ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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勇者と怪物の交渉

 アイズは部屋に引きこもっていた。ベルとの決別。父と完全にその背が重なり、しかしモンスターを引き連れ去っていたあの光景はアイズの中にあった古傷を抉るのには十分すぎた。アイズの中の幼い少女(アイズ)もあれ以来ずっと泣いている。

 

「アイズた~ん、入るで~?」

「………出てって」

 

 アイズはギロリと入ってきたロキを睨む。ロキは怖い怖いとケラケラ笑いしかし気にせずベッドの近くの椅子に座る。

 

「うんうん。ちゃんとご飯は食べてるようで何よりやで」

 

 机に置かれた空の食器を見る限り、食事はちゃんととっているらしい。トイレにも行っているだろう。ただ、風呂にも入らず寝てもいないのか髪はボサボサで目の下には隈が出来ている。

 

「ほれ、これ飲みぃ」

「………いらない」

 

 ロキが渡してきたのは少し色合いが異なるポーションだった。が、アイズは膝を抱えたまま視線だけ向けるも直ぐにそらす。

 

「良いから飲むんや。主神命令」

「………………」

 

 仕方なく飲む。やはり他のポーションと少し味が異なる。

 

「………?」

 

 と、不意に視界がぼやける。景色が流されていく。

 トサ、と音を立てベッドの上で横になるアイズは、そのままスウスウ寝息をたてロキはふぅ、とため息を吐いた。

 

 

 

「アイズは寝たか?」

「寝た寝た。今回の件、知られると暴走しそうやしなぁ~」

 

 部屋を出ると心配そうなリヴェリアがロキに尋ねる。

 

「ところで、何を飲ませた?」

「本人の願望を夢として見せてくれるミアハんとこのユメミールや。ウチはミニスカ猫耳メイドのアイズたんが出てきた」

「………色々言いたいことはあるが、成る程……良い夢、か。少しは癒しになってくれるといいんだがな」

「心配性やな~母親(ママ)は」

「今日はもう一人、悩みの種の子供と話すことになるわけだしな」

 

 リヴェリアはそう言うと窓の外の空を眺めた。地上の民の気持ちなど知ったことではないというような快晴だった。

 

 

 

 フィンは槍を担ぎ先頭を歩く。それに続くのは団員達。ベートは暴走しそうだからという理由で留守番だ。一応何が行われるかは話しておいた。

 向かった先はギルド。普段なら冒険者で溢れかえるはずのこの場もダンジョンに出入りが出来ない今静かなものだ。いや、理由はそれだけではない。人払いされているのだ。

 

「………いくよ」

 

 扉をくぐり抜けるとホールの一部が円卓を囲むように開けられていた。円卓には三つの席。うち一つにはベルが座っておりその背後にはヘスティアにリリ、レフィーヤとティオナ、そして漆黒のミノタウロスと黒衣のローブ……その顔はなんと白骨だった。

 

「………………」

「─────っ」

 

 リヴェリアがレフィーヤを見つめると、レフィーヤは後ずさりそうになりながらも踏みとどまり見つめ返した。

 

「やっほー」

「───ッ」

 

 ティオナが何時も通り手を振ればティオネは苦しげに顔を逸らした。

 

「三つ、か………後一つは……ガネーシャ辺りかな?」

 

 フィンが席に座りその背後に幹部と順幹部、ロキが立つ。

 席に座ったフィンは空席を見て尋ねる。ベルが質問に答えようと口を開こうとした時、視線を入り口に向ける。

 

「───ッ!」

「あら、ごめんなさい遅れてしまったかしら?」

 

 耳を通り脳に刻みつけられるような甘い声が響き、老若男女問わず誘惑されてしまいそうな美貌を持つ女神がそこに現れた。フィンでさえ、自ら定めた使命を忘れそうになる美しさ。ティオネもそんな愛しの団長の反応に気づけず見惚れる程の……。そんな様子に女神はクスリと笑った。

 

「フレイヤ、誘惑したいなら後でやれ」

「あら、誤解よ。私は何もしてないわ? それに、するならベルだけよ」

 

 クスクス笑い従者のオッタルが引いた椅子に座る。パチンと指を鳴らすとオッタルの他に連れてきていた女性の団員達が席にお茶菓子を置く。

 

「最近お気に入りの茶葉なの。気に入ってくれると嬉しいわ」

「主催者は俺なんだがな……ああ、砂糖をもらえるか?」

「………」

「ありがとう」

「───ッ!」

 

 無言で砂糖を用意する女性にベルが笑みを向けると顔を赤くして慌てて去る。

 

「あまりうちの子を誘惑しないでほしいのだけど」

「遅刻されたあげく主導権握られそうになった仕返しだ。別にその女に関して思うところはない」

 

 と、フレイヤに髪を撫でられベルの時以上に顔を真っ赤にして幸せそうな表情を浮かべる女性を見て返す。

 

「それで、そろそろ話を始めたいんだが大丈夫かフィン」

「え……あ、あぁ……」

 

 内心しまったと舌打ちしそうになるフィン。話の主導権を完全に二人のどちらかに取られる。取り敢えずはフレイヤを見ないようにしなくては。

 

「ところで、フレイヤ様も呼んだのは何でかな?」

 

 もし彼女がベルの願いを叶えるのなら、たった一言神々に言えばそれですむ。だがこうして交渉の場に連れてきたのには何か理由があるはずだ。

 

