ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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異端児達の憧憬

「次はワタシト!」

「フォウ!」

「きゅう!」

「あ、ベル!」

「おとうさん次わたしー!」

 

 代わる代わるに相手を変え踊るベル達。

 レフィーヤも流石に大型のモンスター相手には引きつった表情を浮かべたが、彼等が本当に楽しんでいるのを見て笑う。

 彼等を見ていると此方まで楽しくなってきた。

 

「……あの、ところで貴方達を支援してるのってギルドなんですか?」

 

 ベルはウラヌスの私兵を名乗る者からここに来るように言われたと聞いた。なら、当然ギルドは彼等の存在について知っているという事になる。

 

「いや、厳密に言うならウラヌス、それとガネーシャだ。ヘルメスも知ってはいるが、奴は今一つ信用できない」

 

 と、不意に中性的な声が聞こえベル達は一斉に振り向いた。そこには影を象ったような黒衣に身を包んだ謎の人物がいた。

 

「フェルズ、来たか!」

「………お前は」

 

 ベルをこの場に向かわせた者だ。やはり気配はする、電磁波のレーダーにも物理的に引っかかる。が、()()()()を感じない。

 リドの反応からして知り合いなのだろう。名はフェルズと言うらしい。

 

「お前、生き物じゃないのか?」

「ほう………まさしくその通りだ」

 

 と、フードを剥ぎ取るフェルズ。そこにあったのは躯の顔。レフィーヤが目を見開き、ティオナが『スパルトイ』と骸骨のモンスターの名を呟く。

 

「………モモンガ? じゃ、ないか……あれヘタレのくせに偉そうだし……」

 

 どこか紳士的な気配のするフェルズを見て首を振るベル。

 

「私は元人間だよ。昔は『賢者』などと呼ばれていた」

「『賢者』? じゃあその姿は永遠の命の代償か?」

 

 記憶を探る。賢者の情報といえば不老不死を実現する魔道具(マジックアイテム)『賢者の石』を生成するも主神に目の前で壊されたという。

 

「ああ。秘法の反動で全身の肉と皮は腐り落ちた」

「それで愚者(フェルズ)なんて名乗ってるのか………」

 

 なら俺は偽物(ファルシュ)とでも名乗ろうか、などと自嘲するベル。

 

「それで、フェルズ……ギルドがモンスターに手を貸す理由は………違うな、お前等は異端児(ゼノス)達をどうしてやりたい?」

「───地上へノ進出」

 

 それに答えたのはフェルズではなくレイだった。自分の体を抱くように、両腕の翼を巻き付けるレイの青い瞳には悲壮が感じられた。

 

「それガ、私達ノ願いです」

「……夢を見るんだ」

 

 ポツリと、リドがレイの言葉の理由を語るように口を開く。

 

「真っ赤な光が、でけえ岩の塊の奥に沈んでいく夢………迷宮(ここ)にはない空が、赤く、泣いちまうくらい赤く、だんだん染まっていく綺麗な時間……」

「それって、夕焼け? でも、何時………あ」

 

 と、そこでレフィーヤはベルとアステリオスの会話を思い出す。

 そうだ、アステリオスはレフィーヤ達の目の前で灰に還ったミノタウロスの記憶を持っていた。つまり……

 

「前世……? 貴方達は、モンスター達が地上に進出していた頃の記憶があるのですか?」

 

 だとするなら、彼等はどれだけ繰り返していたのだろう。冒険者に殺され、異端児(ゼノス)になってからはモンスターにも狙われて………。

 

「──『()()()()()』。異端児(かれら)が胸に秘める想いはばらばらだ。だが、共通しているモノがある。それは人類、あるいは地上に対する『強烈な憧れ』だ」

「あのね、おとうさん………夢でね、誰かが誰かをたすけるの。わたしはそれが眩しいって、おもったんだ……羨ましくて、だから……おとうさんに会えて嬉しかった……」

 

 と、最初に口を開いたのはウィーネ。

 

「おとうさんもわたしと同じ………寂しいって、泣いてた……わたし、ちゃんとたすけてあげれてる?」

「…………ああ」

「自分は、貴方とこうして言葉を交わしたかった。それと、今はある人物と決着を付けねばと思っている」

 

 次に己の夢を語るのはアステリオス。

 ウィーネとアステリオス、この二人はすでに夢の一部が叶ったようだ。

 

「オレっちは、あの夕日が見える世界でもう一度生きたい」

「私ハ、光ノ世界デ羽ばたいて、誰モ抱き締められないこの(うで)ノ代わりに……愛する人間(ダレカ)に抱きしめられたい」

 

 日の光を浴び、人間と手を取り合うこと。それが彼等の願いで、彼女達の憧れ。

 そんなものは不可能だ。馬鹿を言うな、そんな絵空事。何世紀も続く憎しみの連鎖をどう断ち切る?

