ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「………娘?」
「ん、おとうさんのこども……」
年齢は、確かにベルより低いが……ベルの初体験が8歳なのだから子供が居たとしてもギリギリ6歳の筈だ。だが、そんなに小さくは見えない。
「あなたはおとうさん苛めるの?」
「な!? そんなことしません!」
心外だという風に叫ぶレフィーヤに周りは何だ何だと視線を集める。神々は修羅場、修羅場か!? と振り返る。
が、レフィーヤもウィーネも周りに気にせずお互いを睨む。
「でもおとうさん、あなたの事怖がってる」
「そんなこと────」
と、そこでレフィーヤが言葉に詰まる。先程のベルの顔を思い出したのだ。それに、ベルは今も目を合わせようとしない。
「………ベル」
「───!」
レフィーヤの言葉にやはりベルは震える。普段の彼からは想像できない、弱々しい顔。
「……そんなに、私は怖いですか? 私が信用できませんか?」
「…………いや、違う………そうじゃない……俺が、怖いのは。知られる事だ」
「私達に拒絶されるかと思う何かを?」
真摯に見つめるレフィーヤに、ベルが折れた。随分気弱になってしまったものだ。
「ベル、私は貴方を拒絶なんてしませんよ………」
「……………」
「信用されないのは、悲しいです」
レフィーヤの表情にウィーネも敵と判断できなくなったのかキョロキョロベルとレフィーヤの顔を見比べる。
「お前は、俺を知らないから……」
「じゃあ、教えてください。全部受け入れてみせますから……」
と、その時───
「あ、ベル……居た」
「───!?」
ベルはその声に振り返る。アイズが居た。ホッとしたような顔のアイズにベルはまた怯えたような顔をして、ウィーネを抱えて、逃げた。
「……え?」
「はあ!?」
レフィーヤが叫び、アイズは手を伸ばしたまま固まっていた。
「………何で、逃げちゃうの?」
泣きそうな顔で呟くアイズに周りの神々や男達のテンションが上がり、レフィーヤはベルが去っていった方向をみる。
今のは、彼がアイズから逃げるというより、ウィーネという少女をアイズから逃がそうとしていたような………?
「ベルの居場所を知りませんか?」
「俺に聞くか………」
レフィーヤが尋ねに行ったのはディックス。
ディックスの机には書きかけのクノッソスの地図がある。今は彼もベルの捜索に当たっており地図は書き掛けのまま止まっている。
「心当たりはあるんじゃありませんか?」
「ねーよ」
「嘘ですね」
「………即答かよ」
ディックスはレフィーヤの反応に肩をすくめる。
「それで、答えは?」
「………まあ、心当たりは無くはねーが、そもそも旦那はアンタ等から逃げたんだろ?」
「…………それは、そうかもですけど………でも、逃げる理由を話されないのは………ムカつきます」
「……………」
その言葉に固まるディックス。そして、そのまま吹き出した。
「ぶははは! 誇り高いエルフ様がムカつくから男を捜すってか!? ぎゃははは!」
腹を抱えて笑うディックスにポカンとするレフィーヤ。すっかり笑ったディックスは腹を抱えて咳き込んだ後地図を取り出す。
「これは、ダイダロス通り?」
「そこにある孤児院までの地図だよ。さっき好き勝手言ったが、俺だって旦那から何か聞いた訳じゃねーしな」
「じゃあこれは………」
「あくまで心当たりだ。まあ、あのモンスタースレイヤーとして有名な【戦姫】から逃がしたってなるとその女も………そうなるとそこが一番可能性が高い。精々逃げられても大丈夫なように心の準備しとくんだな。あの嬢ちゃんはすっかり落ち込んでたみてーだし」
──空ってなに?──
──太陽って、どんなの?──
──夜空って綺麗なの?──
──良いか。今から俺のことは父としろ。嘘にしなければ、ロキは疑うだろうが否定も出来ないはずだ──
「あ、起きた?」
小首を傾げながら此方の顔をのぞき込んでくるのは
青白い肌に鱗から解るように彼女は人ではない。
「おとうさん、おはようございます」
「ああ、おはよう……」
「ウィーネちゃん、ベルさんは起きました?」
そう言って部屋の戸を開けたのは年配のヒューマンの女性、マリアだ。
ここは「マリアの孤児院」。捨てられ空き家になった教会を孤児院として利用しているのだ。彼女はモンスターであるヴィーヴルの名を親しげに呼び、微笑みかけた。
