ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「オオオオオオオオッ!!」
空気を揺らす咆哮。ヒシヒシと伝わる敵意。
「くっ、何だ此奴は!」
「確認は後だ。ラーニェ、オード、フォー、フィア、クリフ……」
「「「────」」」
ベルの言葉に身構える
自分達も戦わせられるのだろうか? もちろん異論はないが……。
「引け。邪魔だ……ディックス」
「話だけなら聞いてたぜ………ありゃ色は聞いてたのと違うが、階層無視して砲撃してくるヴァルガング・ドラゴンだ…ま、同じ階層にいるのが唯一の救いだな」
唸りながら煌々と口内に火を灯すヴァルガング・ドラゴン。
「ゴアアァァァァッ!!」
「チィッ!」
「くっ!」
放たれた火炎弾をかわす二人。ここは樹洞の迷宮。ヴァルガング・ドラゴンが出て来たことと、炎でいくらか開けたが同時に周りを炎で包み込む。
「
マントの中に保持していたナイフに雷を
「グルルゥ!」
が、反応され目の近くの鱗に弾かれる。
「オオオオ!」
「───っ!」
再び放たれる火炎弾。
火力は高いが速度が足りない。しかし硬い鱗に覆われており攻撃は殆ど通じない。
「なら、消し飛ばすまでだ………」
ギギギギと軋む音を立て黒紫のオーラを纏うベル。
あの程度なら、今のレベルのベルに取って対したチャージ時間は必要ない。
「少し時間を稼げ。三十秒で良い」
「オオ!」
「りょーかい」
フォモールのフォーとディックスが飛び出す。フォーはこの中ではかなりのやり手だ。無視できぬ敵と判断したのか左右に分かれて縦横無尽に駆けるディックス達を首を動かし追う。
「グオオオオオ!!」
「お、俺を狙うか……」
どちらを攻撃するか迷ったすえ、明らかに普通ではない気配を纏う槍を持った方を狙うことにしたが、遅い。
「こっちは娘追ってんだ、邪魔するな………」
「────!?」
大きく開いた口の前に突如現れるベル。その中に黒雷の槍を叩きつけられる。
「──────!!」
内部から圧倒的な量の雷と内部で暴走した魔力により吹き飛ぶヴァルガング・ドラゴン。
「お、おお─…やった、な………」
余りにあっけなく終わり、いまいち実感がわかないラーニェ。
しかし取り敢えず勝ったというのに、ベルの顔は優れない。
「早くウィーネを追う。お前等、
「あ、ああ………この場の
「ディックス、『鍵』はあるな」
「おうよ……」
淡々と無表情で呟くベルは、静かなのにどんなモンスターよりも恐ろしく見えた。
「ああ、ウィーネが攫われた。今は後を追っている」
『何ダト!?』
ラーニェは糸を巻き取りながら赤い水晶に向かって言葉を落とす。これが
「場所は………18階層だな………」
『解ッタ。我々モ直グ向カウ……』
「アホか。余計な騒ぎを起こすな………その騒ぎに紛れて逃げられる。ウィーネは俺が助ける」
『人間ナド信用出来ルモノカ! ソウヤッテ、何度我々ヲ裏切ル!? ナラオ前ハ、我々ノ存在ガ公ニナッタ時ドチラヲ選ブ!』
「…………………」
人間を選べば彼等と敵対する。
「…………解らねーよ、そんなの。最近頭の中グチャグチャするんだ………」
けど、と付け足す。
「ウィーネを攫った奴らがウィーネに何かしてたら、必ず殺す」
「………………」
檻の中から外を睨みつけるウィーネ。ニヤニヤ笑った男の手が伸ばされる。
額に輝く宝石に触れられ、ウィーネの目が見開かれた。
「─────ァアアアアアアアアアッ!!」
突如聞こえてきた咆哮にリヴィラの街の住人は何だ何だと足を止める。次の瞬間、安宿の一角が吹き飛んだ。
「──な、
現れたのは
「オオオオオオオオッ!!」
「うおお!?」
その爪を冒険者に向かって振るう。咄嗟に盾で防ぐも吹き飛ばされ盾も無惨に砕け散る。
