ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「やったぁぁぁぁ! 三人目だぁぁぁぁ!」
ヘスティアの大声が黄昏の館に木霊する。ディックスはチラリとベルを見る。
「ウチ零細なんだよ。【ロキ・ファミリア】の傘下ではあるけどな」
「あー、そういやそんな話聞いたな」
と、ディックスがベルとの会話を思い出す。
「おーう、戻ったでー。ん? 誰やそのステキゴーグル」
と、ラキアとの戦争も終わったのか戻ってきた【ロキ・ファミリア】の面々。見覚えのない男、ディックスにロキが首を傾げた。
「てめぇはあの時の!」
「………あ」
が、ベートが叫びアイズが反応する。僅かだが数名の団員達もだ。
「なんや知り合いかベート」
「クノッソスで俺に鍵を渡してきた野郎だ」
「…………ほう?」
ベートの言葉にロキが目を僅かに開く。
フィンやリヴェリアも目を細めてディックスを見つめる。
「それは、まずは感謝しておくべきかな。それで、君は何者だ?」
「クノッソスを造ろうとしたダイダロスの子孫だよ。本来なら『呪縛』を受けて彼処を造らずにはいられねーが、俺は旦那にそれ破壊してもらってな」
「呪縛?」
「おおよ。ダイダロスは迷宮を完成させるのに寿命が足りんと考え自分の血筋が見るとクノッソスを完成させることが悲願になるように価値観を植え付ける手帳を残したのさ」
お前等も災難だったな、と笑うディックス。
「俺はやめた。縛られんのは御免だからな」
「ふぅん……そうかい。なら、僕等の味方をするって事で良いのかな?」
「おうよ。旦那の命令ならな」
「嘘は言ってへんよ」
ロキの言葉にそうかい、と呟くフィン。
「なら、クノッソスの地図でも貰おうか」
「りょーかい。なら、地図を書くから暫く時間くれ。彼処は広いんだよ………あ、俺が覚えてる範囲でいいか?」
「構わないよ」
その後は戦勝祝い。まあ勝つと解っていた戦争だが騒げる理由があるなら騒ぐのが【ロキ・ファミリア】だ。僅か三名の傘下【ヘスティア・ファミリア】もそれに従う。
「ううぅぅ。折角お邪魔虫が減ってたのに、アレスめ、もう少し頑張れよぉ!」
「ティオナやレフィーヤが戻ってきてベルと話しているからといって、戦争の継続を望むな」
酒を飲み拗ねているヘスティアに落ち着くよう説得するリヴェリア。ヘスティアの視線の先には今回の戦争でどんな活躍したかを話すティオナとどんな事をしていたのか尋ねるレフィーヤ。アイズも話したそうにしている。
「むー。ベル君は僕のなのに~!」
「ベルは誰のモノでもないよ」
アイズが絡んだ時のロキなみに面倒くさいなこのロリ巨乳。
と、不意にリヴェリアもベルを見つめる。会った時は無表情で人形のようで、冷たい印象を受けたがだいぶ人間らしくなった。いい傾向だ、と微笑を浮かべた。
「ベル、楽しんでいるか?」
「まあ……」
バルコニーで夜風に当たっていたベルに話しかける。グラス片手に夜空を見上げるベルはだいぶ飲んだのか頬は仄かに赤い。
「ここには慣れたか?」
「………ああ」
「そうか………なあ、一つ聞いて良いか?」
それはほんの軽い疑問。余りにも荒唐無稽で、リヴェリア自身ほんの話の冗談のつもりでそれを尋ねた。尋ねてしまった。
「お前は、この世界の外から来たのか?」
「────」
「──何て、馬鹿な事を聞いたな………ベル?」
赤かった顔が青くなり、目を見開いたベルはグラスを落とす。
ガシャンと音を立てて砕け散ったグラスは中身をぶちまけ床を赤く染める。
「お、おい……どうした? 大丈夫か───」
「────ッ!」
「ベル!?」
リヴェリアが落ち着かせようと声をかけるも、ベルは突然逃げ出した。
バルコニーから飛び降り夜闇に消える。リヴェリアが伸ばした手は何も掴めず空を凪いだ。周りの視線が集まる中、リヴェリアは己の手を見る。掴んでやることの出来なかった手を。
「………私の、せいか?」
私が、泣かせてしまったのか?
逃げ出す前に見せた顔は、それこそ泣き出しそうな幼子の顔をしていた。
知られたくない秘密を知られてしまったような、罪悪感に押しつぶされそうな顔。
それがベルにとってどんな事を意味するのかも考えず踏み込んでしまった。
「………っ! 何をしているんだ、私は」
どうしてバレた?
何時バレた?
