ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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強制任務

 大樹の中のような錯覚を受ける19階層で大量発生したファイアーバード。

 18階層に上がればリヴィラを焼く厄介なモンスターは当然駆除の対象になる。そのため身を隠すためにボールスに口止めを命じていたベルは報酬代わりにファイアーバードを狩ることにした。

 トン、と地面を蹴り火を吐き出そうとしていたファイアーバードの首を狩る。そのまま落ちていく身体を蹴り別の個体へと向かう。

 まるで飛ぶように跳ぶベルの動きに多くの冒険者が見惚れていた。

 

「と、俺らも行くぞ!」

「「「おお!」」」

 

 戦闘音を聞いて他のモンスター達も集まってきた。それに対処するべく動いた冒険者達。

 ウィーネはジーッとその光景を眺めていた。

 

「…………あ」

 

 と、不意にエルフの男女の片方が燃え、炭化した地面に足を取られる。

 慌てて男が守ろうとするが複数のファイアーバードの炎はおそらく今の耐火装備でも防ぎきれないだろう。とても熱いだろうし、痛いだろうし、もしかしたら死んでしまうかもしれない。

 

「──────」

 

 だから気が付けば走り出していた。

 彼女は、空や太陽、そして人と人との繋がりに()()()()()()()()()()()()、人に近い理知を得たのだから。

 

「危な──!」

『─────!!』

「「──!?」」

 

 女を庇うように抱きしめ背を向けていた男は兎も角、モンスター達に視線を向けていた女は飛び込んできた影に気付いた。慌てて叫ぶがその声はさらに大きな咆哮に掻き消された。

 ビリビリと大気を揺する咆哮は迫ってきた火炎を散らし奥にいたファイアーバード達を硬直させる。

 ダン! と地面を蹴ったウィーネはそのままファイアーバードを蹴りつける。爆散し血飛沫が飛び散った。

 

「だいじょうぶ?」

「は、はい……」

「あり、がとう……」

「ん、よかった……」

 

 ウィーネの問いかけに呆然としながら返した二人にウィーネは男女問わず見ほれるであろう無邪気な笑みを浮かべた。そして、モンスター達を見る。

 本当なら、万一指輪の破損を恐れてベルに来ても良いが見学だけだと言われていたが、モンスターが集まってきているのを見て最早我慢できなかった。

 最強のモンスターたる竜の系統故の基本能力(ポテンシャル)でファイアーバード達を一方的に葬っていくウィーネ。ベルにある程度護身を学んでいたのもあるのだろうが、時に欲の張った冒険者を殺すという種族だけありその動きは第二級中位に匹敵した。

 

 

 

「アンタの娘良くできた子だな」

「手は出すなよ」

 

 ボールスの言葉に釘を刺すベル。幸い指輪を壊すなという約束は覚えていたのか蹴りを主体にしていたが、ベルは叱った。正体がバレればどうなるか。衆目の下なら確実に言い訳は効かない。

 やはり人のいない安全領域(セフティーポイント)を探すべきだったろうか?

 

「…………」

 

 しかし、ウィーネは人が好きらしい。人に憧れると言った方が正しいかもしれない。

 

「………心、か」

 

 何故そんなモノを持ったのか。それ故に同胞にすら襲われるというのに。

 だがまあ、そんな彼女にだって真の意味での同胞が居るのを知っているが。

 

「…………」

 

 何故言わないかと問われれば、嫉妬しているのだろう。自分は、自分以外の異世界人と出会ったことなど無い。

 

「あ、おとうさんみてみて! 皆がくれたの!」

 

 と、串刺しやじゃが丸君を持って笑顔で駆けてくるウィーネ。

 リヴィラの街に来るのは最低でもLv.2。それなりの経験を積んだ冒険者は清濁を併せ持つのが殆どだ、ウィーネのような無邪気な子供に保護欲が湧くのだろう。

 

「………? おとうさん、食べないの?」

「ああ、貰うよ……」

 

 と、じゃが丸君を受け取るベル。不意に視線を感じ振り返る。

 

「……………ウィーネ、付いて来い」

「うん!」

 

 

 

 

「ねえおとうさん、これもう取っても良い?」

 

 と、ウィーネが指輪を弄る。違和感があって余りしていたくないのだとか。

 

「その前に火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)で顔を隠せ」

「うん」

 

 ベルが渡した火精霊の護符(サラマンダー・ウール)を頭まですっぽり被る。

 

「………そろそろ出てこい」

 

 ここは18階層の森の中。ベルは何もない空間を睨みつける。

 

『気付かれていたか。人気のないところへの移動、気遣い感謝する』

 

 そこには何時の間にか黒ずくめのローブを纏った人物が立っていた。闇で塞がったフードの中は何も見通せず、ウィーネは怯えるようにベルの背に隠れる。

 

「何者だ?」

「彼女の同胞を知るしがない魔術師(メイジ)さ……」

 