ヴィーヴルは何かを探すように周囲を見て、しかし自分を囲む連中を見て吼える。
「くそ、何処の何奴が街中で此奴を放ちやがった!」
ボールスが忌々しげに叫び大剣を構える。ヴィーヴルも敵対する視線に目を向けその醜悪な顔を向けた。
「くっ、まじかよ!」
「はい、ウィーネガ暴れテいます」
レイは上空を飛び街中の状況をリドに伝える。額の石を取られ暴走状態になるというヴィーヴルの特性は
「どうする、このままじゃ───」
「助ケニ行ク。アノ人間達ヲ待ッテイラレルカ!」
「待てよ、そんな事したら人間にバレちまうかもしれねー!」
「ナラ、コノママ同胞ガ人間ニナブリ殺サレルノヲ黙ッテ見テイロト言ウノカ! 私ハ断ジテ断ル!」
と、翼を広げリヴィラに向かって飛び出すグロス。
リドはクソ! と叫び駆け出す。
「アステリオス、付いて来い! ウィーネを宥めて、グロスの馬鹿を連れて帰るぞ!」
「承知した」
「アアアアァァァァァァァッ!!」
敵だ。敵だ。周りには敵しかいない。
大切なものを取り返さなくては、それを邪魔するならたとえ何者であっても殺す。
「くそがぁぁぁ!」
「ぐう!?」
自分は強い。少なくとも同種よりは。
■■に言われ魔石を喰ってきたのだから。
「───アァ?」
何だ、自分は誰に言われた?
いや、そんな事はどうでも良い。とにかく目の前で動く者達を殺す。
「ガアァァァァァッ!」
「ぐお!?」
「うわぁぁぁ!」
咆哮一つで吹き飛んでいく虫螻共。弱い、弱い。これなら殺せる。
「くっ!」
「─────」
と、あるエルフの雄が番を庇う。それなら纏めて吹き飛ばせばいいのに、何故か動きを止めてしまった。
「────ウゥ?」
チリンと澄んだ音が鼓膜を揺らす。ヴィーヴルの目が見開かれた。
「───!? ア、アアア!?」
何だこれは?
頭が割れるように痛い。
自分は何を失った? 何を忘れた?
探さなくては、見つけなくては。周りの敵は虫だ。邪魔しようとしてくるが苦でもない。なら、無視して早く自分から何かを奪った者を見つけなくては。
「─────!」
己の一部の気配を見つけ駆け出すヴィーヴル。
森に向かって地を滑る。敵たちはその形相に押され思わず一歩後ずさる。
「おい何やってんだ! 逃がすなぁ!」
「お、おう!」
ボールスの言葉に慌ててヴィーヴルを追おうとする冒険者達。が、それを邪魔するように横から影が飛び出す。
「シャアアアア!」
「オオオオオオ!!」
「な、リザードマンに、黒いミノタウロス!?」
「グオオオオ!」
「ガーゴイルまで、何だってんだ!?」
しかも、リザードマンとミノタウロスに至っては
「一体全体何が起きてやがる!」
「ひひひひ! ほら逃げろよお前等、このままじゃ殺されちまうぞぉ?」
神イケロスは自分を抱えて走る眷属にケタケタ笑う。ここでイケロスが死ねば間違いなく全滅する。故に一番足が速い奴がイケロスを運んでいるが後ろから迫るヴィーヴルの速度に大きく劣る。
「ちぃ、食らえやぁ!」
と、モンスターを呼び寄せるトラップアイテムを投げつける。寄ってきたモンスター達は
「オオオオオオオオオッ!!」
怒りの咆哮をあげモンスター達を爪で切り裂くが後から後からキリがない。その間にイケロスの眷属達は全速力で逃げ出した。
「くそ、リヴィラの役立たずどもが!」
「落ち着けよぉ、叫んでる暇があったら逃げろ逃げろぉ」
自分が殺されそうになっているという局面でヘラヘラ笑うイケロス。と、不意に先頭を走っていた者が倒れる。
「ああん?」
「おい何してやがるボンクラ!」
先頭が倒れ後に続いていた者が反射的に止まる。【イケロス・ファミリア】のほぼ半数が止まる中仲間意識が極端に低い者達とイケロスを抱える奴等が横を通り抜ける。
「ウィーネ?」
