ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
──良かったね救えて──
嫌味か?
──君がそう感じるならそうなんだろうね──
夢の中で出会う
──そうかもね。それが君の望んだ僕の姿だから──
……………
本当は
──でも、あれは気持ち良かったろ?──
……?
──あの時、あの子達の力を奪い、自身のものにして、敵を殺した。楽しかったろ?気持ち良かったろ?あの全能感は──
………お前、誰だ?
──所詮暇つぶしだ──
何?
──退屈だからな。また神話を見てみたくなった。人から神にいたる神話を……種は植えてやった。芽吹かせてみろ──
お前は誰だ
──さあ?お前が至れば、教えてやるよ。至ってみろ、その器はお前に合っている。その器を繰るのはお前こそふさわしい──
何を言ってやがる
──さて。十分寝たろ?そろそろ起きろ──
おい、待て!
──一つサービスだ。お前の器がこれから救う奴の一人を教えてやる。デカいバッグを背負った小柄な女、それをこの段階で確実に救ってみせな──
女?
──そうすりゃ俺から褒美をやるよ──
ベルは瞼をあけ赤い目を開く。夢を見ていたと思うが思い出せない。
体を起こそうとすると少しゴキゴキ鳴ったが支障はない。これもスキルのお陰だろう。しかし、酷く不快な気分だ。身体が、ではなく心の問題。恐らくそうとう嫌な悪夢を見たのだろう。
「……………飯」
ポツリと呟くとベルはヒクヒク鼻を鳴らし部屋から出て廊下を歩く。
「ベール!もう起きた?って、いない!」
ベルが寝ている客室に向かったティオナはもぬけのからの部屋を見て叫ぶ。直ぐにベッドのしたやシャワールームやゴミ箱の中を探すが居ない。
首を傾げて部屋から出るティオナ。ベルは一応まだ他派閥の人間だ。それを治療し、滞在させているのはヒリュテ姉妹とレフィーヤ、アイズ、古参の3人とロキしか知らない。
「まずいなー。このままじゃベートとかに見つかった時蹴られるかも」
あの時圧倒的な力をみせていたが、あれはどうやら自分や姉から力を一時的に奪った結果らしい。発動条件は聞いてないが、発動の際聞いてきたし同意が必要なのかもしれない。なら今のベルはLv.1。
「うーん。まあ、それでもウチのLv.2とかには勝てそうだよね」
昨日の戦闘を見る限り、下手すれば後衛のLv.3にも届くだろうか?まあLv.1の時点で魔法やスキルに恵まれている者など早々居ないし仕方ない。
「………ん、それにしてもお腹すいたな」
そういえば朝ご飯まだだった。ティオナは食堂に向かうことにした。
「………あれ?」
食堂に行くと人集りが出来ていた。何事かと見てみれば人集りの中央に探していた人物がいた。
「ね、ね、ベル君次これ」
「あ、ずるい!ほら兎ちゃんこれも美味しいよ」
「…………何これ」
集まっているのは女性団員ばかり。そしてベルに餌付けしていた。渡された野菜スティックをカリカリと食べる様はまるで兎のようだ。
「………………」
近くにあったサンドイッチに目を付け人集りに紛れてみる。目の前に差し出すと無言でパクリと食いついてきた。何か、胸の奥がキュンキュンとする。
「……むぐむぐ。ん、ティオナ?」
「やっほ、起きたんだベル。身体は平気?」
「問題ない。腹が減ったぐらいだ」
「ああ、だから……」
三日も寝ていたし、初めてあった時の大食いぶりを思うにそうとう食うのだろう。それで差し出されるモノ全て食っていたのか。
「じゃあ団長やロキ、ヘスティア様に報告するからついてきて」
「解った」
えー!と、団員達が不満そうな声を上げるが無視してベルの手を掴み歩き出す。硬い手だ、ナイフを握り、使い続けた証だろう。何というか、男の手という感じがする。
「にしてもベルモテるね」
「年上受けが良いんだ。流石に十代以下しか興奮しない奴にはもう誘いを受けないが」
もうってことは昔そういう連中にあったことがあるのだろうか?