 その言葉にベルがピクリと目を細める。

 彼、或いは彼女がウィーネを見ていたのは気付いていた。正体を察しているのだろうと判断し、接触するためにここに来たのだ。

 

「君に強制任務(ミ ッ シ ョ ン)を授けにきた」

強制任務(ミ ッ シ ョ ン)だと? 冒険者依頼(ク  エ  ス  ト)ではなく? お前、何者だ……」

「ウラノスの私兵だよ。だからそれはギルドから、正式のものだ……」

 

 つまりベルに拒否する権利はないということ。もちろん逆らおうと思えば逆らえるがその場合罰則(ペナルティ)を受けることになるだろうし、向こうも力付くでウィーネに手を出すだろう。

 

「……わかった」

「では、その少女を20階層に連れて行ってくれ」

「………そこに居るわけか」

「君は以前、彼等の同胞を救ってくれたらしい。感謝する……」

 

 

 

 

 ローブの人物が去った後、雲菓子(ハニークラウド)を食べたがったウィーネに時間を取られる。

 

「おとうさんも食べる?」

「………ああ───ッ!?」

 

 受け取ろうとしたベルはバッと振り返る。気配がもの凄い勢いで近付いてきている。

 

「ウィーネ、走るぞ──!」

「え? どうしたの………?」

「あ、やっぱりベルだぁ………!」

 

 現れたのはティオナ。会えて嬉しそうな、純粋な笑顔にすら今のベルには胸を抉るような痛みを覚える。

 

「もう、皆すっごく心配してたよ? レフィーヤなんかすっごく怒ってたし………あれ、その子は? あ、レフィーヤの言ってたベルの子供? こんにちはー」

「う、え……あ」

 

 ティオナは親しげな笑みを浮かべ腕をブンブン上下に降る。Lv.6の中でも重装備を振り回すティオナの『力』に浮き上がりそうなるウィーネ。気付いたティオナが慌てて放す。

 

「ごめんごめん。ええっと、オラリオには来たばかり?」

「それよりティオナ、何でここに?」

 

 と、ベルが尋ねる。

 

「えっとね、ロキが真偽が定まるまで捜索は中止。本当だったら厄介だからって……それであたしは水浴びに来たんだけどベルの臭いがして」

「………臭い、か……」

 

 消していたはずだが、あのローブとの邂逅で人知れず流した冷や汗から少し効果が落ちたか? だが、ここは水浴び場からもだいぶ離れていたはずだが。

 

「あ、あとレフィーヤも来てるよ。まあ、あの子は水浴びじゃなくて情報収集だけど……」

「────ッ!」

 

──ベル、私は貴方を拒絶なんてしません──

 

 不意に、先日レフィーヤから言われた言葉を思い出す。

 強がっていても本質は独りきりなのを嘆き誰かに縋りたがっているベルに取って、縋りたくて、しかし縋ろうとした後が怖くて仕方ない言葉。

 

「ね、ベル。帰りたくない理由は解らないけどさ、取り敢えず水浴びしよ!」

「これから強制任務(ミ ッ シ ョ ン)だ。先に帰っててくれ」

「えー。あ、じゃああたしも手伝うよ」

「それは駄目だ」

「何でー? 極秘ならちゃんと内緒にするから、ね、お願い!」

 

 そうは言われても、彼女と行動するなど今のベルには精神負担が半端ないし、何より向かうのはモンスター達の巣だ。絶対に連れて行くわけには行かない。が、ベルの不幸はまだまだ続く。

 

「ティオナさ~ん、何処行ったんですか~!」

「あ、おーい! レフィーヤこっちこっち! やっぱりベルいたよー!」

「─────!」

 

 慌てて逃げようとするもティオナがしがみついてくる。茂みをかき分け現れたレフィーヤはベルを見て睨んできた。

 

「ベル! 一昨日のあれはどういうことですか!? アイズさんすっごく落ち込んでましたよ! リヴェリア様だって心配してるのに、孤児院に行ったりダンジョンに行ったり………」

「待て、何でそこで孤児院が出て来る?」

「ディックスさんから聞きました」

「あいつ───」

 

 何を思って教えやがった、と毒を吐きそうになるベル。おそらくアイズから逃げたという話から、共にいたウィーネの正体を推測したのだろう。それで居場所を推理したのだ。だからこそ彼女に教える理由が解らない。指輪について知ってるから安全だとでも思ったのか?

 

「おとうさんいじめちゃだめー!」

「わ!? ま、また貴方ですか! だいたいこの子も何なんです? どうみてもベルの子供と言うには大きすぎ────へ?」

「………あ」

「………あ」

「ッ!」

 

 飛びついてきたウィーネを押し返す、その反動でフードがずり落ち青白い肌と額の宝石。

 

「………モンスター、『竜女』(ヴィーヴル)?」

 

 ああ、本当に、付いてない。

 

──少しは彼女達と、彼女達をここに呼んだ君のスキルを信用しなよ?──

 

 不意に聞こえた声は、果たして誰のモノだったのか。




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