ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
地獄とはきっとこのような光景を指すのだろう。
むせかえるような血と油、そして人の燃える死の匂い。
響き渡る怒声と人が斬られ、貫かれ、潰れる音。
赤く染まった死体を黒い炭に変える炎。
無数に転がる亡骸。
全て人が作った光景だ。
「う、ぐ………うぇぇぇ!」
朝起きるなり、吐き出すベル。
見慣れた光景なのに、そこに意味を見いだせなくなった途端にこれだ。
今までの、英雄になるためという言い訳がなくなり、罪悪感に押しつぶされそうになる。
元々の価値観は人殺しは悪という平和な世界で育った一般人なのだ。自然災害の被害にも一々責任者を求める世界生まれで、人を殺す世界に身をおいたのも前世の半生ほど。
「………精神安定のおかげで発狂は………いや、慣れてきてはいるだけか」
少なくとも戦場の光景で吐いているわけではない。その後出てくる、彼等の家族達の罵詈雑言を浴び気分が悪くなり飛び起き吐くのだ。
「んみゅ………おとうさん?」
「ああ、起こしたか?」
「んー………寝る」
ベルの様子に気づいたウィーネが目を擦り上体を起こしたが眠そうに欠伸をするとポテリとベッドに横たわる。
「……………」
「おう、起きたかベル」
「よおボールス、状況に変化は?」
「今のところねーよ」
ここは18階層のリヴィラの街。そこにベルと
「そもそも普通の人間がいやがるダンジョンの中に住む俺らが普通の感性の筈がねーだろ」
とはボールスの言葉だ。
「それに話してみると面白いしな。レイたんなんか歌すっげぇうめーし………あの歌おまえが教えたんだっけ?」
「この世界にゃ著作権なんてないからな。幸い、アニソンは好きだったし………意外と、覚えているもんだ」
「うおおお! レイちゃーん、次は白金ディスコを!」
「馬鹿やろう! Purely Sky だ!」
「いや、コネクトを!」
「打上花火! ほら、ちょうどベル居るしデュエットで!」
「いや、ならmagnetよ!」
「ふふふ。エエ、こんな沢山ノ方々ノ前で歌えルなんて、幸せデす! 何曲でも歌いまスヨ!」
自分の歌声を求める冒険者達にエルフにすら劣らぬ美貌を満面の笑みにして歌うレイ。
「ツモ!」
「あ、それロン……」
「ヌウ……札ノ引キガ………コウナッタラ、ベルニ触レテ」
「おい、それは狡だぞ。反則行為だ」
グロスとラーニェはディックスとリヴィラの住人と共に麻雀をしていた。
「コイコイ!」
「げ! ま、待った!」
リドが出された札を見て頭を抱える。
「………ここに押し込まれてる理由は俺らにあるから、少しでも娯楽をと思ったが………逞しいなお前ら」
「じゃなきゃ何度も再興してねーよ。その件に関しちゃ感謝だな。此奴等が資材とか持ってきてくれたし建物直すの手伝ってくれたし」
「まあ、別に利益がないわけじゃねーから良いよ。お前等が受け入れてくれたし……後モス・ヒュージの『強化種』の魔石でウィーネも強化できた」
資材を集めに下に向かったら現れたモス・ヒュージは種を取ばしてきたが全てアステリオスの肌に弾かれリドの炎で焼かれ水の中に逃げれば翼を鰓代わりに使ったウィーネに追いつかれ八つ裂きにした。
「資材集めに行って『強化種』に出会うとかついてねーな」
「ウィーネの強化にも繋がったし、少し考え事を無視できて。むしろついてるよ」
「………そういや胸モロ出しの美女
と、ボールスが聞くとベルはマーメイドの
「彼奴は疲れる。いきなり人の口に指突っ込んでくるし抱きついてくるし」
「自慢かこの野郎!」
ボールスは泣いた。割と本気で。
対してベルは何も言わずぼーっと周りを眺めていた。
「…………………」
「ん、どうした? 気分でもわりぃのか?」
「………いや、こういう光景を見てると、気が晴れる。少なくとも今回は間違えていなかったかもと思ってな」
「はあ? 間違わねー人間がいるかよ。居たら戦争なんか起きねーしこんな場所に街も立たねー。どころかダンジョンだってきっととっくの昔に攻略されてるに決まってる」
ベルの言葉に何言ってんだ此奴、と言いたげな顔をするボールス。
「それは、そうなんだろうが………」
「ま、所詮ガキだな。世界を都合よく考えすぎだ」
と、ボールスが去る。ベルは少し困惑したようにも見える顔をした後、振り返る。
「状況は?」
「神ヘスティアは現在【ロキ・ファミリア】の監視下。カサンドラもな……」
「ま、妥当か。外に出しても他の神に攫われて引っかき回されちゃ目も当てられない。団員達の反応は?」