何で、どうして、どうやって………。
様々な疑問が浮かぶ中ベルが取った行動は、逃避だった。一度足を止め、胃の中のモノを吐き出す。
身体を押しつぶすようなこの感覚は、罪悪感。自分が生きていることを許せない感情。
ここ数ヶ月の間に少しずつ薄れていったそれは完全に復活しベルを苛む。
「………本当に、弱くなってたものだ」
ほんの数ヶ月前は常に共にあったというのに、これだ。精神安定がなければ発狂でもしてたかもしれない。
「……この世界の外、か………」
ああその通りだ。
自分はこの世界の存在じゃない。本来生まれるはずの命を奪い住み着き我が物顔で生きてきた。
本来なら多くを救っていたであろう者の居場所を奪って、だ。
責められるのだろうか?
罵倒されるのだろうか?
拒絶されるのだろうか?
否定されるのだろうか?
「………イヤだな、どれも」
そうだ、イヤだ。昔はされて当然と思っていた仕打ちなのに。イヤだ。
どうしてよりによって今バレてしまう。もっと昔なら、ほんの少し前なら……。
──君は奪った、僕から全てを──
──そこは僕の場所だ。返せ──
──呪われろ呪われろ──
──偽物め──
──無力なくせに──
──英雄の真似事をして、地獄に堕ちろ──
魔法は本人の心に持っている想いを反映する。なる程嫉妬から生まれていた蛇は消えた……だが、ベルのステイタスが物語る。自分を許せないと………。
「………強く、ならなきゃ」
そうだ、強くならねば。誰よりも、何よりも、本物よりも。
強くなって守らなくては。
あれはきっと良くないものだ。
あれはきっと恐ろしいものだ。
物陰から兎を観察するモンスターは、その兎をそう評した。
自分を襲ってきた姿も形も違う同族達を一瞬で切り裂いた。
壊して裂いて焼いて砕いて貫いて潰して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺してる
『少女』を見て驚愕し、敵意を露わに襲ってきた者達と同じ人間。見てきた中で一番強い。一番怖い。
ああ、なのに、それなのに……
あれはきっと悲しんでいる。
あれはきっと苦しんでいる。
あれはきっと怯えている。
あれはきっと嘆いている。
あれはきっと独りきり。あれはきっと自分と同じ。
近付いたら危ない。やめろ、と本能が警告する。話しかけちゃ駄目だと叫んでいる。
それでも、同族にすら拒絶されるの忌子の竜種の少女は彼に近付く。赤い瞳と目が合う。息が詰まる。それでも少女は声をかけた。
「───貴方は、誰?」
「─────」
答えない。ただ、息を呑む音が聞こえた。
殺気は動揺に変わり、『少女』は『少年』に近付く。触れ合えそうな距離で、『少女』は再び尋ねる。
「貴方も、ひとり?」
「────どう、だろうな……解らない」
「?」
「一人じゃないはずだ。仲間がいる。俺なんかに好意を寄せてくる奴等が居る。兄みたいに、慕える奴が居る。助けるなんて、言葉だけで誓った奴が居る。家族っていってくれた奴が居る。友人だって言った奴が居る。友人だって言ってくれた奴が居る」
怯えるように、懺悔するように紡がれるその言葉の意味を殆ど理解出来ない『少女』はしかし『少年』が自分と同じように周りを恐れているのだけは解った。
「だけど、常に思っていた。何を言われても、忘れられなかった。俺はそこにいて良い存在じゃないんだ。今の俺を見てもらって良い存在じゃないんだ。それなのに、そこに甘んじてた。でも、ばれた。怖い、怖いんだ……今ある全ては奪ったものだから、持っていちゃいけないものだから。それを指摘されるのが、拒絶されるのが怖くて仕方ない」
崩れ落ち涙を流す『少年』に『少女』はどうすればいいのか解らなかった。人と触れ合ったことなど無い。同族と話したこともない。だからどうすればいいのか解らない。
だから、そっと抱き締めた。生まれ落ちる前、闇が自分を包んでいたように。
夢で見た光景。誰かが誰かを抱き締めるように。
「わたしも、同じ………皆わたしを殺そうとする。わたし、ここにいちゃいけないの? そう思うと、怖い……」
「……………」
「同じ。だから、一緒にいよ? 二人なら、きっと怖くない」
『少女』は異端だ。この世界にありながら、殆どの者が彼女を拒絶する。
『少年』は異端だ。この世界にありながら、自分だけは己を受け入れない。
だからこそ二人が手を取り歩き出したのは、至極当然の結果といえよう。そしてそれは『少年』に目をかけるある男神は決して認めず、『少年』の苦悩を、生き様を、幾末を楽しむ『神』にとって『種』を芽吹かせ根を張らせる丁度良い切っ掛けの火種。
故に機会を待つ。自分を邪魔する『残り滓』を出し抜ける機会を……『少年』が自分を、力を強く求めるその機会を………。