「ベルってさ、実は大人?」
「…………精神年齢はな」
見た目は子供、頭脳は大人と言うことだろうか?実は
「ベルって何歳?」
「14だ」
「見えないなー」
スッゴい落ち着いてるもん、と隣のベルを見る。背は、自分の方が高いだろうか?確かに小動物みたいだし表情が完全に無だし兎っぽい。だから兎ちゃんって呼ばれてたのか。
「ついたー!ここが団長の部屋だよ。ちょっと待ってて」
「ああ」
ベルはその言葉に素直に従い待つ。ティオナが中にはいるとノックしてくれと言う声が聞こえてきた。ベルは会話をする相手が居なくなったので片手に持っていた饅頭のような料理をもぐもぐ食い始める。と、ティオナが扉を開けてきた。中から出てきたのはフィンだ。
「やあ、酒場以来だねベル君。体の調子はどうだい?」
「問題ありません」
「スキルの恩恵かな? あれだけの怪我からすぐに復帰できるのは冒険者として羨ましく思うよ」
この世界には皮膚を溶かされようと治すことが出来る薬があるが、それは前提条件に処置が間に合えばという言葉がつく。ベルのスキルは魔力と体力さえあればその処置すら行い、しかも三日眠り続けても身体に違和感を覚えてる様子がないので
「それと、敬語はいいよ。酒場の席とはいえアレだけ砕けた口調で話した相手に取られても違和感しかない」
「感謝する。それで、ここは【ロキ・ファミリア】のホームか?世話になったな。礼を尽くせず心苦しいが、取り敢えずホームに戻る。主神を心配させたくないからな」
「その事なら大丈夫だ。君の主神もここにいるよ。というか、住むことになった。君もね…」
「?」
「その事を説明しよう。ついてきてくれ。今の時間ならまだ僕らの主神と君の主神も同じ場所にいるはずさ」
「ロキ………ロキ?入るよ」
ドアを叩くが反応のない主神に訝しみ扉を開けると、防音効果でもあったのか突然馬鹿笑いが聞こえてきた。
「なーはっは!お、おチビがメイド服!神なのに給仕……!」
「ぐぬぬ。笑いたければ笑うが良いさ!これでも僕は数々のバイトをこなしたバイト戦士だ、今更服の一つや二つ……」
「………何をしているんだいロキ」
「ヘスティア?」
「げ、フィン!?」
「ベル君!?ち、違うんだこれは………!」
自身の眷属に見つかり顔を青くするロキと赤くするヘスティア。ヘスティアの格好はゴリッゴリのゴスロリメイド服だった。胸あたりがきつそうだが。
「違うんだよベル君!これはロキの趣味で……!」
「へぇ、ロキ………女好きは構わんがあまりウチの主神に迷惑かけないでくれ」
「ちゃうわアホ!おチビのここで働く服装決めとっただけや!」
話を聞いてみるとベルが使用した短剣、【ヘスティア・ソード】はヘスティアが友神に借金覚悟で頼み込んで作って貰った作品らしい。その額約二億ヴァリス。
そんな途方もない額だがロキが傘下にはいるなら借金を肩代わりすると言い出し、金以外にも色々と思惑があったが反射的に了承してしまったらしい。それが友神の耳に入り説教されたらしい、二人揃って。
しかし口でしたとはいえ傘下に入る条件として提示してしまった以上仕方ないと半分の返済を認め、残り半分はロキの下で無償で働いて返すように言われたらしい。
「………何というか、貧乏根性が染み着いてんなウチの神は」
「ち、違うんだよベルくぅん………お金はあくまで傾きかけてた僕を落とす最後の後押しで、決して君を売ったわけでは……」
「それは僕からも保証しよう。君のステイタスについて聞いたけど、あれは確かに後ろ盾が必要だ」
「そういうこっちゃ。ベルっちは実際やばい女に狙われとる。気ぃつけなあかん」
「助けられているわけか。重ね重ね感謝する」
「礼なら、そうだね……戦力として考えても良いかい?君のスキルなら実質的にLv.2ととっても良さそうだし、条件次第ではその上もいける」
フィンが言ってる条件とは
「期待は嬉しいが魔法はともかくスキルは……」
「解っている。予想だけど、器がついて行かなかったんだろ?それは君自身がレベルを上げれば良いさ。それに、それ以外にも君の有用性はいくらでもある。例えばマッピングに索敵、運搬を一つで担うスキルとかね」
「………………」
ジロリとヘスティアを見るとヘスティアが小さくなって俯く。本来なら開示御法度のステイタスは軒並み知られているらしい。
「彼女を怒らないでやってくれ。君の治療を条件に仕方なく開示したんだ………それに、一応君のステイタスの全貌を知るのはここにいる神々と団長の僕、副団長のリヴェリアだけさ」
「なら、良い」
「良いというのは、傘下に入ることも含めてと受け取って良いかな?」
「かまわない」
「なら、よろしく頼むよ………ベル……」
そう言って小さな手をさしのべてくるフィン。ベルはその手を取る。
「此方こそ、未熟な身なれど精進しよう」
一応は【ヘスティア・ファミリア】は【ロキ・ファミリア】の傘下に入り拠点もそこに移したが、基本的には別ファミリアとして過ごして構わないとフィンに言われた。元々Lv.1はレクチャーが済めばしばらくは自分でLv.上げして、Lv.2になってからパーティーを組み連携を覚えLv.3で人によっては遠征組に入るらしい。
ベルの扱いは、スキルもある故遠征組に組み込みたいが今は予定がないのでフリーだ。故に、ベルはある場所に向かうことにした。
「…………ん?」
喧噪が聞こえた。男女の声……ベルは少し考えそちらに向かう。
言ってみればボロボロの服を着た少女に男が叫んでいる所だった。女も負けず劣らず叫んでいるがどうも痴情のもつれには見えない。と、男が剣に手をかけ引き抜く。
流石に流血沙汰はごめんだ。目に付く範囲は救うべきと言う価値観もある。
男が剣を振り下ろす前に男の背後に移動し壁に顔を叩きつける。
「ごっ!?」
「へ……?」
壁に赤いシミが出来、男がズルズルと地面に倒れる。
「無事か?」
「え、あ……は、はい」
「そうか……」
それだけ言うとベルはその場から去る。
「………………」
「………?」
チラリと少女を見ると首を傾げられる。前を向き、ベルもまた首を傾げる。何か違和感がある。
小骨がのどに引っかかったような、出てきそうで出てこない感覚。頭の中にチリチリとした僅かな頭痛を感じながらベルは豊穣の女主人に向かった。