「特に……彼等にも、思うところはあるのだろう。それに、そもそも自分達の【ファミリア】からも出たのだ。神ヘスティアを責めれば必然的に己の神もおとしめる事になる」
ゆらりと現れたフェルズの言葉にそうか、と返す。
「フェルズ、ある奴に連絡を取れるか?」
「任されよう」
黄昏の館の一室。そこにヘスティアとカサンドラは監禁されていた。
監禁と言ってもご飯は三食出るしお風呂にだって入れる。どちらかというと監視が近いだろう。
「ど、どうしましょうヘスティア様………このままじゃ、ベルさんの首が……」
「解ってるけど、そんな夢話したら直ぐに殺そーってなっちゃうよ」
カサンドラから見た夢の内容は聞いた。ベルがモンスターを引き連れ人類と敵対するという夢。それを話したら直ぐにでも倒すべきだと主張する者も出てくるだろう。
「ヘスティア様は、その……今回のことをどう思いますか?」
「ベル君は君の夢を聞いた上で今の状況を選んだんだろう? なら、責めないよ。人類の敵になる可能性を解った上で、ベル君が選んだ………きっとベル君にとってはそれが正しいことなんだろう。僕は彼の主神として、その思いを肯定するつもりさ」
それが僕に出来る唯一のことだからね、と無力な自分を恥じるように笑う。
「やあ、失礼するよ?」
と、そのタイミングでフィンが入ってきた。見張りの団員達に声をかけ下がらせる。
「なんだい団長君か……生憎僕等は何にも知らないよ。何度も言っているだろう」
「【響く十二時のお告げ】」
「………ほえ?」
灰色の光膜が小さな身を包み、やがて姿が変わる。そこに居たのはリリルカ・アーデ。魔法で姿を変えていたらしい。
「協力感謝しようリリルカ・アーデ」
「うわっひゃい!? 今度は何だい!」
誰も居ないはずの空間から声が聞こえ、黒衣の人物が現れる。その顔は剥き出しの骨だった。
「んにゅわ!?」
「お、おばけぇ~!」
ヘスティアがギョッとしカサンドラが涙目になってヘスティアの小さな体の背に隠れようとする。
「驚かせてすまない。私はフェルズ………ベル・クラネルの協力者だ。今回は、彼を巻き込んですまないと思っている」
「謝るなよ。ベル君が決めたんなら、それは君の責任じゃない。謝るのは失礼ってもんだぜ?」
「…………そうか。では、要件から言おう神ヘスティア。ベルの下に来てくれないか? 安全は保障するし、ウラヌスの許可も下りている」
「ダンジョンに? うーん、ベル君の為なら良いけど、よくウラヌスが許可を出したね」
「必要と判断したからな。それに、ベルは君達を心配している。カサンドラ・イリオン、君はどうする?」
ヘスティアは愛しのベルの為なら危険なダンジョンに潜ることに抵抗はないらしい。フェルズは次にカサンドラに尋ねる。
現状、ベルはモンスター側。ついていくには勇気が居るはず。フェルズは彼女がどちらを選ぼうと責める気はない。
「い、いきます………私も、ベルさんの所に……!」
「ランクアップは………なしか。つか魔法のこれ、何だ?」
『Lv.5
力:H162
耐久:G254
器用:G203
敏捷:F380
魔力:I0
耐異常:C
精神安定:S
技能習得:S
鍛冶:E
精癒:F
幸運:F
思考加速:F
狩人:F
火傷無効:G
格上特攻:I
《魔法》
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【エルトール】
・
・雷属性
・速攻魔法
【アンチ・カース】
・解呪魔法
・呪詛、結界魔法の破壊
・詠唱式【砕け散れ邪法の理】
《スキル》
・早熟する。
・向上心の続く限り効果持続
・力を欲する理由を感じるほど効果向上
・人類敵対時に於けるチャージ実行権
・人類敵対時に攻撃力の高域補正
・自己ステイタスの閲覧可能
・討伐モンスター図鑑自動作成
・マップ表示
・索敵
・アイテム収納空間作成
・肉体の修復
・体力、魔力を消費する
・精神への干渉を拒絶する
・術者との実力差によって変動
・受ける、受けない選択可能 』
魔法は読めなくなっておりスロットのみを圧迫している。おまけにスキルの一部も変わっている。
「しかし人類敵対時、か……」
ベルはその文を見ると皮肉るように口元をつり上げるのだった。
──そうだね、きっと確実に始まる。君の好きな、思いと想いのぶつかる殺し合いが──
──まあ、確かに力を求めるだろうね。そこでだ、一つ賭けをしよう。負けた方は今後一切彼に干渉しない──
──内容? 簡単さ。君の与えるつもりである