「フレイヤにはあくまで中立の立場になってもらうためだ。だから、話し合いには口を挟むぐらいならしてくるかもしれねーが発言権はないと思ってくれて構わない」

「私もそれで構わないわ」

 

 ふふ、と笑い紅茶を飲むフレイヤ。ベルは紅茶に角砂糖を二つほど落とす。

 

「話し合い、ね……予想はしていたけど、こんな大それた事をするんだ。僕等だけ、ではないんだろう?」

「まあな。ウラヌス……」

 

 追加で角砂糖を二つ入れたベルが呟く。

 

【──許可する】

 

 

 

 

「にゃ……? にゃー!? シ、シル、母ちゃん、リュー、皆! 外くるにゃ!」

 

 店先の掃除をしていたアーニャが真っ先に気づき空を見上げ叫ぶ。その様子にただ事ではないと判断したのか他の面々も外に出て空に浮かぶ巨大な『鏡』とそこに映ったベル達の姿を確認して目見開く。

 

 

 

 

「都市全てが証人の上での交渉か。まあ、予想は付いているけどね」

異端児(ゼノス)達の居住区の設立と安全の確保」

 

 フィンの言葉にあっさり応えるベル。フレイヤが楽しそうに笑う。

 

「……本気で、そんな要求が通ると思っているのかい?」

「これだけなら通らないだろうな。もちろん見返りも用意した」

 

 ポチャンと角砂糖を紅茶に落とし、水音を立てるベル。指を鳴らすとミノタウロスと黒衣の骸骨が机に幾つかの箱を置く。中身は羽や爪、牙に抜け殻、糸などだ。

 

「モンスターのドロップアイテム。『セイレーンの翼』に『ハーピィの爪』、『グリーンドラゴンの牙』、『ラミアの抜け殻』に『アラクネの糸』だ」

「─────」

 

 高級なドロップアイテムが交じったそれに、フィンは目を細める。

 

「んで、これが『マーメイドの生き血』……」

「───!?」

 

 平然と置かれた10本の小瓶。全て赤い血で満たされている。

 

「………マーメイドまで、居たのか」

「留守番だけどな」

「………本物か確かめても?」

「どうぞ」

 

 フィンは自分の腕を深く切ってから、その血を飲む。傷があっという間に塞がった。

 

「これが異端児(ゼノス)側から人間に与える利益だ……」

「………確かに……特に『マーメイドの生き血』に関してはとんでもない利益だね」

「だろうな」

 

 思案にふけようとすると再びポチャンと水音。解ってやっているのだろう。が、『マーメイドの生き血』はともかく、他はまだ予想できた。故に……

 

「それだけじゃ、安全の保障しかできない」

 

 折れるわけには行かない。

 反対派も今ので揺れるだろう。それでもまだ多くいる。故に折れない。()()()()()()

 

「……………」

 

 人工の英雄。それがフィンだ。

 ある意味では少し前までのベルと同じ。いや、効率良くやれていたから少し違うが、それでも崇められるため、同族達の目標になるために己を殺して生きてきた。

 だから、ヴィーヴルを家族と言った子供達やベルを見て揺らいだ。あの光景こそ、ミノタウロスとの戦いで魅せた雄姿よりなお尊いものだと、眩しいものだと思ってしまった。

 

(これで良いのか?)

 

 いや、こうでなくてはならない。名声の代わりに民衆の望む形を演じるしかないフィンは、渋らなくてはならない。妥協点を見つけなくてはならない。

 

「……俺は、異端児(ゼノス)達と空を見たい」

「……………」

「春になれば花を見に、夜になれば星を眺め、酒を飲み美味い飯を食い笑い合いたい。だから、その妥協は受け入れられない」

「なら、どうする?」

「参加自由の『戦争遊戯』(ウォーゲーム)……」

「……………参加自由?」

「そう。モンスターを受け入れられないって奴らは其方に、受け入れるって奴等は此方につく。そうしないと、今回は事が事だ。納得しない者も現れるだろうしな」

「…………だろうね」

 

 恐らくガネーシャは向こう側。他にも、幾つか其方につきそうだ。恐らく嘗て無いほどの規模の『戦争遊戯』(ウォーゲーム)になるだろう。

 

「ただ、【フレイヤ・ファミリア】には中立の立場でいてほしい」

「あら、のけ者なんて悲しいわ」

「だってお前、味方の場合俺が頼んだからこっちにつくんだろ? そっちに付いたとしても裏切りそうだし」

 

 遠回しに、あるいは直球にお前は俺に惚れてるから言うこと素直にきくだろ? と問いかけるベルにフレイヤはクスクス笑う。

 

「良いわ。その間、うちがダンジョンを見張っていてあげる。ただ、一つだけお願いを聞いてくれないかしら?」

「お願い?」

「オッタルを参加させてほしいの。この子の久し振りの我が儘なのよ」

「……………」

 

 その言葉に、オッタルへ視線が集中する。オッタルはその視線を気にせず、アステリオスを見つめる。

 

「………再戦を。あの戦いにはまだ、勝者がいない」

「望むところだ」

 

 オッタルの言葉にアステリオスが歯を見せ笑う。ベルは肩をすくめた。

 

「許可する。開催は……そうだな、三日後だ。見ている連中も、それまでに決めてくれ。それと、その間に冒険者同士の戦いが双方の主神の同意なく行われればそいつ等は『戦争遊戯』(ウォーゲーム)終了までギルドの牢に入ってもらう」

「………勧誘は?」

「もちろん、ありだ」

 

 ベルは紅茶入り砂糖を飲み、立ち上がりギルドから出て行った。

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