逃げ出すなんざ思ってねー。丈夫な檻だしな……」

 

 ディックスの案内の下たどり着いたのは広い部屋。そこには無数の檻があり、様々なモンスターが居た。

 

「バーバル!? 何故戻っテきタ!?」

 

 と、モンスターの一体が当たり前のように口をきく。ラミアにハーピィの様な半女性型を始めウォーシャドウなどもいる。

 彼等皆が理知を宿しているのだろうか?

 

 

 

 

「ありがとう、本当に!」

「ベル、ディックス! 私たチアナタ達のコと忘れナい!」

「元気でなー! もう捕まるなよー!?」

「バーバルー! また肩にのせてねー!」

 

 手を振りダンジョンへと去っていくモンスター達。子供達も同様に手を振る。ベルは、何もせず彼等を見送った。

 

 

「いやぁ、全員無事帰せて何よりだよなぁ。ま、彼処はそもそも俺ら以外利用してないしな」

「利用、か……あの檻はお前の【ファミリア】の連中が?」

「…………ああ。今日は商会で出払ってた」

 

 と、ディックスが返す。ベルはそうか、と呟いた。

 

「俺も、交じってたんだよ。縛られて、苦しくて、モンスターの癖に夢見やがってって八つ当たりして! その事を、彼奴等に黙って!」

「…………縛られて、か………」

「旦那?」

「何でもねーよ。これは俺が選んだ道だ……」

 

 ディックスはその目に見覚えがあった。まるで、ベルに会う前の自分。

 

「旦那、俺をあんたの【ファミリア】に、入れてくれねーか?」

「…………本気か?」

「おう」

「………好きにしろ」

 

 

 

 

「そう、(シル)の護衛をしていたらそんな事が……」

「はい」

 

 美しき美の神フレイヤがクスクス笑う。その前に一人の男が跪いていた。

 彼の名はアレン。クノッソスでシル達をつけていた()()()の護衛。

 

「ふふ。それにしても苦悩するベルの顔、見たかったわ」

「………………」

 

 敬愛する主が別の男の名を出し頬を染めるのを見てアレンは歯軋りしそうになるが、不敬はせぬと堪える。

 

「でも、喋るモンスターね………オッタルは知ってるかしら?」

「はい。いずれ決着を付けるべき者が……」

「そのために魔剣を使わない貴方が魔剣を振るうのよね? その時が来たら是非言って?」

「は………」

 

 

 

 

 地中の奥深く、迷宮の壁に亀裂が走る。

 そこから青白い肌の腕が飛び出してくる。すぐに同色の肩、首、頭部、次には一気に上半身と下半身が出て、地面に落ちる。

 現れたのは青銀の髪を持つ可愛らしい少女。周囲を見回し、口を開く。

 

「………ここ、どこ?」

 

 その異端を、果たしてダンジョンは把握しているのかいないのか。

 いたとして、ならば何故生み出したのか。

 それは解らない。解ることは一つだけ。彼女との邂逅が、少年を蝕む鎖を破壊する切っ掛けになるという事だけだ。

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