ポツリと呟かれた言葉に振り返ると何時の間にかそこには白髪赤目の少年、ベル・クラネルが呆然と暴れまわるヴィーヴルを見て立っていた。
その手には血に染まったナイフ。倒れた先頭の男の首が、思い出したようにゴロリと転がる。
「何だよ、もう追いついて来たのか………なら、ひひひ……追加だ」
再び放たれる神威。迷宮が震え、しかしベルは振り返り赤い瞳をイケロス達に向ける。
「………何奴だ、返せ」
「「「─────!?」」」
ゾクリと背筋が震える団員達。固まっていた全員が動く。
腕に自信があるアマゾネスやドワーフ、ヒューマンが飛びかかる。魔法を覚えているヒューマン達は距離を取り詠唱する。それ以外は逃げ出す。
「ッ!グルアァァァァ!」
その中の大男を狙い迫るヴィーヴル。壁に現れた扉をくぐり抜け慌てて閉めるもヴィーヴルが中に侵入してしまう。
「ウィーネ!」
慌てて追おうとするも主神が通った扉に近づけさせんと邪魔をする冒険者達。ズゥン! と音を立て扉が閉まる。
「チッ、ディックス!」
「おう!」
と、ベルの言葉にベルの援護に向かっていたディックスが駆けるがやはり邪魔をしてくる【イケロス・ファミリア】。と、その時、
「ルゥオオオオオオオオオオオッ!!」
背後から響く叫び声。振り向けばそこには闇を押し固めたかの様に漆黒の体を持った巨大な
あれは、強い。ヴァルガング・ドラゴンとは比べ物にならない。ダンジョンが学習でもしたのだろうか?
「………ディックス、ウィーネを追え。おそらく『ヴィーヴルの涙』を持ってる奴は向こうだ」
「旦那は?」
「流石に、これを見過ごせば俺がウィーネに叱られる」
「………解った。おらぁ! どきやがれてめぇら!」
と、目の前の元部下達を凪ぎ払うディックスは扉を開け、閉める際にベルに『鍵』を投げ渡す。
「………さて」
『鍵』を持たず必死に閉まった扉を叩く者。扉に潰された仲間の死体を見て腰を抜かす者、『鍵』を奪おうとする者、とにかく様々な反応があったがベルの呟きに固まる。
「な、なんだよ!? それより早くあのバケモン倒してこい!」
一分一秒でもベルに意識を向けられたくない団員の一人が叫び、ベルが口を開く。
「ああ。解ってるさ………けどその前にお前等を殺してからだ」
「ひひひひ。結構追ってきたなぁ………」
イケロスが笑い目の前のフォモール、ウォーシャドウ、アラクネ、ハーピィ、ヴィーヴル、ディックスを見て笑う。彼等が手を出せないのは、彼等の内誰かが持つ『ヴィーヴルの涙』を戦闘中に失うのを恐れているからだ。
ヴィーヴルも低く唸りながらある大男を睨みつけるも、何かに脅えるように近づかない。
「でもよぉ、コレがないと襲われちまうぜ~~?」
「あ?」
イケロスが首にかけている結晶を見せびらかすように言う。彼の後ろの扉が開き、大量のモンスター達が現れるも彼等を無視する。まるで何かから逃げるように。
「「「「!?」」」」
普通のモンスター。知能も何もないモンスター達は一斉に奥へ奥へと進んでいく。その先に何があるのか知っているディックスは目を見開く。
「てめぇ、まさか!」
「それよりほれ、来たぜぇ!」
イケロスの言葉と共に現れたのは水黽にも似たモンスターの群。モンスターを追うように駆ける。当然、此方は
「ッ!この数、やべぇ!」
ディックスの言葉に凶暴化しているウィーネも本能で理解したのかモンスター達同様に逃げる。
唯一開いている扉を抜け、階段を駆け抜ける。追ってくる無数のモンスター。やがて闇が続く空間に光が見えた。
飛び込むと、ずっと続いていた
「モ、モンスターだぁぁぁ!?」
歴史は動き出す。
英雄に焦がれるある愚かな少年が、愚者へと堕ちるか英雄となるかの分岐点となる歴史が。
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