ヴィーヴル───ウィーネも微笑みを返す。
「マリア、今日のご飯何?」
「ふふ。奮発したわよ、ベルさんが家賃たくさんくれたから」
テテテとマリアの後をついて行くウィーネ。ベルも起き上がりその後に続く。
食堂には沢山の子供達が集まっていた。
「あ、ウィーネお姉ちゃんおはよう!」
「お兄ちゃん寝坊?」
「なさけねー、冒険者のくせに」
「ライ、ベルさんは私達のために稼いでくれているんですよ?」
と、マリアが叱るとライはう、と肩を竦ませる。
「ねえねえウィーネお姉ちゃん、髪今日は私がとかしてあげるね!」
「うん。お願いフィナ……」
「………悪いな、マリア」
「いえ。この子達から初めて話を聞いた時は驚きましたけど、目にすると信じるしかありませんし……私は、独りぼっちの子供
と、ベルの頭を撫でながら子供達と戯れるウィーネを優しく見守るマリア。
逃げるようにダンジョンに潜り目を背けるようにモンスターを狩っていたベルはあるヴィーヴルに出会った。人の言葉を発するヴィーヴルに。
人の言葉を解するモンスターは知っていたが、彼女から放たれた言葉、一人なのかという言葉に動揺した。
一緒にいようと言われた。
彼女はモンスターだ。そして、モンスターでありながら彼女のような存在はモンスターにさえ排斥されるのをバーバル達から聞いていた。だからベルは彼女に共感を覚えてしまった。
常に心の何処かで、何時か世界の全てが敵意を向けてくるのではないかと恐れていたから。
彼女は外を見てみたいと言った。だからその願いを叶えた。そのために、喋るモンスターの存在を知り受け入れた子供達の下に赴きそこを拠点にした。
「お姉ちゃん、街はどうだった?」
「あのね、いっぱいね、人がいたの……猫みたいな耳の人とかながい耳とか……ここにいる皆と同じ……」
「それにしても、よく街に行けましたね」
「これ使ったんだよ……」
と、ベルが取り出したのは何時だったかカジノに潜り込んだ時に使った『変化の指輪』という
幸いウィーネは人型で、肌の色を変え鱗を消して後は頭の宝石を隠せば普通の人間と変わらない。
「あ、ウィーネ姉ちゃんまたスプーン握ってる」
「持ち方違うよ~」
「……う? こ、こう?」
「そうそう」
マリアも最初は警戒していたが、こんなやりとりを毎日見ているウチに警戒するのも馬鹿らしくなってしまった。
「………ウィーネ、皆と仲良くなれたのは嬉しいが、またダンジョンに潜るぞ」
「え?」
「えー!?」
「何でだよ兄ちゃん!」
「ウィーネお姉ちゃん彼処嫌ってるのにー!」
「外道!」
「白髪!」
「赤目!」
「……………」
子供達からの誹謗中傷にベルは顔色一つ変えない。
「決めたことだ。アイズにだけは見つかるわけには行かない」
昨日は完全に油断していた。消臭のアイテムを使い臭いを消していたし、周りにも気を配っていたつもりだ。
ただ、人混みが多くなり特定の気配を探りにくくなった一瞬の隙にレフィーヤに見つかってしまった。ああいったタイミングで見つかるとは運がなかった。そちらに気を取られている間によりにもよってアイズに見つかってしまったし。
「………………」
彼女達は、こんな自分をどう思うのだろうか?
他人の身体を乗っ取り我が物顔で生きてきて、責められるのが怖いと逃げ出し責めないであろう同じ異端の存在にすがってしまった自分を、どう扱うのだろう。
「……………怖いんですか、皆さんと会うのが?」
「……………」
マリアの言葉にベルは無言になる。それは肯定の証。マリアははぁ、とため息を吐いた。
「皆、文句言っちゃ駄目よ。皆も、ウィーネちゃんが周りからどう扱いを受けるか解るでしょう?」
「う……」
「ベルさんは見つかりそうになっちゃったから、少し隠れるだけ。また直ぐウィーネちゃんとも会えるから。ね?」
「「「はーい」」」
マリアの鶴の一声で全員納得してくれた。
「………………」
夜の闇に紛れて移動する二つの影を、梟はジッと見下ろしていた。
そんな梟の視界を見る者がいた。
「ウラヌス、動いたぞ………」
「………うむ。向かったのは、リヴィラか?」
「おそらくな。しかし、このタイミングか……ファイアーバードが大量発生していたが、間違いなく巻き込まれるな」
「いや、幸い姿を少し変えている。その騒ぎの終息と共に接触せよ」
「わかったよ、ウラヌス。貴方の神意に従おう」