ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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重なる背中

「───ひっ、ひひっ!? いひひひひひひひひ!! ひゃーはははは! 見たかよぉ、ヘルメスゥ!? 傑作だぁ!」

 

 目を見開き固まるヘルメスを見ながらイケロスはゲラゲラと大笑いする。

 

「そんな、なにを考えてるんだベル君……! もっと言い方があっただろう!」

 

 例えば、こっそり調教(テイム)していたとか、それは無理にでも追っていた獲物だとか。

 ウィーネという名はその際つけた呼び名と言い訳すればいい。信憑性に欠けようと、民衆が納得できればフィン達なら隠すはず。

 

「あぁん? 何言ってんだヘルメスゥ~? 当たり前だろうがよぉ」

 

 ヘラヘラと笑うイケロスは面白そうにベルと子供達を見つめる。

 

「小せぇガキが天下の【ロキ・ファミリア】の前に立って人類敵に回したんだぜ? そのガキの前でみっともねぇ姿見せたがる奴なんざいるわけねぇだろうがよぉ」

「─────」

「けど良かったなぁ、おい」

「良かっただと?」

「ひひひひ。そう怖い顔すんなよぉ………お前のことだ、どうせあのガキとバケモン殺し合わせて汚名返上させてついでに決別させる気だったんだろう? バケモンと戦いたがらねぇ彼奴の知人でも襲わせて、よぉ……ひひひ。お前、そしたら二度と地上の娯楽は楽しめなかったぜぇ」

 

 だって殺されて送還されてるもんお前、とイケロスは愉快そうに口を三日月のようにゆがめた。

 

 

 

 

──愚かだな君は──

 

 知ってる。

 他にも言い方はあったろう。誤魔化す方法ならあった。

 けど、フィンはウィーネという名を聞いてそれがヴィーヴルであると解っていた。子供達が名を呼んだのだろう。モンスターが知り合いであると言い切ったのだろう。

 それに、子供達がウィーネが紅石を取られても自分達を守ろうとしてくれたと教えてくれた。

 仮にも親が、憧れられている存在が、自分だけは嘘をつくのが正しいのなら、子供達を必死に守ったウィーネとの、子供達が【ロキ・ファミリア】を前に繋がりを隠そうともしなかったウィーネとの関係を誤魔化した日にはきっと自分は一生騙し騙しに生きていく。

 

──ウィーネを切り捨てればいい。所詮モンスターだ──

 

 論外だ。

 モンスターを殺し多くの者を安心させる。なる程確かに正しいのだろうさ。

 けどそのためにウィーネを、異端児(ゼノス)達を、人に、空に、世界に憧れる者達を切り捨てろだと?

 俺は本当は弱いんだよ、子供にも出来ないことを押しつけるな。

 大切な者を切り捨て、殺して、民衆の望むまま偉業を見せる《装置》が英雄というなら、そんなものになれなくていい。

 

──お前が奪った人生はどうなる? 救われるはずだった命はどうなる?──

 

「────ッ!」

 

 ギチリと心が軋む。

 やはりそこだけは、そう簡単に割り切れない。

 

 …………それでも、俺は………ウィーネを、異端児(ゼノス)を、ライ達を守る。

 此奴等を切り捨てて英雄と崇められたところで、受け入れられるわけがない。

 

───────────ッ

 

 ピキリと虚像の自分に亀裂が走る。

 

 許されなくて結構だ。この罪と生きる覚悟はとうに出来ている。

 

 

 

 虚像(おまえ)は要らない。

 

 

 パリンと虚像が砕け、パキンと鎖が一本切れるような音がした。

 

 

 

 

「──────ッ」

 

 思考が戻ってくる。

 何時の間に集まったのか【ロキ・ファミリア】の団員達も居た。周りから喧噪が減っている。手持ち無沙汰になり団長のフィンに指示を求めに来たのだろう。

 

「………ベル、聞き間違いかい? 『家族』と、そう言ったかな? その子達と同じように」

「同じように? そうか、お前等も……そう呼んでくれたのか」

 

 ならばこそ、撤回は出来ない。

 現状を理解できていない団員達から戸惑いの視線が飛ぶ。

 

「悪いが急いでいる」

「待って──」

 

 踵を返しウィーネを追おうとするとアイズが呼び止める。正直言って逃げきれる自信はない。話を切り上げた方が一々捕まるより早い。

 

「……何で、家族なんて言うの………あれは、モンスターだよ? ベルの家族は、私達……」

「………俺は【ロキ・ファミリア】じゃない」

「────ッ! でも、なら……約束は? 私との約束はどうなるの!?」

 

 助けてもらいたい時、助けてくれると言った。ベルにとっては何気ない会話だったのかもしれないが、アイズは嬉しかった。それを理解した上で、ベルは口を開く。

 

