ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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動き出す者達

「……あ」

「あ……」

 

 廊下でばったりとアイズに遭遇した。途端にアイズは不安そうな顔をする。

 

「あの………私って、怖い?」

「………ああ、別に怖くない。逃げ出したのは、あの頃家出してたからだ」

「そ、そうなの?」

 

 実際はモンスターであるウィーネを逃がすためだが、まあ家出していたのは本当だしあの時別にベル本人はアイズを恐れていたわけではない。

 

「良かった………」

 

 と、心底ほっとしたようにほっとするアイズ。不意に、モジモジと後ろで指を合わせながらベルをチラチラみてくる。

 

「あ、あのねベル………あの時の、カジノの時の約束、覚えてる?」

「守るとか助けるとかって奴か? 絶対必要ないだろうけど」

「うん。それ………覚えてくれたんだ」

 

 と、微笑むアイズ。

 助けて欲しかったら助けてくれるの? だったか………良く覚えていたなと思う。

 ベルに取っては強くなれという激励として受け取っていたが、彼女からしたらそんな価値など無いと思っていたのに。

 と、不意に視線を感じる。振り返ると角から覗いているカサンドラが見えた。

 

「あ、あの……首を折ったりしませんか?」

「しないよ……」

 

 カサンドラの言葉にムッとするアイズ。カサンドラがそんなことを言うとはアイズがベルの首を締め付ける『予知夢』(ゆ  め)でも見たのだろうか?

 

「………逃げたのそんなに怒ってたのか?」

「だから、しないって……」

 

 ベルにまで言われ落ち込みながら睨んでくるアイズ。流石に言い過ぎた。

 

「冗談だ。その程度で怒る奴じゃないのは知ってる」

「とーぜん」

 

 

 

「主神ガネーシャに会いたい。何時かで良いから予約を取ってくれ……出来るだけ、早い方が良いが……」

 

 突然やって来て主神に会いたいというベルの言葉に【ガネーシャ・ファミリア】の門番は固まった。ここはやはり断るべきだろう。

 

「ゼノスについて、そう言えば伝わるはずだ」

「あのなぁ、よその奴が主神に───」

「待て」

 

 会えるわけがない、そう言おうとして声をかけられる。

 見るとちょうど外から戻ってきた【ガネーシャ・ファミリア】の団長シャクティが立っていた。

 

「………異端児(ゼノス)と………そう言ったな?」

「ああ……」

「…………付いて来い」

「え、あれ? シャクティ様!?」

 

 まさか団長自ら連れて行くとは思わなかった。ゼノスとは何だろうか? そんなことを思いながらも、美人に手を引かれるベルを見てうらやましがった。

 

 

 

「さて、ここらにいるはずなんだが………チッ」

 

 いきなり舌打ちしたので視線を追うとモンスターにじりじり近付く象の仮面の男がいた。

 

「俺がガネーシャだ! だから、噛みついてくるなよモンスター!」

 

 警戒心を露わにするインファント・ドラゴン。まだ調教(テイム)されていないようだが周りの強者の気配に怯えているのかまだ動かない。

 

「あの馬鹿……見学だけにしろと言っているのに」

「怖くないぞー、怖くないぞー……」

「ガアァァァ! ───カベ!?」

 

 象男に噛みつこうとしたインファント・ドラゴンだったがその前にベルに蹴り飛ばされた。すかさず他の団員達がガネーシャを連れて行き、調教師(なかま)と勘違いしたのかベルとインファント・ドラゴンを離れて見る。

 

「オオオオオオォ!」

「『吠えるな』」

「────!?」

 

 ガチィン! と勢いよく口が閉じる。混乱するインファイト・ドラゴンは突進しようとするもベルが片手を向けると同時に全身凍り付いたように動かなくなる。

 

「……………………」

「檻に戻せ」

「は、はい!」

 

 ベルの言葉に慌てて動く団員達。ようやくベルが客人であると気づいたらしい。

 

「ふう、危ないところだった。助けてくれてありがとう、ガネーシャ感謝! で、どちら様!?」

「ガネーシャ、彼は異端児(ゼノス)について知ってるようだ……」

「…………場所を移そう」

 

 

『怪物祭』(モンスターフィリア)の本来の目的も知った。その上で質問だ、可能だと思っているのか?」

「あははははは!」

 

 何故か大爆笑された。

 

「こうしてこの場に来て、この話をしている以上お前も彼等について思うところがあったのだろう? 何故今更そんな質問をする」

「主神ぐるみでやるなんて、リスクが大きすぎる。特にあんたは【群衆の主】(ガネーシャ)だ……」

 

 この事実が公になれば非難殺到間違いない。ガネーシャのみならず団員達にまで影響があるはずだ。

 

「……彼等が共存を願っていると聞いた。ならば、俺は【群衆の主】(ガネーシャ)を止めて───【群衆と怪物の主】(ネオ・ガネーシャ)になってみせる!」

 

 群衆に認めさせると言うのか? 理知を備えるとはいえ、モンスターが歩み寄るのを?