 そう言うのは簡単だ。けど、言えない。

 

「………お前達は、怖くはないのか? お前等がどれだけ歩み寄ろうとしても、否定されるかもしれない……拒絶されるかもしれない。罵倒され、忌避され、恐れられ、嫌われる……そうは、思わないのか?」

「思ってるから隠れてんだよ。でもよベルっち……夢だけは見ていたい。夢で終わらせたくない………ベルっちもなんか秘密があるみてーだけどよ、まずは勇気をださねーと」

「………無理だ。俺には、出来ない………俺はお前達より、ずっと弱い……」

「でもよ、さっきレフィっちに何時か、って言ってたろ? あれを嘘にしなけりゃ良いんだよ……」

 

 ニカっと笑うリドに、何故かベートの姿が被る。

 ベートは、自分にとっては……例えるなら兄のような存在だ。あの魔法を目にする前に言われて以来、勝手かもしれないがそう思っている。リドも、それに近い感じがした。

 

「それにしても外かー。あ、じゃああたしが皆を案内してあげるよ! 綺麗な景色とおいしい料理、どっちが良い!?」

「おおう!? ティオナっち気がはえーよ!」

「思い立ったが吉日って言うんじゃん! 何処の言葉か忘れたけど」

「極東だな」

 

 

 

 

「解っていると思うが、ここで見たことはくれぐれも内密に頼む……いや、【ロキ・ファミリア】が支援者になってくれれば嬉しいとは思うのだが……」

「んー、相談してみる? フィンなら良い案出してくれるかもよ?」

 

 フェルズの言葉にティオナが考え込む。が、無理だろうなとベルは肩をすくめる。

 現状異端児(ゼノス)の存在は『毒』にしか成り得ない。モンスターである以上受け入れる者は少ないだろうし、受け入れたとしてもその者達がモンスターと戦えなくなる可能性も出てくるのだ。

 【勇者】(フィン)はそれを認めないだろう。自分の名を汚すし、団員だって危険に曝される。

 言い方は悪いが同族を数多く殺してきたティオナやベルだからこそ平然としているが、今回ここに来るまでレフィーヤは何回か躊躇った。

 

「なあ、レフィっち………」

 

 レフィーヤも同じようなことを考えていたのか、リドが話しかける。

 

「俺はよ、また会いたいと思ってんだ。だから、モンスターに襲われたら遠慮せず殺してくれ。たとえ喋っても、自分の命を優先してくれ………」

「リドさん………はい、わかりました」

 

 リドの言葉に頷くレフィーヤ。

 そして、出口に向かって歩く。

 

「おとうさん、帰ろ?」

 

 と、ウィーネがベルの手を伸ばしてくる。が、それをリドが阻む。

 

「お前はこっちだ、ウィ──」

「があ!」

「───いでぇ!?」

 

 ベルを切ったことをまだ許していないのかガブリと噛み付くウィーネ。ベルがそっと頭に手を置くと離した。 

 

「ウィーネ、お前はここに残れ……」

「………え?」

「地上には、お前にとって危険が多すぎる。ここに残るんだ……」

「でも、おとうさんは………」

「俺は……大丈夫とはいえないな。まだ一歩踏み出す勇気が足りない……でも、逃げるのはやめた」

 

 ちゃんと向き合おう。何時かは話すと約束した少女のためにも。

 

「お前のおかげだ。ありがとう、俺の小さな英雄」

「…………おとうさん……つらくなったら、来てね? レフィーヤたちがいるから、平気だと思うけど」

 

 と、泣きそうで、しかし嬉しそうな顔で笑うウィーネはベルの頬にキスをする。

 

「マリアから教わったか? ありがとな………」

 

 と、ベルもお返しに額にキスをしてやると擽ったそうに笑う。

 

「マリ………あ、そういえばマリアさんからお二人にこれ……」

 

 と、レフィーヤが鈴のついた青い紐と白い紐を取り出す。

 

「孤児院の子達の仲間の証だそうです。鈴の理由は、まあ(ベル)をかけてるんでしょうね……」

「ライの提案かな? ウィーネ、手を出せ」

「ん………」

 

 ウィーネはベルの言葉に細い手を伸ばす。その手首に鈴を巻き付ける。ウィーネは今度は反対の手をん、とモノをねだるようにのばす。その手に白い紐の鈴を乗せ、ベルも左手を差し出す。ウィーネがその手に鈴を巻き付けた。

 チリン、と音が鳴る。

 

「………ライ達に、よろしく……」

「ああ。きっと、泣くだろうな………彼奴等が冒険者になれたら、連れてくるよ」

「うん!」

 

 

 

 

 

 黄昏の館を前に、ベルは吐きそうになるのをぐっと堪える。

 

「…………ベル?」

 

 その声は後ろから聞こえた。振り向けばリヴェリアが立っていた。

 

「ベル、ベル……! 戻ってきたのか!」

 

──お前は、この世界の外から来たのか?──

 

「────ッ!」

 

 あの夜の言葉が蘇る。逃げ出しそうになる足に力を込め縫いつけると、不意に両腕を温もりが包む。ティオナとレフィーヤが、手を握ってくれていた。

 

「すまない、私は………追い詰める気など無かったんだ。それが、お前にとってどんな意味かも考えていなかった」

 

 伸ばされる両手は震えていた。頬に触れた指は冷たかった。

 レフィーヤ達が手を離し、残っている温もりを与えるようにリヴェリアの両手を掴む。

 

「悪いのは俺だ。責められるんじゃないかと、怖がって………今もまだ、信用しきれず話せない」

「………」

「ちゃんと、何時かは話すよ。約束する………いや、約束したから。だから、その………心配かけて、ごめん」

「いや、無事で良かった。さあ、帰ろうベル………」

 

 頬に触れていた手が離れる。名残惜しさを感じつつも、ベルは彼女の後に続き歩き出した。

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