「悪いなアイズ。俺はお前の英雄にはなれない」

「──────」

 

──私は、お前の英雄になることは出来ないよ──

 

(───やめて)

 

 それ以上はだめだ。()()()()()()()。忘れなくなってしまう。

 アイズの幼い自分(アイズ)が耳を塞ぎ叫ぶ。しかし現実の体は動いてくれない。カタカタと震え、顔を青くするしか出来ない。

 

「俺には此奴等がいるから──」

 

──既に、お前のおかあさんがいるから──

 

「────あ」

 

 重なってしまった。

 背を向けるベル。あの時と、ミノタウロスの時と同じ。でも、違う。今度は約束してくれない、戻ってきてくれると言ってくれない……。

 

「───待、って……いか、ないで……」

 

 お願いだから、おいてかないで。

 手を伸ばすアイズに、しかしベルは既に駆けようと足に力を込めている。世界が酷くゆっくりに見える。

 また失うのか? モンスターのせいで? 欲しかったのものを、欲しかった光景を、奪われて。

 

「………い、や……だ……」

 

 そんなのイヤだ!

 

「あ、ああああっ!!」

「───!?」

 

 アイズの神速の刺突にギリギリ反応するベル。

 先程まで誰も殺気を放たなかった。誰もが困惑し、動けずにいた。そんな中突如放たれた絶叫。

 その攻撃には殺気はない。しかし、明確な敵意があった。此方にはいっさい向けられていない敵意が。

 

「そんなのやだ! そんなのだめ! 貴方は、ずっと私と居るの!」

 

 駄々っ子のように首を振り回し叫ぶアイズ。Lv.6のステイタスがベルの足を浮かせ、建物に吹き飛ばす。

 

「───が!」

「ベルお兄ちゃん!?」

 

 建物に亀裂が走り、内臓をやられたのかゴボリと血を吐くベル。すぐさま壁を蹴り背を剥がすと同時に手があった位置に銀の軌跡が描かれ切り裂かれる。

 

「───チィ!」

 

 バチリと雷を纏い身体能力を底上げして、磁力と併用して高速で動くも離せない。

 手足を狙う攻撃をギリギリでかわし、防ぎしかし徐々に追い詰められる。

 

「────【呪われろ呪われろ偽りの───」

 

──無理だよ。今の君に、それを維持する心はない──

 

「────あ?」

 

 体内で魔力が暴れる。ベルは反射的にアイズを抱き寄せた。瞬間、爆発。

 

「───っ!」

「くっ……」

 

 魔力暴発(イグニス・ファトゥス)

 界位昇華(レベル・ブースト)という規格外の魔法は当然それだけ魔力を消費する。その魔力の爆発をもろに受けたアイズはふらつき、ベルは一瞬で傷を回復させると走り出す。

 

「待って………!」

 

 アイズが駆け出そうとした瞬間、大きな影が二人を遮るように降ってきた。

 

「オオオオオオオオオオオッ!!」

「「「────!?」」」

 

 影から放たれる咆哮。ダイダロス通りの住民達が白目をむき気絶し【ロキ・ファミリア】を含めた二級冒険者達がその場に膝を突く。

 

「ミノタウロス?」

「いや、ブラックライノスの『亜種』かな………それも、『強化種』…………あの斧は」

 

 バタバタと倒れる音が響く中フィンは鋭く空から降ってきた猛牛を睨みつける。と、予想外の光景が目に映る。

 アイズがドサリと倒れた。

 

「アイズ!?」

 

 あり得ない。確かに目の前の相手は強敵だ。近くで喰らったというのもあるだろう。しかし、気絶するほど?

 フィンが驚くのも無理はない。アイズの心は予想以上に追い詰められていた。

 

「………リド」

「おいおい喋って良いのかよ?」

「もとより街で目撃者が居すぎる」

「「「────!?」」」

 

 続いての驚愕。モンスターが人の言葉を発した。

 

「………レイ、先程の言葉に間違いはないか?」

「はイ。彼等ハ、ウィーネヲ家族と呼んでくレて居ました………」

 

 バサリと金翼を広げ空から舞い降りた精霊を幻視しそうな美しいセイレーン。何時の間にか、上層、中層、下層、深層問わずに武装したモンスター達が集まっていた。

 

「ナラバ、癪ダガソノ人間達モ守ルゾ……モンスターデアル我々ヲ家族ナドト愚カナ……」

 

 ガーゴイルがふん、と鼻を鳴らす。

 

「…………何者だ、君達は」

「友人を娘と再会させたいだけの、ただの怪物だ」

 

 

 

 

 怪物と人間が相対する中、誰にも聞かれない小さな呟きが一つ。

 

「お、とうさん……一人に、しないで……」

 

 金髪の少女が力無く呟く。伸ばした手は地面を這うだけで何も掴まず、少女の瞳から涙がこぼれた。

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