ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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異端児

 理知を持つモンスター、異端児(ゼノス)

 聞いただけならあり得ないと切り捨てただろう。が、ウィーネを見て、さらに数十の現物を見て否定するほどレフィーヤは頑固ではないしティオナに至ってはすごーい、とか感心してる。

 

「ちなみにオレっちはリド。最近まで最強だったがアステリオスに抜かれた。ま、それでもリーダーやってんだがな」

「自分は纏めるのには向かない」

「………アステリオスは改めて、で良いのか? 二人とも、よろしくな。これからウィーネは……リドにはもう懐かないかもしれないが……」

 

 と、片手を差し出すベル。反対の手で抱き寄せられてるウィーネは唸りながらリドを睨んでいる。

 

「………お、おお握手か! よろしくな!」

「がう!」

「うお!?」

 

 リドがポカンとした後その手を取ろうとするがウィーネがその手に噛みつこうとする。ガチン! と歯が鳴り合わさるがリドの指は幸い無事だ。

 

「ティオナ、ちょっと預かっててくれ。話が進まん」

「ほーい。ほ~らウィーネちゃんおとなしくしてね~」

「うー! うー!」

 

 魔石を食い幾分か強化されたとは言えティオナの怪力には敵わないのかジタバタ暴れるウィーネ。レフィーヤはそんなウィーネを見つめた後異端児(ゼノス)達を眺める。

 高潔で潔癖なエルフの殆どは、というか人間だって人の言葉を介するモンスターに忌避感を抱きそうだが彼女に懐いていていたであろう子供達の顔を思い出し、全く気にしていないティオナ、ウィーネを優しい目で見てから異端児(ゼノス)達を見るベルを見て、抑える。

 そもそも先入観でベルを嫌っていたこともあるが今はむしろ好感を持っている事を思い出せば見た目や種族で判断するのは失礼だろうと考え直した。

 

「つーかオレっちあんた斬った……よな………」

「ああ、当てる気はなかったんだろうがつい反射的にな………殺気自体は本物だったし………けど、あの程度なら痛いだけで死にはしない。そういうスキルだ」

「そ、そうか………鎮痛剤とか使わねーの?」

「これは痛みに耐えて戦う意志があってのスキルだからな。前提条件を破ることは出来ない………薬だろうがアイテムだろうが痛みを消すことは出来ねーよ」

 

 つまり実際死に通じるレベルの痛みを味わったという事。成る程いくらピンピンしているとはいえウィーネがガチガチ歯を鳴らし威嚇するのも当然だ。むしろ平然としているベルがおかしい。レフィーヤ達は慣れだとしても本人は実際痛みを感じているだろうに。

 

「あー、まあ……取りあえずよろしくな」

 

 と、再び手を差し出すリド。ベルが手を取ろうとして、不意に異端児(ゼノス)達が視線を向けているのに気付く。

 大方、出方を見守っているのだろう。

 

「よろしく………」

 

 と、鋭い爪の生えた鱗だらけの手を握りかえす。

 途端にわっ! と盛り上がる異端児(ゼノス)達。

 

「お前等、灯りをつけろ!」

 

 モンスター達が歓喜する中、リドが大きな声で号令を放つ。

 黒犬(ヘルハウンド)などそそくさと動く一部のモンスターが岩の陰に隠してあった魔石灯を引っ張り出し口や爪を使って器用に点灯させる。

 

「モンスターが、魔石灯を………」

 

 ヒューマンが作り出した魔石製品を使いこなすモンスター達にレフィーヤは目を見開いた。さらにハーピィ達が隠していた石英(クオーツ)から厚布を取り払う。

 広間(ルーム)はたちまち濃縁な光に照らし出される。

 

「わ、木竜(グリーンドラゴン)! こんなこも居たんだ……」

 

 そして視界が良好になれば先程まで見えなかった全長10M(メドル)以上のドラゴンを見てティオナが声を漏らす。

 

「地上のお方、挨拶させてください!」「ウゥ……」「ワタシモ!」

 

 と、多くのモンスターがベルに集まってきた。

 

「お話は聞いてました。お会いできて光栄です、ミスター・ベル。アナタと、握手できて、トテモ嬉しいです」

「ワタシ、ラウラ、ヨロシクネ」

「久しいな。私を覚えているか?」

「ああ、バーバルか」

「お! そういやバーバルの言ってた特徴と一致してたな! 確かにアルルみてーだ」

「アルル?」

「きゅう!」

 

 と、自己主張するように片手をあげた()()()()()()。白い毛に赤いクリクリした瞳。ティオナが腹を抱えて笑い出す。

 

「あはは! 確かにどっちも兎だね!」

「きゅぅ!」

 

 と、不意にアルミラージがベルに抱きつき舐めてきた。と、そこで竜の少女の限界が来たらしい。

 

「だめ! おとうさん持ってっちゃだめ!」

 

 ヒョイとアルミラージは引っ剥がしベルの腕に抱きつく。そんな彼女に歌人鳥(セイレーン)のレイが近付いた。

 

「名前ヲ聞かせてもらっても、いいですカ?」

「ウィーネだよ! おとうさんがくれたの」

「ウィーネ……とても良い名ですね」

 

 ニッコリ微笑むウィーネに金翼のセイレーンは青色の双眸を細めた。

 

「初めましテ、新たな『同胞』(ドウホウ)。ここで貴方ヲ虐げる者ハいませン。私達ハ貴方ヲ歓迎します」

 

 

 

 