 

「………無理だろ」

「それはお前の限界だぁ! 無理だと諦め、狭い世界に満足したお前自身の限界にすぎない!」

「………たまに神って………いや、良いか……けど、どうやって認めさせる気だ」

「今も考えている!」

「………………」

 

 

 

「ベルよ、また遊びに来い!」

「遊びに来たわけじゃないんだけどな………」

 

 ガネーシャに見送られ、巨大なガネーシャ像を一瞥した後歩き出す。と、カサンドラがいた。

 

「………モンスターと仲良くなったりしてませんよね?」

 

 

 

 

 

「兎がモンスターを引き連れ人間と敵対して、風の精霊に首をへし折られる、ねぇ………」

「へ、変な話ですよね………そもそもモンスターを人間が引き連れるなんて………」

 

 カサンドラの言葉にベルは目を細める。モンスターは確かに人間の言うことなど聞かないだろ。もちろん調教師(テイマー)などの例外はいるが、複数の種類となると話は変わる。そもそもベルは調教師(テイマー)ではない。

 

「………………」

 

 だが何事にも例外はある。例えばそのモンスターが全て高い知能、理知を持ち合わせていた場合。

 つまりベルが異端児(ゼノス)を引き連れている場合を予知したのかもしれない。

 

「………………」

 

 彼等はたとえ理知を持っていてもモンスターだ。そんな彼等を引き連れることは人類への裏切りに他ならない。二度と英雄になれなくなるだろう。それを自分が許容するのか?

 するかも、知れない。

 

「………前なら見捨てたのにな。弱くなった……いや、余裕ができてしまった、か?」

 

 ベートとレフィーヤの言葉を思い出す。

 しかし一つ疑問が残る。カサンドラの夢が現実になるには、異端児(ゼノス)達が人間達と敵対するのが絶対条件だ。彼等は『隠れ里』を数多く持っている。見つかった所で………いや

 

「………そういう可能性もあるか」

 

 バーバル達を思い出す。

 彼らは捕まっていた。それを助けるためだとしたら?

 選択肢は二つ。見捨てるか、捕まる前に助けるか……。

 

「……………!」

 

 チリンと奏でられる鈴の音。手首に巻き付いた鈴を見る。と、ウィーネの顔が脳裏に浮かんだ。

 

──やめろ──

 

──馬鹿なことを考えるな──

 

──踏みとどまれ──

 

──英雄を捨てる気か? お前は、他人から人生を奪っておいて──

 

──救えるものも救えず敵対するのを選ぶ気か──

 

「………………」

 

──彼奴等が冒険者になれたら、連れてくるよ──

 

──うん!──

 

 そうだ、これはモンスターの為じゃない。ライ達人間の孤児のためだ。だから、黙れ。

 

 無理矢理理由付けして、罪悪感の幻聴から耳を塞ぐ。

 

「…………カサンドラ、俺は少しダンジョンに潜る。ちゃんと帰るから、心配しないように言っててくれ」

「へ?」

 

 ポカンとするカサンドラを置いて、ベルは駆け出す。

 Lv.5の中では間違いなく最速を誇るベルの足にカサンドラが追いつけるわけもなく呆然と見送った。

 

「………これ、私のせいなのかな~~~? うう、リヴェリア様に怒られちゃう~~~」

 

 ベルが勝手にダンジョンに潜りに行ってしまった。しかも自分と話していたら。絶対リヴェリアに怒られる。

 けど、帰ってくるとは言っていたし………それが二日後とかでなく日帰りなら………

 

 

 

 

 

「───で、だからさ────」

「──しも──思いますが……」

 

 アイズが黄昏の館を歩いていると不意に話し声が聞こえてきた。

 見てみるとレフィーヤとティオナが声を殺しながら話していた。そう言えば、彼女達はベルと行動を共にしていたのだったか………。

 

「………二人とも何の話?」

「うひゃい!?」

「ひゃあ! あ、アイズさん………」

 

 人気のない場所で、内緒話でもしていたのかびくりと震える二人。アイズは首を傾げた。

 

「あー………ねぇ、アイズ………もしも、もしもだよ? モンスターがさ、何か生きる理由を持ってたとしたら、私達と変わらない感情を持ってるとしたらどうする?」

「ちょ、ティオナさん!」

「良いじゃん、聞くだけ聞くだけ……」

 

 ティオナの質問に首を傾げる。何だ、その質問。モンスターが感情?

