ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
モンスターが現れ、さらには数十体の武装したモンスターがベル・クラネルと共にダンジョンに消えた。
オラリオは大騒ぎである。しかし意外なことに、ベル・クラネルに対する非難の声は少ない。
「【イケロス・ファミリア】の密輸、そして
あの場には【ロキ・ファミリア】以外にも多くの冒険者が居り、さらには一般人まで居た。とどめに大通りでモンスターが子供を庇い一度は灰になり、生き返ったという奇跡。
「最後のだけは解らないけど、少なくともオラリオは、この世界は理知を備えるモンスターについて知った。
現在ダンジョンへの
「どうみる、フィン………」
「ギルドは
「んー、せやけど公表されてる内容が本当の可能性もあるで?」
「なら、神に命令を飛ばせばいい。この中にモンスターに通じる者がいないか確かめろ、ってね。零細ファミリアなんていくらでもあるんたから」
ロキやフレイヤなら無視できるだけの力があるしカーリーなど自由人は
仮に
「それに、リヴィラではウダイオスの亜種が現れたらしい………街の住人で撃退と言ってはいるが、彼等だけではウダイオス……ましてや神を殺すための尖兵を討つなど不可能だ」
彼等はダンジョンの中を放浪する旅団。ヴィーヴルの少女もダンジョン内で攫われたのだろう。しかしあの規格外の強さを誇るアステリオスに加えベルまでいた。だからこそ神が足止めのためのモンスターを呼ぶ餌に自らなった。ロキはダンジョンで神の気配がするのを感じていたらしい。
冒険者歴一年の少女にランクアップを促したワイバーンや、ミノタウロスに瞬殺されたとはいえ通常の個体より遙かに強力な漆黒のゴライアス。
ウダイオスはそれと同様の存在だったのだろう。それをリヴィラの戦力だけで倒すのは不可能。
「だけどベルやあのモンスター達が居るなら話は変わる。タイミング的に考えると、そのウダイオスは足止めに使われたね」
「まあイケロスらしいていえばらしいわな………」
そのイケロスももう居ない。
死者こそ出なかったものの、大量のモンスターを放った責任を押しつけられたイケロスはオラリオから永久追放されたのだ。しかし事情を詳しく知りたかった【ロキ・ファミリア】が追えばイケロスは自ら神の力を解放するという禁忌を犯し天界に戻っていった。
──少しは自分で選んで進めよ、あのガキみてぇによぉ──
ヘラヘラと最後の瞬間まで笑みを崩さず消えた神の言葉はフィンの脳裏に刻まれて離れない。
「けど連中それだけの情報持っとるんかいな?」
「18階層より下か上というのが解るだけでも十分な成果だよ。ダンジョンはただでさえ広いからね」
「しかし奴等はモンスターじゃろ? 下がり放題ではないか?」
「いや、彼等はモンスターにも襲われていた。その上で、全体の強さから推測するに潜れる階層は
僕等が潜ったこと無いほどの深層から生まれた理知を持つモンスターがいれば話は別だけどね、と肩をすくめるフィン。
まあその可能性は低いだろう。居るのかもしれないが、彼等の仲間としては居ないはずだ。居たならあの時地上に出さない理由がない。オラリオの冒険者達を知るベルが居るなら特に。
「全く、複雑になったものだ……」
旅行帽を押さえながらため息を吐くヘルメス。眼前にはガネーシャとウラヌスの二柱。
「うむ、しかし周りに流されず
3柱の神の横や後ろには各々の眷属と、ウラヌスは協力者であるフェルズがおり、誰もが腕を組み考え込んでいた。
「ヘルメスも、噂を流したようだな」
「まあ、このままではベル君の名に傷が付いてしまうからね」
ベルと言う名にその場の全員が目を細め──フェルズには瞼はないが──虚空を見つめる。
「『人類の裏切り者』か、随分なものを押しつけてしまった」
「決めつけるなウラヌス。まだだ………まだ、確定じゃない。少なくとも人の言葉を発するモンスターの存在が公になった今なら」
そう、人の言葉を発し人の子供を命に代えて守っていたモンスターの存在もあり、ベルが人類の敵と言う声はオラリオの半数程で済んでいる。
「機会は、今しかないのではないか? 俺は協力を惜しむ気はない」
「私もガネーシャの意見には賛成だ。この機を逃せば、
ガネーシャの言葉に同意するシャクティ。
「私は
「シャクティ………」
「感謝しようシャクティ・ヴァルマ……問題は、どう民衆に受け入れさせるかだ……」
「うむ……ベル・クラネルは元々地上の民。我々の都合で地下に住ませ続ける訳にはいかない」
ウラヌスとフェルズの目下目標は
「その件は俺に任せてくれ。ベル君の名声は、必ず俺が取り戻す……いくぞ、アスフィ」
「はい……」
クルリと身を翻し歩き出すヘルメス。アスフィはその後に続く。
「うむ! ヘルメスもやる気だな!」
「私はいまいちあの神を信用できん」
ウンウンと頷くガネーシャに対しシャクティはふん、と鼻を鳴らす。
「私は食材を届けにリヴィラに潜る。その際、ベル・クラネルと接触してみる」
「うむ。案内は私がしよう………私もあの神に関しては君と同じく信用していない」
「それで、どうする気ですか?」
通路を進みながらアスフィはヘルメスに尋ねる。それに対しヘルメスは笑みを浮かべる。
「まあ、やはりこれしかないよ………ベル君にはあまり似合ってないけど、『悲劇の英雄』なら人々も納得する」
「………
「流石アスフィだ……」
アスフィの作った数々の
ヘルメスが考えた
成る程確かに悲劇だ。
「ベル君が彼等と共にダンジョンに潜る、何てことをしなければ他の方法もあったけど、
「お断りします」
「……………へ?」
ヘルメスの笑みが消え、振り返る。
「アスフィ……君も納得していなかったか?」
「ええ。彼等は『毒』にしかならない。私はそう判断していました」
事実、【イケロス・ファミリア】の密輸を調べる過程で
「けれど、あの光景を見て彼等を切り捨てて良い存在と考えるほど、私は非情になれない」
モンスターを家族と言った子供やベル、子供を命に代えて守ったヴィーヴルの少女。彼等彼女を見て、切り捨てることは出来ない。そこまで人道を捨てた覚えはない。
「お世話になりました。貴方が私を連れだしてくれたことは、感謝しています。ただ、私はもう貴方についていけない。殺されたくもありませんし」
「……そうかい。ま、仕方ない………体に気を付けるんだよ」
「ええ。貴方も……ベル・クラネルを心配するのは解りますが、少しは相手の心も考えてください」