「飯だ、酒だ、どんどん出せ! 新しい同胞と、初めての人間の客がやって来た今日を祝って!」

 

 音頭をとるリド。モンスター達は一層盛り上がりダンジョン産の果実や木の実に薬草(ハーブ)、リヴィラと刻まれた酒樽を振る舞う。

 

「ベル、これを……肉果実(ミルーツ)という高級食材だそうだ」

「ああ、すまないなアステリオス」

「……覇気がないな。何かあったのか?」

「………苛つくか? 仮にもお前を殺した相手がこんな様で」

「いや。確かに心の強さも貴方の強さの一因だろう。だが、だからといって腑抜けるななどと軽々しくは言えない。自分は貴方のことを何も知らないのだから………だが、嘗て弱き身でありながら自分に挑んだ勇気ある貴方ならきっと乗り越えると信じている」

 

 と、アステリオスが笑うと不意にアステリオスの斧がベルに寄ってくるのに気づいた。いや、これはヘスティア・ソードにだろうか?

 剣を抜き地面に置く。すり寄ってきた。

 

「彼女は貴方の剣と同じ、生きてる武器だ。嘗て自分が敗北したことを己の未熟と悔やんでいて、貴方の剣と話したかったと……」

「彼女? これ、雌なのか……つか動くのか」

「武器として使用する時は間接部が完全に接着する。それ以外ではあのように動く。魔石だって食べる」

「………強化種か……」

 

 きっとLv.3の時、アステリオスが今の状態だったら抵抗すら出来ずに殺されていただろう。今は知らないが……。

 

「おうベルっち! 飲んでるか?」

「楽しんでいたダけているナラ幸いでス。貴方ハ同胞を保護してイてくれたのデすから……」

「そりゃ勘違いだ……俺がウィーネを守ってたんじゃない。ウィーネが、弱い俺を守ろうとしてくれたんだよ」

 

 それこそ必死に。抱きしめ、慰め。自分が弱いと解ると強くなるため戦い方を教わろうとし、魔石を食い、元気づけるために彼の生まれ育った地上に向かい、彼が怯えてしまったレフィーヤ達から守ろうとした。

 

「あの子は強いよ。それに比べ、俺なんか……」

「卑屈になるなベル。それでは貴方に負けた自分が浮かばれない」

「と、すまんなアステリオス……」

 

 と、不意にベルは自分と視線を合わせようとしないままリドに近づくガーゴイルとアラクネに気付く。

 

「リド、コンナ下ラナイ事ハ止メサセロ」

「所詮は人間だ。信じる価値などない。即刻ここから離れるべきだ」

「まだ言ってんのかよ、グロス、ラーニェ。お前等だって見たろ? ベルっちが体張ってウィーネ助けるの」

「そんなもの気まぐれに過ぎない」

「ソレニ、ドウセ治ルノダロウ?」

 

 警戒心を露わにし隠そうともしない敵意を向けてくる二人に対し、ベルが口を開く。出された言葉は───

 

「すごいな、お前等は」

「「───ハ?」」

 

 賞賛であった。

 

「お前等の言葉は確信が籠もっている。『前』なのか、『今』なのかは解らないが……信じて、近寄って、裏切られたんだろう? つまり一度は信用したんだ。俺は、その一度目にすら踏み込めないで、逃げてしまった」

「何ヲ言ッテイル………」

 

 彼等は一度信じて、歩み寄ったのだろう。信用できず恐れるだけ恐れて立ち止まる自分とは大違いだ。

 

「俺は、精神面ではお前等より遙かに弱いな、というだけだ」

「成る程。死は恐れずとも孤独を恐れる、か………それは、しかし仕方ないことだと思う。自分もラピスが居なければ、きっと孤独を感じていた」

 

 と、カブトガニのように歩み寄ってきた戦斧を撫でるアステリオス。

 

「まあ、確かにお前等の言うことは解る。普通、人間はそう簡単にお前等を受け入れることは出来ない……」

「そうかぁ? でもよ、あれ………」

「わーい! 楽しー!」

「あわわわ!?」

 

 恐らくティオナを踊りに誘ったまでは良いがティオナの怪力を予想していなかったのだろう。振り回され目を回すハーピィ。一応踊りにも見えなくはない程度の動きなので怪我などはしてないが……。

 

「ティオナはまあ、馬鹿だからな」

「では、貴方の秘密も打ち明けてみれば?」

「………それは、やっぱり怖いな……」

 

 楽しそうに踊るティオナ。ラミアに連れられオズオズと踊るレフィーヤ。ベルが教えた歌をレイに教えながら共に歌うウィーネ。

 楽しそうな光景だ。本当なら、彼処に行きたい。彼処に立ちたい。

 けど、どうしても踏み出せない。

 自分が偽物だという疎外感が邪魔をする。

 他人の居場所を奪った罪悪感が押しとどめる。

 その事を責められるかもという恐怖が足に絡み付く。

 

「ベル、踊らないんですか?」

 

 と、不意に差し出される手。レフィーヤが小首を傾げベルを見る。

 

「………………」

 

 ベルもその手を取り立ち上がるとアステリオスが満足そうに頷いた。

 

「……悪いな、レフィーヤ」

「何がですか?」

「ずっと心配してくれたお前より先に、他の奴に縋ってた……」

「仕方ありませんよ。似てるところがあったんでしょ?」

「何時か、ちゃんと話す………」

「はい。何時か話してくださいね」

 

 口だけの約束。しらばっくれるのも簡単なその口約束に、しかしレフィーヤは満足したように微笑んだ。




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