 つまり人のように笑い、人のように悩み、涙すると言うことだろうか? そうなったら、自分はどうするか?

 意味が分からない質問だったが友の言葉なので考える。考えて、考えて……結論は一つ。

 

「私は、モンスターが危害を加えてくるなら……ううん。モンスターのせいで誰かが泣くのなら───私はモンスターを、()()

 

 

 

「~~~~♪」

「ウィーネ、少し静かにしろ」

 

 別の『隠れ里』に向かって移動する異端児(ゼノス)の集団。その中で楽しそうに歌を歌うウィーネに、人蜘蛛(アラクネ)のラーニェが責めるように睨み付ける。

 

「はーい……」

「はぁ………あの男から学んだことなど、直ぐに忘れろ」

「やだ!」

「……………」

 

 ラーニェは人間を信用していない。卑劣で、残忍で、直ぐに裏切る生き物だと思っている。ベルだって、何時かは気紛れだったと言って切り捨てるに決まっている。

 

「よお、見つけたぜ……」

「「「───!?」」」

 

 不意に聞こえてきた声に振り返るとそこにはゴーグルをつけた男が立っていた。赤い槍を肩で担ぎニヤリと笑みを浮かべる無臭の男。

 

「悪いが死んでくれ。旦那のために……」

「────!?」

 

 その場の誰もが反応できない高速の投擲。それはラーニェの真横を通り過ぎ、()()()()()()()()()()()()()

 

「ぐあ!?」

「──な」

 

 ラーニェ達が目を見開く中、ゴーグルの男は一瞬で移動し槍を抜く。同時に複数の影が現れる。

 

「ディックス、てめぇ!」

「よお皆! 久し振りじゃねーか! 早速死んでくれ、子離れできない甘えん坊な旦那の可愛い娘のためになぁ!」

「好き勝手言うな」

 

 と、その後頭部をベルが蹴りつけた。

 

「………てめぇは、ベル・クラネル!」

「?」

 

 やけに忌々しげに睨みつけてくる大男に首を傾げながらベルはヘスティア・ソードを抜く。

 

「旦那ぁ、何できたんだよ……」

「お前こそどうしてここにいる……」

「カサンドラの予知聞いて、まさかと思い先に動いたんだよ」

「………悪いな」

 

 ベルの謝罪になら今すぐ戻れよと言いそうになるも意味がないと判断して苦笑を浮かべるディックス。

 

 

 

 そんな光景を眺める一人の()。嫌らしい笑みを浮かべニタニタ笑う。

 

「ヒヒヒ。やっぱり来たかぁ。来ると思ってたぜぇ………んじゃ、()()()()

 

 男は隠していた神の気配を解放する。眷属(こども)達に頼まれた彼の仕事。

 己の正体をダンジョンに悟らせる。

 崩れ落ちる出入り口。しかし人工の出入り口だけは影響を受けない。

 ダンジョンが、()を見つけた。

 故に生み出す。

 

 

 

 

「「「────!?」」」

 

 揺れるダンジョンに目を見開くベル達と対照的に密猟者達は笑みを浮かべる。

 

「はは! ディックスぅ、てめぇに勝てるなんて思ってねーよ! だからぁ、てめぇは化け物に殺されなぁ!」

 

 そう言って投げてきたのは発煙筒。周囲を煙が包み込む中、悲鳴が聞こえる。

 

「じゃあな! この金になりそうなヴィーヴルはいただいてくぜぇ!」

 

 ウィーネを抱えて走り出した男にベルの目が見開かれ、その男に固定される。故にソイツは隙だらけのベルを狙った。

 

「───!?」

「はは! ダンジョンで余所見なんざするからだぁ!」

 

 地面から打ち出された炎に飲まれるベル。幸い火傷は負わぬが尋常じゃない熱を感じ激痛を訴える。

 

「おい、マジかよ……」

 

 壁を貫き遙か彼方までの大穴をつくったモンスターに、ディックスが呟く。

 二本の足で立ち黒い鱗で全身を覆うドラゴン。

 

「………ヴァルガング・ドラゴンの、亜種」

 

 

 

「んで、リヴィラにご到着っと………ひひひひ。なぁ、本当に待つのかよぉ?」

「ああ。バケモノ共が来るはずだ。見てろよぉ、ディックスゥ……裏切り者がぁ………殺して思い出せ。お前の楽しむべきはこっちだって事をよぉ!」

「ま、それも生き残ったらの話だけどな」




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